世界へ広がる日本アニメの可能性
アヌシー国際アニメーション映画祭・展示会で聞く海外企業の声

2024年7月26日

日本のアニメーションに対する評価は世界的にも高い。最近では2024年のフランスのカンヌ国際映画祭でスタジオジブリが団体として初めて名誉パルムドール賞を受賞(2024年6月3日付ビジネス短信参照)したほか、アヌシー国際アニメーション映画祭では「窓ぎわのトットちゃん」がポール・グリモー賞(監督賞)を受賞した(2024年6月26日付ビジネス短信参照)。

日本政府が2024年6月に取りまとめた「新たなクールジャパン戦略」では、アニメーションなど日本のコンテンツ産業の海外へのビジネス展開力を高めるべく、「海外のマーケティング情報の収集・共有化、海外の現地プレイヤーなどとのマッチング機能の強化を図るため、ジェトロにコンテンツ専門人材を配置し、コンテンツ産業の海外展開支援や現地マーケットでのコアネットワークの構築を推進する」ことが掲げられた。ジェトロは2024年6月に開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭・展示会において、日本のコンテンツの配給や日本企業との協業を行っているフランスとコートジボワールの企業の代表4人に、現在のプロジェクトや日本コンテンツの可能性、今後の展望などについてインタビューを行った。

フランス MIYU PRODUCTION(ミユ・プロダクション)
―日本の若手監督とアニメ映画を制作―

ジェネラルマネージャー ピエール・ボーサロン氏(取材日:2024年6月13日)


ピエール・ボーサロン氏(後列左から2人目、本人提供)
質問:
貴社のこれまでの活動は。
答え:
6年ほど前から日本企業と協力を始め、これまでに8~9本の短編映画を日本の若手監督と共同制作してきた。
質問:
特に印象に残っているプロジェクトは。
答え:
長編映画のコラボレーションが特に印象的で、最近では、「Anzu Chat Fantôme(邦題:化け猫あんずちゃん)」という日仏共同制作プロジェクトに取り組んだ。このプロジェクトは、フランスのデザインとキャラクターの色彩、日本のアニメーション技術が融合したものだ。
質問:
日本との共同制作における課題は。
答え:
両国間の制作方法、コミュニケーションの仕方、使用するソフトウェアなど、さまざまな違いがある。また、歴史的に見ても、日本の漫画やアニメは国内市場が非常に大きく、海外からの資金調達の必要性が少ないことも海外のプレイヤーと協働しにくい要因の1つと言える。
質問:
「化け猫あんずちゃん」の制作において具体的に難しかったことは。
答え:
日本国内でのパートナー探しが難航した。原作漫画が日本でヒットしていなかったこと、ロトスコープ技術(注)が普及していなかったこと、久野遥子監督がまだ広く知られていなかったことが要因だった。
質問:
今後の日本とのプロジェクトは。
答え:
現在、「A New Dawn(邦題未定)」という四宮義俊監督の新作をアスミック・エースと共同制作中で、2025年の公開を目指している。それ以外に、交渉中のプロジェクトが2つある。日本との協力により、国際市場での認知度が高まり、さらに成功することを期待している。

フランス CHARADE(シャラード)
―アニメ映画の日仏共同制作を牽引―

会長兼共同創業者 ヨハン・コンテ氏(取材日:2024年6月14日)


ヨハン・コンテ氏(本人提供)
質問:
今年のアヌシー国際アニメーション映画祭に出品した作品は。
答え:
今年の映画祭には4本の長編を含む6本の作品を出品した。主なものとして、配給を担当する「化け猫あんずちゃん」「The Colors Within(きみの色)」「Flow」「Memoir of a Snail」がある。
質問:
貴社の日本との関わりは。
答え:
日本のアニメーションに強い関心を持っており、いくつかの共同制作プロジェクトを進めている。2025年公開予定の「A New Dawn」(アスミック・エースとミユ・プロダクション共同制作)では、海外配給に関わっている。これらのプロジェクトは、フランスと日本のアニメーション業界の架け橋となる重要な取り組みだ。
質問:
日本との共同制作のメリットと課題は。
答え:
日本のアニメーション業界との共同制作は、両国の異なる制作スタイルや技術を融合させることで新たな価値を生み出す可能性がある。ただし、言語や文化、制作プロセスの違いなど、さまざまな課題もある。特に、日本では独立系映画の資金調達が難しいため、外国企業との連携が必要になってきている。
質問:
今後の展望は。
答え:
フランスと日本の間で、正式な共同制作協定が結ばれることを期待している。昨年、イタリアと日本が共同制作協定を結んだことによって、日伊間での共同制作が促進されたのと同様に、共同制作協定は日仏関係にも良い影響を与えると考えている。将来的には、もっと多くの日本企業と連携し、世界中に素晴らしいアニメーション作品を届けたい。

フランス EUROZOOM(ユーロズーム)
―欧州で数多くの日本アニメを配給―

社長 アメル・ラコンブ氏(取材日:2024年6月13日)


アメル・ラコンブ氏(本人提供)
質問:
アニメーションとの出会いとこれまでの活動は。
答え:
アニメーションに興味を持ち始めたのは2005年で、それ以来、約60本の日本のアニメーション映画を配給してきた。ユーロズームは実写映画も配給するが、日本アニメに関しては今やフランスおよびヨーロッパにおける最大の配給会社になった。
質問:
現在注目している作品は。
答え:
今年のアヌシー国際アニメーション映画祭でポール・グリモー賞(監督賞)を受賞した、シンエイ動画制作の「窓ぎわのトットちゃん」。いくつかのイベントで上映が予定されている長編映画「Look Back(邦題:ルックバック)」。6月19日にフランス国内の約200の映画館で封切られた「劇場版名探偵コナン100万ドルの五稜星(みちしるべ)」にも注目している。
質問:
アニメーション市場を広げるために行っていることは。
答え:
ユーロズームは、スタジオジブリ以外の日本のアニメーションを数多く欧州の観客に紹介してきた。例えば、2023年には「すずめの戸締まり」をベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品して注目を集め、54万3,466人(Allo cine調べ、2023年8月時点)の観客動員につなげた。国際映画祭やメディアでのプロモーションが効果を上げ、アニメーションが1つの映画作品として認められるようになり、その結果、エンタテインメント産業専門誌「バラエティ(Variety)」や仏日刊紙「リベラシオン」の記事でも取り上げられるようになった。
質問:
フランス市場でアニメーション映画を普及させるための課題は。
答え:
映画館での上映が非常に重要だが、映画がストリーミングプラットフォームに販売されると、フランスの規制により劇場公開が難しくなる。これはテレビ放送にも影響を与える。フランス市場では、映画館での上映が観客を引きつけるための重要な付加価値になっている。
質問:
今後の展望は。
答え:
今年のカンヌでスタジオジブリが名誉パルムドールを受賞し、アニメーションの国際的な認知度がますます高まっている。10月に東京で開催される映像コンテンツ展示会のTIFFCOMに合わせてスタジオツアーを企画している。このツアーには、フランスの主要な映画祭や海外配給の意思決定者たちも参加するので、日本のアニメーション映画の海外へのプロモーションの機会になればと考えている。

コートジボワール Studio KÄ(スタジオ カー)
―アフリカと日本を融合したアニメ映画を制作―

最高経営責任者(CEO) アジャ・ソロ氏(取材日:2024年6月12日)


アジャ・ソロ氏(本人提供)
質問:
これまでの活動は。
答え:
コートジボワールでアニメーション制作に携わっており、特にアフリカと日本の文化を融合させた新しいアニメーションの創造に情熱を注いでいる。
質問:
現在、取り組んでいるプロジェクトは。
答え:
今は「UnChosen」というタイトルのアニメシリーズの企画に力を入れている。この作品は同名漫画が原作で、全8エピソード、各6分の構成。このプロジェクトについて、ジェトロ主催の商談会でマッチングした日本企業(以下、A社)と商談を続けており、他の共同プロデューサーも探している。
質問:
どのような企業やプロデューサーと連携しているか。
答え:
A社とは継続的に連絡を取り合っているが、それ以外にも日本やフランスの企業との協力を模索している。また、別の日本企業とは主にマーチャンダイジングの分野でやり取りもしている。
質問:
今回のアヌシー国際アニメーション映画祭に参加した目的は。
答え:
1つは、コートジボワールの短編映画プロデューサー4人のサポート。彼らは在コートジボワール・フランス大使館の資金提供を受け、各自プロジェクトをプレゼンした。もう1つは、「Kinafo」という長編映画のプロモーションを行うための配給会社探し。このプロジェクトでは、既にベルギーとオーストラリアのプロデューサーと組んでいるが、フランスの共同プロデューサーも探している。
質問:
今後の展望は。
答え:
A社とのコラボレーションをさらに深め、アフリカと日本の文化を融合させた独自のデザインを開発していきたいと考えている。また、アヌシーで新たに出会った日本のプロデューサーとも協力し、「UnChosen」プロジェクトを成功させたい。さらに、オーストラリアとの共同制作を望んでいるが、コートジボワールとオーストラリアには共同制作に係る協定がない。そこで、配給会社やオーストラリアと共同制作協定がある南アフリカ共和国のパートナー経由で参画してもらう方法を模索している。

注:
アニメーション手法の1つ。モデルの動きをカメラで撮影してトレースし、アニメーションにする手法。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
𠮷澤 和樹(よしざわ かずき)
2015年、ジェトロ入構。サービス産業課、クリエイティブ産業課、新産業開発課、デジタルマーケティング課、内閣官房への出向などを経て2023年6月から現職。これまでに日本の映画・映像、音楽、アニメーション、ゲーム、マンガなどをはじめとしたコンテンツ産業、ライフスタイル産業、日本発のスタートアップ企業の海外展開に従事。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
キャロリーヌ アルテュス
1995年からジェトロ・パリ事務所に勤務。映画・映像、アニメーション、音楽、ゲーム、マンガなどの日本コンテンツの海外展開支援やプロモーションを担当。