山東省における太陽光発電産業の発展動向(中国)
他省に先駆けて洋上太陽光発電を推進

2024年4月18日

中国では「ダブルカーボン」目標の達成に向けて、再生可能エネルギーの発電設備容量が増加している。山東省では、日照時間の長さを生かして太陽光発電の活用が進んでいる。本稿では、山東省における太陽光発電産業の発展動向について、特に全国に先駆けて取り組んでいる洋上太陽光発電を中心に紹介する。

太陽光発電を中心に拡大する中国の再生可能エネルギー発電能力

中国では、2020年に「カーボンピークアウト」と「カーボンニュートラル」の目標が打ち出された(注1)。太陽光などに代表される再生可能エネルギーは、エネルギー利用の構造転換の促進と「ダブルカーボン」目標達成の重要なカギとされており、再生可能エネルギー業界の発展は加速している。国家能源(エネルギー)局のデータによると、2023年の再生可能エネルギーの発電設備容量は電源構成の50%を超え、火力発電を上回った。そのうち、太陽光発電は前年比55.2%増の6億949万キロワットに達し、電源構成の21%を占めた(図1参照)。

図1:2023年の中国の発電設備容量の内訳
火力発電が48%、太陽光発電が21%、風力発電が15%、水力発電が14%、原子力発電が2%、その他が0.002%

注:「その他」は海洋エネルギー、地熱エネルギーなどで構成される。
出所:国家エネルギー局の提供データを基にジェトロ作成

世界最大の再生可能エネルギー市場、および関連設備の製造国である中国は、太陽光発電技術が急速に進化しており、太陽電池の変換効率では世界のトップレベルにある。また、世界の太陽光発電モジュール関連企業の上位10社のうち7社を中国企業が占めており、中国の太陽光発電産業は世界の太陽光モジュールの70%以上を供給している。現在、中国の太陽光発電産業は成熟し、競争力のある産業チェーンを形成しており、関連技術の継続的な進歩とコスト改善などにより、クリーンでコスト優位性のあるエネルギー源となっている。

石炭火力発電設備と太陽光発電設備の容量がともに全国1位の山東省

山東省の太陽エネルギー資源は豊富である。全省の陸地面積のほぼ3分の2で年間日照時間が2,200時間以上あり、年間総日射量は1 平方メートル当たり 5,000メガジュールを超えている。2015 年以来、山東省の太陽光発電設備の累計設置容量は急速に増加しており、近年は中国の省・直轄市・自治区の中で首位となり、2023年の発電設備容量は5,692万5,000キロワットに達した(図2参照)。

図2:山東省の太陽光発電設備容量の推移(2015~2023年)
2015年は1.33ギガワット、2016年は4.55ギガワット、2017年は10.52ギガワット、2018年は13.61ギガワット、2019年は16.19ギガワット、2020年は22.72ギガワット、2021年は33.43ギガワット、2022年は42.7ギガワット、2023年は56.93ギガワット。

出所:国家エネルギー局の提供データを基にジェトロ作成

山東省は中国第1の石炭火力発電の省でもあり、石炭火力発電設備容量は全国の9.5%を占めている。山東省は電力の生産量、消費量がともに多い省であり、北京大学能源研究院と自然資源保護協会(NRDC)が2022年に共同で発表したレポート「カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの下での山東省電力業の低炭素への転換のロードマップに関する研究」によると、2020年の山東省における電力業界の二酸化炭素(CO2)排出量は、省のCO2排出総量の44%超を占め、CO2排出強度(CO2排出量/域内総生産)は全国平均を上回っている。

同レポートは、山東省の電力産業は、風力発電、太陽光発電、原子力発電などの省内のグリーン電力発電と省外からのグリーン電力の輸送を通じて、2030年までのカーボンピークアウト目標の実現が可能との見通しを示している。また、同レポートは、2060年までのカーボンニュートラルの実現のため、同省の電力システムが現在の石炭火力発電、原子力発電、天然ガス火力発電などを主要な電源とする状況から、風力発電、太陽光発電を主要電源とする構造に転換していくべきだと提起した。その上で、同レポートでは、山東省の電力モデルの転換においては、風力発電、太陽光発電をより大規模に建設していくことを推進していくべきと提言している。

2022年12月に、山東省政府は「カーボンピークアウトの実施方案」と「国務院の『カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの実施意見』(2023年8月8日付地域・分析レポート参照)を徹底させる措置」などの政策を発表した。同政策では、太陽光発電に関して、同産業の発展の加速や、洋上太陽光発電基地建設などの内容が盛り込まれ、2023年までに太陽光発電設備容量9,500万キロワットを達成するという目標を掲げた。

山東省では他の省に先駆けて洋上太陽光発電を推進

太陽光発電所の急増に伴い、太陽光発電用地の供給余地も少なくなっている。そのような状況もあって、洋上太陽光発電は再生可能エネルギーの拡大に向けた新たな手段として注目され、その実用化が進められている。山東省の一部の都市でも、いくつかの大規模なプロジェクトの立ち上げが進んでいる。

2023年12月26日、中国初の大規模近海洋上固定式太陽光発電プロジェクトとなる「中広核・煙台招遠400メガワット洋上太陽光発電プロジェクト」が正式に着工した。同プロジェクトは同省煙台市にある莱州湾の海域に位置し、総計画面積は約6.44平方キロメートルで、121個の太陽光発電アレイ(注2)で構成されている。そこで使用する太陽光発電モジュールは、中国広核集団とその産業チェーンの企業群が共同開発したものである。同プロジェクト稼働後の年間発電量は6億9,000万キロワット時となる見込みで、これは年間で標準炭消費を20万7,000トン、CO2排出量を約53万2,000トン削減することに相当する。同プロジェクトを実施する海域の水深は約8.5~11メートルで、これは省レベルで最初に計画された10件の洋上太陽光発電プロジェクトの中で最も深く、建設難易度が最も高く、開発条件が最も複雑な場所とされている。同プロジェクトの設計方法や施工技術などは今後、中国国内で類似の洋上太陽光発電プロジェクトを実施する際の参考、基準になるともみられている。

国に先駆けて洋上太陽光発電への支援策も策定

2023年4月、国家エネルギー局は「2023年エネルギー関連工作の指導意見」の中で、洋上太陽光発電の建設計画を初めて示した。同年10月、同局はまた「再生可能エネルギーの試行モデルプロジェクトの展開に関する通知」の中で、洋上太陽光発電の試行プロジェクト建設を推進し、複製・普及可能な洋上太陽光発電の開発モデルを形成すると公表した。

山東省、浙江省をはじめとする一部の沿海省では、国家レベルの政策に先立って、洋上太陽光発電プロジェクトの建設範囲や建設要件、審査、コスト管理などについて、関連支援策を打ち出している(表参照)。

表:山東省が発表した洋上太陽光発電に関する主な計画や支援策
発表
時期
政策 主な内容
2022年4月 2022年における発展政策リスト(第2回)
  • 洋上太陽光発電の重点プロジェクトに対して一部の海域の使用料を減免。
  • 2022年から2025年までに完成し送電網に接続する浮体式洋上太陽光発電プロジェクトには、1キロワットあたり400元(約8,000円、1元=約20円)~1,000元の補助金を支給。
  • 関連プロジェクトの開発・建設に対し、専用債券発行などの形式で社会資本を誘致する。
2022年5月 山東省電力発展14次5カ年規画
  • 洋上太陽光発電の主要技術の研究および設備の研究開発を推進。渤海、黄海に沿って、1,000万キロワットレベルの2つの洋上太陽光発電基地を設置する。
  • 2025年までに太陽光発電設備容量を6,500万キロワット、うち洋上太陽光発電を約1,200万キロワットに増加させる。
2022年7月 洋上太陽光発電建設プロジェクト行動
  • 山東省電力発展14次5カ年規画記載の2つの1,000万キロワットレベルの洋上太陽光発電基地について具体化。渤海、黄海沿いにそれぞれ31カ所、26カ所の発電所を設置。
  • 固定式洋上太陽光発電の開発・建設を加速。新エネルギー企業と漁業養殖企業の連携を支持し、洋上太陽光発電プロジェクトと漁業養殖、海洋牧場(大規模養殖場)などの一体化した建設運営を推進。
  • 浮体式洋上太陽光発電の浮体システムなどに関する重要な技術進歩の達成を目指す。
2024年2月 2024年におけるグリーン・低炭素・高品質な発展政策リスト(第1回)
  • 洋上太陽光発電プロジェクトの全体コストを削減。
  • 2025年末までに完成し送電網への接続を完了したプロジェクトに対して蓄電設備の設置を免除。2025年以降のプロジェクトに対しては原則として発電設備容量のうち蓄電設備を20%以上設置するよう要求。

出所:山東省の各種政策、発表を基にジェトロ作成

洋上太陽光発電対応モジュールの開発・生産も進む

洋上太陽光発電の設置場所は、陸上に比べて湿度が高く、塩霧により腐蝕しやすいほか、強風が多く波が強い劣悪な環境にあるため、関連モジュールの品質に対する要求が非常に高い。このため、発電コストが高くなることが、洋上太陽光発電産業の発展にとって課題の1つとなっている。

現在、中国では複数の企業が洋上太陽光発電モジュールの開発・生産を進めている。例えば、トリナ・ソーラー(天合光能)が生産した高出力モジュールは、浮体式と固定式の洋上太陽光発電プロジェクトのいずれにおいても、実証プロジェクトに導入された例がある。また、ロンジ・グリーンエナジー・テクノロジー(隆基緑能科技)が生産した太陽光発電モジュールは、山東省海陽市(煙台市の下にある県級市)の近海洋上太陽光発電プロジェクトに利用され、その耐腐食性、耐風性および耐破損能力が認められた。このほか、華晟新能源が生産した洋上太陽光発電専用モジュールは、フランスの認証企業のビューローベリタスが発行する「海洋環境下での耐候性(注3)モジュール認証」を、世界で初めて取得した。

先行する陸上太陽光発電においては、長期にわたる技術革新、産業変革を経て、低価格での電力供給が実現されつつあるが、洋上太陽光発電においても、継続的な政策による誘導、技術革新、産業チェーンの改善により、改善・発展が進んでいる。今後、こうした動きが継続し進展すれば、洋上太陽光発電においても、今後より高効率・低価格での電力供給が実現し、再生可能エネルギー発電の増加に寄与していく要素となることが期待されている。


注1:
2030 年までにカーボンピークアウトを、2060 年までにカーボンニュートラルを達成するという目標。両者を合わせて「ダブルカーボン」目標と称する。
注2:
太陽光パネルを複数枚、直列や並列に接続して設置したもの。
注3:
屋外での使用時に、劣化などを起こしにくい性質のこと。
執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所
董 玥涵(トウ ゲツカン)
大連外国語学院日本語学部卒業後、日本の東北大学環境科学研究科で環境技術政策マネジメントを専攻。2016年、ジェトロ・青島事務所入所。ヘルスケア事業、総務、調査を担当。