ポーランドとハンガリーのビジネスの最新動向
現地所長が解説(前編)

2024年10月31日

ジェトロは2024年9月24日、現地発ウェビナー「現地所長が語る!中・東欧ビジネスの最新動向」を開催した。中・東欧諸国では、欧州の脱炭素化・グリーン化などの動きを踏まえて、積極的に投資が進められている。ウェビナーでは、ワルシャワ、ブダペスト、プラハ、ブカレスト、ウィーンの各事務所の所長が、管轄する中・東欧諸国の最新の政治経済動向やビジネス動向を紹介した。本ウェビナーの概要について、2回に分けて報告する。


(上段左から時計回りに) 司会の森調査部欧州課 課長代理、ウェビナーで講師を務めた石賀ワルシャワ事務所長、志牟田プラハ事務所長、高崎ブカレスト事務所長、宮内ブダペスト事務所長、神野ウィーン事務所長 (ジェトロ撮影)

ウェビナーではまず、森友梨・調査部欧州課 課長代理が「中・東欧概観」として、ジェトロが中・東欧と分類する17カ国の基本情報のほか、マクロ経済動向について解説した。自動車産業の集積地である中・東欧には、日本のメーカーを含め17の乗用車生産工場が稼働していると説明。また、ジェトロの「2023年度 海外進出日系企業実態調査(欧州編)」の結果から中・東欧に関係するものを紹介した。「将来有望な販売先」に関する設問では、ポーランドが2019年から5年連続で首位となったほか、中・東欧の国は毎年、数多くランクインし、日系企業からも同地域の今後の経済成長に期待する声があるとした。

ワルシャワ事務所・石賀所長「ポーランドの魅力は中・東欧最大の市場規模とウクライナ復興のハブとしての将来性」

ワルシャワ事務所の石賀康之所長は、ポーランドの政治・経済動向や脱炭素の取り組みを紹介。さらに、ウクライナへの人道支援や復興ビジネスを見据えた日本企業からの問い合わせが増加している状況を説明した。

発言要旨

ポーランドは2023年12月に8年ぶりに政権交代し、首相には2019年まで欧州理事会の常任議長を務めたドナルド・トゥスク氏が就任した(2023年12月20日付ビジネス短信参照)。親EU派で知られる同氏が首相になったことで、EUとの関係が改善され、欧州におけるポーランドの発言力が増したと言える。ポーランドは、2025年1月から半年間、EUの議長国を務める。

経済概況は、GDP成長率が2024年は3.5%、2025 年は4.2%と、堅調に推移する予測となっている(ポーランド国立銀行)。ポーランド市場の魅力は、親EU、親米、親日の3つがそろっている点。さらに中・東欧最大の人口という市場規模、EU経済を牽引するドイツの隣国であるという地理的優位性のほか、西欧に比べて相対的に低い賃金水準、質の高い労働力といった特徴もあげられる。近年も日系企業のポーランド進出が続いており、2年前には中・東欧ではじめてユニクロのポップアップストアが出店、今年(2024年)秋には常設店舗の出店を予定している。近年の傾向としては、従来の製造業に加え、消費市場の魅力の高まりから、食料品や衣料品、物流など多様な分野の企業の進出が見られる。

ウクライナを管轄する同事務所では、(1)避難民への人道支援、(2)復興支援およびニーズ調査、(3)戦後を見据えたビジネス相談に関する問い合わせを受けている。最近は、将来的なウクライナ市場参入を視野に入れたポーランドへの投資相談が増える傾向にある。在ポーランド外国企業のうち、ウクライナ企業が最も多く、2024年4月時点で約2万8,000社が進出しており、特に2014年のロシアによるクリミア併合以降、増加している。

新政府が力を入れる脱炭素の取り組みについては、2021年から2023年にかけて電力構成における石炭の割合が約71%から約61%にまで減少した。太陽光発電は同期間で3倍以上の伸びとなっている。水素製造にも力を入れており、ポーランドは、欧州ではドイツ、オランダに次ぐ生産量を持つ。現在は水素製造のほとんどが国営企業による運営となっているが、今後の市場拡大を見据え、徐々に民間企業の参入の動きが活発化している。

ポーランドはまた、スタートアップの分野でも中・東欧を率いている。同国スタートアップの企業価値の合計は490億ユーロであり、同地域で最も大きい。特に人工知能(AI)、ヘルステック、ゲーム、フィンテックなどの分野に強みがある。ポーランドがスタートアップハブとして注目される理由としては、エンジニアの多さや西欧と比較した際の給与水準の低さ、さらに周辺国へのアクセスの良さといった地理的利便性が挙げられる。


ウェビナーで視聴者の質問に答える石賀ワルシャワ事務所長(ジェトロ撮影)

プダペスト事務所・宮内所長「韓国・中国・日本からのEV産業への投資が増加」

ブダペスト事務所の宮内安成所長は、「実利重視」を基本とするハンガリーの政治・経済概況と、近年の投資動向や進出企業への支援政策について、注目トピックを挙げて説明した。

発言要旨

ハンガリーはEU内でしばしば反発する立ち振る舞いが注目され、「EUの問題児」と呼ばれることもあるが、それは2010年から4期連続で首相を務める現オルバーン・ビクトル政権の外交政策によるところが大きい。同政権は、外交で自国第一主義を貫き、実利を重視する方針が、結果的に「反EU」だと言われている面がある。同時に自国経済の強化のために東方解放政策を打ち出し、中国やロシアを含む幅広い外交を展開し、「親ロシア・親中国」とみられている。ハンガリーの電源構成の半分を占める原子力では技術・資金の両面でロシアに依存し、天然ガスの輸入元の大部分もロシアである。中国の「一帯一路」構想には発表時より賛同し、近年では電気自動車(EV)産業分野で中国からの投資を呼び込んでいる。一方で、自国経済の強化のためにEUの補助金を活用し、ドイツを輸出入両方で大きな貿易相手国としており、EUとは経済的に切っても切れない関係にある。

内政面では、国家保守主義により盤石な政治基盤を築き、メディア統制を行うなど、権力の集中を進めている。こうしたオルバーン政権の動きを批判して、2024年2月に大統領辞任のプロセスに反対して政権を離れたマジャール・ペーテル氏は、保守系政党「TISZA:尊重と自由(ティサ)」を率いて、同年6月の欧州議会選挙においては連立与党(11議席)に次ぐ7議席を獲得しており、今後どのような動きをするのか注目されている(2024年6月12日付ビジネス短信参照)。

経済概況については、2023年はマイナス成長だったが、2024年の実質GDP成長率は2.5~3.5%と予測している(ハンガリー中央統計局)。2022~2023年に急激なインフレがあり、付加価値税(VAT)の税率も27%と高いため、ブダペスト市内の物価は東京より高い印象もあるが、2024年の消費者物価指数上昇率(インフレ率)は減速傾向にある。賃金上昇率は直近2年、大きく上昇した。失業率は4%前後とかなり低く、地域によっては人手不足が深刻化している。国家財政は、新型コロナ禍への経済対策で赤字となり、それ以降、財政収支や政府債務残高のGDP比がEU基準を満たしておらず、財政健全化が課題となっている。

日系企業が中・東欧の中でハンガリーを進出先として選んだ理由は主に以下4つ。(1)周辺国と比べて格段に低い法人税率(9%)、(2)自動車産業(EV関連を含む)の集積地であること、(3)政府からの投資インセンティブ(投資額の30~60%の補助金)、(4)グリーンエネルギーの利用率の高さである。

EV産業では、韓国企業に続いて、直近では中国企業からの投資が拡大中。中国の車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)は、2022年8月に73億ユーロ超の大型投資を行うと発表し、年間生産能力100ギガワット時(GWh)のEVバッテリー工場を2025年に生産開始すべく建設中(2022年8月18日付ビジネス短信参照)。ハンガリー進出済みの日系企業数は2023年時点で約180社。最近進出した日系企業は、要素技術を強みとする部材製品を扱っており、EV産業に関する新規投資を行った。直近ではインフレや円安による投資コスト上昇により、ハンガリー進出を様子見する傾向もあるが、製造拠点を西欧からハンガリーへ移転するケースも出てきている。


ウェビナーで視聴者の質問に答える宮内ブダペスト事務所長(ジェトロ撮影)

現地所長が解説

  1. ポーランドとハンガリーのビジネスの最新動向
  2. チェコ、ルーマニア、西バルカンの最新動向
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 課長代理
森 友梨(もり ゆり)
在エストニア日本国大使館(専門調査員)などを経て、2020年1月にジェトロ入構。イノベーション・知的財産部イノベーション促進課を経て、2022年6月から現部署に所属。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 リサーチ・マネージャー
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部、ジェトロ・プラハ事務所、調査部国際経済課を経て2024年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
田中 春彦(たなか はるひこ)
商社勤務などを経て2024年8月、ジェトロ入構。