飲食業界の人材不足を商機に海外展開(日本)
調理・業務ロボット開発のスタートアップ

2024年3月15日

世界的に企業が人材不足に直面する中(注1)、いかに少ない人材で生産性を高められるかが重要なポイントとなっている。飲食業界において、こうした課題に切り込むソリューションとして「自動調理・業務ロボットによる省人化」を推進している日本のスタートアップがある。2018年創業のテックマジック(TECHMAGIC)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。同社は、他国に先駆けて少子高齢化に直面している日本、いわば「課題先進国」での事業を弾みに、海外展開も進めている。同様に人材不足を抱えている米国やシンガポールが主なターゲット市場である(注2)。

日本、ひいては世界の社会課題解決に挑む同社のビジョンとは何か、最高経営責任者(CEO)の白木裕士氏に聞いた(インタビュー実施日:2024年1月30日)。


テックマジックの白木CEO(ジェトロ撮影)
質問:
どのようなプロダクトを提供しているのか。
答え:
テックマジックは「世界のおいしいを、進化させるパートナー。」というビジョンを掲げ、主に飲食業界に対して業務の自動化ソリューションを提供している。具体的なプロダクトとしては、茹(ゆ)で・炒め・揚げといった調理工程に特化した調理ロボットが主力だ。日本では、パスタを提供するエビノスパゲッティにパスタ自動調理ロボット「P-Robo」が、中華料理を提供する大阪王将などの店舗には炒め調理を自動化するロボット「I-Robo」が導入されたほか、キューピーの社員食堂ではサラダ盛り付けロボット「S-Robo」を用いた実証実験が行われた。
自社の特徴として、ハードウエアとソフトウエア、つまりロボットと情報を高度に融合することで、店舗ごとの工程に特化した製品を提供している点が挙げられる。例えば、タブレットからのオーダーとロボットを連携したり、レシピをデータベース化して再現したりといった活用ができる。われわれは「計量」「食材供給」「知能制御」「調理再現」の4つをコア技術に据えて「おいしさを進化」させることを目指している。
質問:
現在の事業をはじめたきっかけは。
答え:
私が事業の立ち上げを思い立った直接のきっかけとしては、祖母の影響が大きい。身体が不自由になったため1人で調理ができなくなり、冷凍食品に頼らざるを得なくなった祖母を見て、「すべての人が、調理したばかりの温かく健康的で美味(おい)しい食事を食べられるテクノロジーを広めたい」と自動調理ロボットの展開を思い立った。
同時に、飲食業界における課題解決に役立つという確信もあった。まず、自動調理・業務ロボットが単純作業や力作業を肩代わりすることで、深刻な人手不足の解消が期待される。飲食業界では、特に非正社員の人手不足が深刻で、業種別トップとなる72.2%が不足感を訴えている状況だ(注3)。
また、自動調理・業務ロボットが、飲食業界の収益拡大に与える効果も大きい。飲食業界では、食材費(Food)と人件費(Labor)の合計を指すFLコストを売上高で割ったFL比率について、およそ6~7割に上るとの見方が一般的である(注4)。収益拡大にあたっては、こうしたコストの適正化がカギとなる中、店舗や食品工場などでの作業の自動化によって人件費が削減でき、工場での人件費抑制はさらに原材料費の削減にもつながる。
前職のボストンコンサルティンググループ(BCG)では、主に製造業を中心に新規事業、グローバル展開、組織改革などのコンサルティングに携わっていた。前職での知見を課題解決に活用するかたちで、今の事業を立ち上げるに至った。
質問:
海外進出にあたって、ジェトロをどう活用してきたのか。
答え:
テックマジックでは、米国やシンガポール、韓国を中心に海外展開を進めている。これに向けて、2023年にはジェトロが主催する都内スタートアップ企業の海外展開支援プログラム「X-HUB TOKYO OUTBOUND PROGRAM外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」シンガポールコースに参加。また、2024年1月には米国ラスベガスで開催された先端テクノロジーの見本市「CES2024外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に、ジェトロの出展支援プログラムを通して参加した(当日の様子は2024年1月12日付ビジネス短信参照)。
質問:
それぞれのプログラム参加を通じて、何か手応えは得られたか。
答え:
X-HUB TOKYOでは、シンガポールの現地アクセラレーターのレインメーキング(Rainmaking)を通じて、ピッチの練り上げや東南アジアの有力顧客とのマッチメーキングを支援してもらった。結果として、シンガポールのスーパーマーケットや食品販売店とのコネクションを構築できた。
CESは非常に大規模なカンファレンスで、運営のジェトロ事務局からパビリオン出展やピッチ登壇に関するアドバイスを受けて、出展対応のスタッフ数を6人に増やした。同イベントのイノベーションアワードを受賞したことで(ジェトロからのお知らせ参照)、数多くの企業が出展する中でもひと際存在感をアピールすることができた。また、複数カ国合同で開催されたサイドイベント「Global Pitch Battle」にも日本代表として登壇し、優勝することができた。こうしたプロモーションでの露出や丁寧な商談アレンジが功を奏し、アマゾン・ドット・コムなど大手を筆頭に10社を超えるマッチングができた。
質問:
シンガポールや米国でマッチングした相手からは、どのようなフィードバックが返ってきたか。貴社プロダクトのどのような点に興味・関心を抱いているのか。
答え:
シンガポールや米国の企業も同様の労働力不足を抱えているため、その課題解決につながるのであれば、と興味を持っていただけた。また、両国では日本よりも人件費が高く、ロボット導入による人件費削減の効果がさらに大きいことが期待される。米国に関しては、日本よりキッチンが広い場合が多く、ロボットを導入する際のスペースも問題にならないことから関心を抱いていただけている。主に炒め調理ロボットの「I-Robo」を紹介したが、競合他社との優位性で、ヘラがフライパンと別の動きができる点や自動洗浄機能を持つ技術面を商談相手から高く評価していただけた。
質問:
海外展開を進める上で重要な点は。
答え:
顧客へのヒアリングを通じて、自社のバリュープロポジション(注5)を明確化することが重要だと考えている。先ほどの話にもつながるが、例えば米国やシンガポール、日本は同じ労働力不足の課題を抱えている。一方で、相違点として、米国やシンガポールでは人件費が高いこと、各従業員に割り当てられたタスクがより細分化され、分業が徹底していることが挙げられる。そのため、1台の調理マシーンが代替する価値も大きいと踏んでいる。
質問:
今後の展望は。
答え:
国内展開については、大手企業への展開を加速させていき、実績を作りながら調理ロボットの導入効果を積み上げたい。海外展開については、2024年中の米国進出を目指している。現地での拠点設立のため、ジェトロ・サンフランシスコ事務所から、ビザ取得などでサポートいただける弁護士も紹介してもらった。スタッフの採用や、現地事業を統括する営業マネージャーの採用にも注力していく。

注1:
マンパワーグループの「2024 Global Talent Shortage外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、調査対象の41カ国平均で75%の企業が人材確保の課題を抱えている。国別に同割合をみると、日本は調査対象国中トップの85%、シンガポールは79%、米国は70%。
注2:
注1に同じ。
注3:
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、特に非正社員の人手不足が深刻で、業種別トップとなる72.2%が不足感を訴えている。正社員の人手不足割合は57.8%。
注4:
金融庁「業種別支援の着眼点飲食業PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.03MB)」(2023年3月)、アーンスト・ヤング「外食産業第1回:外食産業のビジネスと会計の概要外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」などによると、60%が適正値の1つの目安。三井住友銀行「外食業界の現況と今後の方向性PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(564KB)」では、FL比率は70%とされている。
注5:
企業が競合他社との差別化を図る上で用いられる、顧客のニーズが高く、かつ他社が提供できない、自社独自の価値のこと。
執筆者紹介
ジェトロイノベーション部スタートアップ課
林田 勇太(はやしだ ゆうた)
2023年、ジェトロ入構。同年4月から現職。