インフルエンサーへの共感が購買につながるマレーシア越境EC市場

2024年3月22日

東南アジアで最大規模の電子商取引(EC)プラットフォームShopee(本社:シンガポール)は、日本支社ショッピージャパン株式会社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを通じて日本の事業者向けに越境ECサービスを提供している。同社のサービスやマレーシアのEC市場の特性、消費者の特徴などについて、ショッピージャパンのShopee 日本越境ECチーム代表、村松俊和氏にインタビューを実施した(取材日:2023年11月22日)。


Shopee 日本越境ECチーム代表の村松 俊和氏(ショッピージャパン株式会社提供)

越境ECの最初の一歩をもっと気軽に

質問:
日本からの越境ECビジネスを開始した理由は。
答え:
東南アジア市場では、品質が高く信頼できる日本商品への需要がある。また、当社のミッションでもうたっているように、デジタルを活用して世界を便利にしたい。具体的には誰もが生活をよりよくできるよう、ECで購入できる選択肢を増やしていきたいと考えたため。
質問:
日本の事業者向けのサービス内容において、競合他社と比べた貴社の特徴や強みは何か。
答え:
日本から越境ECで商品を販売したいサプライヤーを募集し、販売を開始するまでのサイト上の初期設定から発送手続き、マーケット分析などまでを無料で提供している(注1)。法人・個人どちらにも対応している。当社が商品に魅力を感じた企業へは、マーケティングや物流に関するアドバイスを個別に実施。販売開始まで費用がかからないなど、サプライヤーが販売に取り組みやすいよう様々なサービスを提供している。また、日本語のカスタマーサポートがあり、英語を使わずとも問い合わせが可能な点も越境ECへ取り組むハ―ドルを下げていると考える。
質問:
今後の事業展開は。
答え:
現状、マレーシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナムで販売が可能だ。今後は既存の5カ国でShopee利用者を増やして市場を拡大するだけでなく、新規の販売国も開拓して、日本のサプライヤーの販売先の選択肢を増やしたい。また、マレーシア、シンガポール、フィリピン向けの越境EC販売においては、Shopee Logistics Serviceと呼ばれる独自の物流網を整備している。日本の出店者は、当社の提携物流会社の日本の倉庫に商品を送るだけで、その商品がバイヤーの手元に届く仕組み。このサービスをさらに改良していきたい。

旅先での購入品がEC需要に

質問:
マレーシアで売り上げの大きい商品分野と現地消費者の特徴は。
答え:
美容・ヘルスケア、ホーム&リビング、ホビー、フード&ビバレッジが売り上げの大きい商品分野。美容・ヘルスケア関連では例えば、美容サプリメント、シャンプー、アイシャドウが挙げられる。日本のドラッグストアで販売されており、訪日外国人観光客に人気の商品への需要が高い。消費者の傾向として、日本に旅行した際にお土産として購入した商品を、マレーシア帰国後にECサイトで再購入する傾向が見られる。人気アニメーションのカードなど、日本のアニメ関連商品も需要がある。
質問:
マレーシアで売り上げ規模が伸びていると感じる商品は。
答え:
新型コロナ禍後は、スポーツ・アウトドア系の商品が好調。例えば、日本の釣り具は海外での評価が高く人気。また、会社への出勤が増えたことで、ファッション関連の商品も売り上げが伸びている。このように世の中の動きに敏感なのがEC市場の特徴。トレンドをうまく把握できたサプライヤーが伸びている。

販売促進にはソーシャルメディアを活用、インフルエンサーへの共感が購買へ

質問:
マレーシアではどのような販促を行っているか。
答え:
Shopee PremiumやSuper Brand Dayなど、商品をお得に購入できるキャンペーンを実施し、ECサイト上での露出を高めることで新規ユーザー開拓の機会を増やしている。ユーザーひとりひとりに合わせた販促も行っている。例えば、過去の購買や閲覧に基づいてユーザーをセグメント化する。そのデータを活用してユーザーに最適な広告やキャンペーンを提供している。また、ユーザーが以前に購入した商品に類似した商品を推奨したり、興味を持ちそうな新商品に関するEメールやショートメッセージを送信したりしている。
質問:
SNSを活用した商品の販売促進は効果的か。
答え:
若年層の消費者を中心に、マイクロインフルエンサー(注2)への共感が購買につながるため、ソーシャルメディアを利用した販促は効果的である。消費者が商品の情報収集する際、マイクロインフルエンサーによるおすすめ商品の紹介や商品レビューの投稿が重視される。
ライブコマースも、購買意欲を高めるのに効果的だろう。ShopeeにはShopee Liveというライブコマース機能がある。また、ユーザーはゲームするなどエンターテインメントを楽しみながら、Shopeeでの購買に使えるコイン(ポイント)や賞品などを獲得することができる。Shopee Liveは幅広い年齢層のユーザーが利用しており、上記のようなエンターテイメント機能を使って商品や出店サイトへの関心を引きつけた結果、Shopee上でライブコマース経由の売り上げ割合が増えたサプライヤーも多い。Shopee Liveは様々な商品のPRにつかわれているが、中でもよく購入されているのは美容・ファッション、食料品、ベビー用品、家電製品などである。
質問:
サプライヤーがよく利用するプロモーション媒体は何か。またプロモーション効果の高い時期は。
答え:
Shopeeプラットフォーム上のオンライン広告やFacebook広告などが挙げられる。当社としては、上述のとおり若者を中心に効果が高いインフルエンサーマーケティングに重きを置いている。サプライヤーはShopeeが提携しているインフルエンサーを活用できる。具体的には、販売数に応じて手数料を支払うことで、インフルエンサーにSNSなどで販売商品を紹介してもらうことが可能。商品を紹介するインフルエンサーは成果ベースで収益を得られるため、Win-Winの関係を構築できている。
(プロモーションの時期に関しては)年末は消費者が新しいブランドや商品を求める傾向にあり、プロモーションに適切な時期といえる。また、2023年は11月11日(ダブルイレブン)のキャンペーン告知を積極的に行ったことが奏功して、Shoppee全体の売り上げが大きく伸びた。ダブルイレブンは中華系のECモールが始め、マレーシアでも浸透している。

的確なブランディングで販路拡大を

質問:
コロナ禍後のマレーシアEC市場をどのように捉えているか。
答え:
日本からの越境EC販売の目線でいうと、マレーシアEC市場は最も成長性を感じる市場の1つ。日本商品を売るのに充分な市場規模・所得水準(注3)だと考える。シンガポールや台湾では日本のサプライヤー同士の市場獲得競争が激しく、市場の飽和も懸念されるが、マレーシアではまだ市場開拓の余地があると感じる。モバイルユーザーが多く、物流網も整っているなど、EC販売がしやすい点も強みだ。
コロナ禍が収束した後、EC離れで売れ行きが落ちるといった悪影響はほぼなかった。コロナ禍を経てデジタル化が進んだこと、コロナ禍時に獲得した新規ユーザーの維持と、ユーザー体験の向上に力を入れたことが功を奏した。他方で、新規参入の競合ECモールが増えることは脅威である。ただ、総合的に見て、マレーシアEC市場は今後もさらに成長を続けていくとみている。

マレーシアEC市場に関する調査結果(同社提供)
質問:
日本の事業者が越境ECで売り上げを伸ばすために重視すべきことや注意点は何か。
答え:
適切な市場調査が重要。マレーシアには、日本製品を販売する店舗も少なくない。越境ECを利用して、お金と時間をかけてまで消費者が欲しいと思う商品とは何かを調査する必要がある。競合商品の販売状況やトレンド、四季がない(常夏である)ことなど、現地市場の特徴を理解しているサプライヤーが成功している印象を持っている。
また、ブランディングに関して改善の余地があるように感じる。例えば「日本で売れている」というメッセージだけでは、マレーシアのユーザーにとっては差別化にならない。最低2~3カ月はユーザー認知獲得のために販促活動を行う必要がある。当社はSNS広告や、専任のマーケティングソリューションチームによるブランディング支援サービスなどを通じて、ユーザーの認知度を高めるサポートを行っている。売り上げを伸ばした成功例は当社ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参考にしてほしい。

注1:
例として、Shopeeジャパンでは、新規出店から3カ月間をSeller Education Program外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの期間と定め、段階ごとに適切な教育プランを提供している。
注2:
SNSのフォロワー数が1万~10万人程度で、特定の分野やコミュニティにおいて影響力を持っている人物。
注3:
Euromonitor Internationalによると、マレーシアでは世帯年間可処分所得3万5,000ドル以上の富裕層が人口の約2割(約666万人)。シンガポールの総人口569万人を超える富裕層が存在している。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
加峯 あゆみ(かぶ あゆみ)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部、ジェトロ大分を経て2023年10月から現職。