カリフォルニア州プロポジション65の和解・裁判動向(米国)

2024年4月15日

米国におけるカリフォルニア州法のプロポジション65(1986年安全飲料水および有害物質施行法、以下Prop65)は、発がん性物質や生殖障害を引き起こし得る化学物質が製品に含まれていることを州民に警告する義務(警告文の表示義務)などを定めているものだ。Prop65は、カリフォルニア州司法長官、地方検事(District attorneys)、市検事(City attorneys)、民間団体を含む4者に法の執行権(注1)がある。このうち、民間団体が訴訟を提起するためには、違反者および関連する当局に対して、違反に関する「60日前通知」(60 days Notice)を行う必要があるとされている。

この数カ月、日本企業や在米日系企業、小売店などから弁護士事務所を通じて、民間団体から「60日前通知」の文書が送られてきたという相談がジェトロに多く寄せられている(2024年1月16日付ビジネス短信参照)。本稿では、Prop65の「60日前通知」およびその後の和解・裁判の状況を整理し、実態を把握する。

「60日前通知」の数は過去最多、8割以上が和解により解決

図1は、「60日前通知」の件数を時系列により示したものである。2023年の件数は4,141件と、前年に比べ約1,000件増加し、過去6年で最多であった。

図1:Prop65の60日前通知の件数推移
60日前通知の件数は、2018年2368件、2019年2410件、2020年3514件、2021年3185件、2022年3170件、2023年4141件となった。

出所:カリフォルニア州司法省

また、図2は、Prop65に関係する訴訟が、裁判所による解決(以下、「裁判」)と裁判外による解決(以下、「和解」)のどちらで解決に至ったかの時系列推移を示す。2023年に解決した件数は1,319件であり、そのうち裁判が240件、和解が1,079件であり、8割以上が和解だった。

図2:Prop65解決件数推移およびその解決方法の内訳
Prop65にかかる解決件数は、2018年839件、2019年898件、2020年650件、2021年842件、2022年900件、2023年1319件となった。そのうち、和解は2018年472件、2019年614件、2020年435件、2021年674件、2022年745件、2023年10799件、裁判は2018年367件、2019年284件、2020年215件、2021年168件、2022年155件、2023年240件となった。

出所:カリフォルニア州司法省

さらに、和解時の平均費用は、2023年に2万5,029ドルと、2018年の2万1,023ドルと比べて4,000ドル程度増えている。裁判時の平均費用も、2023年は9万6,625ドルと、2018年の6万7,269ドルと比べると増加している。裁判になると、和解時の3~4倍ほどの費用がかかっている(図3参照)。

弁護士事務所によると、「企業の多くは、比較的費用のかからない和解にて解決をしており、弁護士事務所も和解を勧めるケースが多い」とのこと。

図3:Prop65関連訴訟の平均解決費用
Prop65にかかる費用は、和解時に2018年21023USD,2019年20345USD、2020年21449USD,、2021年20742USD、2022年22250USD,2023年25029USDとなった。そのうち、裁判は2018年67269 USD、2019年61671USD、2020年53307USD、2021年71930USD、2022年66198USD、2023年96625USDとなった。

出所:カリフォルニア州司法省

生活用品・日用雑貨、アパレル、食品、雑貨など多岐にわたる訴訟

図4は、2023年に裁判・和解により解決された案件を、筆者が商品で分類したものだ。案件の商品は、バッグやサンダル、靴、服、ポーチ、化粧品、マグカップ、皿、ペット用品、スケッチブック、ペン、麺類、サプリメント、調味料、ペット用品、釣り用品、ヘルメット、名札入れなど多様であった。図4を見てもわかる通り、非食品が全体の8割以上を占めており、多くの企業が対象になる可能性があることがわかる。

図4:Prop65の解決案件の商品カテゴリー内訳推定
生活用品・日用雑貨・文具30%、アパレル・アパレル雑貨・コスメ20%、食品19%、レジャー・ペット11%、機械・工具8%、その他7%、無鉛ガソリン5%。

出所:カリフォルニア州司法省

また、商品カテゴリーごとの罰金および弁護士費用を含む和解費用の最大値、中央値、最小値、平均値は表1のとおりであった。案件により、訴訟内容が異なるため金額のばらつきが大きい。平均値では、機械・工具やレジャー・ペット用品の和解金額が1万5,000ドル程度、生活用品・日用雑貨・文具、アパレル・アパレル雑貨・コスメ、食品は2万5,000ドル前後となっている。中央値では、いずれのカテゴリーも1万5,000ドルから2万ドル程度の範囲となっている。一方、裁判になった場合の費用は、表2のとおりだ。いずれも和解に比べて、大幅に費用がかかる。

表1:商品カテゴリーごとの平均和解費用
項目 最大値 中央値 最小値 平均値
生活用品・日用雑貨・文具 $85,000.00 $18,000.00 $3,300.00 $20,496.30
アパレル・アパレル雑貨・コスメ $140,000.00 $19,500.00 $1,700.00 $27,679.50
食品 $172,500.00 $22,500.00 $500.00 $28,654.30
レジャー・ペット $95,000.00 $12,900.00 $4,850.00 $16,496.30
機械・工具 $33,500.00 $14,000.00 $7,500.00 $14,474.20
その他 $380,000.00 $20,000.00 $5,000.00 $31,895.10

出所:カリフォルニア州司法省

表2:商品カテゴリーごとの裁判費用
項目 最大値 中央値 最小値 平均値
生活用品・日用雑貨・文具 $430,184.00 $32,375.00 $2,000.00 $55,884.70
アパレル・アパレル雑貨・コスメ $180,000.00 $63,250.00 $15,000.00 $62,515.40
食品 $1,500,000.00 $62,500.00 $10,000.00 $113,656.90
レジャー・ペット $620,000.00 $25,000.00 $15,000.00 $77,458.30
機械・工具 $2,210,000.00 $39,500.00 $17,500.00 $343,333.30
その他 $2,500,000.00 $32,000.00 $14,500.00 $530,000.00

出所:カリフォルニア州司法省

また、和解・裁判案件のうち、商品に使われていた化学物質は、鉛が最も多く、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル、別名DEHP)、鉛および鉛化合物、フタル酸ジイソノニル(DINP)と続いた(表3参照)。

表3:訴訟を提起された案件で指摘された化学物質
化学物質 含まれていた件数
506
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル、DEHP) 409
鉛および鉛化合物 97
フタル酸ジイソノニル(DINP) 69
無鉛ガソリン 61
ビスフェノールA 57
カドミウム 43
ジエタノールアミン 26
フタル酸ジブチル 25
水銀および水銀化合物 20
二酸化チタン 14

出所:カリフォルニア州司法省

あらためて、自社の売買取引条件の見直しはもちろんのこと、日本のメーカー、輸出者、カリフォルニア州でのディストリビューター、小売店などビジネス展開をしている企業は、発がん性物質や生殖障害を引き起こし得るとしてProp65に指定されている化学物質が製品に含まれている場合には、必要に応じて警告表示をすることが求められる。(2024年1月16日付ビジネス短信参照

ただし、過度に警戒する必要はない。ある小売関係者は、Prop65に関し「対象ならば、警告文を表示すればよいだけの話。ほとんどの消費者は警告があるから買わないということはないだろうから、法律を理解し、守ればいいだけの話だ」と述べている。

Prop65にかかる相談は、ジェトロ・サンフランシスコ事務所ないしはロサンゼルス事務所、日本国内の場合は最寄りのジェトロ事務所までご連絡いただきたい。


注1:
法に基づいて、強制力を伴った実働を行うこと。
注2:
Prop65のセミナー動画はオンデマンド配信中。また、セミナー資料PDFファイル(2.2MB)およびFAQPDFファイル(562KB)もそれぞれアップロードしている。
執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 ディレクター
芦崎 暢(あしざき とおる)
民間企業にて海外事業立ち上げなどを担当後、2018年ジェトロ入構。ECビジネス課、デジタルマーケティング部、ジェトロ名古屋を経て、2023年8月から現職。