カナダの2023年新車販売は前年比11.8%増、生産は22.8%増

2024年10月8日

カナダの2023年の新車販売台数は、第4四半期(10~12月)の在庫改善と、ここ数年の繰り延べ需要により、前年比11.8%増と、厳しい経済状況を切り抜けるかたちとなった。メーカー別では、ゼネラルモーターズ(GM)が浮上して首位に、フォードが2位に後退したものの、引き続き米国系2社がトップを維持した。タイプ別で見ると、バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の合計であるゼロエミッション車(ZEV)の新車登録台数が前年比で49.4%増加し、市場シェアも10.8%と引き続き拡張基調を見せている。生産台数はほとんどのメーカーで増加し、全体では前年比22.8%増と大きく伸びた。日系がトップ2位を占め、そのシェアも上昇した。ZEV生産では、稼働開始や大規模投資計画を発表するなど、各社の動向が注目される。

販売台数は記録的な増加率で回復傾向に

調査会社デロジエ・オートモーティブ・コンサルタント(DAC)が2024年1月15日に発表した統計によると、カナダの2023年の新車販売台数は前年比11.8%増加の166万4,085台で、1997年以来では最大の伸び率となり、ここ数年の落ち込みから回復を成し得た年となった(表1参照)。2023年第4四半期(10~12月)には、在庫レベルの改善と、過去数年間の逆風の経済を克服したことによる繰り延べ需要が見られた。

メーカー別にみると、GMが前年比15.4%増の26万3,084台で、1位に浮上。フォードは前年比0.2%減の23万9,790台で、2位に後退した。トヨタは13.6%増の22万7,460台で、前年と変わらず3位。ステランティスは前年比6.3%減の15万9,152台で、4位を維持した。前年6位だったホンダは前年比20.7%増の12万4,628台、前年5位だった現代が12万2,285台で、前年比の3.4%増にとどまったことにより、順位が逆転して5位に浮上した。日系メーカーの販売台数が一様に増大した中で、特に三菱は前年比61.6%増と、際立って好調だった。

表1:メーカー別新車販売台数 (単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位(注1) メーカー 2022年 2023年 前年比
1(2) GM 228,003 263,084 15.4
2(1) フォード 240,325 239,790 △0.2
3(3) トヨタ 200,204 227,460 13.6
4(4) ステランティス 169,799 159,152 △6.3
5(6) ホンダ 103,294 124,628 20.7
6(5) 現代 118,308 122,285 3.4
7(7) 日産 76,411 91,378 19.6
8(8) 起亜 68,258 84,768 24.2
9(10) VW 46,951 63,757 35.8
10(9) マツダ 49,874 58,637 17.6
11(11) スバル 44,009 54,966 24.9
12(12) メルセデス・ベンツ 34,316 35,948 4.8
13(15) 三菱 22,101 35,708 61.6
14(13) アウディ 29,137 35,076 20.4
15(14) BMW 27,866 31,021 11.3
その他(注2) 30,408 37,342 22.8
米系・日系 米系自動車メーカー 638,127 662,026 3.7
日系自動車メーカー 495,893 592,777 19.5
その他メーカー 355,244 410,197 15.5
セグメント 乗用車 240,128 236,192 △1.6
小型トラック 1,248,516 1,427,893 14.4
合計 1,488,644 1,664,085 11.8

注1:かっこ内は2022年。
注2:そのほかはジャガー、ランドローバー、マセラティ、ミニ、ポルシェ、ボルボ。
出所:デロジエ・オートモーティブ・コンサルタントのデータを基にジェトロ作成

米系メーカーの販売台数合計は前年比3.7%増の66万2,026台だった。一方、カナダで販売を行う日系自動車メーカー6社(トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバル、三菱)の合計は同19.5%増の59万2,777台となったことから、販売シェアは前年の33.3%から35.6%に拡大した。

セグメント別では、乗用車(セダン、クーペ、ハッチバック)が前年比1.6%減の23万6,192台と落ち込み、小型トラック[ピックアップトラック、スポーツ多目的車(SUV)、クロスオーバーSUV]は前年比14.4%増の142万7,893台だった。全車種に対する小型トラックのシェアが新車販売台数全体の85.8%と、前年の83.9%から増えた一方、乗用車は前年の16.1%から14.2%に減少し、小型トラックへのシフト傾向が続いている。

なお、オートモーティブ・ニュース・カナダは2024年1月5日、DACの発表には含まれないテスラのカナダでの販売台数を発表した。それによると、2023年は前年比51.2%増の3万6,900台で、DACが発表した各メーカーの前年比と比較しても、三菱と並んで目立って高い伸びを記録した。

ZEVシェアは2桁に移行し、拡大基調

ZEVが2023年の新車登録台数に占める割合は10.8%だった。カナダ政府は2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにするという目標を掲げており、ZEV普及に向けた支援策や規制などの政策を打ち出している。運輸省は、BEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)をZEVと定義しており、2019年5月から購入補助金制度「iZEVプログラム」を開始した。また、2021年6月には、2035年までに新車の乗用車・ピックアップトラック販売の100%をZEVとすることを義務付けると発表した(2021年7月8日付ビジネス短信参照)。2023年12月には、環境・気候変動省が小型車の新車販売での割合の義務付けも発表した(2023年12月20日付ビジネス短信参照)。2026年のモデルから少なくとも20%をZEVとし、10年を経て2035年には100%を達成する計画だ。さらに、2019年に天然資源省が開始した電気自動車(EV)充電器設置に対する助成金制度「電気自動車インフラ整備プログラム(ZEVIP)」が2027年3月31日まで延長され、9億カナダ・ドル(約945億円、Cドル、1Cドル=約105円)の追加資金をかけ、2029年までに8万4,500基の設置を目標としている。こうした政策の後押しもあり、カナダ統計局が2024年4月に発表した2023年の新車登録台数統計では、BEVが前年比41.5%増の13万9,501台、PHEVは同80.5%増の4万5,077台と大きく増大した(表2参照)。ZEV(BEVとPHEV)の合計は前年比49.4%増加して18万4,578台と、市場シェアも同10.8%と2桁に達し、着実に拡大し続けている。

表2:タイプ別新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 対前年比
ガソリン車 1,834,883 1,776,571 1,384,928 1,415,361 1,232,425 1,320,139 7.1
ディーゼル車 70,600 59,089 64,769 65,881 75,244 73,938 △1.7
バッテリー式電気自動車(BEV) 22,570 35,523 39,036 58,726 98,589 139,501 41.5
ハイブリッド車(HEV) 25,837 38,390 41,453 79,330 81,150 135,659 67.2
プラグインハイブリッド車(PHEV) 21,713 20,642 15,317 27,306 24,973 45,077 80.5
その他燃料車(注1) 257 230 58 5 18 16 △11.1
全車種合計 1,975,860 1,930,445 1,545,561 1,646,609 1,512,399 1,714,330 13.4
ZEV(BEV+PHEV)台数(注2) 44,283 56,165 54,353 86,032 123,562 184,578 49.4
ZEV(BEV+PHEV)シェア 2.2 2.9 3.5 5.2 8.2 10.8 31.8

注1:液体プロパン、天然ガス、水素などを含む。
注2:FCEVは登録台数が少ないことから「その他燃料車」の中にまとめられており、統計上のZEVはBEVおよびPHEVと定義されている。
出所:カナダ統計局、カナダ運輸省データを基にジェトロ作成

テスラ、現代、トヨタの3社で補助金受けた車両が半数以上

前述のZEV購入補助金支給制度「iZEVプログラム」では、政府の指定するメーカー希望小売価格の対象車種に対して、最大5,000カナダ・ドルの補助金が支給される。運輸省が発表した2023年の補助金支給台数は前年比約2.5倍の14万3,168台と大幅に増加、前述のカナダ統計局による新車登録台数統計で示されたZEV台数(18万4,578台)の8割弱が補助金を受けた計算となる。メーカー別では、テスラ4万2,481台(シェア29.7%)、現代1万6,582台(同11.6%)、トヨタ1万5,425台(同10.8%)で、3社で半数以上(52.1%)を占めた(表3参照)。

表3:iZEVプログラム補助金支給台数(2023年)(単位:台、%)(-は値なし)
メーカー BEV PHEV FCEV 合計 シェア
テスラ 42,481 42,481 29.7
現代 13,208 3,374 16,582 11.6
トヨタ 4,208 11,209 8 15,425 10.8
GM 13,211 13,211 9.2
起亜 7,061 2,116 9,177 6.4
三菱 9,098 9,098 6.4
フォード 4,250 3,420 7,670 5.4
VW 6,365 6,365 4.4
ステンランティス 5,205 5,205 3.6
日産 3,525 3,525 2.5
アウディ 3,366 3,366 2.4
ボルボ 2,151 48 2,199 1.5
ポールスター 2,167 2,167 1.5
マツダ 598 1,223 1,821 1.3
スバル 1,769 34 1,803 1.3
BMW 1,243 465 1,708 1.2
ミニ 582 287 869 0.6
ビンファスト 480 480 0.3
メルセデス・ベンツ 16 16 0.0
ホンダ 0.0
合計 106,681 36,479 8 143,168 100.0
シェア 74.5 25.5 0.0 100.0

出所:カナダ運輸省データを基にジェトロ作成

カナダでの生産台数、北米内の生産シェア、ともに増大

2023年の生産台数は引き続き増加した。DACが1月31日に発表した統計によると、前年比22.8%増の152万6,241台(表4参照)となった。生産台数順にみると、トヨタは前年比21.4%増の52万5,811台で、首位を維持した。2位に浮上したホンダは、「シビック」「CR-V」の両方で大幅に増産し、37万4,467台で、前年比55.7%増を記録した。ステランティスは前年比4.6%減の30万5,838台で、3位へ順位を下げた。他方、4位、5位のフォードとGMはそれぞれ前年比23.9%増、33.7%増だった。

表4:メーカー別自動車生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位(注) メーカー 2022年 2023年 前年比
1 (1) トヨタ 432,984 525,811 21.4
2 (3) ホンダ 240,536 374,467 55.7
3 (2) ステランティス 320,536 305,838 △4.6
4 (4) フォード 130,197 161,300 23.9
5 (5) GM 118,769 158,825 33.7
セグメント 乗用車 296,319 341,472 15.2
小型トラック 946,703 1,184,769 25.1
合計 1,243,022 1,526,241 22.8

注:かっこ内は2022年の順位。
出所:デロジエ・オートモーティブ・コンサルタント

非日系のステランティスやフォード、GMに比べ、上位2位を占めた日系メーカーの前年からの伸び率が高かったため、カナダでの日系メーカーの生産シェアは前年の54.2%から59.0%へと上昇した。セグメント別では、乗用車の生産台数の前年比15.2%増に対し、小型トラックは25.1%増だったことから、全生産台数に対する小型トラックのシェアは前年の76.2%から77.6%へと拡大する結果となった。

カナダの自動車生産台数は、新型コロナ禍前の2017~2019年には200万台程度で推移しており、2023年はその7割弱まで回復したことになる。北米3カ国の生産台数シェアでは、2019年当時のカナダ12.3%、米国63.9%、メキシコ23.7%に対し、2023年にはカナダ9.7%、米国66.3%、メキシコ24.0%と、一見すると落ちている。しかし、2023年の北米生産成長率でみると、米国は前年比2.5%増、メキシコは前年比14.9%増に対し、カナダは22.8%増と大きく伸びた。

GMカナダはカナダで初となる商用のEV生産工場を2020年からカナダ・オンタリオ州インガソールで稼働させている。DACの発表した2023年の統計によると、同工場で商用車「ブライト・ドロップ・ゼボ600」が5,775台生産された。

EV生産体制に向けた投資計画

こうした中、各社によるEV組み立てやEV用バッテリー生産の大規模な投資計画の発表があり、カナダのEVエコシステムは活気を帯びている。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は2023年3月の発表で、同社初の海外ギガファクトリー(生産を集約した大きな施設)となるEVバッテリー工場をオンタリオ州セント・トーマスに新設中で、2027年に稼働開始予定としている(2023年4月24日付ビジネス短信参照)。VWカナダの社長兼最高経営責任者(CEO)ビト・パラディノ氏によると、いずれは同工場でEV向けの全固体電池を生産するとの意向だ。過去数十年間、自動車メーカーは米国南部やメキシコなど、より安価な地域に設備を移転し、カナダ離れが続いていた。それが最近、新たにVWを誘致し、サプライチェーンが構築されたことが大きな話題となり、その後も各メーカーによる投資が相次いだ。2023年4月にフォードはオンタリオ州のオークビル工場を改装、北米市場向けにカナダで初のEV量産拠点に刷新すると発表した(2023年4月18日付ビジネス短信参照)。2023年7月にはステランティスのEVバッテリー工場の再編と自動車研究開発施設の設立計画の発表があり、オンタリオ州の2工場で36億カナダ・ドルを投資し、2025年の生産開始を予定している。白紙撤回のおそれが報じられたが、後にカナダ政府とオンタリオ州政府が補助金の拠出を明らかにし、同社の計画は実現する見通しが立った(2023年7月10日付ビジネス短信参照)。さらには、ホンダも2024年4月に、EVとEVバッテリー工場をオンタリオ州アリストンに建設する計画を発表した(2024年4月30日付ビジネス短信参照)。工場建設に加え、旭化成などのパートナー企業との合併会社設立によってサプライチェーンを強化し(2024年5月21日付ビジネス短信参照)、北米での将来的なEVの需要増加に向けた供給体制の強化を図り、包括的バリューチェーンを構築する計画だ。このように、既存工場の改装や新設を経て、今後数年間にわたり各社のEV関連工場の稼働開始が予定されており、カナダのEV関連サプライチェーンやエコシステムは発展拡大が進んでいる。

執筆者紹介
ジェトロ・トロント事務所
井口 まゆ子(いぐち まゆこ)
民間企業勤務を経て、2019年からジェトロ・トロント事務所勤務。