フランス企業は北アフリカ中心に進出
フランスの対アフリカ政策と企業動向(2)

2024年1月16日

フランス語圏アフリカ諸国で2020年以降、クーデターが相次ぎ、反フランス機運が高まる中、フランス政府はイメージの回復を目指し、アフリカとの新たな関係構築を目指している(「フランスの対アフリカ政策と企業動向(1)影響力低下に伴い、新たな関係構築を模索」参照)。フランス企業はこの状況下で、アフリカの各地域・分野でどのように進出しているのか、第2部で検証する。

北アフリカに集中するフランス投資

地理的に欧州に近い北アフリカ地域のフランス系企業の数は3,073社と、アフリカ全体の5,439社の約57%を占める(図1参照)。そのうちモロッコとチュニジアは合計2,363社(同43%)に上る。

図1:地域別(注)アフリカ進出フランス系企業の状況
地理的に欧州に近い、北アフリカ地域への進出仏系企業数は3,073社とアフリカ全体5,439社の57%を占める。コートジボワールなど西アフリカ諸国へも、22%の1,200社が進出する。

注:北アフリカはモーリタニア、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、エジプトを指す。西アフリカはセネガル、ギニア、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリア。中部アフリカはカメルーン、ガボン。東アフリカはエチオピア、ケニア、ウガンダ、タンザニア。南部アフリカは南アフリカ共和国、アンゴラ、ザンビア、モザンビーク、マダガスカルをそれぞれ指す。
出所:フランス外務省資料を基にジェトロ作成

両国での共通点は、繊維産業や自動車、航空宇宙産業などの輸出型製造拠点が多いことだ。自動車メーカーのルノーとステランティス(旧PSA)はモロッコに進出している。バレオ、フォルヴィア(旧フォルシア)、プラスチック・オムニウム、アクチアなど、フランス大手自動車部品メーカーの進出も目立つ。また、サフラン、エアバス・アトランティック、ラテコエール、ダエール、フィジャック・アエロなど、両国とも航空宇宙産業が多く進出している。両国の製造拠点から、エアバスの工場が所在するフランスとドイツに部品を輸出している。

輸出型製造拠点の場合、フランス系企業にとって進出メリットは主に3つある。

  1. 物流(インフラと欧州への近接性):フリーゾーン、最新設備を整えた港湾など、物流インフラが整備され、陸・海路の活用により数日で欧州への製品輸送が可能。
  2. 投資コスト:賃金、土地価格、エネルギー価格などが東欧より安価なこと(詳細はジェトロの投資コスト比較を参照)。
  3. 投資環境(税制、言語):利益送金の制限がなく、税制を含め海外直接投資(FDI)を対象とした優遇措置が豊富なことに加え、ビジネス言語としてフランス語が広く使われていること。

モロッコとチュニジアには、大企業だけではなく、自動車や航空宇宙分野の中堅・中小企業も多数進出している。チュニジアに子会社を持つフランス企業の規模の内訳をみると、中小企業が51%、中堅企業が22%、大企業が27%(注)となっており、全体の68%は完全輸出型企業だ。モロッコについては統計が発表されていないが、チュニジアと同様に、多数の中小企業が進出している。

鉄道産業用ワイヤー・ハーネス製造専門のシライユ・グループ(当時リア・テック)は2008年にモロッコに製造拠点を設置した。欧州などに100%輸出している。2015年には工場の面積を倍増し、生産能力を増強した。

フランス大企業の北アフリカへの製造拠点設置に伴い、下請けの中堅・中小企業が工場を新設する動きもある。大型機械加工、特殊機械や航空用工具を設計・製造するメカニボアは、フランス北東部に2カ所の製造拠点を有し、航空機シートを製造しているエアバスの子会社ステリア・エアロスペース・グループ(以下、ステリア)のサプライヤーとなっている。2009年にステリア(当時アエロリア)がチュニジアに進出した際、メカニボアを含め、サプライヤー4社も製造拠点を設置した。ステリアはその後、モロッコに製造拠点を設置したが、メカニボアも2016年にモロッコにも進出した。2019年にはチュニジア拠点の製造能力を増強するために追加投資を行った。

メカニボアと同様、航空宇宙産業の中堅・中小企業のコルス・コンポジット・アエロノティック、メカクローム、メカエール、アメトラなども2010年代にチュニジアやモロッコに製造拠点を設置した。

国内市場を狙い進出

一方、モロッコ、アルジェリアとエジプトを中心に重工業(アルストム、サンゴバンなど)、電気機器(ルグラン、シュナイダーエレクトリックなど)、医薬(サノフィ、イプセンなど)、食料品加工業(ダノン、ベルなど)で、現地の需要を狙ったフランス系企業の投資も多い。南アフリカ共和国(以下、南ア)でも、同様の進出事例が見られる。国内市場を狙う理由は購買力の高さと人口だ。前述の北アフリカ3カ国の1人当たりGDPは4,000ドル前後で(南アは7,000ドル弱)、サブサハラアフリカ諸国の2~3倍だ(図2参照)。南アと北アフリカ3カ国の人口は2022年に合計2億5,324万人に達しており、各国でビジネスが成り立つ顧客層を確保できる。

図2:1人当たりGDP(2022年、ドル)
北アフリカ3カ国の一人当たりGDPは4,000ドル前後で(南アは7,000ドル弱)、サブサハラアフリカ諸国の2~3倍。

出所:世界銀行データを基にジェトロ作成

購買力と人口に加え、現地政府による規制なども進出理由の1つだ。鉄道車両大手アルストムは2010年代にモロッコ(車両用電気設備)、アルジェリア(LRT組み立て)、南ア(鉄道車両)に製造拠点を設置した。現地政府による鉄道車両の入札条件に現地調達率に関する事項があるため、現地進出が有利となる。

サノフィは2000年代前半からアルジェリアに複数の製造拠点を設置し、2018 年には7,000万ユーロの追加投資を通じて、新たな医薬品生産工場を建設した。年間1億個の生産能力で、同社にとってアフリカ最大の製造拠点となった。現在、サノフィはアルジェリアで、同社ブランドで販売している医薬品の74%を国内生産している。アルジェリア政府は近年、医薬品を輸入から国内生産にシフトするため、国内生産保護政策を導入し、輸入規制を強化した。サノフィはこれに対応して現地製造を進めたことで、医薬品市場で15%前後の市場シェアを確保できた。

ODA案件、エネルギー分野、小型製造拠点が多い他のアフリカ地域

北アフリカに次いで、アフリカ進出のフランス企業数の22%を占める1,200社が進出するのがコートジボワールなど西アフリカ諸国だが、その進出理由は北アフリカと大きく異なる。西アフリカの場合、進出先市場や近隣市場の需要に対応するために進出しているケースが多い。しかし、各国の市場は比較的小規模なため、電気機器、食料品加工業など製造拠点の生産能力はおおむね小規模にとどまる。また、現地販売を支援する目的で、販売法人や駐在員事務所を設置している企業も多い。

西アフリカでは、インフラ関連でもフランス企業の存在が目立つ。ヴァンシ、ブイグ、エファージュ、コラ・ライユなど建設大手は海水淡水化プラント(セネガル)、ダム(セネガル)、港湾施設(ベナン)、バスターミナル(ブルキナファソ)など、モロッコを例外としてサブサハラ地域、特にサヘルおよび西アフリカで集中的に各種インフラ建設事業を展開している。フランス政府のODA優先対象国19カ国のうち、サブサハラ諸国が15カ国を占めているためだ。2021年のフランス政府によるアフリカ全土での2国間ODA実績は29億ユーロで、そのうちサブサハラ諸国は20億ユーロと全体の69%を占めた。トップはセネガルの1億7,700万ユーロで、以下、マリ、ブルキナファソ、ニジェールと続く。

なお、市場規模の大きい南ア(370社、自動車産業、重工業、鉱山・資源産業など)とエジプト(160社、医薬品、機械産業、食料品加工業など)を除き、英語圏への進出数はまだ少ない。ナイジェリアとケニアのフランス系進出企業数は各100社にとどまり、英国や米国系進出企業数より少なく、ドイツ系企業とほぼ同数だ。これらの国ではエネルギー、上下水道、鉱山の部門が投資の大部分を占め、ヴォルタリア、ネオエンなど、再生可能エネルギー部門の新規参入も目立つ。


注:
本稿では、企業規模の分類はフランスの定義に基づく。日本側の定義についてはジェトロウェブサイトを参照。
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。