LNG発電船でアフリカの電力需要に応える
トルコ企業との第三国展開

2024年5月7日

中東地域有数の製造業拠点であるトルコは、外務省の「海外進出日系企業拠点数調査」によれば、2022年の日系企業拠点数が同地域(注)でアラブ首長国連邦(UAE、346拠点)に次いで2番目に多い(275拠点)。トルコの国際収支統計をみると、日本のトルコ向け直接投資(株式資本インフロ―)は鈍化しており、2022年は前年比64.0%減の8,000万ドルと、2009年以来最低水準に落ち込んでいる。しかし、そのような状況でも特に自動車分野などでの投資案件は堅調だ。また、日本企業の中には、トルコに進出するのみならず、トルコ企業と協業して第三国でのビジネス展開を目指す動きも見られる。代表的な事例を挙げると、東洋鋼鈑は2012年に、トルコの財閥トスヤル・ホールディングと合弁会社トスヤル・トーヨーをトルコ国内に設立して、アルジェリアやセネガル、アンゴラなどへの投資を行っている(2022年11月15日付地域・分析レポート参照)。このような動きは日本とトルコの両国政府も後押ししており、2018年3月には日本の国際協力銀行とトルコ輸出入銀行の間で、日本企業とトルコ企業が第三国で協働して参画する事業を支援する目的で業務協力協定が締結された。また、2023年9月に西村康稔経済産業相(当時)がトルコを訪問しオメル・ボラト貿易相と会談した際には、2国間の貿易・投資に関してだけではなく、日・トルコのアフリカなどでの第三国連携についても議論が行われた。

近年では商船三井が2019年3月に、トルコの複合企業カラデニズ・ホールディングス(Karadeniz Holdings)の子会社で発電船事業を手掛けるカルパワー・インターナショナル(Karpower International)とパートナーシップを構築し、KARMOLのブランド名で液化天然ガス(LNG)発電船事業を開始した。現在、アフリカ地域でのLNG発電船事業を展開している。ジェトロは商船三井トルコの片田聡代表に、同社がトルコ企業と連携して実施している第三国へのビジネス展開について話を聞いた(取材日:2024年2月19日、4月25日)。


商船三井トルコの片田聡氏(本人提供)
質問:
LNG発電船事業の内容は。
答え:
浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(Floating Storage and Regasification Unit: FSRU)と発電船を組み合わせ、FSRUでLNGを再ガス化して発電船に送り、船舶の上で発電を行っている。発電した電気は船舶から陸上の電力網に送電される。現在、LNG発電船事業を実施しているのはモザンビークとセネガルの2カ国だ。モザンビークでは、2019年8月にKARMOLブランドで、ナカラ港にて世界初のLNG発電船事業を実施することを発表した。今後は、同プロジェクト用に改造された既存のLNG船をFSRUとして現地に投入する予定だ。セネガルにおいては、2019年10月から現地で操業している重油だきの発電船に代わり、今後はFSRUと発電船を運用したガスだき発電に移行する。すでに、2021年5月に改造済みのFSRUがダカール港に到着し、操業の開始を待っている。
質問:
カルパワー・インターナショナルとのLNG発電船事業を開始したきっかけは。
答え:
カルパワー・インターナショナルは2007年から発電船の建造を開始し、連携当時は世界で唯一、発電船事業に取り組む企業であった。船舶での発電において、従来は重油を燃料としていた。しかし、近年は環境負荷軽減の観点から、LNGを燃料とする動きが進んでいる。商船三井はLNG船の所有・管理・運航において世界トップクラスのシェアを持っているため、協業によるシナジーが大きいと考え、LNG発電船事業への参入を決めた。他方、商船三井がFSRUに活用する中古船舶を多く有していたことが、カルパワー・インターナショナルにとっては魅力であったと言える。
質問:
LNG発電船による発電事業の利点は。
答え:
LNG発電船は、従来の重油による発電船よりも環境負荷が少ないだけでなく、船舶上での発電を行うことから、半年間など短期間での電力供給開始が可能であるという利点がある。また、発電の規模や期間を自由に調整できるため、事業実施国の需要に柔軟に応えることができる。さらに、船舶は操業中の適切なメンテナンス作業や、プロジェクト投入の間に延命工事を加えることで長期間の使用が可能であるため、設備投資が少ないというメリットもある。
質問:
ビジネスパートナーとしてのトルコ企業の魅力は。
答え:
トルコ企業は、通貨リラ安が進んでいることもあり、外貨獲得に対して積極的で、リスクを恐れずにプロジェクトを進める傾向がある。このようなリスクを積極的にとる姿勢は、共に第三国へのビジネス展開を行ううえで魅力である。
質問:
商船三井の今後の海外事業展開は。
答え:
2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州ではロシアからのパイプラインによるガス供給が滞っており、LNGの需要が高まっている。当社は、ポーランドでもFSRUの投入を計画しており、2024年4月にポーランド国営ガスパイプライン会社のガスシステム(GAZ-SYSTEM)と新造FSRU1隻の定期用船契約を締結した。
アフリカにおいては、気候変動対策の観点で、エジプトやモロッコなど北アフリカ地域での次世代舶用の燃料関連事業や、アフリカ地域内でのコネクティビティを強める物流事業などに可能性を感じている。アフリカでは域内貿易が少なく、貿易額全体の約10%しかない。このことから、今後も人口増加が予想されるアフリカでは、物流、特に海運が重要になると考えている。

注:
外務省「海外進出日系企業拠点数調査」の定義において、「中東」はアラブ首長国連邦(UAE)、イエメン、イスラエルおよびガザ地区など、イラン、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、トルコ、バーレーン、ヨルダン、レバノンの12の国・地域を指す。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。