工業500社の総売上高、2023年はドル建てで0.9%の減少(トルコ)

2024年8月26日

トルコのイスタンブール工業会議所(ISO)は2024年6月25日、2023年の工業部門500社(ISO500社)の売上高を公表した(ISOウェブサイト参照(トルコ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注1)。例年どおり、主にエネルギー、自動車、家電、鉄鋼の4分野が上位を占めた。首位はテュプラシュ(石油精製)。2位に、前年3位のフォード・オトサン(自動車)が返り咲いた。前年2位のスター製油所(石油精製)は3位だった。

ドル建てや実質額では、伸び悩み

500社の総売上高は、6兆3,747億1,300万トルコ・リラ(約28兆6,862億円、1リラ=約4.5円)。リラ建てでは、前年比42.1%増と大きく伸びたことになる。ただしドル建てになると、0.9%減の2,685億2,200万ドル。2021年以来、概ね通貨が下落してきた影響を受けた結果だ(注2、表1参照)。一方で2023年は、前年比64.8%増と物価高騰が進んだ。インフレ調整後(リラ建て)では13.8%減になる。 なお、ISO500のうち、上位10社が売上高全体の26.5%を占める。上位50社で51.2%と半分強に及ぶのは、例年通りだ。また、500社のうち、上場企業数は前年から12社増加。過去最高の85 社になった。

また生産ベースによる売上高(リラ建て)も減速した(前年の前年比119%増→42.1%増)。この点、ISOのエルダル・バフチュバン会頭は記者発表〔ISOのウェブサイト参照(トルコ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕で、「世界的な需要の鈍化、2023年2月の大地震、5月の大統領選挙後の経済政策の変更が決定的な役割を果たした」「2023年下半期に顕在化した生産コストの増大、金融引き締め政策による金利の上昇が、工業部門の業績を制限した」と、理由を示した。加えて、業績が悪化するにつれて資金調達条件が厳しくなったと分析している。また会頭は、ISO 500社の2023年の利益規模の増加率が同年末時点でのインフレ率を下回ったことも指摘。実質的には減少したという認識を示している。事実、「ISO500社で黒字を計上したのは前年比38社減で404社。赤字を計上した企業は58社から96社に増加」した。また、高インフレが財政、金融界、そして何よりも社会に与えるダメージは大きいという。その上で、「インフレの抑制と金融の安定が達成されると、工業のトルコ経済への貢献は増大する」と強調した。

表1:ISO500社トルコ工業部門上位20社(売上高順、2023年)(単位:100万トルコリラ、100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 企業名 前年順位 売上高
(生産ベース、ネット)
伸び率 外資
比率
輸出額による順位 ドル建て
輸出額
伸び率
リラ建て ドル建て* リラ ドル
1 テュプラシュ(トルコ石油精製会社) 1 484,188 20,395 15.7 △ 19.3 2 6,206 △ 17.1
2 フォード・オトサン(自動車) 3 238,014 10,026 69.9 18.5 41.04 1 7,208 15.3
3 スター製油所 2 226,775 9,552 19.9 △ 16.4 0.01 4 3,381 431.1
4 イスタンブール金精錬所 4 142,531 6,004 62.4 13.3 9 1,600 212.5
5 トヨタ・トルコ(自動車) 7 127,450 5,369 93.4 34.9 100 3 4,088 19.2
6 オヤク・ルノー(自動車) 9 107,209 4,516 71.1 19.3 51 5 3,269 29.2
7 アルチェリッキ(家電) 8 99,861 4,206 55.8 8.7 7 2,242 △ 3.4
8 メルセデス・ベンツ(自動車) 15 94,255 3,970 123.2 55.7 84.99
9 グラムアルトゥン貴金属精錬所 44 89,948 3,789 376.8 232.6 18 768 260.4
10 エルデミル(エレーリ製鉄工場)(鉄鋼) 5 79,521 3,350 14.4 △ 20.2 98 219 △ 52.9
11 トファシュ(トルコ・フィアット:自動車) 10 78,054 3,288 30.5 △ 9.0 37.86 17 885 △ 51.2
12 イスデミル(イスケンデルン製鉄工場)(鉄鋼) 6 76,859 3,238 14.8 △ 19.9 52 312 △ 40.5
13 ヒュンダイ・アッサン(自動車) 16 74,338 3,131 81.9 26.9 97.0
14 チョラクオウル金属加工(鉄鋼) 13 61,369 2,585 30.6 △ 8.9 59 301 △ 39.6
15 トルコ発電公社 11 61,037 2,571 13.3 △ 21.0
16 シシェジャム(ガラス製品) 14 58,510 2,465 36.8 △ 4.6 15 889 2.1
17 トゥサシュ(航空宇宙産業) 30 55,183 2,324 119.5 53.1 16 889 49.8
18 イチダシュ(鉄鋼) 12 54,554 2,298 4.0 △ 27.5 25 663 △ 48.8
19 アセルサン・エレクトロニク(防衛産業) 20 53,625 2,259 62.6 13.4 104 196 △ 11.7
20 ヴェステル白物家電 19 51,201 2,157 52.0 6.0
ISO 500社合計 6,374,713 268,522 42.1 △ 0.9 95,117 △ 2.9

注:1ドル=23.74リラ(中央銀行2023年買い平均値)で算出。
出所:イスタンブール工業会議所(ISO)

貴金属、航空宇宙、防衛産業が躍進

1993年以来、首位を堅持し続けているのが、石油精製会社のテュプラシュだ。トルコ最大のコチ財閥系に属する。また、第3位のスター製油所は、SOCARトルコ(アゼルバイジャン系)傘下にある。両社とも、世界的な資源価格の上昇によって、売上高がリラ建てで2桁の増加をみせた。

2023年の自動車産業は、高インフレ下の資産防衛の手段として内需が高まったことなどから好調だった(2024年3月19日付地域・分析レポート参照)。フォード・オトサン(2位、注3)、トヨタ・トルコ(5位)、オヤク・ルノー(6位)など主要メーカーが軒並み順位を上げた。なおこれら企業は、ドル建てでも2桁の伸びになった。

一方、鉄鋼セクターには、世界的な需要減などを受けて、順位を下げた企業が多い。例えば、最大のエルデミルが前年に5位だったところ、2023年は10位に終わっている。また、イスデミル、イチダシュ、チョラクオウル金属加工、トスチェリキ(注4)なども、低迷した。

主要セクター以外では、(1)貴金属生産や(2) 航空・宇宙・防衛産業などが好調だった。(1)としてはイスタンブール金精錬所(4位)とグラムアルトゥン貴金属精錬所(9位)が、(2)ではトゥサシュ(17位)とアセルサン・エレクトロニク(19位)が、20位以内にランクインしている。

なお、ISO500社の輸出額(2023年)は、951億1,700万ドル(前年比2.9%減)に終わった。トルコ全体の輸出は2,554億3,772万ドル(同0.5%増)だったので、やや精彩を欠いたかたちだ。一方で、ISO500社の輸出は全体の37.2%を占めたことになる。輸出額で首位だったのはフォード・オトサン。前年に首位だったテュプラシュが2位、3位はトヨタ・トルコだった。

産業別売上高では陸上・海上輸送機器が好調

ISO500社を産業別に分類してみると、(1)食品(108社)、(2)基礎金属・機械(95社)、(3)化学品・プラスチック・ゴム(67社)、(4)電気・電子機器(59社)、(5)陸上・海上輸送機器(54社)、(6)鉱物・採石(39社)、(7)繊維(26社)、(8)木材・紙・家具・印刷物(23社)、(9)金属加工製品(19社)、(10)衣料品(10社)という構成になる。

うち、売上高で大きなシェアを持つのが(2)(22.5%)と(3)(19.7%)だ。これに、(5)(17.7%)、(1)(13.6%)、(4)(12.2%)が続く。

2022年との比較では、(5)が企業数(50社→54社)、売上シェア(14.0%→17.7%)ともに増加した。逆にさえなかったのが、(7)だ。2年連続で、企業数(32社→26社)、売上シェア(2.7%→2.2%)ともに減少した(表2参照)。

表2:ISO500社産業別企業数・売上高シェア
産業 企業数 総売上(ネット)における
シェア(%)
2022年 2023年 2022年 2023年
基礎金属・機械 96 95 23.4 22.5
化学品・プラスチック・ゴム 71 67 23.3 19.7
陸上・海上輸送機器 50 54 14.0 17.7
食品 101 108 11.7 13.6
電気・電子機器 56 59 12.6 12.2
鉱物・採石 37 39 6.2 5.9
木材・紙・家具・印刷物 26 23 3.3 3.4
金属加工製品 20 19 2.1 2.2
繊維 32 26 2.7 2.2
衣料品 11 10 0.7 0.7
合計 500 500 100 100

出所:イスタンブール工業会議所(ISO)

地域別には、イスタンブール工業会議所に所属する企業が151 社で最多。アンカラ工業会議所が45 社、コジャエリ工業会議所38社、エーゲ地方工業会議所(在イズミル)38 社などが続いた。イスタンブールでは目下、工業用地が飽和状態にある。そのため土地価格が高騰し、他地域へ移転が進んでいる状態だ。2017年の174社から23社減少したのは、その結果と言える。一方アナトリア地域では、首都アンカラを中心に工業が発展。特に、アンカラは2017年の39社から6社増加した。

DXとGXを見据え、高付加価値化に期待

ISO500社のうち外資系企業は、2009年時点で153社を数えた。しかしその後は減少に転じ、2022年には最低を記録していた。2023年は、そこから8社増。116社になった。

ISO500上位20社入りした外資系企業は、ほとんどが自動車産業に属する(スター製油所を除く)。

また、ISO500社入りした日系企業は、トヨタ・トルコを筆頭に18社ある。うち15社が、前年から順位を上げた。逆に順位を下げたのは、2社だけだった(表3参照、注5)。

表3:ISO500社入りした日系企業
企業名 出資日系企業 ISO500順位
2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
トヨタ・トルコ トヨタ自動車、三井物産 3 3 4 4 7 5
ブリサ ブリヂストン 56 54 55 60 62 55
サルテン 三井物産 108 102 84 84 77 77
トスヤル・トーヨー 東洋鋼鈑 72 73 64 40 58 85
JTI JTI 82 75 78 101 122 92
ダイキン・トルコ ダイキン工業 216 175 152 111 113 105
矢崎自動車部品 矢崎総業 118 273 139 127 132 112
ベテック・ボヤ 日本ペイント *130 165 115 126 121 130
アナドル・いすゞ いすゞモーターズ、伊藤忠商事 202 180 284 196 205 143
日立エナジー 日立エナジー 175 148
住友ゴムAKOタイヤ 住友ゴム 281 178 203 240 246 194
インジGSユアサ GSユアサ 207 183 200 194 233 214
関西アルタン・ペイント 関西ペイント 259 262 257 294 282 255
トヨタ紡織トルコ トヨタ紡織欧州、三井物産10% 170 187 206 256 348 308
日立アステモ 日立製作所、本田技研、JICキャピタル *273 *274 *341 384 458 336
タト食品 カゴメ、住友商事 180 194 185 414 365 338
サンケミカル DIC米子会社サンケミカル 341 342 334 400 372 366
ポリサン関西ペイント 関西ペイント 342 299 351 382 486 391

注:*は日系企業が投資する以前の順位。
出所:イスタンブール工業会議所(ISO)

ISO500社では、研究開発(R&D)に取り組む企業が増加した(前年260社→2023年265社)。支出額も、前年比87.5%増と急伸。一方、売上高に対するR&D支出の割合は、0.48%。前年から上昇したとはいえ、ピークの2019年(0.58%)よりはまだ低い。事実、ISOは「なお不十分」と評している。

ここで、欧州共同体経済活動統計分類(NACE、注6)に基づいて、ISO500社の技術レベルをみる。付加価値を創出する上で最も貢献したのは、2023年時点でも技術レベルが「中の下」に分類される企業だ。ただし、その構成比は縮小した(前年37.7%→33.9%)。この構成比が縮小したということでは、「低」技術レベルの企業も同様だった(28.9%→28.7%)。逆に、「中の上」(27.2%→30.3%)や「高」の企業(6.2%→7.1%)が、上昇傾向を示している。こうしたことから、技術レベルの底上げを読み取ることができる。

この点、バフチュバン会頭は、「トルコの工業部門が長年取り組んできた技術革新に、希望が見られるようになっている」と指摘。同時に、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)やグリーン・トランスフォーメーション(GX)に基づく国際競争環境の中では、始まりに過ぎない。さらなる努力が必要」と強調している。


注1:
ISO500社ランキングには、工業セクターのうち希望する企業が参加する。年によって参加しない企業や、参加しても企業名を非公開にする企業がある。
注2:
ドル建ては、2023年のドル為替レート平均値をベースに計算した。
注3:
フォード・オトサンは、コチ財閥傘下にある。
注4:
トスチェリキは、2023年の上位20位から外れた。
注5:
日系企業は、ISO500に記載されている名称に基づいて記載した。
注6:
NACEは、1970年にEUが開発した分類法。さまざまな経済活動を指標化するために利用される。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所 調査担当ディレクター
中島 敏博(なかじま としひろ)
1995年関西大学大学院博士課程後期課程修了。1988~95年桃山学院高校で非常勤講師(世界史)。1995~99年カナダ・マギル大学(McGill University)イスラーム研究所PhD3単位修得後退学。2000年から現職。共著『イスタンブールに暮らす』JETRO出版、共著『早わかりトルコ・ビジネス』日刊工業刊、寄稿『トルコを知るための53章』明石書店刊、寄稿『NHKデータブック 世界の放送2009年~2016年、NHK放送文化研究所編』NHK出版刊