ロシア市場、中国車が躍進、中古は日本車も健闘
侵攻から2年(2)

2024年5月27日

ロシアによるウクライナ侵攻開始から2年以上が経過した。日本をはじめ西側企業が軒並み撤退したロシア市場では、撤退した外国企業の旧工場を再稼働させてロシア国産車を生産する動きがみられるほか、中国車販売がさらに勢いづいている。その一方で、中古車販売では依然として西側ブランド車が多く買われている。

生産台数は前年比で増加も、侵攻前水準に遠く及ばず

2023年のロシアにおける自動車生産台数(商用車を含む)は、前年比19.5%増の73万台となった。しかしながら、ウクライナ侵攻前の2021年と比較すると半数ほどにとどまり、完全に回復したわけではない。その理由としては、特に、自動車生産台数のうち大部分を占める乗用車部門において生産活動を行っていた西側企業が撤退し、「西側ブランド」の乗用車生産が停止したためだ。ウクライナ侵攻前の2021年の乗用車生産台数は135万台だった(表1参照)。うち、韓国の現代自動車が23万4,000台、フォルクスワーゲン(VW)が12万1,000台、ルノーが9万3,000台、トヨタ自動車が8万1,000台など、西側企業による生産台数がかなりの比率を占めていたが、これらの企業は現状いずれもロシアでの生産を停止し、撤退済み。

表1:2021年(ウクライナ侵攻前)と2023年の乗用車生産台数の比較

2021年(ウクライナ侵攻前)
順位 社名 台数
1 アフトワズ 260,034
2 現代自動車 234,150
3 アフトトル 175,785
4 ラーダ(エジェスク) 125,658
5 フォルクスワーゲン 120,640
6 ルノー 92,955
7 トヨタ自動車 80,813
8 日産自動車 53,744
9 ガズ 52,282
10 ハバルモータールス 39,663
合計(その他含む) 1,349,743
2023年
順位 社名 台数
1 アフトワズ 350,345
2 ハバルモータールス 98,981
3 アフトトル 27,607
4 マズモスクビッチ 24,169
5 ウアズ 9,641
6 チェチェンアフト 7,730
7 ラーダ スポルト 4,527
8 モトルインベスト 2,140
9 自動車産業技術(AIT) 674
10 ラーダ(エジェスク) 240
合計(その他含む) 526,435

出所:アフトスタト「ロシアの自動車市場 - 2023」「ロシアの自動車市場 - 2024」のデータを基にジェトロ作成

トラック部門では、2021年が19万1,000台であったのに対して2023年は16万6,000台と約13%減にとどまり、ウクライナ侵攻後にも乗用車部門ほどの大幅な減少は見受けられない。理由としては、もともと地場ブランドが生産台数上位を占めていた点が考えられる。2021年はガズ、カマズ、ウアズが生産台数上位3位を占め、2023年も生産台数上位のブランドはガズ、カマズ、ウアズと変わらなかった。他方、輸出についてみると、確認可能なウアズの2021年の自動車輸出台数は5,703台(アフトスタト2022年1月20日)であったのに対し、2023年は1,840台(アフトスタト2024年1月12日)となり、2021年比で67.7%減少した。また、大手のカマズの公式発表によると、2023年の輸出台数は4,465台だった。ロシア自動車メーカー協会の顧問であるユーリー・クラフツォフ氏によると、2023年1~10月のカマズの輸出台数は約3,600台で、前年同期より約200台減少したという。また同氏は、西側諸国による制裁措置が発動される前からカマズ製品の主な輸出先は、CIS諸国、中東、アフリカ諸国であった、と語る。現在も輸出先は同様であるものの、物流の問題によりコストを価格に転嫁せざるを得ず、販売台数にはマイナスの影響を与えている、と分析した(RBK2023年12月12日)。

2024年の自動車生産台数は、2023年と比べて増加することが見込まれている。ロシアから撤退した西側企業の旧自動車工場で新ブランド車の生産開始が始まっていることがその一因だ(2024年3月26日付ビジネス短信参照)。「自動車工場AGR」は2024年3月11日、現代自動車の旧サンクトペテルブルク工場を活用して生産された新ブランド「ソラリス」の出荷を開始した。また、ロシアの乗用車最大手アフトワズは3月13日、サンクトペテルブルクにある日産自動車の旧工場で生産する新ブランドXcite X-Cross 7を発表した(ベドモスチ2024年3月13日)(2024年3月26日付ビジネス短信参照)。デニス・マントゥロフ副首相兼産業商務相からは、2024年新車生産台数は少なくとも2023年の生産台数を下回ることはない、という発言もあった(「オートニュース」2024年2月5日)。ただし、西側企業が撤退した今、生産台数がウクライナ侵攻以前の水準に戻るかどうかについては未知数だ。

乗用車新車販売台数は前年比約7割増加、中国車が急伸

自動車市場調査会社アフトスタトによると、ロシアの2023年の乗用車新車販売台数は前年比69.0%増の105万9,000台だった。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシア国内の自動車工場の停止の影響を受けた2022年と比較すると販売台数は伸びたものの、ウクライナ侵攻以前の水準には達しなかった。

中でも、ロシア国産車および中国車の販売台数の伸びが販売台数増加に寄与した。ブランド別でみると、新車販売台数首位はロシア地場のラーダ(アフトワズ)で、32万4,000台だった(前年比85.7%増)。象徴的であったのは新車販売台数2~7位を中国勢が席巻したことだ。チェリー(11万9,000台、前年比3.0倍)、ハバル(11万2,000台、前年比3.3倍)、ジーリー(9万4,000台、前年比3.5倍)などが続いた。8位以下は韓国の起亜(3万4,000台、前年比48.9%減)と現代(2万5,000台、前年比54.4%減)、その次にトヨタ(2万3,000台、前年比18.5%減)が続いた。日本・韓国勢も10位内に食い込むなど一定の存在感を示したものの、ロシア国産車および中国車が大きく伸びた。

表2:2023年の乗用車新車販売台数(ブランド別) (△はマイナス値、―は値なし)
順位 国名 ブランド名 台数 前年比増減
1 ロシア ラーダ 324,446 85.7
2 中国 チェリー 118,950 3倍
3 中国 ハバル 111,720 3.3倍
4 中国 ジーリー 93,553 3.5倍
5 中国 チャンガン 47,765
6 中国 エクシード 42,152 3.5倍
7 中国 オモダ 41,983
8 韓国 起亜 33,580 △48.9%
9 韓国 現代 24,658 △54.4%
10 日本 トヨタ 23,318 △18.5%
合計(その他含む) 1,058,708 69.0%

出所:アフトスタト「ロシアの乗用車新車市場 - 2023」を基にジェトロ作成

ロシア市場における中国車の存在感は年々高まりつつある。グローバル・トレード・アトラス(GTA)によれば、2023年に中国からロシアに輸出された乗用車の台数は前年比5.3倍の81万4,000台(注)となるなど、中国からロシアに対する自動車の輸出台数の増加が際立っている。また、中国車の技術がロシア国産車に利用されるケースもみられる。例えば、旧ルノー工場で生産されているロシア車「モスクビッチ3」は中国の安徽江淮汽車(JAC)のクロスオーバー車をモデルに設計されている(2022年11月25日付ビジネス短信参照)。日産自動車の旧工場で生産する新ブランドXcite X-Cross 7は、外観および技術面においてミドルサイズのクロスオーバー、チェリー(奇瑞汽車)のTiggo 7 Proを完全にコピーしたものだという(ベドモスチ2024年3月13日)(2024年3月26日付ビジネス短信参照)。

2024年の自動車販売台数について専門家は、2024年も販売台数は伸びるものの、2023年ほどの伸びは見られないだろうと予測している。アフトスタト分析部長のビクトル・プシカレフ氏は、2023年にロシア市場は前年比で70%近く増加するなど記録的なペースで回復したことから、2024年の販売台数の伸びは2023年に比べて大幅に低下することが予想される、という見方を示した。同氏によると、基本シナリオでは、ロシアの自動車販売台数は約125万台に達する可能性がある。経済的な条件が最も良好な場合、販売台数は138万台から140万台に増加する可能性があるが、幅広いブランドとモデル、そして国民の購買力を確保する必要があるとした(アフトスタト2023年12月21日)。ディーラーネットワーク「プラグマチカ」のアレクサンドル・シャプリンスキー・ディレクターも同様に、2024年のロシアにおける販売台数は約125万台を見込むとしつつも、2021年の数字に回復させるためには、自動車部品の現地生産化と既存の生産施設の再稼働が必要であるとした(アフトスタト2023年12月21日)。

西側ブランド中古車に人気、極東ロシアで日本車が存在感

2023年の中古車販売台数も569万3,000台となり、前年比17.0%増と高い伸びを示した。ただ、乗用車新車販売とは対照的に、西側ブランドをはじめとする外国車が多く買われた。ブランド別でみると、トップ3は順にラーダ(アフトワズ)(125万8,000台、前年比7.7%増)、トヨタ(67万台、前年比23.7%増)、起亜(31万9,000台、前年比22.8%増)だった。1位のラーダを除き、トップ10ブランドはすべて西側ブランドが占め、外国ブランドの中古車の人気ぶりがうかがえた。トヨタ以外の日系ブランドでは日産が5位(29万7,000台、前年比18.2%増)に、ホンダが10位(19万5,000台、前年比32.3%増)にランクインするなど、上位に食い込んだ。

表3:2023年の中古自動車販売台数(ブランド別)
順位 国名 ブランド名 台数 前年比増減
1 ロシア ラーダ 1,258,034 7.7%
2 日本 トヨタ 670,444 23.7%
3 韓国 起亜 318,970 22.8%
4 韓国 現代 315,137 17.1%
5 日本 日産 296,835 18.2%
6 ドイツ フォルクスワーゲン 249,107 20.0%
7 米国 シボレー 213,750 12.3%
8 米国 フォード 199,121 18.3%
9 フランス ルノー 197,747 8.4%
10 日本 ホンダ 195,008 32.3%
合計(その他含む) 5,692,955 17.0%

出所:アフトスタト「2024年のロシアの中古自動車市場予測」を基にジェトロ作成

日本の財務省貿易統計によると、2023年の日本の対ロシア中古乗用車輸出は21万2,000台で、前年比3.8%増加した。日本政府は2023年8月9日、ロシアに対する輸出禁止措置を拡大し、新たに排気量1,900cc超の自動車(ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車)、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車(EV)なども輸出禁止品目に追加した(2023年8月14日付ビジネス短信参照)。日本ブランドの中古車販売台数の減少が見込まれた中での増加だった。中古乗用車輸出台数を月別に見てみると、2023年初めから、日本政府が輸出禁止措置を拡大する前の2023年7月まではすべての月で前年同月の水準を上回る台数を輸出した(図参照)。輸出禁止措置が拡大した8月以降は前年同月比で輸出台数は減少したものの、一定台数の輸出が続いた。

図:日本からロシアへの中古乗用車輸出台数
2022年は1月が10,410台、2月が13,696台、3月が10,823台、4月が10,511台、5月が11,045台、6月が17,280台、7月が17,372台、8月が20,981台、9月が19,474台、10月が23,883台、11月が24,997台、12月が24,200だった。2023年は1月が14,187台、2月が14,985台、3月が19,697台、4月が20,214台、5月が22,533台、6月が27,693台、7月が32,116台、8月が12,062台、9月が9,396台、10月が12,702台、11月が13,745台、12月が13,168台だった。

出所:財務省貿易統計を基にジェトロ作成

2023年の輸出台数が前年比で伸びた理由としては、根強い日本車人気がある。輸出禁止措置拡大後は1,900cc超の自動車の輸出が不可能となった。代わって、制裁対象とならず、輸出可能なコンパクトカーといった比較的排気量の少ない車種に注目が集まっている。自動車市場調査会社アフトスタトのイーゴリ・モルジャレット氏は、日本のコンパクトカーはロシアで小さいながらも安定した需要を享受してきた、と前置きしつつ、コンパクトカーへの関心は高まる一方だ、という見解を明らかにした(イズベスチヤ2023年11月14日)。

実際に、ロシアへのコンパクトカーの輸出台数は増加している。日本の財務省貿易統計で確認可能な、排気量1,500cc以下全ての中古乗用車の2023年の輸出台数は前年比で24.2%増加した。また、ロシア極東の港湾では、2023年に輸入された乗用車の中で日本車が大きな割合を占めた。アフトスタトによると、ウラジオストク税関管轄内における2023年の乗用車輸入台数は前年比5割増の22万6,000台となり、その大部分は日本もしくは韓国から輸入された排気量1,800cc未満の乗用車だった。サハリン税関管轄内における輸入台数は3,956台となり、前年比で215台増加した。数台の例外を除き、そのほとんどは日本からの輸入であったという。サハリン税関コルサコフ税関支署のアレクセイ・アントノフ支署長は、制裁発動後は取り扱われる車種がより安価なモデルになっただけで、一般消費者にとっては制裁の影響はなく、需給に及ぼす影響は為替レートによるものの方が大きいとした(「アフトスタト」2024年1月31日)。


注1:
HSコード8703に分類される「乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴンおよびレーシングカーを含み、主として人員の輸送用に設計したものに限るものとし、第87.02項のものを除く)」の台数。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
後藤 大輝(ごとう だいき)
2021年、ジェトロ入構。2022年12月から現職。