共和党と大企業間の距離感に変化(米国)
労働者層配慮の余り、反ESG姿勢が鮮明に

2024年10月21日

米国では、二大政党制の下で政治が執り行われてきた。(1)保守派の共和党と(2)リベラル派の民主党というかたちだ。共和党は伝統的にプロビジネス、すなわち大企業に寄り添った政策スタンスを取ってきた。具体的には、環境や労働面での規制緩和やビジネス関連の減税、自由貿易の促進、化石燃料資源の活用などが挙げられる。対する民主党は、その逆を行くという構図が定着していた。

しかし、近年では環境・社会・ガバナンス(ESG)課題への対応を契機に、共和党と大企業との間に距離感が出る場面が多く見られるようになってきた。本稿ではその現象と背景を読み解く。その上で、共和党によるビジネス関連政策を中長期的に展望する。

共和党と大企業に距離感

米国では1800年代後半以降、共和党と民主党による二大政党制が根付いている。有権者は選挙の度に、主に2つの選択肢から為政者を選ぶことになる。その結果、政治が振り子のように動き、長年にわたっていずれかの極にとどまらないよう均衡が保たれてきたといえる。現状から両者の特徴を対比すると、表1のようになる。

表1:米国の共和党と民主党の対比
比較項目 民主党 共和党
政治思想 リベラル 保守
支持基盤(地域) 東西沿岸部、都市部 南部・中西部、郊外・地方
支持基盤(人口動態) 中低所得層、マイノリティ層、若年層 富裕層、白人層、高齢層
支持基盤(職種・産業) 労働組合、環境団体、人権団体 大企業・経営者層、化石燃料産業
重視する政策 富裕層への増税、中低所得層への減税、大企業・テック企業への規制強化、気候変動対策(環境規制強化)、人工妊娠中絶の合法化、銃規制強化、など 法人税を含む減税、ビジネス関連の規制撤廃・緩和、化石燃料採掘の推進、不法移民対策強化、米農産品の海外市場アクセス拡大、など
有権者全体の登録者の割合 33% 32%

注:一般的な分類に基づく。
出所:各種資料、文献を基にジェトロ作成。有権者に占める各党登録者の割合はピュー・リサーチ・センター調査による

ビジネス関連でいうと、共和党はプロビジネス。大企業・経営者寄りの姿勢を取ってきた。しかし、最近では必ずしも従来の分類が当てはまらない場面が出てきている。その傾向が顕著になってきたのは2017年に発足した共和党のトランプ前政権以降だ。

サプライチェーンをグローバルに展開する企業には近年、いわゆるESG重視のスタンスが求められるようになった。それを代表するのが国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」で、国際的な潮流と言える。米国の大企業も、他国企業の例に漏れない。しくじると、国際的な金融市場での資金調達をはじめ、事業を展開する世界各国・地域で経営が円滑に進まなくなりかねない。

しかし、ESG重視の姿勢を鮮明に打ち出すほど、ドナルド・トランプ前大統領をはじめ、共和党の有力者から強い批判を浴びるようになった。今次大統領選挙(2024年11月)でも、ESGに関する姿勢は争点の1つだ。例えば、共和党候補がトランプ氏に決まるまでの予備選挙の過程で、ビベク・ラマスワミ氏(反ESGを掲げる若手実業家)が一時期注目を浴びた。

対立が顕在化する事例も

では、具体的に、反ESGの流れが企業にどう影響するか。これについては、州レベルでの事例が参考になるだろう。

連邦制を採る米国では、州内で完結する事項に関しては、法令の制定・執行権限を基本的に州知事・州議会に委ねている。よって、知事職と州議会上下院の多数党すべてを片方の党が押さえた場合、当該党の政治思想が色濃く出る政策が打ち出されることになる。これまでには、共和党の強いジョージア州、テキサス州、フロリダ州で、州と大企業の対立が話題になった(表2参照)。

表2:共和党優勢州と大企業との対立事例
企業 時期 紛争内容
ジョージア デルタ、
コカ・コーラ
2021年3~4月
  • 同州では、投票法案が可決見込みだった。しかし、一部有権者の投票を困難にするリスクがある(不在者投票時のID審査を厳格化する、期日前投票期間を短縮化する、など)という指摘もあった。
  • 活動家らは「デルタとコカ・コーラが同法案に明確に反対しない場合、2社の製品・サービス購入をボイコットする」旨、表明(補注:当該2社は、いずれも州内に本社)。さらに、米大手企業の黒人CEOらが同法案への反対表明を呼びかけるなど、圧力が高まっていた。
  • その後、2社はそれぞれ、法案に明確に反対するとの声明を発表。これに対し、ブライアン・ケンプ州知事(共和党)がデルタを批判する声明を発表。また同州議会の共和党議員らは、デルタに対する税金引き上げをちらつかせた。
テキサス 金融大手(ブラックロックなど) 2021年以降
  • 同州で2021年に成立した州法(SB13)では、化石燃料を扱うエネルギー企業をボイコットする金融機関に州政府機関(主に公的年金など)が投資することを禁じた。
  • 同州会計検査官は2022年8月、SB13の対象金融機関のリストを公開(その後も、随時更新)。ちなみに、2024年8月時点では、金融機関16社(ブラックロック、BNPパリバ、HSBC、UBSなど)と投資ファンド353社を掲載。
  • 州司法長官は2024年1月、英金融大手バークレイズがSB13の対象になると表明。州内自治体が発行する債券を同社が引き受けることなどを禁止した。同社が州からの質問〔国連の「ネット・ゼロ・バンキング・アライアンス」(NZBA、注)のメンバーである事実などを含む〕に答えなかったことが、理由。
フロリダ ディズニー 2022年~2024年6月
  • 同州では2022年、性的少数者に関する教育を制限する州法が成立。その直後、ディズニーのボブ・アイガーCEO(当時)が同法を批判。内部からの圧力を受けた結果。
  • ロン・デサンティス知事(共和党)は、一定の特区制度を廃止する法案を可決するよう州議会に要請。州は当該特区制度に基づき、ディズニーに対して優遇税制を長年認めてきた。議会も対応。知事の署名を経て2023年1月、施行に至った。
  • その後も、特区制度の管理権限を知事と州議会が掌握するための法律が成立。一方でディズニー側は、一連の動きを不当として裁判に提訴。このように、両者の対立が続いた。決着がついたのは、2024年6月。ディズニーが今後20年間で170億ドルを投資することを条件に、特区を管理する委員会が15年間の拡張計画を認めた。

注:温室効果ガス排出量の実質ゼロ化を目指す銀行間の国際的な取り組み。事務局は、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEPFI)。
出所:州政府、各社ウェブサイト、報道情報を基にジェトロ作成

ジョージア州では投票関連法、テキサス州で脱炭素、フロリダ州でLGBTQと、それぞれ争点が異なる。共通するのは、投資家や従業員、世論からの期待・圧力を受けて企業がESG重視姿勢を示したところ、共和党の思想・方針に反するに至ったことだ。その結果、報復措置(あるいはその可能性の示唆)を受けるという板挟みを招いている。

筆者が在米日系企業にヒアリングしたところ、「米国では最近、さまざまな社会的事件がニュースで話題になる度に、従業員などから企業スタンスを明確に表明するよう求める圧力が高まっている」との声が上がった。経営に直接関連しなくても対応を余儀なくされることもあるため、苦慮しているという。共和党が反ESG姿勢を先鋭化する中、対応ぶりを誤ると法令で直接狙い撃ちされかねない。それだけでなく、レピュテーションリスクや消費者からのボイコット、従業員からの反発に直面するおそれまで生じる。社会的課題に対して企業としてどのような立場を表明するか(あるいはしないのか)が、難しい問題になりつつある。

共和党と大企業の距離が離れていることは、政治献金の変化にも現れている。「ウォールストリート・ジャーナル」紙の調べによると、共和党議員が大企業・業界団体からの政治献金に依存する度合いは、ここ30年で最も低下した。その分を埋め合わせているのが、自由貿易の推進など大企業が優先する政策課題に懸念を抱いている個人の層だ(注1)。共和党議員らが、企業が設立したPACから受領した献金額(注2)は2022年、1億8,900万ドルだった。2016年から、実に2億6,000万ドルも減少した(約6割の大幅減)。このように共和党議員にとっては、大企業からの献金に頼る必要性が低下した分、大企業に寄り添う政策を掲げる必要性も低下したといえる。

根底に、労働者票の奪い合い

2016年の大統領選挙で明らかになったのは、激戦州(スイングステート、注3)の労働者票を獲らない限り選挙に勝てないことだ。先述した変化の根底には、そうした事実認識があると理解できる。

大統領選挙の勝敗は結局のところ、選挙人計538人(全米各州の人口に応じて配分)の過半数を獲得できるかにかかっている。ほとんどの州は、毎回の選挙で民主党と共和党のどちらが勝利するかが事実上、決まっている。よって、最終的な勝負は、人口が多く、選挙のたびに勝利する政党が入れ替わる激戦州をいくつ押さえられるかが肝要になる。

トランプ氏は2016年の選挙で、世論調査の予想を覆して当選した。この当選には、中西部諸州の白人・男性・労働者層の浮動票を押さえたことが大きく影響した。2020年選挙では、その浮動票を民主党のバイデン氏が取り返したことで勝利した。中でも、ウィスコンシン州(選挙人数10人)、ペンシルベニア州(19人)、ミシガン州(15人)では、直近の2012、2016、2020年の大統領選で勝利した党が民主党、共和党、民主党と毎回入れ替わっている。共和党はこうした激戦州での支持を固めるため、2024年11月の選挙にとどまらず、今後もこれら州の有権者に訴求する政策スタンスを取ると見られる。その発露の中でも主要なものが、反ESGだ。結果として、その姿勢が大企業の経営に負の影響を与える政策につながると考えられる。

共和党のビジネス政策方針の中長期的な見通し

ここまで見てきたように、共和党は近年、変化してきた。その顕著な現れが、2024年7月の共和党全国大会で採択された政策綱領PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.35MB)だ(2024年8月9日付地域・分析レポート参照)。

この綱領では11月の大統領選挙を意識し、有権者に向けて共和党としての政策指針を示した。内容は、従来発表されてきたものより大幅に簡素化された。表紙や目次などを除いて、実質的には16ページとなる。冒頭に「速やかに達成する20の項目」を打ち出した。続けて「10の政策方針」を掲げ、それぞれ約1ページで中長期に取り組む事項を説明する構成になっている。

全体として言えるのは、大枠の方針にとどまっていることだ。同時に、項目間で内容の重複も散見される。とはいえ、現時点での共和党の政策ビジョンが凝縮された公式な資料だ。同党の中長期の方針を占うのに、最も重要と言える。その中から筆者の視点で、(1)伝統的なプロビジネス、(2)伝統的なプロビジネスからの修正、(3) ESGに関連する方針に分類して、一定の評価を加えてみた(表3参照)。

表3:共和党政策綱領の分析
分類 綱領内の取り組み案(注1) 評価
伝統的プロビジネス
  • 米国のエネルギーを解放する(注2)。
  • 連邦の無駄な支出に介入する。
  • コストと負担のかかる規制を撤廃する。
  • 規制を撤廃する。
  • トランプ減税を恒久化しチップを非課税にする。
  • 信頼でき潤沢な低コストのエネルギーを追求する。
  • これらは、伝統的に共和党が推進してきた政策。今後も大きく変わることはないと考えられる。
  • 「エネルギー」は主に化石燃料を想定。そのため、急進的な気候変動対策には引き続き反対姿勢をとる。
伝統的プロビジネスからの修正
  • 公正で互恵的な貿易協定。
  • 貿易を再調整する。
  • 米国の自動車産業を守る。
  • 重要なサプライチェーンを国内に回帰させる。
  • バイ・アメリカン、ハイヤー・アメリカン。
  • 製造業超大国にする。
  • 共和党は従来、自由貿易を推進してきた。しかし、労働者層を意識して保護主義や産業政策に軸足を移しつつある。
  • この分野では、労働組合を支持母体の1つにしてきた民主党と、差が縮まりつつある。
ESGに関連する方針
  • 批判的人種理論やジェンダーではなく、知識と技能を重視。
  • 教育権を州に戻す。
  • 反ユダヤ主義と闘う。
  • リベラルアーツ教育の危機を克服する(注3)。
  • 州を通じて、生命に関する人々の権利を守る(注4)。
  • ジェンダーに関して、左派的な異常事態を終わらせる。
  • 選挙の統一性を確保する。
  • 「人種」「ジェンダー」「教育」「生殖の権利」「選挙権」に関しては、リベラル派と保守派で考えが明確に分かれる。これらトピックについて、保守寄りの極端な政策が出てくる可能性がある。
  • 中には州の判断に任せるとしているものもある。となると、州レベルでの動きのフォローも必要になる。

注1:綱領内の取り組み案には、重複する項目も残している。
注2:再生可能エネルギーなどにこだわらず、国内の化石燃料資源も含めた開発を推進するとの方針。
注3:リベラルアーツとは、いわゆる一般教養科目。
この箇所で、具体的な問題点を取り上げたわけではない。しかし綱領には、批判的人種理論やジェンダー教育などに触れた部分がある。それらを「危機」と捉えているものと考えられる。
注4:基本的に、中絶に批判的な立場。禁止規制を設けるか否かは、州ごとの判断に任せるという考え方に立っている。
出所:2024年共和党政策綱領から作成

これらを読み解くと、(1)従来同様で今後も変化がない、(2)伝統的立場を覆す、(3)保守寄りの政策を打ち出す、それぞれの可能性ごとに取り組み案を整理することができる。(1)の典型が、規制緩和や減税だ。共和党が推進してきたプロビジネス志向に、変わりはないだろう。通商が関わる分野は(2)に当たる。従来は、自由貿易推進を打ち出してきたのと対照的だ。ESG関連では、極端に(3)の機運が高まっている。

実際、通商分野では、トランプ政権が、追加関税をはじめとして、保護主義的な政策を導入した。バイデン政権も基本的にそれら政策を踏襲してきたため、企業としてもある程度の構えができていると考えられる。しかし、「気候変動」「ジェンダー」「人種」「選挙権」などESG関連の社会問題は、様相が異なる。党派対立が先鋭化し、政策を執行する党派により政策が180度転換する可能性がある。特に共和党が権力を有する州・自治体では、要注意。企業が「リベラル」と取られるスタンスや方針を打ち出した場合、厳しくたたかれるリスクが高まっているからだ。米国でビジネスを展開する以上、そうした目を気にせざるを得ない。

しかしESG問題では、はっきりしたスタンスを示さないと、投資家や世論、従業員など利害関係者から突き上げを食らいかねない。企業は難しい立場に置かれていることになる。コミュニケーションの取り方に一層の注意を要する時期が続くことになるだろう。


注1:
「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版2023年6月14日。
注2:
米国で企業や労働組合、市民団体などが政治献金するには、一定の手続きが必要になる。具体的には、政治活動委員会(PAC)を設立して連邦選挙委員会(FEC)に登録しなければならない。また献金は、当該PACを通じて実行することになる。 換言すると、PACを追うことで、企業・団体献金の動きが追える。
注3:
2024年11月の大統領選挙では、(1)アリゾナ、(2)ジョージア、(3)ミシガン、(4)ネバダ、(5)ノースカロライナ、(6)ペンシルベニア、(7)ウィスコンシンの7州が激戦州(スイングステートPDFファイル(649KB))とされている。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 課長代理
磯部 真一(いそべ しんいち)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部北米課で米国の通商政策、環境・エネルギー産業などの調査を担当。2013~2015年まで米戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員。その後、ニューヨーク事務所での調査担当などを経て、2023年12月から現職。