自動車販売・生産、日本からの輸出動向(アフリカ)
2023年は新車販売減、生産増、日本からの輸出増、中古車も多い

2024年7月1日

人口が急増するアフリカ。それだけに、中長期的には自動車需要の拡大を見込むことができる。一方で近年、新車販売は伸び悩む。所得水準が低く、中古車の市場が大きいのが、その一因だ。

また、自動車の現地生産もあまり進んでない。近年、安定した生産が実現できているのは、南アフリカ共和国(以下、南ア)やモロッコのみだ。エジプトやアルジェリアでも生産されるが、主要な組立部品を輸入に頼っており、外貨不足により、自動車部品の輸入が滞る中、組み立て生産台数が大幅に減少している。

国際自動車工業連合会(OICA外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、世界全体の新車販売台数(2023年)は9,272万台だった。このうちアフリカは約105万台で、世界シェアわずか1.1%だ。さらに、前年比2.4%減と減少している(世界全体では、11.9%増)。一方で、世界の自動車生産(同年)が9,355万台であるのに対し、アフリカでは117万台。世界シェアは1.3%だった。アフリカでは前年比14.5%増とまずまず成長し、世界全体の10.3%増を上回った。

このように、アフリカでの新車販売や自動車生産はまだ少ない。それでも、アフリカの自動車産業に関心を示す日本企業もいる。また、日本車の人気が高いことは、その追い風だ。本稿では、アフリカでの自動車生産と販売、日本からアフリカへの自動車輸出の現状や今後の可能性について追う(表1参照)。

表1:アフリカ概要と日本との関係

アフリカ概要
項目 内容
国数 54カ国
人口 2022年:14億人、2030年予測:17億人、2050年予測:25億人
人口上位国 ナイジェリア約2億人、エチオピア約1億人、エジプト約1億人
名目GDP 2023年:2兆8,100ドル/GDP世界第7位のフランス1カ国と同規模
GDP成長率 2023年:3.8%、2024年予測:4.2%
1人あたりGDP 2,003ドル(2023年)/ラオスと同水準
工業化指数・順位 2021年:南ア、モロッコ、エジプト、チュニジアの順
新車販売 105万台(2023年)
自動車組立・生産 122万台(2023年、注)
人気自動車ブランド トヨタ、メルセデスベンツ、BMWなど

注:この表でいう組立・生産台数は、OICAの集計した南ア、モロッコ、アルジェリア分(117万台)に、エジプト分(4万8,000台)を積み上げた結果。この4カ国以外の製造については、計上していない。

アフリカと日本の関係
項目 内容
日本からの自動車輸出 45万6,122台、4,357億円(2023年)/中古車を含む
日本からの中古車輸出 29万2,779台、1,695億円(2023年)
日本の自動車輸出先順 南ア、タンザニア、ケニア(2023年)/中古車を含む
日系自動車メーカーの工場数 7カ国20カ所(南ア、エジプトがそれぞれ5カ所)
日本メーカーの現地生産数 23万1,050台(2023年)
進出日系企業数(注) 972社(2022年10月時点)/南ア、ケニア、モロッコの順
日系企業の注目国(注) ケニア、ナイジェリア、南ア、タンザニア、ガーナなど

注:(1)進出日系企業数、(2)日系企業の注目国とも、自動車製造に限らず全業種にわたっての結果。なお(2)については、ジェトロの「2023年度 海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」において、現地ビジネスについて、幅広い業種の関心が認められる国を列挙した。
出所:国連、アフリカ開発銀行、OICA、AMIC、IMF、アフリカ開発銀行、財務省、日本自動車工業会、外務省、ジェトロ、ブランドアフリカ

国別販売は南ア、モロッコの順に多い

OICAによると、世界の新車販売台数は2023年、国別に(1)中国が世界首位(3,009万台、前年比12.0%増)。これに、(2)米国(1,601万台、同12.5%増)、(3)インド(508万台、同7.5%増)、(4)日本(478万台、同13.8%増)と続く。

アフリカでは、南アが首位だった(53万台、同3.4%増/図1参照)。南アの自動車製造者協会(NAAMSA)によると、同国内でのメーカー別シェアは、(1)トヨタ(26.8%)、(2)フォルクスワーゲン(VW)(12.7%)、(3)スズキ(9.3%)の順だった。

アフリカ第2位は、モロッコ(16万台、同0.1%増)。モロッコが微増にとどまった理由として、モロッコ自動車輸入者協会(AIVAM)は、車体価格や燃料コストの上昇など、インフレの影響を挙げた。ブランド別には、(1)ダチア、(2)ルノー、(3)現代の順だった。

エジプトは、人口が約1億人に上る。そのため新車販売台数も、2022年まではアフリカ第2位だった。しかし2023年は、外貨不足に伴い完成車の輸入を規制した。これにより、販売が大きく下落(8万6,044台、同51%減)。順位も、3位に落とした。企業別には、現地で組立生産する日産が最大。国別でも、日本勢がトップシェアを維持している。中国勢〔奇瑞汽車(チェリー)など〕が続いた。

近年のアフリカ主要国の自動車の販売台数をみると、2020年に顕著だった新型コロナ禍の影響からは脱した印象だ。一方で、エジプトの販売大幅減などを受け、直近2年連続で販売数が低下している(図1参照)。

図1:アフリカにおける国別新車販売台数推移
2019年から2023年のアフリカ全体の自動車の販売台数をみると、2020年は大幅に減少、2021年に増加したものの、2022年、2023年は減少した。

出所:OICA

このほか、コートジボワールでは、販売が大幅に伸びた(2万7,808万台、同14%増)。その中で、日本車が69.1%のシェアを占めている。またナイジェリアでは、豊田通商の子会社CFAOがスズキの公式販売店になり、販売している事例もある。

生産面では、国ごとに明暗分かれる

2023年の自動車生産は、中国が世界首位だった(3,016万台、前年比11.6%増)。日本は、900万台、同14.8%増だった。

アフリカ最多は、やはり(1)南ア(63万台、同13.9%増)であり、(2)モロッコ(54万台、同15.3%増)が続いた(図2参照)。

南アは、生産台数で世界22位に当たる。トヨタがダーバンに製造拠点を持っているほか、欧州企業の工場もある。追加投資の発表も多く、2023年以降だけでも、次に示すような例が聞かれる。

  • BMW:
    42億ランド(約351億円、1ランド=約8.35円)を投資し、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)を生産する(2023年6月発表)。
  • フォード:
    PHEVの製造のため、プレトリアの組立工場に52億ランド投資(2023年11月発表)。
  • フォルクスワーゲン(VW):
    40億ランドを投資(2024年4月発表)。
  • ステランティス:
    東ケープ州のクーハ経済特区に30億ランドを投資する(2023年9月発表)。

モロッコは、人口約3,702万人のため、国内市場は、さほど大きいわけではない。しかし、生産した自動車を欧州などに輸出しているため、アフリカの中では生産が多い。特にルノーグループは、本社が所在するフランスに次ぐ生産拠点として、当地を位置付けている(同社の全世界生産のうち、17.0%がモロッコ製)。2023年は、38万2,661台をモロッコで生産(同9.3%増)。うち34万3,652台を、世界68カ国に輸出した。

なお、OICAが提供する生産台数の集計では、南ア、モロッコ、アルジェリア分だけの計上となっており、エジプトについては、同国の自動車市場情報委員会(AMIC)が発表している。2023年のエジプトでの生産は、4万8,831台であり、前述のとおり外貨不足対策が影を落とし、同47.8%減と半数以下に急落した。なお、2024年に入り、国際機関などの支援もあり外貨準備高は回復傾向だ。

生産が低迷している点では、アルジェリアも同様だ。2019年まででは、ルノー、フォルクスワーゲン(VW)、現代自動車、起亜などが合計6万台を生産していた。しかし、国際収支赤字と外貨準備高減を受け、政府が組み立て用部品に対して輸入割当制度を導入。さらに新型コロナ禍の逆風を受け、2020年にわずか754台まで生産が激減。その後、若干持ち直したとは言え、低迷が続いた。2023年は、2,456台(同11.4%減)だった。

アフリカ主要国の自動車生産は、新型コロナが発生した2020年にそろって落ち込んだ。ただしその後、南アとモロッコは復調を続けている。

図2:アフリカ主要国の国別自動車組立・生産台数推移
2019年から2023年のアフリカ主要国の自動車の生産台数をみると、モロッコと南アでは2020年は大幅に減少したが、2021年以降は増加傾向だ。エジプトとアルジェリアは増加と減少を切り返している。

出所:OICA、AMIC

現地生産が進む可能性も

一般論として、アフリカで自動車生産するハードルは高い。インフラが未整備であり、工業化が進んでいないなどの要因があるためだ。アフリカに進出している日系自動車メーカーからも、「現地産業の発展状況から、部品や原材料の現地調達が難しい」との声が聞かれる。また、ジェトロの「2023年度 海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」によると、各国政府から進出に関する法人税免税措置などのインセンティブを受けたことがないとする回答が61.5%にのぼる。外国企業誘致のための進出支援・インセンティブ供与を表明している国もあるにはある。しかし現実には、支援が乏しいのが実情だ。

一方で、アフリカでの自動車市場規模は、拡大していく可能性がある。世界経済フォーラムによると、2021年時点でアフリカ全体を合わせ、304億ドル規模だった。もしアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)で域内貿易や工業化が進展すると、これが大きく伸びるという。具体的には、2027年に421億ドルまで成長する(約40%増)と予測した。しかし、AfCFTAの本格的な運用開始までには、まだ時間がかかると考えられる。物品貿易規定に関しては、2024年2月時点で譲許表を審査中。また、原産地規則に関してはなおも交渉中だ。いまだ、いくつかの国での試験的なプログラムが実施されている状況である。

アフリカ開発銀行(AfDB)による工業化に関する2021年時点の報告書では、アフリカで工業化が数んでいる順は次のとおり。

  • 1位:南ア
  • 2位:モロッコ
  • 3位:エジプト
  • 4位:チュニジア
  • 5位:モーリシャス
  • 6位:エスワティニ
  • 7位:セネガル
  • 8位:ナイジェリア
  • 9位:ケニア
  • 10位:ナミビア

アフリカでの日系自動車工場数は20カ所に

日本企業の状況をみると、日本自動車工業会の「海外生産動向外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、アフリカでは、日本ブランド車の生産は、1995年に初めて20万台を突破し、2006年に過去最多の25万9,050台となった。一方、その後、地域情勢や新型コロナの影響等により、20万台を下回る年もあったが、2023年は23万1,050台まで回復した。アフリカでの日系自動車メーカーの生産工場数は20カ所であり、国別では次のとおり。

  • 南ア:5カ所(トヨタ、日産、いすゞなど)
  • エジプト:5カ所(トヨタ、日産、いすゞ、スズキなど)
  • ケニア:4カ所(トヨタ、いすゞ、ホンダ、三菱自動車)
  • ガーナ:2カ所(トヨタ、日産)※ホンダなどが2024年から生産開始予定
  • ナイジェリア:2カ所(ホンダ、日産)
  • モロッコ:1カ所
  • アルジェリア:1カ所

※CKD(コンプリートノックダウン)、SKD(セミノックダウン)、OEMを含む

なお、南ア、モロッコ、エジプトやアルジェリアの自動車生産については、前述のとおりであるが、それ以外の国ついて、近年の状況を確認しておく。

  • ケニア
    2022年に、三菱自動車がピックアップの委託組み立てを開始。トヨタも、2023年にSUV(スポーツ用多目的車)の組立生産を開始した。また、いすゞは、塗装工場を新設している。
    一方で、ガソリン価格の高騰や高金利などが影響して販売が低迷している。そのため、2023年に組み立てられた車両は、3年ぶりに1万台を下回った。
  • ガーナ
    2022年に日産、2024年にホンダが、それぞれ現地で組立生産を開始した。また、スズキも2022年に豊田通商の子会社に委託して生産を開始するとした。
  • ナイジェリア
    ホンダが2015年にセダン、2019年から小型スポーツ用多目的車(SUV)の組立生産を始めた。

このように、自動車生産が先行している国に限らず、生産は少ないながらも日本車の現地生産が徐々に増える可能性もある。ただしその程度は、各国の経済情勢や工業化が現実にどこまで進むかによるところが大きいだろう。

日本の対アフリカ自動車輸出、コロナ禍減から回復

日本の財務省の貿易統計(確報値)によると2023年、日本の総輸出額は、約101兆8,817億円(前年比2.8%増)だった。自動車に限ると17兆2,652億円(同32.7%増)、台数は約600万台だった。

一方、日本からアフリカへの2023年の輸出額(全品目)は、1兆3,991億円(同10.0%増)。1985年以降で最大になった。さらにこれを自動車に絞ると、4,357億円(同11.8%増)。アフリカ向け輸出の31.1%を自動車が占めたことになる。なお台数は、45万6,122台(同11.0%増)になった。

自動車輸出について1988年以降の推移をみると、2000年代は金額、台数とも増加傾向だった。しかし2010年代以降は、増減を繰り返した。なお、2020年に落ち込んだのは、新型コロナ禍の影響が大きい。事実、2021年以降は、改めて増加傾向を示している。一方で、2008年の最高値を超えるまでには至っていない状況だ(図3参照)。

図3:日本からアフリカ向け輸出金額、台数推移
1988年から2023年の自動車の輸出金額と台数の推移をみると、2000年代までは増加傾向だったが、2010年代以降は減少と増加を繰り返している。2020年に急激な落ち込み、2021年以降は増加傾向になっている。一方、台数・金額ともに2008年の最高値を超えられていない。

出所:財務省貿易統計

日本からの輸出先上位は南ア、タンザニア、ケニア

日本の自動車輸出を国別に見ると首位は米国で、約150万台(5兆8,439億円)だった。片やアフリカで輸出台数最多だったのは(1)南アだ。9万9,405台(世界13位)を記録した。これに、(2)タンザニアの8万1,961台(同17位)、(3)ケニア6万7,187台(同21位)、(4)ナイジェリア3万4,911台(同32位)、(5)ウガンダ2万9,923台(同36位)が続いた。なお、バス・トラックに限ると、南アが世界4位(約4万台)、ナイジェリアが同9位(約1万8,000台)に付けている。

また自動車輸出金額をアフリカ国別に見ると、(1)南ア1,368億円、(2)ケニア758億円、(3)タンザニア466億円、(4)モーリシャス204億円、(5)エジプト198億円と続いた(表2参照)。

表2:2023年の日本からアフリカ向け国別自動車輸出金額・台数
順位 国名 金額(億円) 台数
1 南アフリカ共和国 1,368 99,405
2 ケニア 758 67,184
3 タンザニア 466 81,959
4 モーリシャス 204 11,156
5 エジプト 198 9,312
6 ウガンダ 187 29,923
7 ナイジェリア 150 34,911
8 ザンビア 113 23,611
9 コンゴ民主共和国 111 16,443
10 モロッコ 104 3,559
11 モザンビーク 86 16,781
12 ジンバブエ 60 10,372
13 コートジボワール 57 1,213
14 チュニジア 46 2,060
15 ジブチ 44 2,196
16 スーダン 37 1,399
17 ガーナ 37 7,509
18 リビア 33 879
19 南スーダン 33 2,069
20 マラウイ 30 6,100

出所:財務省貿易統計

また、日本ブランドでは、スズキがインドで生産した自動車をアフリカに輸出している他、トヨタがトルコで生産し北アフリカ諸国に輸出するケースなどもある。

中古車市場にも注目

日本の自動車メーカーは、アジア地域などで現地生産を進めている。これと比べると、アフリカ域内でそうした動きはあまり目立たない。対照的に、アフリカ向けビジネスで顕著なのは、中古車輸出だ。現地では実際、中古の日本車が数多く走っている。

財務省によると、日本からアフリカへの中古車輸出は2023年、29万2,779台(1,695億円)だった。国別には、(1)タンザニアが約7万台(世界5位/350億円)、(2)ケニア約5万6,000台(同7位/585億円)、(3)南ア約4万4,000台(同9位/127億円)と続く。特に(1)タンザニアと(2)ケニアでは、日本からの自動車輸出の大半を中古車が占めるのが特徴だ。

なお、日本からの中古車輸出を国別に見ると例年、アラブ首長国連邦(UAE)の存在が大きい。2023年は日本からの輸出台数で2位の約18万台を記録した。そのUAEは、アフリカへ日本製中古車・部品を再輸出する拠点になっているとも言われる(ジェトロ海外発トレンドレポート「アラブ首長国連邦における中古市場(中古自動車、古着)」参照)。アフリカでの日本車の存在感は、見かけ以上に大きい可能性もある。

一方、南アやエジプトなど、自動車を生産する国では、現地製造業の育成を支援するため、中古車輸入を規制する措置がしばしば取られる。仮に輸入自体が禁止されていない場合でも、年式(製造からの年数)の制限や、右ハンドル車(ないし左ハンドル車の公道走行規制を講じる国もある。その輸出には、留意が必要だろう。なお、ケニアやタンザニアは日本と同じく左側通行だ。

(参考:ジェトロ貿易・投資相談Q&A「中古車の輸入が制度上困難な国々」)

日本の自動車ブランドに人気

アフリカでは、日本車やドイツ車の人気が高い。南ア拠点の非営利団体が2023年7月に発表した「Brand Africa 100 2023」によると、全業種にわたる人気ブランドのうち、8位に付けたのがトヨタだった(前年も8位)。自動車ブランド限ると、トップに当たる。なお、このランキングで示された全業種上位100のうち、自動車ブランドは次の通り。なお、アフリカで電気自動車(EV)はまだあまり普及していないにもかかわらず、米国のテスラ(Tesla)が36位(前年35位)に付けたことも注目できるだろう。

  • 8位:トヨタ(前年8位、日本)
  • 15位:メルセデスベンツ(前年19位、ドイツ)
  • 25位:BMW(前年33位、ドイツ)
  • 36位:テスラ(前年35位、米国)
  • 50位:フォード(前年60位、米国
  • 59位:日産(前年76位、日本)※Daciaブランドも含む
  • 91位:ランドローバー(前年100位圏外、英国)
  • 95位:アウディ(前年88位、ドイツ)
  • 98位:フォルクスワーゲン(前年100位圏外、ドイツ)

なお、アフリカでは乗用車の他、ハイラックスなどのピックアップトラックやハイエースなどのバン(ミニバン)なども人気である。

進出日系企業が当地自動車関連事業を有望視

日本企業は、アフリカにおける自動車関連事業に関心を示している。

ジェトロの「2023年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」では、アフリカに進出する日系企業を対象に事業実態などを聞いている。その結果によると、有望視するビジネス分野の質問(複数回答型式)に対し、「消費市場」とする回答が最多の47.7%になった。また、「消費市場」のうち「輸送機器(二輪、四輪)」が有望という回答が38.8%で2番目に多かった(図4参照)。

さらに、今後の有望ビジネス分野として、20.6%が「新産業」と回答。そのうち42.5%が「電気自動車(EV)」と回答した。一部の日本企業は、EVを有望と見込んでいる様子だ。

関連して、インフラ分野で「道路」関連のビジネスも有望視されている。アフリカでは、サハラ砂漠やジャングルやサバンナなどが占める面積が広い。都市部でさえ、未舗装な地域が多い。今後、道路整備が整うと、自動車普及に弾みがつくと考えられる。

図4:アフリカ進出日系企業が有望視するビジネス分野(複数回答)
消費市場が47.7%で首位、資源エネルギーが42.7%で2位、インフラが38.1%で3位だ。また、20.6%が新産業を有望視すると回答した。
消費市場(複数回答)
食品が62.2%、輸送機器(二輪、4輪)が38.8%、生活用品が33.7%との回答だった。
インフラ(複数回答)
電力が61.8%、道路が50.0%、水が44.7%との回答だった。
新産業(複数回答)
スマート農業が60.0%、IoTが42.5%、電気自動車(EV)が42.5%との回答だった。

出所:ジェトロ2023年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)

EV化未了ながら、将来的な注目点も

既に触れたとおり、EVを有望視する声もある。しかし、特にサブサハラ・アフリカでは、困難も多いのが実情だ(現状、6億人が電力にアクセスできていない。EV用充電設備も当然、不足している)。その普及には、まだ時間がかかると言わざるを得ない。国際エネルギー機関(IEA)によると、2023年の世界のEV販売台数は約1,400万台。前年比35%増と大きく伸び、当年の新車販売全体に占める構成比が18%に達した。一方、アフリカでは、構成比1%未満にとどまった。

もっとも、EV普及に向けて地ならしを試みる国もある。ケニアがその一例で、政府はEV推進に向けて政策・法制度を整備している。EVの現地生産を期したり、充電設備などのインフラを整えたりすることが、その狙いだ。ケニアの国家交通安全局(NTSA)によると2023年、EVの新規登録は2,694台だった。これは、前年の約5.7倍に当たる。また二輪車に限ると、2023年時点での全登録数のうち電動の比率が3.35%にまで拡大したという。

また、国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、アフリカでは、コバルト、マンガン、天然グラファイト、銅、ニッケルなど、EV製造に利用される重要鉱物の埋蔵量が多い。すなわち資源面では、EV産業にとってアフリカが重要ということになる。

現実に企業が動いた例もある。例えば、中国のリチウムイオン電池製造大手、国軒高科(Gotion High-Tech)は自動車向け電池工場の開設に関し、モロッコ政府と覚書を締結済みだ(2024年5月発表)。

都市部でライドシェアが普及

アフリカの1人当たりGDPは2,003ドル。貧困のイメージも強い。しかしインターネットを利用したサービスは、意外と進展している面がある。例えば携帯端末での決済は、都市部を中心に普及している。

同様に、配車サービスも広がりを見せている。その背景には、アフリカの都市では、しばしば効率的な公共交通システムが整備されていない事情もある。

当地で有力なライドシェア企業としては、「Bolt」がある。その事業展開先は、カメルーン、エジプト、ガーナ、ケニア、マリ、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、南ア、チュニジア、ウガンダ、タンザニア、ザンビア、ジンバブエの14カ国に及ぶ。世界的に著名な「Uber」も、コートジボワール、エジプト、ガーナ、ケニア、ナイジェリア、南ア、タンザニア、ウガンダの8カ国で事業を進めている。

アフリカを含め発展途上国では、乗用車が買えない低所得層も厚い。その結果、ミニバン(場合によってはバス)などが市民の足として利用されることになる。その事業者例としては、次のようなものがある。

  • スエフル(Swvl)
    小型バンによるライドシェア事業を展開する。なお同社は、もともとエジプト発企業。その後、ドバイ(UAE)に本社を移転し、米国の株式市場に上場した。
  • シャトラーズ(Shuttlers)
    ナイジェリア発の企業。バスによるライドシェアを提供している。

このほか、アフリカでは、トラック物流や、医療輸送(救急車など)でも、ライドシェアサービスが見られる。


バンが利用される様子/エジプトで
(ジェトロ撮影)

ピックアップトラックでの輸送/エジプトで
(ジェトロ撮影)

人口増・経済成長で中長期的に需要拡大か

アフリカ大陸には54カ国あり、これまで見てきたとおり各国によって状況が異なる。進出・販売先国を検討するには、経済面だけでなく、地政学的なリスクも考慮する必要があるだろう。また、前述の海外進出日系企業実態調査によると、投資環境について、「規制・法例制度の整備、運用」が課題と答えた企業が多いことにも留意すべきだ。

なお、2023年で、人口規模で見るとアフリカには人口3,000万人以上の国が15カ国ある。また、一般に自動車の普及は一人当たりGDPが3,000ドルに達してから進むと言われるが、アフリカにはこの水準を超える国も15カ国ある。一方、人口3,000万人以上で、かつ、一人当たりGDPが3,000ドルの国は、現時点では南ア、アルジェリア、モロッコ、エジプトの4カ国に限られる(表3参照)。しかし、アフリカでは人口が急増しており、また、それに伴って経済も成長すると見込まれる。

  • 人口の増加
    人口は、特にウガンダ、コンゴ民主共和国、タンザニア、アンゴラ、コートジボワールなどで大きく伸びるとの予測だ。 国連によると、アフリカ全体の人口は、2022年時点の約14億人。2030年には約17億人、2050年で約25億人になる。その結果、世界人口に占める割合も、2022年の17.7%が、2030年までには20%を超える。さらに2050年には25.4%と、1/4を超える見込みだ。
  • 経済成長
    アフリカ開発銀行は、アフリカの経済成長率を2024年に3.8%、2025年に4.2%と予測。世界平均を上回る見方を示した。
表3:アフリカの人口上位国と一人当たりGDP
人口順 国名 人口
(万人)
人口増加率
(年率%)
1人あたり
GDP(ドル)
2023年(推計) 2029年(予測) 2023~2029年 2023年(推計)
1 ナイジェリア 22,218 25,686 2.6 1,688
2 エチオピア 10,571 11,627 1.7 1,511
3 エジプト 10,567 11,900 2.1 3,728
4 コンゴ民主共和国 9,995 12,114 3.5 673
5 タンザニア 6,334 7,555 3.2 1,254
6 南ア 6,153 6,738 1.6 6,138
7 ケニア 5,154 5,704 1.8 2,113
8 スーダン 4,790 5,587 2.8 537
9 アルジェリア 4,597 4,959 1.3 5,324
10 ウガンダ 4,548 5,590 3.8 1,139
11 モロッコ 3,702 3,902 0.9 3,889
12 アンゴラ 3,678 4,392 3.2 2,566
13 モザンビーク 3,390 3,988 2.9 630
14 ガーナ 3,290 3,828 2.7 2,318
15 コートジボワール 3,109 3,683 3.1 2,572
参考 インドネシア 27,743 29,190 0.9 4,942
フィリピン 11,289 12,036 1.1 3,868

出所:IMF

こうしたことから、将来的には自動車の需要拡大が予測される。少なくとも中長期的に進出・販売を検討すべき市場といえる。

なお、地域・分析レポートでは、アフリカ主要国ごとの状況を個別に報告している。現在提供している記事としては次の通りだ。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。