脱「中国依存」を推進
海外資源確保を急ぐ韓国企業(2)

2024年8月13日

本稿では、韓国政府や企業の海外資源確保に向けた動きなどを中心に紹介する。1回目の前編では、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の海外資源確保に向けた取り組みを紹介した(前編「韓国政府、企業の資源調達を支援」参照)。2回目の後編では、韓国の二次電池(リチウムイオン電池)や同材料を扱う企業の海外資源確保に向けた取り組みを中心にみていく。

海外資源確保の焦点は、電池原料と半導体原料に

「海外資源確保」という場合、確保の対象になる資源は原油、天然ガス、石炭、各種鉱物などさまざまだ。韓国では現在、その中でも特に、二次電池や半導体の原料になる鉱物資源に焦点が当てられている。

1回目で述べたように、産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)は2024年3月21日、「民官協力海外資源開発推進戦略」を発表した。この戦略では、海外で資源開発を進めるべき個別品目の例として、リチウム、コバルト、ニッケル、希土類を挙げた。また、同部はこれに先立つ2023年2月27日、「先端産業グローバル強国躍進のための重要鉱物確保戦略」を発表した。その中で、経済安全保障の観点で管理が必要な重要鉱物33品目を選定した上で、特に重要な10品目を「戦略重要鉱物」として集中管理する方針を打ち出した。具体的には、(1)リチウム、(2)ニッケル、(3)コバルト、(4)マンガン、(5)黒鉛、希土類5品目((6)セリウム、(7)ランタン、(8)ネオジム、(9)ジスプロシウム、(10)テルビウム)で、いずれも、二次電池・半導体の原料だった。

電池原料と半導体原料はいずれも重要だ。しかし、あえていうと、現時点では特に前者に焦点が当てられているようだ。米国のインフレ削減法(IRA)や、中国による輸出管理強化措置(黒鉛の一部品目)と、より関係が深いためだ。そこで、ここでは電池原料を中心に、韓国企業の最近の取り組みについて整理する。

二次電池の生産プロセスを簡潔に示すと、図のとおり。韓国企業は正極材、セパレーター、電解液の生産以降の工程では競争力が強い。その半面で、(1)正極材生産に必要な前駆体、(2)前駆体原料のニッケル・コバルト・マンガン、リチウム、(3)負極材生産に必要な黒鉛については、輸入に大きく依存してきた。しかもその輸入元は、中国が中心だった。こうした重要品目の原材料を特定国に過度に依存することは、サプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性につながる。さらに、米国市場ではIRAの規定により、中国などの「懸念される外国の事業体(FEOC)」が抽出・処理した重要鉱物を使用して二次電池を製造した場合、それを搭載した電気自動車(EV)は、購入者が税額控除を受けられる対象から除外されてしまう。

こうしたことから、韓国企業としては、重要鉱物などの中国依存度を引き下げる必要がある。そのため、さまざまな取り組みをしてきたところだ。具体的には、(1)中国以外の海外での重要鉱物の確保、(2)韓国国内での生産やリサイクルによる国内調達拡大、(3)代替原料の開発などだ。

図:二次電池の主な生産プロセス
車載電池の4大材料は、正極板、負極板、セパレータ、電解液。これらをセル組み立て、モジュール組み立て、電池パック組み立てを経て、EVに搭載される。正極板の主な原料はニッケル、コバルト、マンガン、リチウムで、前駆体、正極材を経て正極板が作られる。負極板の主な原料は天然黒鉛、人造黒鉛で、負極材を経て負極板が作られる。

注:本稿では便宜上、黄色を「電池原料」、水色を「電池材料」と呼称する。
出所:各種資料を基に作成

この記事では、2023年1月以降の主要韓国企業の取り組みについて、各社のプレスリリースに基づいて整理する。対象は電池原料や前駆体を巡る内容に限定し、それより下流工程に当たる正極材・負極材の生産などには言及しない。取り上げる韓国企業は、次のとおりだ。

  • 二次電池メーカー(注1):(1) LGエナジーソリューション、(2) SKオン
  • 特に電池材料事業に注力している企業グループ:(3)ポスコ・グループ、(4)エコプロ・グループ
  • 総合商社(注2):(5) LXインターナショナル
  • 電池材料メーカー(注3):(6) LG化学、(7) SKC、(8) LS・L&Fバッテリーソリューション、(9)高麗亜鉛、(10)ロッテエナジーマテリアルズ、(11)コスモ化学

表2~表5では、各社の電池原料確保の動きを幅広く整理している。本文ではそのうち、海外での電池原料確保の取り組みを中心に言及する。

EV市場鈍化の中でも、海外池原料確保の動き

韓国の主要な二次電池メーカー、同材料メーカー、総合商社の電池原料などの確保に向けた動きを総括すると、各社の傾向はかなり共通しているようだ。

最近、世界のEV市場の伸びが鈍化している。加えて、11月の米国大統領選挙を前に、事業環境に不透明感も漂っている。そのため、韓国メディア報道によると、韓国の二次電池企業の中で、米国での二次電池工場建設を一時中断する動きが出ている。そのような中でも、韓国企業が海外で電池原料を確保する計画に大幅な見直しはないようだ。例えば、ポスコホールディングは「『キャズム』(EVの本格的な普及期を前にした一時的な需要停滞)を市場先取りのための足場固めの機会と捉え、チリやアルゼンチンなど南米の塩湖と北米、オーストラリアの鉱山・資源会社との協業など、優良資源に対する投資案を確定した」(2024年7月2日付プレスリリース)と述べている。

また、(1)電池材料から正極材・負極材まで、一連の生産の流れをグループ内で内製化しようとしていること、(2)サプライチェーンの強靭(きょうじん)化を図ろうとしていること、も共通している。

各社とも、狙いは電池材料の中国依存度を低めることにある。この点で、企業ごとの傾向の差はあまりない。中国以外を中心に、電池材料の確保に向けて動いている(表1)。具体的には、(1)リチウムは米国やカナダ、チリ、アルゼンチン、オーストラリア、モロッコで、(2)ニッケルはインドネシアで、(3)黒鉛は米国、マダガスカル、タンザニアで、動きが集中している。また、IRAとの関係もあり、米国や、米国と自由貿易協定(FTA)を締結している国(カナダ、チリ、オーストラリアなど)での動きが目立つ。ただし、それが全てかというと、そうでもない。インドネシア(ニッケル)、アルゼンチン(リチウム)など、米国とFTAを締結していない国で電池原料を確保する動きもみられる。特にインドネシアでは、現代自動車がEVを、同社とLGエナジーソリューションの合弁で二次電池を、それぞれ生産し始めている。現地でニッケルを確保することにより、電池原料からEVまで、現地で一貫供給・生産する体制が整うことになる。

表1:電池原料を確保する韓国企業の取り組み(国別/2023年1月~24年7月中旬)
国名 企業名 発表
年月日
概要
米国 LGエナジーソリューション 2023年
6月7日
テキサス州に人造黒鉛工場を有するオーストラリアのノボニクスと、人造黒鉛共同開発契約・戦略的投資契約を締結。
SKオン 2023年
5月3日
ウェストウオーター・リソーシズと、負極材の共同開発協約を締結。
2024年
2月12日
ウェストウオーター・リソーシズから米国産天然黒鉛の供給を受ける内容で、供給契約を締結。
2024年
6月26日
エクソンモービルと、アーカンソー州のリチウム塩湖で抽出したリチウムを供給する内容でMOU(了解覚書)を締結。
ポスコホールディングス 2023年
2月14日
オーストラリアのジンダリー・リソ-シスと、米国のリチウム粘土鉱床の共同研究・事業協力に関するMOUを締結。
エコプロイノベーション 2023年
11月1日
ネバダ州の鉱山を保有するオーストラリアのアイオニアと業務提携。リチウム・クレイ(粘土)を採掘予定。
カナダ LGエナジーソリューション 2023年
5月19日
カナダでリチウム鉱山を運営中のオーストラリアのグリーン・テクノロジー・メタルズと、リチウム精鉱供給・同社への出資(持分7.89%)契約を締結。
ポスコホールディングス 2024年
11月8日
アルバータ州投資庁と油田塩水リチウム資源開発協力に関するMOUを締結。
ポスコフューチャーエム 2023年
6月2日
ケベック州のGMとの合弁会社の正極材工場増設と前駆体工場新設を発表。
エコプロBM 2023年
8月18日
SKオン、フォードとの合弁でケベック州に正極材工場を建設すると発表。正極材現地生産で現地での原料確保が有利に。
LG化学 2023年
2月17日
米国のピードモント・リチウムとリチウム精鉱購入契約を締結。カナダ産リチウム精鉱の供給を受ける内容。
チリ LGエナジーソリューション 2023年
7月7日
チリのリチウム大手SQMと水酸化リチウム・炭酸リチウムを購入する契約を締結。
ポスコホールディングス 2024年
6月17日
同社の鄭起燮(チョン・ギソプ)社長がチリ政府に対し、リチウム資源開発への関心を表明。チリ政府は、マリクンガ塩湖、アルトアンディノス塩湖に対するポスコ・グループの参加を要請。
LS MnM 2024年
6月17日
チリのセンチネラ鉱山の銅精鉱100万トン(10年間)の供給契約を締結。
アルゼンチン ポスコホールディングス 2023年
6月29日
オンブレ・ムエルト塩湖の炭酸リチウム工場(第2段階)を着工。現地で生産した炭酸リチウムを水酸化リチウムに加工する工場は、2023年上半期に韓国で着工(2025年下半期に完工予定)。
2024年
6月17日
同社の鄭起燮(チョン・ギソプ)社長がアルゼンチン政府に、「大規模投資に対するインセンティブ」支援対象にポスコ・グループのリチウム事業が含めるよう要請。
オーストラリア LGエナジーソリューション 2024年
2月14日
オーストラリアのリチウム生産企業ウェスCEFと、リチウム精鉱(水酸化リチウム・炭酸リチウムの原料)の供給契約を締結。
2024年
7月2日
オーストラリアのイオンタウン・リソーシズと、リチウム精鉱の追加供給契約および転換社債投資契約を締結。
LS MnM 2024年
6月3日
オーストラリアのBHPと、銅精鉱購買契約を締結。
モロッコ LGエナジーソリューション 2023年
4月5日
モロッコでの水酸化リチウム生産について、中国の雅化集団とMOUを締結。
マダガスカル ポスコホールディングス、ポスコインターナショナル 2023年
9月4日
カナダのネクストソース・マテリアルズと、同社が保有するマダガスカルのモロ黒鉛鉱山への共同出資に向けMOUを締結。
タンザニア ポスコホールディングス 2023年
9月4日
タンザニアのヘマンゲ黒鉛鉱山を保有するオーストラリアのブラックロック・マイニングと増資のためのMOUを締結。
ポスコインターナショナル 2023年
5月29日
タンザニアのオーストラリア系企業ファル・グラファイトと二次電池用天然黒鉛の長期供給契約を締結。
2023年
9月4日
オーストラリアのブラックロック・マイニングに出資し、マヘンジ鉱山産天然黒鉛の供給契約を締結。
インドネシア ポスコホールディングス 2023年
2月24日
中国の寧波力勤資源科技開発と、インドネシアにおけるニッケル生産相互協力に関するMOUを締結。スラウェシ島でニッケル中間財生産工場を建設する計画。
2023年
5月3日
ニッケル精錬工場をハルマヘラ島に建設すると決定。
エコプロ 2023年
11月8日
中国・格林美などが出資・運営するQMBに追加出資する契約書を締結。QMBから供給されるニッケルの量が拡大する見通し。
2024年
3月25日
中国・格林美がインドネシアで運営中のニッケル精錬所「グリーンエコニッケル」の株式9%を取得。エコプロマテリアルズが生産予定の前駆体向けに、ニッケルを安定的に供給する計画。
LXインターナショナル 2023年
11月7日
スラウェシ島のAKP鉱山(ニッケル鉱山)の株式60%を取得し、経営権を獲得。
LG化学 2023年
9月24日
中国の浙江華友鈷業との合弁により、ニッケル精錬工場・前駆体工場の建設を検討。この内容で、MOUを締結。
中国 LGエナジーソリューション 2023年
8月8日
浙江華友鈷業と、バッテリー・リサイクル合弁企業を中国に設立する契約を締結。抽出した重要鉱物は正極材生産過程を経て、LGエナジーソリューションの南京工場に供給。

注:概要のより詳細な内容は表2~表5を参照。
出所:表2~表5を基に作成。原資料は各社プレスリリース

なお、前駆体では、電池材料と異なり、中国から他国に輸入先をシフトする動きはみられない。代えて、中国からの輸入を韓国国内生産に代替する動きが目立つ。例えばポスコフューチャーエムは、(1)前駆体の国内生産能力を現行の年産1万5,000トンから2030年までに同44万トンに拡大する、(2)前駆体の内製率を14%から73%に引き上げる、との計画を示した(2023年5月3日付)。また、エコプロ・グループの会社概要資料(2023年)によると、傘下のエコプロマテリアルズが前駆体の国内生産能力を引き上げる計画を擁している(現行の年産5万トンから、2026年に20万トンへ)。

韓国国内で前駆体を生産する体制としては、(1)中韓合弁企業を設立する、(2)韓国企業が単独生産する、2つのタイプが見られる。

米国のFTA締結国で電池原料確保を進める/LGエナジーソリューション、SKオン

二次電池で韓国トップのLGエナジーソリューションは、正極材・負極材の原料の安定確保に向け、取り組みを強化している(表2)。

同社は2024年1月26日、「圧倒的競争優位のための重点推進計画」を発表した。ここでは、(1)技術リーダーシップの構築、(2)外部リスクにも揺るぎないコスト競争力の確保、(3)未来産業への準備の3点を挙げている。(1)は、プレミアム製品「ハイニッケルNCMA(ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム)製品」の競争力強化、中国勢に後れを取っているLFP(リン酸鉄リチウムイオン電池)電池の技術開発などだ。LFP電池については、同年7月2日にルノーからEV59万台分の初の大型受注が実現するなど、成果が出てきた。(3)は、次世代電池開発などを意味する。一方、電池原料確保は(2)の中心的な手段だ。同社は「原材料の直接調達領域の拡大、技術開発による主要素材の転換、サプライチェーンへの直接投資の強化などにより、コスト競争力を高める」と説明した。

同社は2022年以降、中国以外の海外で電池原料を確保することに積極的だ。例えば2022年には、ドイツのバルカン・エナジーと水酸化リチウム供給契約を(1月)、米国コンパス・ミネラルズと炭酸・水酸化リチウムの供給に関してMOU(了解覚書)を(6月)、カナダの電池原料企業3社(エレクトラ、アバロン、スノーレーク)と、硫酸コバルト・水酸化リチウム供給に関する業務協約を(9月)、オーストラリアのシラーと天然黒鉛供給に関してMOUを(10月)、それぞれ締結した。2023年以降も、米国とのFTA締結国(モロッコ、カナダ、オーストラリア、チリなど)で、電池原料を確保している。

SKオンも、中国以外からの安定的な調達確保に動いている。2019年12月に、スイスの資源大手グレンコアとコバルト供給契約を締結した。また2022年には、オーストラリアのグローバル・リチウム・リソーシズとリチウムの安定的供給のためMOU締結(9月)、リチウムの安定供給目的でオーストラリアの資源開発企業レイク・リソーシズの持ち分を10%取得(10月)、チリのリチウム大手SQMとリチウム供給契約を締結(11月)、エコプロおよび格林美(中国の前駆体メーカー)とインドネシアでニッケル中間財を生産する合弁会社設立に関して業務協約締結(11月)した。電池原料の確保のため、矢継ぎ早に他社と協力関係を構築したかたちだ。2023年以降も、同様の流れが続いている。同年5月には、米国でのサプライチェーン強靭化のため、同国のウェストウオーター・リソーシズと負極材の共同開発協約を締結。2024年2月には同社から米国産天然黒鉛供給契約を、同年6月にはエクソンモービルと米国産リチウムの供給契約を、それぞれ締結した。同社は、米国や米国のFTA締結国(オーストラリア、チリなど)を中心として、電池原料の確保に動いている。これは米国IRA対応を念頭に置いた結果と言える。このことは、エクソンモービルとの供給契約締結した際の同社プレスリリース(2024年6月26日付)にも表れている。当該文書では、「コア市場の北米地域で消費者の利益を保証するため、IRAの要件を満たす重要鉱物確保に今後も持続的に努力していく」とする同社副社長の発言を紹介した。

表2:韓国の二次電池企業が電池原料などを確保する取り組み(2023年1月~24年7月中旬)
企業名 発表
年月日
概要
LGエナジーソリューション 2023年
4月5日
モロッコでの水酸化リチウム生産について、中国の雅化集団と了解覚書(MOU)を締結。(1)正極材向け水酸化リチウムのサプライチェーンを強靭化し、(2)米国のIRAやEUの重要原材料法案(CRMA)に対応するのが目的。
5月19日 オーストラリアのグリーン・テクノロジー・メタルズ(カナダでリチウム鉱山を運営)と契約を締結。(1)同社からリチウム精鉱の供給を受けること、(2)同社に出資すること(持ち分7.89%)で、北米地域で競争力のある重要鉱物を確保する。米国IRAに対応した供給安定性と価格競争力を顧客に提供する狙い。
6月7日 オーストラリアのノボニクス(二次電池素材・製造装置製造)と、人造黒鉛共同開発契約・戦略的投資契約を締結。ノボニクスの転換社債約3,000万ドル分を取得する予定。ノボニクスは米国テキサス州に人造黒鉛工場を保有。本契約を通じ、北米での重要素材供給網・米国IRA対応を強化。
7月7日 チリのSQM(リチウム大手)と契約締結。2023年から2029年までの7年間で、10万トン規模の水酸化リチウム・炭酸リチウムを購入する契約を締結。
チリはオーストラリアと同様に、米国とFTAを締結済み。両国産のリチウムを確保することで、米国IRAに対応。
8月8日 浙江華友鈷業と、バッテリー・リサイクル合弁企業を中国に設立する契約を締結。工場を江蘇省南京市と浙江省衢州市に設立し、スクラップ、廃バッテリーからニッケル・コバルト・リチウムといった重要鉱物を抽出する計画。抽出した重要鉱物は正極材生産過程を経て、LGエナジーソリューションの南京工場に供給。
2024年
2月14日
オーストラリアのウェスCEF(リチウム生産)と、リチウム精鉱(水酸化リチウム・炭酸リチウムの原料)の供給契約を締結。2024年は年間で1万1,000トンの供給を受ける計画。両社は今後、追加供給契約について検討予定。なお、両社は米国IRA対応で、別途、年間5万トンの水酸化リチウム供給契約を締結済み。
7月2日 オーストラリアのライオンタウン・リソーシズ(リチウム鉱山運営)と、リチウム精鉱の追加供給契約および転換社債投資契約(約2億5,000万ドル相当)を締結。早ければ2024年末から15年間、合計175万トンのリチウム精鉱の追加供給を可能に。全量が米国IRAの要件を充足。
なお同社とは、これに先立つ2022年5月、リチウム精鉱70万トン供給契約を締結済み。
SKオン 2023年
3月23日
(1) SKオン、(2)エコプロ、(3)中国・格林美の3社が投資協定を締結。GEMコリアニューエナジーマテリアルズ(この3者による合弁会社)が全北道群山市セマングムに年産5万トン規模の前駆体生産工場を建設することを規定。投資額は最大で1兆2,100億ウォンで、2024年完工目標。同工場で使用する原料は、同じ3社のインドネシア現地法人が生産するニッケル中間財を使用する予定。
5月3日 米国IRA対応のための現地サプライチェーン強靭化のため、米国のウェストウオーター・リソーシズと負極材の共同開発協約を締結。
2024年
2月12日
2027年から31年まで米国ウェストウオーター・リソーシズから米国産天然黒鉛(4年間で最大3万4,000トン)の供給を受ける内容の供給契約を締結。米国IRAへの対応目的。
6月26日 米国石油大手エクソンモービルと、アーカンソー州のリチウム塩湖で抽出したリチウム最大10万トンを供給する内容のMOUを締結。米国IRAなどに対応する狙い。

注:サムスンSDIは該当するプレスリリースはなし。
出所:各社プレスリリースを基に作成

海外でリチウムと天然黒鉛の確保急ぐ/ポスコ・グループ

ポスコ・グループは、サムスン、SK、現代自動車、LGに次ぐ、韓国5位(公正取引委員会発表の2023年末時点の総資産額に基づく)の企業グループだ。祖業の鉄鋼事業が徐々に成熟化する中で、電池材料を鉄鋼と並ぶグループの事業の柱に育成する方針だ。

現在、電池材料事業で中心的な役割を果たしているのは、ポスコホールディングス(持ち株会社、投資会社)、ポスコインターナショナル(総合商社として正極材・負極材の原料確保)、ポスコフューチャーエム(正極材・負極材生産)で、「重要鉱物から電池素材(材料)までの『フルバリューチェーン』構築」を図っている。2023年7月には、今後3年間でグループ全体の投資の46%を電池素材事業に集中投資することなどを明記した「2030年、二次電池素材グローバル代表企業への跳躍」を発表した(ポスコホールディングス、2023年7月11日付)。さらに、「2024年はポスコ・グループが保有している二次電池素材の全ての供給体系が本格稼働する元年で、『フルバリューチェーン完成』を通じ、個々の顧客の状況に合わせた統合ソリューションの提供を進めていく」(同社、2024年7月12日付)と、抱負を表明している。

ポスコ・グループは正極材・負極材の双方を生産する韓国唯一の企業グループだ。同グループは、正極材は韓国国内に生産を集中して競争力を確保し、負極材は天然黒鉛、人造黒鉛、シリコン系などの全製品で生産・販売体制を強化する考えだ。 正極材の前工程に当たる前駆体は従来、外部から調達していた。しかし、中国の浙江華友鈷業などと合弁で、韓国国内に前駆体生産工場を建設。グループ内で内製化を進めている(ポスコフューチャーエム、2023年5月3日付)。

正極材生産に使われるリチウムは、オーストラリアやアルゼンチンなどから調達する。2018年に、オーストラリア資源大手ピルバラ・ミネラルズが擁するリチウム鉱山に持ち分を出資し、アルゼンチンのリチウム塩湖の権益を買収していた。こうした投資を引き続き進める考えだ。

ポスコホールディングスの2023年11月9日付プレスリリースによると、ポスコ・グループのリチウム事業の計画は次のとおり。

  • 鉱山・塩湖ベースだけでなく、非伝統的なリチウム資源も活用して事業領域を拡大する。2030年までにリチウム生産能力42万3,000トンを確保し、世界3大リチウム企業入りを目指す。
  • リチウム鉱石は、ポスコホールディングスとオーストラリアの鉱山開発企業ピルバラ・ミネラルズとの合弁で設立したポスコ・ピルバラ・リチウム・ソリューションの工場竣工を受けて、生産を開始する。今後、本工場の増設や、カナダのリチウム鉱山開発企業との協力拡大により、2030年にはリチウム鉱石ベースの水酸化リチウム生産を年産22万トンに拡大する。
  • アルゼンチン塩湖では、2024年上半期の完工を目標に、2万5,000トン規模の第1段階の塩水リチウム商用化工場を建設中で、同規模の第2段階の工場も、2024年に着工した(同社の2024年6月17日の発表によると、第1段階の工場の完工は2024年内、第2段階の工場は2025年完工を目指すとしている)。今後も工場を増設し、2028年に塩水リチウム10万トン生産体制を構築する。
  • カナダ、米国の油田塩水、地熱塩水などの非伝統的資源に対する現地パートナー企業との協力・技術開発を進め、2030年に非伝統的リチウム7万トン生産体系を構築する。また、リサイクルを通じたリチウム生産を拡大する。

負極材材料の天然黒鉛については、現時点で大部分を中国からの輸入に依存している。しかしポスコ・グループとしては、脱「中国依存」を図る計画だ。そのために、ポスコインターナショナルを中心に、アフリカ産天然黒鉛の確保に注力している。これが順調に推移すると、中国産黒鉛の比率は今後かなり低下する。また、ポスコフューチャーエムの事業領域を、従来の負極材生産からその前段階の球状黒鉛生産にまで拡大し、黒鉛確保から負極材生産までのプロセスをグループ内で内製化していく考えだ。さらに、製鉄工程の副産物を活用し、人造黒鉛の生産を拡大する。

表3:ポスコ・グループによる電池原料などの確保に向けた取り組み(2023年1月~24年7月中旬)
企業名 発表
年月日
概要
ポスコホールディングス 2023年
2月14日
オーストラリアのジンダリー・リソ-シス(鉱物探査・開発)と、米国でリチウム粘土鉱床を共同研究・事業協力することに関しMOUを締結。
2月24日 中国の寧波力勤資源科技開発と、インドネシアでのニッケル生産に関する相互協力についてMOUを締結。両社は、スラウェシ島でニッケル中間財生産工場を建設する計画。第1段階として、2023年内に工場建設を開始。当該工場では、2025年に生産を開始する予定。
5月3日 韓国企業として初の海外ニッケル精錬工場をインドネシアで建設することを決定。
工場はハルマヘラ島に建設予定で、年産52万トンのニッケル中間財を生産。総投資額は4億4,100万ドル。年内に着工し、2025年に商業生産開始予定。
6月13日 アルゼンチン産炭酸リチウムをベースに、水酸化リチウム生産工場(年産2万5,000トン)を全羅南道麗水市で着工。2025年竣工を目標に、5,750億ウォンを投資予定。
6月29日 アルゼンチンのオンブレ・ムエルト塩湖の炭酸リチウム工場(第2段階)を着工。総投資額は約10億9,000万ドル、生産能力は水酸化リチウム換算で年産2万5,000トン。
現地で生産した炭酸リチウムを水酸化リチウムに加工する工場は、2023年上半期に韓国で着工。2025年下半期に竣工予定。
7月10日 ポスコHYクリーンメタル((1)ポスコホールディングス、(2)中国・浙江華友鈷業、(3) GSエナジーの3社が設立した合弁)が、全羅南道麗水市に二次電池リサイクル工場を竣工。
同工場では、年間でニッケル2,500トン、コバルト800トン、炭酸リチウム2,500トンに相当する金属資源を回収可能。
7月11日 「2030 二次電池素材グローバル代表企業跳躍」ビジョンを発表。重要鉱物から素材までのフルバリューチェーンの構築などを目指す。
「2030年にリチウム42万3,000トン・ニッケル24万トン・正極材100万トン・負極材37万トン生産、総売上高62兆ウォンの達成」を目標として提示。
9月4日 カナダのネクストソース・マテリアルズ(鉱山運営)と8月28日、同社が保有するマダガスカルのモロ黒鉛鉱山への共同出資に向け、MOUを締結。これにより、同鉱山で生産される鱗片状黒鉛(年間3万トン)または球状黒鉛(同1万5,000トン)の調達が可能になる見通し。
オーストラリアのブラックロック・マイニング(鉱山運営)への増資のため、9月1日、MOUを締結。それにより、同社が保有するタンザニアのヘマンゲ黒鉛鉱山で採掘した天然黒鉛の購買権を、現行の年間3万トンから同6万トンに拡大できる見通し。
11月8日 カナダ・アルバータ州投資庁と、油田塩水リチウム資源開発協力に関しMOUを締結。
同社は「2030年にリチウム生産能力42万3,000トンを達成し、世界トップ3入り」「二次電池素材事業のフルバリューチェーン構築」といった目標を掲げており、今回のMOUはその一環。
11月9日 ポスコ・ピルバラ・リチウム・ソリューション〔オーストラリアのピルバラ・ミネラルズ(鉱山開発)と設立した合弁〕が、オーストラリア産リチウム鉱石ベースの水酸化リチウム生産第1工場(全羅南道光陽市、年産2万1,500トン)を竣工。
水酸化リチウム工場を擁するのは、ポスコ・グループとして初。工場竣工により、二次電池用重要鉱物のバリューチェーン構築やサプライチェーン安定化に寄与。なお、2024年までに、第1工場と同規模の第2工場を建設する予定。
5月31日 中国の中偉新材料(CNGR、ニッケル大手)と設立した合弁2社(いずれも慶尚北道浦項市)が工場着工式を開催。
〇うち1社は、ポスコCNGRニッケルソリューション。その出資比率は、ポスコホールディング60%、CNGR40%。年産5万トン規模の高純度ニッケルを生産予定。
〇もう1社は、C&P新素材テクノロジー。ポスコフューチャーエムが20%、CNGR80%出資。年産11万トン規模の前駆体を生産予定。
韓国国内でニッケルと前駆体を生産し、正極材原料としてポスコフューチャーエムに供給することで、サプライチェーンを強靭化する狙い。
6月17日 同社の鄭起燮(チョン・ギソプ)社長がアルゼンチンとチリ、両政府を訪問。
アルゼンチン政府には、同政府が推進中の「大規模投資に対するインセンティブ」支援対象にポスコ・グループのリチウム事業が含まれるよう要請。
チリ政府には、現地リチウム資源開発への関心を表明。チリ政府は、現在入札が進行中のマリクンガ塩湖・アルトアンディノス塩湖に対し、ポスコ・グループが参加するよう要請。
7月12日 「二次電池素材事業高度化戦略」を発表。ポスコ・グループとして、「フルバリューチェーン完成」「事業競争力強化」「次世代電子素材市場先取り」により、2026年までに二次電池素材事業で売上高約11兆ウォンを達成する目標。市場の一時的停滞を機会に、塩湖・鉱山などリチウムの優良資源を確保し、韓国で製錬・精製した米国IRAに適合したニッケル製品を供給する戦略。
ポスコインターナショナル 2023年
5月29日
在タンザニア・オーストラリア系企業ファル・グラファイトと、二次電池用天然黒鉛の長期供給契約を締結。ポスコインターナショナルは今後25年間で75万トン規模の天然黒鉛供給を受ける予定。
9月4日 カナダの鉱物企業ネクストソース・マテリアルズと、マダガスカル・モロ黒鉛鉱山に対する共同投資のため、MOUを締結。確保した黒鉛はポスコフューチャーエムに供給予定。
さらに、オーストラリアのブラックロック・マイニングに出資。タンザニアのマヘンジ鉱山産天然黒鉛(25年間、年間3万トンずつ)の供給契約を締結。
11月1日 ロッテエナジーマテリアルズと、銅箔原料供給契約を締結(詳細は表5参照)。
ポスコフューチャーエム 2023年
2月1日
2021年12月に完工した人造黒鉛負極材工場(年産8,000トン、慶尚北道浦項市)の増設工事に着工。増設工事が完了すると、生産能力は年産1万8,000トンに拡大。米国IRA施行を契機にした素材の脱中国サプライチェーン需要の拡大に対応し、世界市場で主導権を握る狙い。
5月3日 中国の浙江華友鈷業、慶尚北道、浦項市と、投資MOUを締結。
原料調達に強みを有する浙江華友鈷業と合弁企業を設立するため、1兆7,000億ウォンを投資し、前駆体と高純度ニッケルを生産する工場を建設。これにより「ニッケル-前駆体-正極材」のバリューチェーン・クラスターの完成が可能に。
同社の正極材生産能力は現在、全世界で年産10万5,000トン。これを、2030年までに61万トンに拡大する。また前駆体は、生産能力を1万5,000トンから44万トンへ、大幅に伸ばす予定。その結果、前駆体の内製率を14%から73%に引き上げる予定。
さらにポスコフューチャーエムは、負極材工場の追加建設を検討すると発表。
6月2日 GMとの合弁会社・アルティアムカム(カナダ・ケベック州、2022年7月設立)の正極材工場増設と前駆体工場新設を発表。北米市場でのEV需要拡大と、北米での二次電池サプライチェーン強靭化政策に対応すべく、先行して投資を行い、市場の主導権を握る狙い。

注:1ウォン=約0.11円(2024年7月末時点)。
出所:各社プレスリリースを基に作成

ニッケルはインドネシアで、リチウムはオーストラリア企業協業で/エコプロ・グループ

エコプロ・グループは、韓国47位(公正取引委員会発表による2023年末時点の総資産額に基づく)の中堅企業グループだ。正極材・同材料を製造販売し、環境に関連して事業展開している。正極材・同材料関連では、持ち株会社のエコプロがエコプロBM(正極材生産)、エコプロイノベーション(リチウム加工)、エコプロマテリアル(前駆体生産)などに出資。グループを形成している。

エコプロ・グループが正極材・同材料事業に関わるようになった背景には、2004年に韓国政府が発注した「超高容量リチウムイオン電池開発コンソーシアム」がある。これをきっかけに、第一毛織(現・サムスン物産)と共同で、当該分野に参画した。当初は、エコプロが前駆体、第一毛織が正極材を開発し、サムスンSDIに供給する体制だった。しかし、2006年に第一毛織から正極材事業を買収する一方で、前駆体事業を大幅に縮小。必要な前駆体の大部分を中国の格林美などから調達するかたちにした。2017年には格林美と、前駆体を生産する合弁を設立した(慶尚北道浦項市のエコプロGEM)。その後、エコプロが格林美の持ち分を買い取り、2022年にエコプロマテリアルズに社名変更している。

正極材の原料の確保に積極的に乗り出すということでは、エコプロも同様だ。同社の2024年1月9日付の発表によると、次のとおり。

  • ニッケルについては、海外の精錬所への出資により確保を急いでいる。2022年初めに中国の格林美がインドネシアで運営しているニッケル製錬所QMBの持分9%を取得した。これにより年間6,000トンのニッケル中間材の「MHP」を確保した。同社では、「MHP」は金属ニッケルに比べ安価で、また、コバルトを含むため、前駆体の競争力強化につながるとみている。2023年11月に追加出資によりニッケルの確保量を増やしたが、今後も確保量を増やしていく考えだ。
  • リチウムについて、「事業の核心は、良質な鉱物を保有する原鉱をどれだけ確保するかにかかっている。エコプロは、鉱業が発達したオーストラリアで活動する世界的なリチウム企業に、協業機会を打診している」「アフリカなどリチウム鉱脈が新たに確認された地域を中心に、鉱山への参加機会を検討する予定」と述べ、リチウム確保をさらに進めていく考えを示した。
表4:エコプロ・グループによる電池原料などの確保に向けた取り組み(2023年1月~24年7月中旬)
企業名 発表
年月日
概要
エコプロ 2023年
3月28日
SKオンと中国・格林美で、前駆体を生産する合弁を設立することに関してMOUを締結。3社は総額1兆2,100億ウォンを投じ、全北道群山市セマングムに工場を建設。完成品は北米にエコプロBMが設立予定の正極材工場に供給予定。
8月17日 インドネシアのQMBが生産したニッケルが初入荷。
QMBは中国・格林美などが出資し、運営するニッケル精錬企業。エコプロは2022年3月、ニッケルの安定的確保を目的にQMBに9%出資。
今後、QMBから年間6,000トンのニッケルを調達予定。
11月8日 インドネシアのQMBに追加出資する契約書を締結。これにより、QMBから供給されるニッケルの数量が拡大する見通し。
11月9日 重要鉱物確保のため、「グローバル資源室」を新設。同社は2022年3月の株主総会で「国内外の資源探査・採掘・開発事業」を事業目的に追加するなど、海外資源開発に注力。インドネシアのほか、オーストラリアなどで投資を拡大する意向。
2024年
3月10日
エコプロ・グループの2024年の韓国国内の投資計画を発表。正極材生産に3,200億ウォン、前駆体生産に6,900億ウォン、水酸化リチウム生産に1,600億ウォンを投資予定。
廃バッテリー活用から正極材生産までの二次電池工程を1つの工業団地に構築する「クローズド・ループ・エコシステム」を構築していく構想。
3月25日 1,100万ドルを投じ、中国・格林美がインドネシアで運営中のニッケル精錬所「グリーンエコニッケル」の株式9%を取得。今後、米国IRA対応のため、「グリーンエコニッケル」への出資比率を段階的に高める予定。
エコプロマテリアルズは、2027年までに約20万トンの前駆体を生産する計画。またエコプロは、約10万トンのニッケルを安定的に供給する計画。
エコプロイノベーション 2023年
2月14日
2021年10月に本格稼働に入った既存の水酸化リチウム工場(慶尚北道浦項市、年産1万3,000トン)の工場増設に着手。増設完成時に生産規模は年産2万6,000トンに倍増。
11月1日 オーストラリアのリチウム探鉱企業アイオニアと業務協約(MOU)を締結。アイオニアの保有する米国ネバダ州鉱山でリチウム・クレイ(粘土)を採掘する予定。水酸化リチウムの利益をアイオニアと分配。
エコプロマテリアルズ 2023年
7月28日
事業費約1,400億ウォンを投じ、慶尚北道浦項市の前駆体工場を増設。竣工式を実施。
現時点では、韓国国内の前駆体需要の90%以上を中国からの輸入に依存している。米国IRAやコスト競争力確保などを考慮して、国内生産を増強。
エコプロBM 2023年
8月18日
SKオン、フォードとの合弁で、カナダ・ケベック州に正極材工場を建設すると発表。総額12億カナダドルを投じる予定。
ケベック州はニッケル、コバルトなどの重要鉱物が豊富で、正極材現地生産は原料確保に有利に働く見通し。

注:1ウォン=約0.11円(2024年7月末時点)。
出所:各社プレスリリースを基に作成

そのほかにも、海外の電池原料確保に積極的な動き

総合商社や主要な電池材料企業も、総じて海外の資源確保に積極的だ。例えば、LXインターナショナルは、インドネシアのニッケル鉱山に出資している。LG化学は米国鉱山企業に出資し、カナダ産リチウム精鉱の供給を確保した。

また、前駆体については、国内生産拠点の構築も課題になっている。そのため、LG化学、LS・L&Fバッテリーソリューション、高麗亜鉛・LG化学が動き、脱「中国依存」を目指す動きが見られた。

表5:韓国のその他総合商社・電池材料企業による電池原料などの確保に向けた取り組み(2023年1月~24年7月中旬)
企業名 発表
年月日
概要
LXインターナショナル 2023年
11月7日
1,330億ウォンを投じ、インドネシア・スラウェシ島のAKP鉱山(ニッケル鉱山)の株式60%を取得(経営権を獲得)。生産量を2022年150万トンから2028年に370万トンに増やす計画。これにより、同社の資源事業の中心が石炭から二次電池用重要鉱物に転換する見込み。
LG化学 2023年
2月17日
米国ピードモント・リチウム(鉱山運営)と、20万トン規模のリチウム精鉱購入契約を締結。韓国の電池材料企業として初めて、北米産リチウム精鉱を確保する。ピードモント・リチウムはカナダ産リチウム精鉱を2023年第3四半期から4年間、毎年5万トンをLG化学に供給する計画。狙いは、米国IRAへの対応と、重要鉱物調達先の多角化。
同時に、LG化学はピードモント・リチウムに7,500万ドルを出資し、持分6%を取得。
4月17日 中国の浙江華友鈷業と合弁で、全北道群山市セマングム国家産業団地に前駆体生産工場を建設するMOUを浙江華友鈷業、全北道などと締結。2028年までに総額1兆2,000億ウォンを投じ、年間10万トンの前駆体を生産予定。韓国国内の前駆体安定供給に寄与するのが、目的。
9月24日 中国の浙江華友鈷業とMOUを締結。骨子は、同社と合弁で、(1)米国IRA対応などを目的にモロッコに車載用LFP正極材工場を建設する、(2) IRAの条件を満たす前提で、インドネシアにニッケル精錬工場・前駆体工場(年産5万トン)の建設を検討するという内容。
このうち(2)の狙いは、現地でのニッケル精錬・前駆体・正極材事業を垂直系列化。
SKC、ポスコホールディングス 2023年
5月30日
SKCとポスコホールディングスの両社が、二次電池用素材事業の包括的協力のための業務協約を締結。(既存の黒鉛負極材に代わる)リチウムメタル負極材などの次世代の負極材素材の開発や、重要鉱物の供給で協力。
SKC 2023年
7月31日
SKネクシリス(SKCの子会社、銅箔生産)と豊田通商が北米での銅箔生産・供給のため、合弁会社を設立することを検討。SKCは、その内容で豊田通商とMOUを締結。SKC側は、豊田通商のアルゼンチン産リチウムなどの原料供給力に期待。
LS・L&Fバッテリーソリューション 2023年
6月6日
全北道群山市セマングムで前駆体工場を年内に着工。2025~26年に量産に入る予定。投資金額は約1兆ウォン規模。現在、80%に達する前駆体調達の中国依存度を引き下げる狙い。
なお、LS・L&Fバッテリーソリューションは、LS(LSグループの持ち株会社)とL&F(正極材メーカー)が設立した合弁企業。出資比率はLS 55%、L&F 45%。
LS MnM 2023年
6月15日
LS・L&Fバッテリーソリューション設立により、LSグループは前駆体事業に進出。LS MnMは精錬過程の副産物・鉱物原料・生産工程で発生するスクラップのリサイクルなどで生産した硫酸ニッケルを合弁会社に供給。合弁会社は前駆体を生産してL&Fに供給。L&Fは正極材を生産することで、バリューチェーンを構築。
なお、LS MnMは非鉄金属素材メーカー。
11月1日 硫酸ニッケル以外に、硫酸コバルト、硫酸マンガン、水酸化リチウムなどに事業領域を拡大。LSグループとして二次電池エコシステムを構築する予定。第1段階として2026年までに6,700億ウォンを投資し、蔚山市に生産拠点を構築。
11月29日 全北道群山市セマングムに、1兆1,600億ウォンを投じ、硫酸ニッケル・硫酸マンガン・硫酸コバルト・水酸化リチウム生産工場を建設する内容のMOUをセマングム開発庁などと締結。2029年生産開始予定。
2024年
6月3日
オーストラリアのBHP(資源開発大手)と銅精鉱購買契約を締結。今後5年間で、LS MnMが調達する銅精鉱全体の20%に相当する173万トンを調達。
6月17日 チリのセンチネラ鉱山から銅精鉱100万トン(10年間)の供給を受ける契約を締結。
高麗亜鉛 2023年
8月31日
世界のニッケル需要急増を見越し、ニッケル精錬能力を拡大する投資計画を取締役会が承認。子会社ケムコを含め、硫酸ニッケル生産能力は年産6万5,000トンに拡大予定。ニッケル精錬事業を通じ、米国IRAの条件を充足したニッケルを顧客に供給。
11月16日 前述の取締役会承認に基づき、ニッケル精錬所(蔚山市)を着工。2026年の商業生産開始を目標に、5,063億ウォンを投じて建設。
高麗亜鉛、LG化学 2024年
4月18日
高麗亜鉛の子会社社ケムコ(硫酸ニッケル生産)とLG化学の合弁で2022年に設立した韓国前駆体の工場(総事業費2,000億ウォン、年産2万トン、蔚山市)が完成。前駆体の中国依存度を低下させるとともに、米国IRAなどに対応する目的。
ロッテエナジーマテリアルズ 2023年
11月2日
ポスコインターナショナルと、2033年までの10年間で銅スクラップ60万トンの供給を受ける内容のMOUを締結。銅箔は負極に使用する主要素材で、原料の安定的確保が重要。
コスモ化学 2023年
1月31日
エコプロEM(エコプロEMとサムスンSDIの合弁企業)に約428億ウォン、エコプロBMに約71億ウォン規模の硫酸コバルトを供給する契約を締結。
9月25日 廃バッテリー活用工場(蔚山市)を稼働。年間で硫酸ニッケル2,000トン、硫酸コバルト800トン、炭酸リチウム1,000トンの生産が可能。さらに、同硫酸ニッケル2,000トン規模の増設に着手予定。

注:1ウォン=約0.11円(2024年7月末時点)。
出所:各社プレスリリースを基に作成


注1:
韓国の3大二次電池メーカーのうちサムスンSDIは、取り上げるべきプレスリリースがなかったため対象外とした。
注2:
そのほか、総合商社としてSKネットワークス、サムスン物産があるが、同様の理由により対象外とした。
注3:
電池材料メーカーとしてL&F、コスモ新素材などがあるが、同様の理由により対象外とした。

海外資源確保を急ぐ韓国企業

  1. 政府、企業の資源調達を支援
  2. 脱「中国依存」を推進
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。