アーメダバード地域のアルコール事情(インド)
禁酒州で酒類調達するには
2024年9月11日
インド独立の父、マハトマ・ガンディーはかつて、「酒屋は社会に対する耐え難いのろい」と言明。飲酒が悪徳という観念を広めるのに力を尽くした。その出身地グジャラート(GJ)州は、公共の場で飲酒することを一切禁止するドライ・ステート(禁酒州)だ。そのため、基本的に酒類を提供するレストランなどは存在しない。
しかし、全く酒類が手に入らないというわけではない。外国人の駐在員や、インド国籍であっても州外出身者は、「リカー・パーミッション(酒類購入許可証)」を取得して酒類を購入可能だ。購入した酒類は、自宅など、限られた場所で消費できる。
本レポートでは、GJ州でリカー・パーミッションを取得し酒類を調達する方法、日系企業の駐在員が直面しがちなトラブル事例、などについて解説する。
リカー・パーミッションを取得するには
GJ州はドライ・ステートだ。1961年以降、現在に至るまで禁酒の原則を守り続けている(注1)。もっとも、州最大都市アーメダバードなど都市部には酒類の販売所(リカー・ショップ)を併設するホテルがある。外国人や他州出身のインド人は、リカー・パーミッションと呼ばれる許可証を取得することで、酒類の購入ができるようになる(注2)。
リカー・パーミッションには、いくつか種類がある。ここでは、日本企業の駐在員・長期滞在者を想定して、許可証の種類と取得方法を紹介する。
1. テンポラリー・レジデンツ・パーミット(TRP)
日系企業の駐在員など、在留外国人の多くが取得する許可証。1カ月あたりの購入量が「ユニット」と呼ばれる単位で制約される。1ユニットで購入できる数量は、330ミリリットル(ml)の瓶ビールなら20本、500mlの缶ビールは13本、750mlのボトルワインは3本、ウイスキーなど蒸留酒は700mlのボトル1本だ。
この許可証では、毎月4ユニットまで購入可能。未使用のユニットを翌月以降に繰り越すことはできない。 アーメダバードでTPRを取得するための手続きは、次の通り。
- (1)
- 州内務省の禁止物・税務局(Prohibition & Nashabandhi Office)のウェブサイトから申請用リンクにアクセスし、アカウントを作成する。アカウントにログインする際には登録携帯電話番号宛てに送られるワンタイムパスワード(OTP)による認証が必要。
- (2)
-
許可証のオンライン申請フォームに必要事項を入力。1~5の必要書類を1つのPDFファイル(2MB以下)にまとめ、アップロードする。
- パスポートの顔写真ページ
- パスポートで、インドに最終入国した日のスタンプが押してあるページ
- インド政府が発行したビザ
- アーメダバードに居住していることを証明できる書類〔賃貸契約書、e-FRRO(外国人登録)など〕
- 顔写真
- (3)
- (2)の完了後1日ほどで、当局が「チャラン(注3)」をオンラインで発行。アカウントにログインし、指定銀行〔国営インドステイト銀行(SBI)〕の支払いリンクから、500ルピー(約850円、1ルピー=約1.7円)をネットバンキングで支払う。
- (4)
- 支払い完了後、領収書を印刷し、禁止物・税務局のオフィスに持参する。窓口で紙の申請用フォームを受け取る。
- (5)
- 記入した申請フォームをPDF化し、アカウントからアップロードする。
- (6)
- (5)の完了後、当局が再度、チャランをオンライン発行する。(2)と同様の手順で、SBIのネットバンキング上の支払い用リンクからアクセス。2,000ルピーを支払う。
- (7)
- 領収書を印刷。(2)でアップロードした書類一式およびパスポートサイズの証明写真2枚とともに、禁止物・税務局に出向いて窓口で提出する。その際、訴訟費用(Court Fee)の印紙を添付する。
ここまでの手続きを完了すると通常、1週間程度で許可証が発行されるため受け取りに来るよう指示される。手続きの開始から許可証を受け取るまで、最短で約9営業日ほどだ。受け取り時には、原則として申請者本人がパスポートなどの身分証明書を持って禁止物・税務局窓口へ出向かなければならない。なお、この手続きは本レポートを執筆時点(2024年8月)の事実に基づく。随時変更のある可能性があるため、最新情報を確認する必要がある。
ただし、許可証を入手しただけでは酒類を購入できない。リカー・ショップなど販売所に配するデスクで税務当局のインスペクター(審査官)の認証を受け、許可証を有効化しておかなければならないからだ。そのためには、発給済み許可証を持参した上で、指紋登録する必要がある。もっとも、インスペクターは各販売所を巡回している。となると、許可証を有効化するため出向く前にホテルなどに連絡し、インスペクターの在席を確認しておくことが望ましい。なお、市内ホテルの地下や目立たない場所に販売所が立地していることにも、留意が必要だ。
なお、許可証の有効期間は取得した年度内(年度末は、3月末日)になっている。つまり、年度を超えると、既述手続きを経て許可証を取得し直す必要がある。また、年度の途中で外国人登録(FRRO)の有効期限が切れる場合は、FRROの期限まで有効な許可証が発行される。年度内に再度許可証を取得するにはFRROの延長後手続き後に許可証を再申請しなければならない。
2. eパーミット
短期滞在者向けの許可証。禁止物・税務局内の申請専用ウェブサイトから、1~4の必要書類を提出することで取得できる。この許可証の取得に当たって、費用は発生しない。
- 航空券の写し
- パスポートなど身分証明書の写し
- 顔写真
- 宿泊ホテルの滞在証明書
本許可証の有効期限は、取得から30日間。10日ごとに2ユニットずつ購入することができる。つまり、30日間で合計6ユニットまで購入可能だ。
eパーミットもTRPと同様、酒類購に先立ってインスペクターによる有効化を受けておかなければならない。
他州・外国からの酒類持ち込みはどこまで可能か
インドで酒類にかかる税率は、各州の酒税法が規定する。すなわち州ごとに異なり、地域によって酒類価格が2倍近く違う場合もある。また、各州で販売される酒類には、ラベルなどで「For Sale in 〇〇(州名) Only」と記載されている。特定州以外に販売することを禁じていることがわかるだろう。
GJ州は、酒類の本体価格に対して、アルコール度数に応じて特別税を課す。さらにその税込み金額に対して、付加価値税(VAT)を65%課税する。そのため、ワインやウイスキーなど度数が高い酒類ほど税金が高くなる。そのため駐在員の多くがユニットの制限内で州内購入するのは、比較的税率の低いビールなどだ。税率の高い酒類は、州外で購入し持ち込もうとするケースが多い。
しかし、GJ州では州外酒類の持ち込みに制限を設けているため注意が必要だ。他州との州境には、警察が検問。車両の荷物をランダムにチェックしている。陸路で酒類を持ち込もうとして検問で見つかった場合、その場で廃棄しなければならない。また、インド国内の他州から空路で酒類を持ち込むことも、原則として認められていない。
ただし、空港には陸路のような検問がないため、実態としては預入荷物に酒類を入れてGJ州に持ち込まれる例が多いようだ〔なお、インドでは空港によって、出発のセキュリティーチェックを受けた先に酒類販売店がある。その場合は、購入した酒類を手荷物として持ち込むことができる。また、国際線で海外から直接アーメダバード空港に到着する場合は、アルコール飲料の免税範囲(2リットル)まで、持ち込みが認められている〕。
また、アーメダバード市内には、X線で荷物検査するホテルがある。荷物検査時に酒類が見つかると、フロントで保管される(チェックアウト時に返却)。こうしたホテルでは、併設「リカー・ショップ」で購入した酒類を除いて、外部からの酒類持ち込みを認めていない。
トラブル続発、酒類環境の改善を
ジェトロには、日系企業の駐在員から国際郵便(EMS)を使用した食料品や酒類の送付に関して、トラブル事例や相談がたびたび寄せられる。
一方、インドに進出する日系企業ではしばしば、日本食材が手に入りにくい事情を考慮し、駐在員の生活をサポートする制度を設けている。EMSなどを利用して、食料品や生活物資の送付するのがその一例だ。一般的に、個人消費を目的としたインド向けの食料品などの送付は認められている。すなわち、所定の関税を支払う限り、問題なく受け取ることができるのが原則だ。税関では簡易な抜き打ち検査があり、酒類は税関職員の判断で輸入不可となるケースはあるが、少量であれば個人使用物として輸入が認められることが多い。
しかし、GJ州は酒類の輸入を原則として認めていない。個人消費が目的であっても、荷物に酒類が含まれていた場合「外国郵便局(Foreign Post Office:FPO)」に留め置かれてしまう。FPOの担当者からは、以下のとおりの説明だった。
- GJ州はドライ・ステートのため、輸入者が「酒類輸入許可証」を取得していない限り、酒類の輸入は禁止されている。
- EMSの荷物に酒類が含まれていた場合、罰金を支払うことで酒類以外の物品を受け取ることができる。ただし、酒類は廃棄されることになる。
- 最近では、こうした規則が厳しく運用されるようになった。その結果、日本人向けの荷物がFPOに留め置かれ、受け取ることができないケースが多数発生している。
その一方でGJ州政府は2023年12月22日、国際金融特区のGIFTシティー内に限って、禁酒政策の緩和を発表した。州政府の通達によると、(1) GIFTシティー内で働く企業オーナーと従業員(インド国籍のGJ州民を含む)に酒類許可証の取得を認める、(2)許可証がある限り、GIFTシティー内の認可ホテル・レストランに設置された所定飲食施設(「ワイン・アンド・ダイン」と呼ばれる)で酒類を伴う飲食が可能になる、(3)外部からの訪問者はGIFTシティー内で働く許可証の保持者の立ち会いの下、一時的な許可証に基づいて飲酒できる、ことになった。しかし、報道によると、政策緩和もむなしく、GIFTシティー内での酒類の販売は振るわない。リカー・ショップ以上に酒類価格が高額なことや、外部からの訪問者が許可証を取得するための手続きが煩雑なことが原因だ(2024年7月3日付ビジネス短信参照)。
昨今、GJ州は、従来の自動車産業の製造拠点としてだけでなく、半導体・エレクトロニクス分野などの投資先としても国内外から注目を集めている。外国からの投資を今後さらに呼び込むためには、駐在員の生活環境を改善することが必要だろう。酒類購入の規制緩和に加え、許可証取得手続きや制度運用などの明確化が望まれる。
- 注1:
- GJ州は1960年、ボンベイ州(現・マハーラーシュトラ州)から分離して成立した。
- 注2:
- さらに例外として、GJ州民であっても、医療目的で使用する処方箋があるとアルコールの購入が可能。
- 注3:
- 支払い金額通知書兼支払い証明書。主に納税の際、必要になる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・アーメダバード事務所
飯田 覚(いいだ さとる) - 2015年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ三重を経て、2021年10月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・アーメダバード事務所長
吉田 雄(よしだ ゆう) - 2005年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ徳島、ジャカルタ事務所、ジェトロ茨城などを経て、2024年5月から現職。