市場に成長期待も、輸送・購買力などに難点(ウズベキスタン)
日本製品へは確かな信頼

2024年3月28日

ロシアによるウクライナ侵攻から、2年が経過。ロシアでのビジネスに、困難な状況が続いている。そうした中、代替市場として中央アジアへの注目が集まっている。そこで本稿では、中央アジアに位置する国の1つ、ウズベキスタンに焦点を当てた。企業ヒアリングを通じて、ウズベキスタン市場の実情に迫っていきたい。

今回は在タシケントの地場企業2社に聞いた。その概要は次のとおり。

まずは、ヒアリングした企業について紹介したい。

  • ファーゴマーケティンググループ(以下、F社/2024年1月11日聴取)
    F社は基本的に、ディストリビューターとして食品貿易に携わる。貿易相手国は、主にロシアやカザフスタン。 そのほか、独自のプレミアムフードショップを展開する。
  • コリアンイノベーションテクノロジーズ(以下、K社/2024年1月11日聴取)
    K社は、工作機械やスペアパーツ、切削工具を輸入・販売する。輸入元は、主に韓国とドイツ。販売についてはウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタンからの問い合わせがあるという。 ウズオート(ウズベキスタン最大の自動車メーカー)やエンターエンジニアリング(シンガポールの建設会社)が当地で展開する鋳造プロジェクトにも、設備を納入した実績がある。さらに、顧客の従業員を対象に、プログラミングや工作機械の使用方法などについて研修を手掛ける。

ウズベキスタン大統領府付属統計庁によると、同国のGDP成長率は2023年、6.0%(速報値)と高かった。成長市場として注目に値するだろう。

輸送面と購買力不足が課題、地域独自の習慣もビジネスを難化

日本企業が実際にウズベキスタンとのビジネスを検討するにあたってはどのような課題があるのだろうか。インタビューを通じて挙がってきたのは、(1)輸送にコストがかかる、(2)消費者の購買力が高くない、(3)文化の地域差が大きい、といった点だ。

まず、(1)について。輸送コストがかかるのは、基本的にウズベキスタンが内陸国のためだ。日本などから輸出しようにも、港湾からダイレクトに輸送することができない。いきおい、コストが高くついてしまう。そこで具体的な輸送ルートとして参考になるのが、韓国と取引があるK社の事例だ。同社はロシアによるウクライナ侵攻以前、韓国から機器を輸入する際に、ロシアのシベリア鉄道を利用。カザフスタンを経由して当地に至る輸送経路で輸入していた。選択可能な中で、この経路が最も経済的という。ただし、海上輸送だけで完結する輸送方法が存在しないため、いずれにせよコストは高くつく。

では、(2)消費者の購買力はどうか。F社によると、ウズベキスタンには中間層がほとんど存在しない。目下の顧客に占める低所得者層は、かなりの割合に上る。そのため、販売商品の価格を下げざるを得ない。換言すると、低価格の商品しか取り扱うことができないと話す。なお、ウズベキスタンの国民総所得を国民1人当たりで計上すると、2,190ドル。日本の4万2,440ドルを、大きく下回っている(注1)。

(3)に関して、地域ごとに文化的な差異がかなり大きいことにも注意が必要だ。F社いわく、同じウズベキスタンといえども、地域によって習慣や文化、さらには言語まで異なる。そのため、地域それぞれの特性を分析し、ニーズ把握する必要があるという。他地域に進出するには調査コストがかかるため、現時点では同社はタシケントでのビジネスに集中せざるを得ないと話す。

ウクライナ情勢の影響で輸送経路の変更も

ここまでは、既存の課題と言える。これらに加え、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が及ぶ。

とくに顕著な問題は、輸送面だ。例えば、ロシアに対する制裁対象品目をウズベキスタンに輸出する場合だ。ロシアを迂回するよう、輸送経路変更を余儀なくされる。輸送コストがさらに増大しかねないことになる。

K社は実際、韓国からの輸入でロシア経由ルートを使用することができなくなった。欧米諸国が課す制裁の影響だ。現時点で、中国経由のルートに切り替えている。また、取引を最近始めたドイツからの輸送に際しても、ロシアを避けていると語る。具体的には、トルコ~イラン~アゼルバイジャン~トルクメニスタンを経由して、ウズベキスタンに至る。欧州からの輸送について、ウクライナ侵攻以前の最安経路はロシア経由で7,000ユーロだった。それが、1万1,000~1万3,000ユーロまで膨らんでしまった(注2)。もっともK社の場合は、輸送コスト上昇について顧客側の理解が得られている。そのため、上昇分を販売価格に転嫁できているという。

こうしたことは、日本企業にとっても例外ではない。東アジアや欧州から制裁対象品目を輸出する際には、ロシアを迂回した代替ルートの検討が必要になる。ただでさえ輸送コストと所要時間がかかる上に、本来の最短かつ最も経済的なルートで輸出入できないことは、ウズベキスタンとビジネスをする上でネックになり得るだろう。

ウズベキスタンで日本製品は受け入れられるか

当地で、日本製品に対する信頼は厚い。ヒアリングしたところ、2社とも日本製品の品質に対する評判はポジティブなものばかりだった。K社は、日本製の工作機械は質がよく、可能ならば日本製品を買いたいと語る。F社も、日本製の日用品は高品質で、機会があれば取引を希望するとした。

ただし、両社とも、日本製品は価格が高いことをネックとして挙げた。特にF社は低所得者層がメインターゲットのビジネスを行っているので、深刻だ。価格が高いと商品購入に慎重にならざるを得ない。輸送コストもかさむため、実際に商品として出荷できる機会が限られてしまう。同社は実際、ベビー用紙おむつや女性向け衛生用日用品を販売していた時期(2014年~2015年)に、日本製の紙おむつを輸入しようと試みたことがある。しかし、価格が高かったため大量販売がかなわなかったのが、苦い経験という。

また今回のヒアリングでは、「中国や韓国の企業が既に市場に入り込んでいる。日本企業が進出するには、出遅れ感が否めない」「日系企業の意思決定プロセスの遅さが市場参入への障壁になっているのではないか」という意見も聞かれた。

ここまで見てきたとおり、ウズベキスタンは成長市場として期待の高まる市場だ。ロシアのウクライナ侵攻により、中央アジアの地政学的な重要性も高まってきた。ビジネス面でも一層、注目されていくだろう。他方で、ビジネスに困難も伴う。ポテンシャルを秘めた中央アジアビジネスで成功を収めるには、現地の商習慣への理解や、市場について情報収集を欠かさず詳しく分析することが重要だ。

また、日本製品は品質の良さが認識されているとは言え、価格面の問題をクリアする必要がある。同時に、経済成長著しいウズベキスタンで消費者層の購買力が今後どのように変化していくのか注視していく必要があるだろう。


注1:
国民1人当たりの国民総所得のデータ出所は、世界銀行。ウズベキスタンと日本のいずれも、2022年時点。
注2:
いずれもトレーラーで40フィートコンテナを輸送した場合のコスト。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
後藤 大輝(ごとう だいき)
2021年、ジェトロ入構。2022年12月から現職。