新車・中古車登録台数は減少傾向続くも、生産台数は増加(ハンガリー)

2024年7月2日

ハンガリーの2023年の乗用車(新車)新規登録台数は前年比で3.4%減少、中古乗用車の新規登録台数も16.2%減少した。電気自動車(EV、本稿ではハイブリッド車を含む)の新規登録台数は8.2%増となった。また、国内大手自動車メーカー3社(アウディ、メルセデス・ベンツ、マジャールスズキ)による生産台数は引き続き増加し、前年より13.3%増となった。

新車登録台数は減少

ハンガリーの民間調査会社データハウスによると、2023年の乗用車新車登録台数は10万7,720台にとどまり、2022年の11万1,540台を3.4%下回った。ハンガリー自動車輸入業者協会(MGE)によると、2023年のハンガリー乗用車市場の縮小は、2023年前半のサプライチェーンの混乱による納期の遅れや高インフレに伴う価格上昇、金利の高さという環境が主な原因になったという。

日系メーカーが存在感示す

乗用車の新車登録台数をブランド別にみると(表1参照)、トヨタが首位で1万4,223台(前年比7.2%増)、7年間連続で首位だったスズキが2位に後退して1万2,167台(12.2%減)と、日系メーカー2社が牽引したが、2022年は6位だったシュコダが1万916台(57.8%増)と猛追し、3位になった。2022年9月からハンガリーで販売を開始した中国系ブランドのMGがコストパフォーマンスの高さを生かし、1,528台(5.2倍)と大きく躍進した。

表1:ハンガリーでの新車登録台数(メーカー・ブランド別、2023年)(単位:台数、%)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 台数 シェア 前年比
1 トヨタ自動車 14,223 13.2 7.2
2 スズキ 12,167 11.3 △12.2
3 シュコダ 10,916 10.1 57.8
4 フォルクスワーゲン(VW) 8,803 8.2 △14.6
5 起亜自動車 6,590 6.1 △19.0
6 フォード 5,950 5.5 △30.1
7 BMW 5,244 4.9 9.6
8 メルセデス・ベンツ 4,626 4.3 △19.6
9 ダチア 4,186 3.9 △31.6
10 オペル 3,799 3.5 △10.2
合計 (その他含む) 107,720 100.0 △3.4

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

新車登録台数をモデル別にみると、スズキ「S-Cross」が5,936台で、依然として首位を守り、2位はシュコダ「オクタビア」の5,608台、3位はスズキ「ビターラ」の4,979台だった。トヨタ自動車の人気の2モデルでは、「カローラ」が4位の3,238台、「ヤリス クロス」が7位の2,139台だった。トップ10にはトヨタの「C-HR」と「ヤリス」もランクインし、上位10モデルのうち4モデルがトヨタ車だったことからも、その人気ぶりがうかがえる。

乗用車新車登録台数が4年ぶりに中古車登録数を上回る

2023年の乗用車の中古車登録台数は10万5,662台で、2022年の12万6,094台(2023年10月11日付地域・分析レポート参照)から16.2%減少した。新車登録台数が中古車登録台数を上回ったのは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で乗用車市場が縮小し始めた2020年以降で初めて(図参照)。

図:乗用車登録台数の推移(新車、中古車)
新車は、2012年5万3,059台、2013年5万6,139台、2014年6万7,476台、2015年7万7,171台、2016年9万6,555台、2017年11万6,265台、2018年13万6,601台、2019年15万7,906台、2020年12万8,030台、2021年12万1,920台、2022年11万1,524台、2023年10万7,720台。中古車は2012年5万3,533台、2013年7万700台、2014年9万6,747台、2015年12万2,620台、2016年14万2,002台、2017年15万5,414台、2018年15万8,790台、2019年15万6,475台、2020年13万430台、2021年13万2,205台、2022年12万6,094台、2023年10万5,662台。

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

新車の新規登録台数の減少幅が縮小したことで、新車が中古車を上回ったという2023年のトレンドの変化について、中古車オンラインポータル「ヨーアウト―ク」(joautok.hu、2024年1月4日)のハラース・ベルタラン最高経営責任者(CEO)は「さまざまな要因が重なった結果だと考えている。経済的に困難な状況が西欧の乗用車市場での中古車への関心を高め、中古車の価格を押し上げた」とコメントした。

中古乗用車の新規登録台数をブランド別にみると、2023年もフォルクスワーゲン(VW、1万3,703台、前年比9.6%減)が首位を堅持した(表2参照)。2022年は3位だったフォード(9,496台、12.6%減)はオペル(9,283台、25.8%減)を抜いて2位に浮上した。

表2:メーカー・ブランド別の中古車登録台数(上位10メーカー・ブランド、2023年) (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 ブランド 台数 シェア 前年比
1 フォルクスワーゲン(VW) 13,703 13.0 △9.6
2 フォード 9,496 9.0 △12.6
3 オペル 9,283 8.8 △25.8
4 アウディ 7,293 6.9 △1.0
5 メルセデス・ベンツ 6,326 6.0 △1.5
6 BMW 5,937 5.6 △13.3
7 トヨタ自動車 5,343 5.1 △26.8
8 現代自動車 4,699 4.5 △28.1
9 起亜自動車 3,819 3.6 △26.5
10 本田技研工業 3,525 3.3 △22.3
合計 (その他含む) 105,662 100.0 △16.2

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

EVの販売は好調

欧州自動車工業会(ACEA)のデータによると、EVの勢いは止まらず、2023年のバッテリー式電気自動車(BEV)の乗用車新車登録台数は前年比23.1%増の5,799台、プラグインハイブリッド車(PHEV)は13.7%増の5,542台となった(表3参照)。MGEは、BEVとPHEVを合わせると乗用車新車登録台数の10.5%を占め、EU加盟国の中ではいまだに低いものの、中・東欧地域としては十分な数字を達成したと評価した。またMGEは、ハンガリーのEV市場は1月に発表された国の補助金によって2024年にさらに大きく成長すると予測している(2024年1月16日付ビジネス短信参照)。

表3:ハンガリーでのEVの新車登録台数の推移(2020~2023年) (単位:台、%)(△はマイナス値)
EVの種類 2020年 前年比 2021年 前年比 2022年 前年比 2023年 前年比
充電可能なEVの合計 6,042 105.6 8,548 41.5 9,585 12.1 11,341 18.3
階層レベル2の項目バッテリー式電気自動車(BEV) 3,046 66.2 4,312 41.6 4,709 9.2 5,799 23.1
階層レベル2の項目プラグインハイブリッド車(PHEV、注1) 2,996 170.9 4,236 41.4 4,876 15.1 5,542 13.7
ハイブリッド車(HEV、注2) 31,772 246.5 48,145 51.5 42,498 △ 11.7 45,022 5.9
EV合計 37,814 212.3 56,693 49.9 52,083 △ 8.1 56,363 8.2

注1:レンジエクステンダー自動車(EREV)を含む。EREVとは、エンジンを走行用ではなく発電用に搭載しているPHEV。走行には電気モーターを利用する。通常のPHEVより、航続距離が長くなる。
注2:マイルドハイブリッド車(MHEV)を含む。
出所:ACEAの資料を基にジェトロ作成

EVの新車登録台数をモデル別にみると、テスラの「モデルY」が首位、「モデル3」が2位と、同社のモデルが人気を博した(表4参照)。

表4:モデル別EV新車登録台数(上位10モデル、2023年)(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 モデル 台数 前年比
1 テスラ・モデルY 839 358.5
2 テスラ・モデル3 379 △4.5
3 起亜 ニロEV 244 △36.8
4 BMW iX3 231 97.4
5 フォルクスワーゲンID.3 227 254.7
6 BMW i4 215 144.3
7 BMW iX 208 24.6
8 シュコダ・エ二ヤック 163 △20.1
9 フォルクスワーゲンID.4 163 61.4
10 ダチア・スプリング 160 △58.5

出所:「ベゼシュ」ニュース(vezess.hu)の2024年1月6日付記事 ”Nem vásárol új villanyautót a vidéki Magyarország外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ”を基にジェトロ作成

乗用車生産台数は2年連続で増加

自動車生産はハンガリー産業の重要な柱である。ハンガリーの製造業生産額に占める輸送機器の金額の割合は過去10年間、新型コロナ危機後の2年間(2021年および2022年)を除いて、常に製造業生産額の4分の1を上回ってきた(2023年には26.3%)。

ACEAによると、2023年のハンガリーでの乗用車生産台数は50万4,907台で、2022年の45万2,551台を11.6%上回ったが、依然として新型コロナ禍前の水準(2019年:52万4,348台)を下回っている。

メーカー・ブランド別では、アウディが17万7,775台(前年比3.9%増)で前年に続き首位、メルセデス・ベンツが2位、マジャールスズキが3位と続き(それぞれ14.5%増、24.3%増)、3メーカーともに前年を上回った(表5参照)。

表5:メーカー・ブランド・モデル別生産台数(2019~2023年)(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
車種・モデル 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 前年比
アウディ・ハンガリア  164,817 155,157 171,015 171,134 177,775 3.9
階層レベル2の項目Q3 120,230 94,659 102,833 98,665 94,283 △4.4
階層レベル2の項目Q3 スポーツバック 15,300 47,232 59,693 64,343 73,806 14.7
階層レベル2の項目TT クーペ 11,791 6,793 6,534 6,291 6,850 8.9
階層レベル2の項目TT ロードスター 3,208 1,853 1,955 1,835 2,681 46.1
階層レベル2の項目A3 カブリオレ 7,302 4,620 (生産なし) (生産なし) (生産なし)
階層レベル2の項目A3 リムジン 6,986 (生産なし) (生産なし) (生産なし) (生産なし)
メルセデス・ベンツ
(CLAクーペ、CLAシューティングブレーク、Aクラス、EQB )(注1)
190,000 160,000 138,000 152,000 174,000 14.5
マジャールスズキ
(ビターラ、S-Cross)
168,774 112,475 107,974 129,022 160,338 24.3
合計(注2) 523,591 427,632 416,989 452,156 512,113 13.3

注1:メルセデス・ベンツの生産台数は概数。
注2:「合計」は各社発表の生産台数の合計であるため、ACEAの発表とは一致しない。
出所:各社発表からジェトロ作成

大手メーカーによる新たな投資で進むEVシフト

世界的にEV生産への移行が進む中、ハンガリーには継続的に同分野への投資が行われており、ますます重要な役割を果たすことが予想される。

ハンガリーに生産拠点を持つ主要メーカーのうち、マジャールスズキは、2020年から欧州市場向けにはハイブリッド車のみを生産している。スズキグループは、各国・地域が掲げる政策目標に基づき、工場と製品ポートフォリオをカーボン・ニュートラルにするとし、欧州では2050年までに達成することを目指している。

ドイツメーカーは、徐々にEVシフトを進めている。アウディ・ハンガリアのジェール工場はVWグループ最大の駆動装置・エンジン生産拠点で、2023年には166万425基の駆動装置・エンジンを生産し、そのうち11万4,058基が電動車用駆動装置で、前年の10万8,097基に比べ5.5%の増加であった。完成車については、2023年の全生産台数17万7,775台のうち、電気自動車(PHEVおよびMHEVの「Q3」「Q3スポーツバック」)が2万9,972台で全体の約17%を占めた。オール・エレクトリック(完全電動式)・モデルは2029年に生産開始の予定である。

メルセデス・ベンツの2023年の生産台数は17万4,000台超となり、前年の15万2,000台から14.5%増加した。同生産においては、2020年からPHEVが、2021年から初の完全電動式モデルが加わっている(2020年8月6日付ビジネス短信参照)。同モデルに必要な高電圧バッテリーを生産するための組立工場も設置される予定で、2020年代半ばに準備が整う予定である。

BMWは現在、ハンガリー東部のデブレツェン市に新工場を建設中で、2025年から、完全電動式の新モデル(ノイエ・クラッセ)を生産予定である。年間15万台の自動車生産能力に加え、敷地内にバッテリー組立工場を持つことになる。

ハンガリーは、上述のドイツメーカー3社のe-モビリティ戦略において重要な位置を占めており、同3社がそろって生産拠点を置く国は、ドイツのほか、中国とハンガリーのみとなっている。

さらに、中国のEV大手の比亜迪(BYD)は、2023年12月にハンガリー南東部の都市セゲドに欧州初のEV組立工場を建設すると発表した(2024年1月4日付ビジネス短信参照)。世界のEV産業の転換期におけるハンガリーの役割はさらに高まることが予想される。

バッテリー生産における役割も増大

ハンガリー政府は、国家バッテリー産業戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.0MB)の中で、ハンガリーを欧州のバッテリー・バリューチェーンの中核にすることを主な目標としている。積極的な外資誘致策が奏功し、EVのサプライチェーンは継続的に構築されている。

近年では、韓国のSKイノベーションやサムスンSDIなど、複数の大手バッテリーメーカーがハンガリーでの生産能力増強・拡張計画を発表している。注目すべきは、2022年8月に中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が、BMWのデブレツェン工場の隣接地に73億4,000万ユーロという記録的な投資を行うことを発表したことである。

政府は、2030年までにハンガリーが世界第4位、EUではドイツに次ぐ第2位のバッテリー生産国になることを期待している。

執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ
2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。