影響力低下に伴い、新たな関係構築を模索
フランスの対アフリカ政策と企業動向(1)
2024年1月16日
西・中部アフリカ諸国では2020年以降、相次ぐクーデターと都市部の若年層を中心とする反フランス感情の高まりにより、「フランス離れ」の機運が高まっている。一方で、フランス政府は、従来のフランス語圏を中心とする旧宗主国・植民地の関係に依存しないアフリカとの新たな関係構築を模索している。フランス企業のアフリカ進出にも、新たな傾向が見て取れる。
3部構成の第1部となる本稿では、2023年10月27日に実施したフランス国際関係研究所(IFRI)アフリカ・サブサハラ地域ディレクターのアラン・アンティル氏へのインタビューを交え、フランスの新たな対アフリカ政策の方向性を探る。
マクロン大統領によるアフリカへの新たなアプローチ
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2017年5月の就任以来、対アフリカ政策の見直しを一貫して主張し、「『フランスアフリック』と呼ばれる旧宗主国としてのフランス語圏アフリカとの関係からの脱却」「アフリカ諸国の市民社会・若者たちとの結びつきの強化」「民間企業間の連携と共同工業化(コ・インダストリアリゼーション)」「在フランス・アフリカ人ディアスポラの活用」などの方針を示した。
新たな方針を象徴するのが、1973年を初回とする「フランス・アフリカ・サミット」のコンセプトの大幅な見直しだ。2021年10月8日に地中海沿岸のモンペリエで開催された28回目のサミットでは、従来の首脳同士の会合から、アフリカ側の首脳の招待はなく700人の若者を含む市民社会代表を中心とした3,000人が集う会合に移行し、参加者代表とマクロン大統領の直接対話を中心に据えた。テーマについても、従来の開発協力から「市民の参加」「起業とイノベーション」「高等教育と研究」「文化」「スポーツ」の5つに絞られた。
また、マクロン大統領は就任以来、18回のアフリカ歴訪で25カ国を訪問し、世界の首脳の中で最も積極的にアフリカ外交を展開している。訪問時には上記のテーマを基に、現地市民社会や若者との交流を重視してきた。首脳間外交に関しては、フランス一国ではなくEU諸国が連帯してアフリカと向き合う姿勢を重視している。フランスがEU議長国の期間中に開催された2022年2月のEU・アフリカ連合サミット(2022年2月22日付ビジネス短信参照)では、フランスのアフリカ政策をEU全体または多国間アプローチの中に位置付ける試みがなされた。
相次ぐ西アフリカでのクーデター
こうした積極的な対アフリカ外交や、アフリカとの新しい関係構築の推進にもかかわらず、西・中部アフリカのフランス語圏諸国では、2020年8月のマリでの反乱軍によるクーデターでイブラヒム・ブバカール・ケイタ大統領(当時)が失脚したのを皮切りに(2020年8月20日付ビジネス短信参照)、2021年4月のチャド(2021年4月21日付ビジネス短信参照、注)、2021年5月の再度のマリでの政変、2021年9月のギニア(2021年9月7日付ビジネス短信参照)、2022年1月と9月のブルキナファソでの軍事クーデター(2022年1月26日付ビジネス短信、2022年10月3日付ビジネス短信参照)で、親フランス指導者層の失脚につながった。
IFRIのアンティル氏は、この背景について「アフリカ諸国の独立以来のインテリ層によるフランスのアフリカ政策への批判から、近年はソーシャル・ネットワーキング・サービスを通じ、都市部を中心とした一般の若年層による反フランス機運の高まりに移行した。これに伴い、クーデター時には、フランス関連企業や外交団などへの暴力を伴う示威行為も発生している。フランス語圏各国の政治・経済・社会の行き詰まりの原因はフランスの対アフリカ政策によるものとする、フランスにスケープゴート的役割を持たす論調が聞かれる」と説明する。
アフリカ政策3本柱の改革
こうした状況を踏まえ、マクロン大統領はフランスのイメージの回復を主目的とした中部アフリカ4カ国の訪問(2023年3月14日付ビジネス短信参照)を行ったが、それに先立ち、2023年2月27日には新たなフランス・アフリカ関係構築に関する演説を行った。その中で、アフリカから批判の対象となっている、フランス軍の駐留、フランス開発庁(AFD)を中心とする国際協力、そしてCFAフランによる通貨政策という対アフリカ政策の3本柱に関し、今後の方針転換を示唆した。フランス軍の駐留に関しては、縮小と再編成の方向を示した。
AFDによる国際協力部門では、2019年に立ち上げたアフリカの中小企業、スタートアップを支援するスキーム「チューズ・アフリカ(Choose Africa)」によって、2022年末時点で合計600以上のプロジェクトに35億ユーロの支援を行った例を挙げ、支援対象を明確化する必要性を強調した。
さらには、CFAフラン改革に向けた第一歩として、2019年12月21日に西アフリカ でCFAフランを使用する8カ国(ベナン、ブルキナファソ、コートジボワール、ギニアビサウ、マリ、ニジェール、セネガル、トーゴ)からなる西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)と、フランスが西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)理事会と金融政策委員会の代表メンバーからオブサーバーに移行することで合意した。今後は、CFAフランの廃止と新共通通貨「ECO」への移行、UEMOA加盟国の外貨準備の50%をフランス政府に預託する義務の撤廃などの課題に向けた対話を保証している。
鎮静化しないクーデターの波とフランスの対応
しかし、2023年に入ってもクーデターの波は収まらず、7月にはニジェールの反乱軍によるクーデターでモハメド・バズム大統領が失脚し(2023年8月14日付ビジネス短信参照)、最近では8月のガボンでのクーデター(2023年8月31日付ビジネス短信参照)により3選直後のアリ・ボンゴ大統領(当時)が失脚した。2020年以来のこれらの政変の結果、マリ、ブルキナファソに続き、ニジェールに駐留していた約1,500人のフランス軍が撤退を余儀なくされ、最終的にマクロン大統領が示唆した駐軍の規模縮小という方向性に呼応する結果となった。
サヘル地域でのフランス軍の撤退と反フランス機運の高まりにより、フランス語圏アフリカにおけるフランスの影響力の低下が進む中、フランスは対アフリカ戦略の明確かつ具体的な見直しに迫られている。アンティル氏は、「アフリカ戦略の改革は進行中であるが、アフリカ側の意向の複雑さなどから、目に見える成果を得ることは非常に困難である。一方で、多極化する世界情勢の中で、マクロン大統領に権限が集中するアフリカ戦略の決定プロセス自体への批判が上がっている」と説明する。11月8日には、フランス議会の外交委員会がこれまでの対アフリカ政策に対する厳しい批判を含む、今後の新たなフランス・アフリカ関係の構築を提案するレポートを発表した。同レポートに基づき、11月21日に議会で議論が行われるなど、フランス政府内におけるアフリカ戦略策定プロセスに変化の動きが見られる。
反フランス機運のフランス企業への影響
アンティル氏は、反フランス機運の高まりによるフランス企業への影響について「ここ10年ほどでフランス企業のアフリカ市場に対する見方に変化が見られ、それまでの積極的な姿勢から、慎重に情勢を観察する方向に変化している。しかし、もともとサブサハラ諸国との貿易はフランス全体の貿易の2%程度にとどまり、2021年の直接投資額(ストック)では英国に次いで2番目に位置している(図参照)が、フランスの投資額全体1兆3,000億ドルの5%にも満たないため、その経済的影響は小さい」と述べる。一方で、フランスの影響力の低下の中でも、「フランスはアフリカにとって重要であるという認識はアフリカの人々の中に依然としてあり、フランス政府もアフリカ進出のプラットフォームとしての地位を確保したい意向がある」と説明する。
サブサハラ・フランス語圏でフランスの地位が低下しつつある中、フランス企業はアフリカのどこに進出しているのか、第2部で検証する。
- 注:
- イドリス・デビ大統領(当時)は、反政府武装勢力との戦闘に巻き込まれて死亡。その後、憲法上は議会議長が大統領となるところ、軍が議会を解散、政権を掌握し、同大統領の息子であるマハマト・イドリス・デビ将軍が暫定大統領に任命された。こうした事態に対して暴動が起こると、軍はこれを鎮圧。このような背景から、フランスではチャドのケースもクーデターとする見方が一般的とされる。
フランスの対アフリカ政策と企業動向
- 執筆者紹介
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ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ) - ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。