消費低迷下で沸騰する中国ペットビジネス

2024年4月10日

中国国家統計局によると、2024年2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.7%上昇した。2023年8月以来6カ月ぶりのプラスだが、本格的な消費回復には程遠い。消費低迷下の中国で、唯一気を吐くといってもよいのがペットビジネスだ。その現状を紹介する。

犬の飼育頭数が年々減少する日本

日本における犬の飼育頭数が年々減少していることをご存じだろうか。一般社団法人ペットフード協会「令和5年全国犬猫飼育実態調査」によると、2023年時点の犬の飼育頭数は約684万頭であり、10年前の2013年と比較して187万頭(21.5%減)ほど減少している。2023年時点の猫の飼育頭数は約907万頭で横ばい傾向にあるが、犬と猫を合算したペット飼育頭数は減少の一途をたどっている。減少の要因として、少子高齢化や出生率の低下に伴う人口減少、法改正によるブリーダーの減少、飼育費用の上昇などが挙げられる。

幸いにも、業界全体が新たな価値と使用機会を創造するなど不断の努力によって、小売りベースでペットフードやペットトイレタリー製品市場は右肩上がりの成長を継続できているが、長い目で見ると、国内市場の一本足打法ではリスクが高いため、海外市場に目を向けざるを得ない。

急拡大する世界ペット市場

2022年の世界ペットケア市場規模(保険・トリミング・ペットホテルなどのサービスや処方薬、生体の販売金額を含まない)は1,687億ドルで、10年前と比較して1.9倍に成長している。今後5年のCAGR(年平均成長率)では、インドネシア、インド、タイ、中国の順番で成長率が高いと予測される(注1)。

今後、市場が急拡大すると見込まれている東南アジアのペット市場については、農水省「令和4年度輸出環境整備推進委託事業(ペットフードの輸出に係る市場及び規制調査)」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.05MB)で、フィリピンとインドネシアにおけるペットの飼育実態や市場規模などに触れている。

中国では若者を中心に空前のペットブーム

2023年国際ペット業ハイレベルフォーラムの発表によると、コロナ禍で急成長した中国のペット産業市場規模は2023年で2,500億元(約5兆2,500億円、1元=約21円)といわれており、直近5年間のCAGRは13.1%を超える。ペット市場のうち、ペットフード・用品が過半を占め、ペット医療が30%、ペットサービスが16%と続く。

2023年の予測値では、中国における犬猫の飼育頭数は計1億9,000万頭、うち犬が約8,800万頭、猫が約1億頭となる見込みだ。犬猫の飼育頭数はすでに日本の約12倍で、さらに今後5年間で2億1,000万頭に達すると見込まれている。

飼育者の多い属性としては、「一線・新一線都市(注2)に在住」「女性」「若者」「中~高収入」などが挙げられる。実際に、都市部では至る所で散歩中の犬を見かけ、筆者の周囲でも最近猫を飼い始めたという話も多く聞く。ペット帯同可能なペットフレンドリーの商業施設が増え、週末になると多くの商業エリアで消費者向けのペットイベントが開催され、ペット専門展示会ではあふれかえる来場者が目立つ。WeChatや小紅書(RED)、抖音(TikTok)などをはじめとするSNS上でも、ペットに関する投稿が人気だ。

安心安全で、豊富な品ぞろえの日本商品

急拡大する中国ペット市場は、日本企業にとってもビジネスチャンス到来といえるだろう。例えば日本産ペットフードについては、安心安全な製品、プレミアム製品、用途別製品への需要が見込める。実際に犬のシニアフードセグメントでは、10歳以上用、13歳以上用、15歳以上用というようにシニア期を細分化した商品が開発されており、犬よりも平均寿命が長い猫用には20歳以上用の商品も開発されている。

一般社団法人ペットフード協会によると、2022年の日本の犬の平均年齢は7.53歳、猫は6.7歳となっている。一方、2022年の中国での平均年齢は、犬4.4歳、猫3.4歳と、日本の平均年齢よりもはるかに低い。中国のペット市場は近年急成長したため、シニア世代のペットのニーズに細かく対応した商品の種類は比較的少ないとみられる。

また、日米中の犬の飼育環境を比較すると、犬を「ほぼ室内で飼育している」と答えた比率は、米国は2割程度であるのに対し、日本と中国はともに6割以上(日本61.4%、中国65.0%)である。サイズを比較すると、「超小型犬」と「小型犬」の比率が米国では47.6%なのに対し、日本では76.6%、中国では57.3%となっている。日本と中国は犬の飼育環境とサイズが近いことから、米国などの他国商品に比べ、日本のペットフードと関連用品はともに中国ペット市場のニーズに対してきめ細やかに対応できると見られる。


20歳以上の猫にも対応した商品(ペットフード協会提供)

日本商品に対する中国消費者の反応

日本のペットフード・用品に対して、中国の消費者はどう評価しているのか。ジェトロ北京事務所がペット専門展示会「2024ペットフェアアジア 北京展」(2024年3月19日付ビジネス短信参照)で、ジェトロブース来場者向けにアンケート調査を行った結果、日本商品は高い評価を受けており、ペットオーナーの消費水準も高額になりつつあることが分かった。

まず、アンケートの回答者の属性を見ると、女性の比率が7割以上(表1参照)、40歳以下の比較的若い層が約8割(表2参照)となっている。

表1:回答者の属性(性別)
性別 回答数 比率
194 20.3%
704 73.6%
未回答 58 6.1%

注:回答者数:956名。
出所:『2024ペットフェアアジア 北京展』ジェトロブース来場者向けアンケート

表2:回答者の属性(年齢)
年齢 回答数 比率
18歳未満 39 4.1%
18~25歳 211 22.1%
26~30歳 273 28.6%
31~40歳 232 24.3%
41~50歳 108 11.3%
51~60歳 65 6.8%
60歳以上 28 2.9%

注:回答者数:956名。
出所:『2024ペットフェアアジア 北京展』ジェトロブース来場者向けアンケート

日本商品の購入意向を聞く設問では、「好みの商品があれば価格は気にしない」(53.2%)、「価格が同じくらいであれば日本商品を買うことがある」(34.8%)と、日本商品に対する厚い信頼がうかがえる(表3参照)。

表3:日本商品の購入意向
購入意向(複数回答可) 回答数 比率
好みの商品があれば価格は気にしない 509 53.2%
価格が同じ位であれば⽇本商品を買うことがある 333 34.8%
価格が安ければ⽇本商品を買うことがある 200 20.9%
他に買える商品が無ければ⽇本商品を買うかも 66 6.9%
⽇本商品を買う意向は無い 34 3.6%

注:回答者数:956名。
出所:『2024ペットフェアアジア 北京展』ジェトロブース来場者向けアンケート

日本商品の購入チャネルでは、総合EC(電子商取引)サイト71.8%、越境ECサイト34.1%、SNS・ショートムービー11.0%と、オンラインの購入チャネルが圧倒的に多い(表4参照)。リアル店舗での購入は14.2%にとどまった。大都市を中心にペットショップが急増しているが、店舗数・面積ともに小さい。ただし、ペット帯同でペットショップを訪れ、商品を手に取って吟味する中国の消費者が増えているため、購入チャンネルとしての重要性は今後増していくだろう。

表4:⽇本商品の購⼊チャネル
購入チャネル(複数回答可) 回答数 比率
総合ECサイト(例:淘宝、京東) 686 71.8%
越境ECサイト(例:天猫国際) 326 34.1%
代理購買 137 14.3%
ペットショップ等リアル店舗 136 14.2%
SNS、ショートムービー(例:抖⾳) 105 11.0%
市内免税店 76 7.9%
海外旅⾏時に購⼊ 60 6.3%
⽇本商品の購⼊機会は無い 19 2.0%
その他 22 2.3%

注:回答者数:956名。
出所:『2024ペットフェアアジア 北京展』ジェトロブース来場者向けアンケート

ECチャネル別では、淘宝(タオバオ)・天猫(Tmall)76.2%、京東(JD)40.9%、抖音(TikTok)17.1%、拼多多(Pinduoduo)14.9%、小紅書(RED)13.5%、社交電商5.0%となっている(表5参照)。ペット商品に限らず、日本企業は総じて、従来の「検索型EC」の淘宝・天猫と京東での販路構築に成功しているが、近年の台頭が著しい「趣味嗜好(しこう)型EC」の抖音や小紅書、社交電商における販路構築と各種マーケティング施策については、十分とは言えない。

表5:⽇本商品を購⼊する際に利⽤する EC チャネル
ECチャネル(複数回答可) 回答数 比率
淘宝、天猫(タオバオ、Tmall) 728 76.2%
京東 (JD) 391 40.9%
抖音(TikTok) 163 17.1%
拼多多(Pinduoduo) 142 14.9%
小紅書(RED) 129 13.5%
社交電商 48 5.0%
美団 30 3.1%
その他 18 1.9%

注:回答者数:956名。
出所:『2024ペットフェアアジア 北京展』ジェトロブース来場者向けアンケート

現在飼育中のペット数を見ると、中国では多頭飼いが半数程度で、日本の比率3割程度よりも高い(表6参照)。

表6:現在飼育中のペット数
飼育頭数 回答数 比率
0頭 7 1.3%
1頭 270 50.5%
2頭 135 25.2%
3頭 47 8.8%
4頭以上 76 14.2%

注:回答者数:535名。
出所:『2024ペットフェアアジア 北京展』ジェトロブース来場者向けアンケート

消費水準を見ると、毎月ペットに費やす金額について、200~299元(約4,200~6,280円、1元=約21円)と回答した割合は17.9%、300~499元と回答した割合は18.7%となった。一方、500元以上と回答した割合は48.5%にのぼり、多額の消費をする消費者も増えてきている(表7参照)。

表7:毎月ペットに費やす金額
金額 回答数 比率
0元 9 1.7%
1~99元 16 3.0%
100~199元 54 10.1%
200~299元 96 17.9%
300~499元 100 18.7%
500~999元 127 23.7%
1,000~1,999元 77 14.4%
2,000~4,999元 36 6.7%
5,000元以上 20 3.7%

注:回答者数:535名。
出所:『2024ペットフェアアジア 北京展』ジェトロブース来場者向けアンケート

輸入手続きに課題、中国産との競争激化

中国では海外産ペットフードの輸入に際し、農業農村部(MARA)の飼料輸入登録証明書と、海関総署(GACC)の輸入許可・工場登録が必要であるが、観賞魚用飼料を除き、日本産ペットフードの輸入が現状認可されていない。現状、中国で輸入可能なのは、米国とタイなどの20カ国・地域に限定されているため、一部の日本企業は、中国側が指定するタイ工場で生産したペットフードを中国向けに輸出している。

前述の輸入手続き面の課題に加え、中国ローカル企業の台頭により、競争が激化している。中国のペットケア市場のブランドシェアトップ10のうち、半数が中国ローカルブランドである(注3)。そのうち「FaPure&Natural(伯納天純)」は、2022年に低温調理ドライフードを販売開始し、その他にも多くのプレミアムコンセプトを打ち出している(注1)。中国ローカルブランドは品質向上が著しい。

中国におけるジェトロサービスの紹介

急拡大する世界ペット市場に対し、ジェトロでは2023年から中国で初となるペット関連のサービスを開始した。リアルとオンラインのツールを連動させ、BtoBとBtoCの両面で各種サービスを提供してきた(図参照)。いずれも無料サービスであるため、2024年度はさらなる多くの日本企業に利用してもらうことで、日本企業の中国販路開拓に貢献したい(表8参照)。

(1)BtoB×リアル

中国各地の主要なペット専門展示会にジェトロブースを出展し、リアルでのビジネスマッチングをサポート。

(2)BtoB×オンライン

ジェトロが運営するオンラインマッチングプラットフォーム「China Japan Street」に商品情報を掲載し、365日のオンラインでのビジネスマッチングをサポート。

(3)BtoC×リアル

中国各地の商業施設やペットショップにおいて、消費者向けプロモーションイベントを行い、消費者にリアルで商品の魅力を体験してもらうことでEC販売につなげる。

(4)BtoC×オンライン

ジェトロが運営するSNS(小紅書)アカウントを活用して、消費者向けに商品情報を発信する。また、商品モニター企画を通じて、商品サンプルを複数インフルエンサーに提供し、使用感想をSNS上で拡散してもらうことで、商品・ブランドのさらなる露出増につなげる。

図:中国におけるジェトロのサービスメニューのイメージ図
ジェトロではリアルとオンラインを連動させ、BtoBとBtoCの双方で様々なサービスを提供しています。リアル×BtoBとして、展示会及び商談会の実施を通じてビジネスマッチングを促進しています。リアル×BtoCとして、消費者向けにEC販促を行っています。オンライン×BtoBとして、ジェトロが運営するChina Japan Street(CJS)というオンライン商品データベースを通じて、オンラインビジネスマッチングを促進しています。オンライン×BtoCとして、ジェトロが運営する各種SNSアカウントを通じて日本商品・ブランドの情報発信や各種イベントの案内を行っています。

出所:ジェトロ作成

表8:中国におけるジェトロのペット関連サービス一覧(2023年度・2024年度)
時期 都市 イベント名 区分
2023年5月 上海 TOPS展 BtoB
2023年8月 上海 ペットフェアアジア BtoB
2023年11月 上海 中国国際輸入博覧会 BtoB
2024年2~3月 上海 ペットショップでのPOPUP BtoC
2024年2~3月 上海 商業施設でのPOPUP BtoC
2024年3月 北京 ペットフェアアジア BtoB
2024年4月 上海 TOPS展 BtoB
2024年5月 成都 TABO Chill BtoC
2024年6月 杭州 TABO Chill BtoC
2024年8月 上海 ペットフェアアジア BtoB
2024年9月 北京 TABO Chill BtoC
2024年10月 上海 TABO Chill BtoC
2024年11月 深セン ペットフェアアジア BtoB
2025年3月 北京 ペットフェアアジア BtoB
通年 複数都市 ペットショップあるいは商業施設でのPOPUP BtoC
通年 オンライン China Japan Streetでのオンラインマッチング BtoB
通年 オンライン ジェトロSNSアカウントでの商品紹介 BtoC

BtoB×リアル】ペット専門展示会「ペットフェアアジア上海」でのジェトロブース(ジェトロ撮影)


【BtoC×リアル】消費者向けペットイベント「TABO Chill上海」(主催者提供)

【BtoC×リアル】上海ペットショップ「電力寵物百貨」でのジェトロPOPUPイベント(ジェトロ撮影)

【BtoB×オンライン】ジェトロが運営する「China Japan Street」でのオンラインマッチング(ジェトロ撮影)

【BtoC×オンライン】ジェトロが運営するSNS(小紅書)アカウントでのペットフード・商品の紹介
(ジェトロ撮影)

業界団体と連携強化、東南アジアへの横展開

一般財団法人ペットフード協会は1969年に創立され、50年余りの歴史を持ち、日本のペット産業最大の業界団体である。国内でペットフードを製造または輸入販売する会員企業は94社(2024年1月1日時点)、日本で消費されるペットフードの90%以上が会員企業の商品である。ジェトロは2023年から同協会と連携して、下記の通り、中国輸入規制に関する情報収集や中国側関係者向けのロビー活動、同協会の会員企業向け中国販路開拓サポートなどを行っている。

  • 2023年8月、ペットフェアアジア(上海)への参加
  • 2023年11月、中国国際輸入博覧会(上海)への参加
  • 各種ネットワーク紹介(日中経済協会、中国大手EC「京東」、日中マスメディア、他の国・地域のジェトロ関係者など)

同協会と共に、日本最大のペット専門展示会「インターペット」を主催する一般財団法人日本ペット用品工業会とは今後連携して、ペットフード・用品の両方で、日本企業の中国販路開拓サポートを行っていく予定だ。

  • インターペット東京:2024年4月4日(木曜)~7日(日曜)、約550社が出展
  • インターペット大阪:2024年9月20日(金曜)~22日(日曜)、120社以上が出展

業界団体と連携強化し、今後、中国でさらなるサービス拡充を図りつつ、ペット市場が急成長している東南アジアへの横展開にもつなげていきたい。


注1:
ユーロモニターインターナショナル、ペットフード協会主催セミナー「躍進する世界のペットケア市場」の資料より引用。
注2:
「一線都市」には上海市、北京市、広州市、深セン市、「新一線都市」には成都市、杭州市、南京市、武漢市、天津市、西安市、重慶市、青島市、瀋陽市、長沙市、大連市、アモイ市、無錫市、福州市、済南市の15都市が選出された。詳細は2023年6月8日付ビジネス短信参照
注3:
ブランドシェアトップ10のうち、中国ブランドは「MyFoodie(麦富迪)」「Wanpy(頑皮)」「FaPure&Natural(伯納天純)」「Sunsun(森森)」「Bridge(比瑞吉)」を挙げている。
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所 副所長
高山 博(たかやま ひろし)
2021年8月から現職。商品カテゴリー毎の中国販路開拓戦略の立案、ECやSNS等デジタルツール活用支援を担当。