SMFGが個人・零細向け金融(インド)
販路拡大を期す日系企業とも連携
2024年10月8日
著しい経済成長が続くインド。経済全体だけでなく、低中所得者層の所得向上と生活水準の上昇が年々進んでいる。これに伴い、リテールや中小零細企業向け金融サービスの市場が拡大。住宅ローン、消費者ローン、ビジネス(事業資金)ローン、不動産担保ローンを含め、多様な金融商品の需要が増大してきた。地場信用調査機関クリフ・ハイ・マークのレポートによると、インドにおける消費者ローンの融資額は2023年度に前年度比28.9%増加した。
そこで、三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMFG)傘下のノンバンク、SMFGインディアクレジット(以下、SMICC)は、個人や零細企業、農村など、幅広い層を顧客に取り込むため挑戦を続けている。同社の事業や日系企業との連携可能性について、現地駐在ヘッドの梶井孝充氏に聞いた(取材日:2024年3月18日)。
現地の大手ノンバンクを巨額買収
SMFGは2021年、フラトン・インディア・クレジット(シンガポール系ノンバンク)の株式の74.9%を約20億ドル(当時の為替レートで約2,200億円)で買収し、連結子会社化した。2022年には、社名を現在のSMICCに変更。その後、2024年3月に残りの25.1%の株式を取得し、全額出資子会社化した。
同社は目下、積極的に事業強化を進めている。2024年5月には、新たに130億ルピー(約234億円、1ルピー=約1.8円)の出資を発表した。SMICCの運用資産残高(AUM)は、2023年末時点で4,248億7,000万ルピーに上り前年同期比24%増加となったほか、2023年4~12月の融資額は前年同期比46%増の2,879億ルピーだった。
小規模事業者や個人向けの市場が拡大
SMICCは、インド全域でサービスを展開する。特に地方農村部に強みを持つ。ターゲットにする顧客層は、(1)中小零細企業・個人事業者、(2)年間世帯所得15万~50万ルピーの低所得層に分類される個人、(3) 50万~110万ルピーの下位中間層にあたる個人だ。
国際労働機関(ILO)の統計によると、インドでは、自営業者(個人事業者を含む)の割合が76.9%(2022年時点)だ。これは日本の9.7%、中国の45.8%、インドネシアの53.4%などと比較して、非常に高い水準にある。このデータからわかるように、インドで個人が小さなビジネスを始めることは、一般的だ。事業を立ち上げたり拡大したりするためには小規模ビジネスローンが必須であり、中小零細企業・個人事業者向け融資の市場規模は大きい。
また、同社がターゲットとする個人の所得層はインドの巨大な人口の大部分を占める。ボストン・コンサルティング・グループ(経営コンサルティング会社)が2020年12月に発表したレポートによると、2019年時点で低所得層が1億3,000万世帯(構成比45%)、下位中間層5,900万世帯(同21%)に及ぶ。合計すると、1億8,900万世帯(66%)で、これら世帯は2030年までに、人口増加などにより2億3,500万世帯まで増加する見込みだ(図参照)。
こうしてみると、中小零細企業や個人事業者、さらには低所得層・下位中間層に含まれる個人に対する金融サービスには、インドのビジネスの特徴、人口規模の大きさからして大きな将来性がある。一方で、1件当たりの融資額が小規模で与信管理が難しいことから、一般的には、銀行が網羅的に取り扱うのは困難だ。そこで、SMFGはSMICCというノンバンクの形態でこの市場領域にアプローチする。
与信では家畜などまで審査、回収手法も開拓
中小零細企業や個人事業者、低所得層・中間層の個人は、収入が不十分か安定していないことが多く、銀行から資金調達したり、ライフプラン実現に必要な融資を受けたりすることは容易でない。そのため、地方農村部では貸し出しの約3分の2が、インフォーマルな小規模金融業者経由になっていて、法外な高金利で借り入れるケースも多い。これに対しSMICCは、「人々のより豊かな生活を実現するため、少しでも多くの国民を正規の金融システムに取り込む」ことを目指す。
一方で、このような顧客層に対しどう与信管理するのかは、大きな課題となる。同社は、多様なローン商品を顧客に幅広く提供している。その与信額を決めるにあたっては、地域に根付いた営業担当者による戸別訪問やヒアリングを通じ、収入だけでなく、保有する在庫・物品や家畜などまで詳細に精査する。また、農村部では、地域の女性同士の信頼関係をベースとした女性グループに対するグループローンも手掛ける。さらに与信審査にあたっては、インドでいち早く信用度を点数化して評価・分析するスコアカード方式や高度なデータ分析手法を導入している。
資金回収の上では、熟練したスタッフやテクノロジーを活用して「顧客本位かつ効率的な運用」を目指す。延滞前のコミュニケーションは、最も重要視するポイントだが、それでも返済が一定期間滞った場合には、同社の資産から切り離し、バランスシートの健全性を維持する。加えて、社員や外部業者を通じて継続的に、回収にも注力することで、持続可能なサービスを実現している。
農村部に手厚いネットワーク
インド財務省発行の経済レポート(2022~2023年)によると、約14億人の人口のうち約65%が農村部に暮らす。一方で、全銀行の拠点数となると、その広大な面積と人口にもかかわらず、農村部は全体の約35%にすぎず、農村地域の人々が金融サービスに十分アクセスできない状況であることがわかる。
SMICCは、都市部に限らず地方農村地域にもネットワークを広げている。2024年9月には1,000拠点目を開設し、これを祝して国営郵便会社インディア・ポストと共同で、記念切手を発行した。この1,000拠点の半数以上は人口5万人未満の農村部に設置。また、全従業員2万人超のうち1万4,000人を配置する。同社がサービスを求める幅広い顧客層にリーチできるのは、そのためだ。
店舗数の60%、貸付額の20%を占める農村部では、「グラムシャクティ(農村の力の意味)」のブランドで、ビジネスローンや不動産担保ローンといったサービスを提供している。このほか、グループローンが貸付額の大きな割合を占めることも特徴だ。日頃の営業活動に加え、住民を集めた説明会を実施するなど、現地コミュニティーに深く入り込んで活動を進めている。
日系企業の販路拡大にも活用を
人口の半数以上が農村部に住むインドでは、製品・サービスのターゲット層によっては、農村地域の顧客にリーチすることも重要になるだろう。ただ、エリアが広くしかも人的なつながりが強い濃密な市場に入り込むのは、容易でない。そこで、全国に広がる同社の営業ネットワークと金融サービスは、日系企業の製品やサービスの販路拡大の一助になる可能性がある。同社はすでに、タタ日立(日立建機が60%を出資する合弁)、いすゞモーターズインディア、スズキ・モーターサイクル・インディアの3社と覚書(MOU)を締結済みで、それぞれ建設機械、ピックアップトラック、二輪車に向け、融資サービスをスタートさせている。また、三井住友海上火災保険のインド合弁会社、チョラMS(注)とは、保険販売の代理店契約を結び、ローン商品を購入した顧客に対して保険を提案し、病気やけがなどへの補償を提供している。
これ以外にも、同社は多方面から日系企業をサポートしている。例えば、日本製品を扱う販売代理店や小売店やエンドユーザーを対象とする購入資金融資サービスを提供。また、日系企業の現地従業員向けに個人ローンや住宅ローンを提供することを検討中で、これは福利厚生のメニューにもなりうる。
梶井氏は、SMICCのネットワークやサービスを通じ、「中小を含めて日系企業のインドビジネスに貢献していきたい」としている。
- 注:
- チョラMSの正式名称は、チョラマンダラムMSゼネラル・インシュアランス
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューデリー事務所
丸山 春花(まるやま はるか) - 2021年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ・ムンバイ事務所を経て、2024年7月から現職。