中東での自動車販売・生産、日本からの輸出動向
2023年の日本から中東への自動車輸出は過去最高

2024年7月8日

2023年の日本からの中東への自動車輸出が過去最高となった。中東は、経済成長、人口増加も見込まれ、日本企業の輸出先としては有望といえる。なお、国際自動車工業連合会(OICA外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、2023年の世界全体の新車販売台数は、前年比11.9%増の9,272万台だった。このうち、中東主要国〔トルコ、イスラエル、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)〕における新車販売台数は、前年比36.1%増の280万台だったが、世界シェアは2.2%にとどまる。

中東での自動車の生産は増加傾向にある。主要な生産国であるトルコやイランで生産が増加したほか、これまで自動車の生産が少なかった国においても生産を進める動きもある。中東地域では日本車の人気は高いほか、日本企業も現地の自動車産業に関心を示す。

本稿では、中東での自動車生産と販売の動向、日本から中東への自動車輸出の現状について、各種統計を基に解説する。

国別の販売はトルコ、サウジアラビアの順に多い

OICAによると、2023年の国別の新車販売台数は、中国が世界首位で前年比12.0%増の3,009万台、米国が2位で12.5%増の1,601万台、インドが3位で7.5%増の508万台だった。日本は4位で13.8%増の478万台となった。

中東での販売台数は、トルコが前年比55.0%増の129万台で最多となった。その他、サウジアラビアが23.1%増の76万台、イスラエルが24.7増の36万台、UAEが24.9%増の26万台、クウェートが17%増の13万台と続いた。中東全体では2019年以降、増加傾向で特に2023年は顕著な伸びを見せた(図1参照)。

図1:中東における国別新車販売台数推移
2019年から2023年の中東全体の自動車の販売台数をみると増加傾向だ。2022年、2023年は顕著に増加した。2023年はトルコが最大で、サウジアラビア、イスラエルの順だ。

出所:OICA

生産はトルコが世界13位、イランが16位

OICAによると、2023年の世界の自動車の生産台数は、前年比10.3%増の9,355万台だった。2023年の国別の生産台数を見ると、中国が首位で11.6%増の3,016万台、日本は14.8%増の900万台だった。

中東の主要な自動車生産国を見ると、2023年はトルコが前年比8.6%増の147万台で世界13位となり、世界12位のフランス(151万台)に匹敵する規模となった。次いで、イランが11.7%増の119万台で世界16位だった。

なお、日本自動車工業会によると、日系自動車メーカーは、トルコに4工場のほか、サウジアラビアにも2工場を持っている。トルコではトヨタ、いすゞなど、サウジアラビアでは三菱ふそう、いすゞが組み立て・生産を行う。イランでは、米国からの経済制裁の影響もあり、現地自動車メーカーによる生産が多い。

中東向け自動車輸出は日本が首位

中東では、日系自動車メーカーの自動車が浸透している。世界各国から中東向けの自動車輸出額をみると、2023年は日本からの輸出が前年比28.8%増の113億ドルで首位となった(表1参照)。これは、EU全体の93億ドルよりも多い。国別で2位は米国で17.2%増の84億ドルとなっている。日本と米国のほか、上位10カ国を見ると中国、韓国、タイ、インド、インドネシアなどアジアの国からの輸出が多かった。なお、日系自動車メーカーの車は、アジアなどの第三国で生産され、中東向けに輸出されているケースもある。

中東向け輸出額の増加率を見ると、2023年は多くの国で前年からの増加を見せた。国別では、英国からの輸出が前年比40.0%増、インドは58.1%増、スロバキアは75.9%増となった。

表1:中東向け自動車(HS8703)の輸出額の国別順位(万ドル)(△はマイナス値)
金額順位 国・地域名 2022年 2023年 増加率(%)
1 日本 877,609 1,130,530 28.8
2 米国 720,186 844,368 17.2
3 中国 704,306 783,198 11.2
4 韓国 378,377 411,076 8.6
5 ドイツ 347,185 357,657 3.0
(参考) アラブ首長国連邦 284,878 未公表(注) n.a
6 英国 177,728 248,809 40.0
7 タイ 209,263 242,360 15.8
8 インド 126,878 200,569 58.1
9 インドネシア 125,990 146,228 16.1
10 スロバキア 82,048 144,284 75.9
11 チェコ 110,058 107,113 △ 2.7
12 トルコ 55,954 75,642 35.2
13 スペイン 59,967 72,296 20.6
14 ベルギー 33,349 62,518 87.5
15 サウジアラビア 78,938 62,109 △ 21.3
16 イタリア 46,732 61,809 32.3
17 台湾 49,819 58,069 16.6
18 カナダ 34,736 41,348 19.0
19 メキシコ 29,398 40,017 36.1
20 フランス 28,918 38,758 34.0
(参考) EU 801,485 932,051 16.3

注:UAEの2023年の統計データは2024年6月26日時点では未公表。
出所:Global Trade Atlasを基にジェトロ作成

日本から中東向け自動車輸出額は過去最高に

財務省の2023年の貿易統計(確々報値)をみると、日本の対世界輸出総額は前年比2.8%増となり、初めて100兆円を超える100兆8,738億円になった。自動車の対世界輸出額は前年比32.7%増の17兆2,654億円、輸出台数は約597万台だった。

日本から中東への輸出は自動車輸出が大半であり、2023年は増加した。財務省によると、2023年の日本から中東(注)への輸出総額は前年比27.7%増の3兆5,518億円だった。このうち、自動車は前年比32.5%増の1兆8,918億円(約70万台)で過去最高となった。自動車は中東向け輸出額の53.3%と半分以上を占めた。

2023年の中東向け自動車関連輸出については以下の通り。

  • 自動車:前年比32.5%増、1兆8,918億円(約70万台)※乗用車、バス・トラックなどを含む
  • 乗用車:同36.6%増、1兆6,025億円(約57万台)
  • バス・トラック:同13.0%増、2,854億円(約12万台)
  • 自動車の部分品:同10.6%増、1,333億円(約16万トン)
  • 二輪自動車:同26.9%増、162億円(約9万台)

2021年以降、乗用車輸出額が回復

日本の自動車の輸出額の推移のうち、乗用車について見ると、リーマン・ショックや新型コロナの影響により一時期、輸出額は落ち込んでいた(図2参照)。一方で、2023年は(統計入手可能な)1988年以降、最高となる1兆6,025億円だった。なお、乗用車の輸出台数を見ると、まだ2008年の最高値を超えられていない(図3参照)。

バス・トラックや自動車の部分品、二輪自動車の輸出額はおおむね横ばいである。日本から中東への二輪自動車の輸出は少ない。

ただ輸出台数では、中東向けにはバス・トラックの輸出も多い。日本からのバス・トラック輸出を台数で見ると、UAEが世界2位(約5万3,000台)、サウジアラビアが5位(約3万7,000台)だった。

図2:日本から中東への自動車輸出額推移
1988年から2023年の日本から中東全体の乗用車の輸出額をみると2008年までは増加傾向だ。それ以降は増減を繰り返す。2023年は過去最多となった。

出所:財務省貿易統計

図3:日本から中東への自動車輸出台数推移
1988年から2023年の日本から中東全体の乗用車の輸出台数をみると2008年までは増加傾向だ。それ以降は増減を繰り返す。2020年以降は増加傾向だ。

出所:財務省貿易統計

日本の自動車輸出額、サウジアラビアが世界5位、UAEが7位

財務省によると、日本からの自動車輸出は台数、金額ともに米国がトップ(約150万台、5兆8,439億円)で、オーストラリアが2位(約43万台、1兆4,167億円)だった。輸出額9,433億円と金額で3位の中国向けは、台数では約20万台で6位だった。

中東についてみると、2023年はすべての国で前年から増加となった。日本からの輸出先として、上位に位置する国も多い。特にサウジアラビアは、日本からの国別輸出額の5位で前年比39.7%増の5,957億円、UAEは7位で30.4%増の5,120億円だった。台数を見ても、アラブ首長国連邦(UAE)が自動車の輸出台数で世界3位の32万1,720台、サウジアラビアが7位で18万7,349台だった(表2参照)。そのほかの中東への自動車輸出額では、クウェートが16位、カタールが24位、オマーンが26位、イスラエルが27位とトップ30に入った、また、31位のイラクは前年比75.6%増と大幅な増加を見せた。

表2:2023年の日本からの国・地域別の自動車輸出(1,000円、%、台)(△はマイナス値)
国・地域名 金額
順位
累計金額
(1,000円)
前年比
増加率(%)
台数
順位
累計数量
(台)
アメリカ合衆国 1 5,843,927,954 35.5 1 1,498,968
オーストラリア 2 1,416,644,460 28.2 2 430,033
中華人民共和国 3 943,342,690 △ 5.6 6 203,488
カナダ 4 742,170,452 80.4 4 232,711
サウジアラビア 5 595,651,241 39.7 7 187,349
英国 6 531,244,157 74.1 9 161,337
アラブ首長国連邦 7 512,049,514 30.4 3 321,720
台湾 8 369,088,349 26.7 12 102,077
ドイツ 9 351,849,244 53.6 11 105,874
メキシコ 10 318,853,156 62.6 10 109,388
中東向けの国別順位
国・地域名 金額
順位
累計金額
(1,000円)
前年比
増加率(%)
台数
順位
累計数量
(台)
クウェート 16 219,566,707 33.9 26 49,356
カタール 24 122,361,301 20.4 46 21,106
オマーン 26 105,305,412 9.9 39 25,575
イスラエル 27 104,578,062 10.9 28 39,807
イラク 31 85,707,999 75.6 50 18,233
トルコ(注) 34 76,718,691 107.7 33 32,206
ヨルダン 47 49,471,052 14.9 59 13,777
バーレーン 50 44,809,866 48.7 67 11,107
レバノン 57 34,522,614 106.1 74 9,155
イエメン 74 17,466,800 20.8 92 4,025
パレスチナ自治区 173 165,936 5.8 178 60
シリア 178 109,163 9.6 191 23
イラン 203 3,689 n.a 199 5

注:財務省貿易統計では、トルコは西欧に含まれる。
出所:財務省貿易統計

UAEは中古車市場のハブ

日本からの中古車輸出を国別に見ると、例年、アラブ首長国連邦(UAE)の存在が大きい。2023年は日本からの輸出台数で世界2位の約18万台を記録した。なお、トップはロシア向けだった。

UAEは中東、アフリカや、インド、パキスタンなどの南アジアで多くの人口を抱える市場を視野に入れたハブ拠点となり、自動車貿易においても中古車・部品を再輸出する拠点になっている。特に、中古車輸入・再輸出のための専門経済特区「Dubai Auto Zone(DAZ)」が存在し、自動車関連企業が集積する。日本からの中古車は月間約1万台取引されており、右ハンドル車はそのままアフリカや南アジアなどの右ハンドル市場に再輸出されている(ジェトロ海外発トレンドレポート「アラブ首長国連邦における中古市場(中古自動車、古着)」参照)。

進出日系企業が輸送機器ビジネスを有望視

日本企業は、中東における自動車関連事業に関心を示している。ジェトロの「2023年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)」では、中東に進出する日系企業を対象に事業実態などを聞いた。有望視するビジネス分野(複数回答型式)について尋ねたところ、「消費市場」とする回答は全体の3割となった。「消費市場」と回答した企業のうち「輸送機器(二輪、四輪)」が有望という回答が38.9%で2番目に多かった(図4参照)。

さらに、今後の有望ビジネス分野として24.1%が「新産業」と回答しており、そのうち「電気自動車(EV)」を上げる回答が44.7%と1番多かった。一部の日本企業は、自動車やEVを有望と見込んでいる様子がうかがえる。

図4:有望視するビジネス分野(複数回答)
今後の有望ビジネス分野は、資源・エネルギー、インフラ、消費市場、新産業の順で回答が多かった。
消費市場(複数回答)
中東進出企業へのアンケートによると、今後有望視するビジネス分野として、消費市場では、食品、輸送機器(二輪、四輪等)、生活用品の順で回答が多かった。
新産業(複数回答)
中東進出企業へのアンケートによると、今後有望視するビジネス分野として、新産業では、電気自動車との回答が最多であった。AI、スマート農業、IoTが続いた。

出所:ジェトロ2023年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)

また、中東に拠点を構えている理由をみると、同調査の中東の対象国の中では、トルコのみ、製造拠点の優位性との回答が3割を超えた(図5・表3参照)。製造拠点としての優位性よりも、市場の将来性や市場規模などの回答が多く、中東諸国は主に生産よりも自動車の輸出市場として見ていることがうかがえる。

図5:中東に拠点を構えている理由(複数回答)
全体
中東に拠点を構えている理由は、市場の将来性、市場規模、収益性、取引先の要請、天然資源、技術探索、製造拠点としての優位性、現地政府の要請、日本政府の支援の順で回答が多かった。

出所:ジェトロ2023年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)

表3:中東に拠点を構えている理由(複数回答)
国別(単位:%)
国名 市場の将来性 市場規模 収益性 取引先の要請 天然資源 技術探索 製造拠点としての優位性 現地政府の要請 日本政府の支援 その他
UAE(N=100) 81 56 15 14 13 3 2 1 1 10
トルコ(N=37) 81.1 70.3 13.5 13.5 0 2.7 32.4 0 0 10.8
サウジアラビア(N=32) 78.1 65.6 12.5 28.1 15.6 3.1 9.4 12.5 3.1 6.3
イスラエル(N=19) 21.1 0 0 0 0 78.9 5.3 0 0 21.1
イラン(N=10) 80 80 20 20 50 0 20 0 0 0
ヨルダン(N=8) 62.5 50 37.5 12.5 12.5 0 0 12.5 50 12.5
カタール(N=6) 83.3 33.3 16.7 0 50 0 0 0 0 0
バーレーン(N=5) 80 80 40 20 0 0 0 0 0 20
クウェート(N=5) 80 60 20 20 40 0 0 0 0 20

注:太字のセルは全体(平均)の比率を超えるもの。
出所:ジェトロ2023年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)

ビジネスの魅力としては、「対日感情が良い」と答える企業も多い(図6参照)。一方で、課題として、2023年の調査では、「人件費の高騰」「不動産賃料の高騰」と物価上昇関連が目立ったほか、「突然の制度導入や変更」も課題としてあげられた。中東地域では、手続きや取引リスクにも課題があると答える企業が多い点にも留意が必要だ。詳細や国別の詳細についてはレポートを参照。

図6:投資環境の魅力と課題(中東全体)

投資環境の魅力(複数回答)
中東進出企業は、投資環境の魅力として、市場規模、成長性、対日感情が良いと回答した。
投資環境の課題(複数回答)
中東進出企業は、投資環境の課題として、人件費の高騰、不動産賃料の高騰の他、突然の制度導入や変更と回答した。

出所:ジェトロ2023年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)

SUVが人気、タクシーなど商用車が増加

スポーツ用多目的車(SUV)がGCC(湾岸協力会議)諸国で最も人気のある車種タイプであり、トルコも含む中東地域全体で販売が伸びている。特に、GCC諸国ではSUVが有望視され、中産階級の可処分所得の増加により、従来の車から高級車への買い替えが進んでいるという。

中でも、サウジアラビアではSUVが主流で、日本のメーカーのブランドも多い。また、トルコは、他国に比べて欧米ブランドの人気が高い自動車市場である。他の中東諸国でもドイツ、フランス、米国のブランドは見られるが、トルコではその数が多い。イランは、自動車販売の成長率では域内主要国の中でトップクラスと予測されるが、現地企業が現地生産し、現地での販売が多い市場だ。

中東地域全体では、自家用車よりも商用車の成長率が高く、これは都市部でのタクシーの増加によるものだ。都市中心部に住む人の多くが自動車を持たず、タクシーを利用する選択をしているという。

電気自動車も徐々に拡大

産油国が多い中東においても脱化石燃料の動きがあり、徐々に電気自動車(EV)の普及の動きがある。国際エネルギー機関(IEA)が4月に公表したレポートによると、現在は中東地域におけるEVは自動車販売全体の1%未満であるものの、今後、中国メーカーなどの台頭により、EV販売が伸びる可能性を示唆した。中東では、EVの輸入関税が内燃エンジン車に比べて大幅に低いことから、ヨルダンでは新車販売台数の45%以上をEVが占めて中東でEV販売の割合が最も高く、UAEが13%と続く。UAEでは、ドバイのEVの台数が2023年12月末までに2万5,929台に達し、2022年の1万5,100台に比べて1万台以上増加した。それに伴い、EV用グリーン充電ステーションの利用も前年比59%増加している。

イスラエルでは、2025年までに全ての市営バスを電動化させるとしている。同国での2023年の自動車新車登録台数27万台のうち、約4割がEVだった。

2023年のトルコにおける自動車販売の燃料別シェアで、EVの販売台数は9.3倍(7万2,179台)と急伸し、前年のシェア1.3%から7.5%に急拡大した。特に、トルコ発のEVメーカーTOGGの販売台数は1万9,583台となり、EV販売の約3割を占めた。ハイブリッド車の販売台数は前年比62.8%増(10万4,804台)で、燃料別シェア10.8%だった。

サウジアラビア政府は、クリーンモビリティを推進し、EVの生産・販売・輸出に向けて、積極的に企業誘致・投資を展開している。米国の新興EVメーカー、ルシード・モータース(Lucid Motors)は、2022年5月にサウジアラビアに工場建設を開始した。このほか、サウジアラビア公的投資機関(PIF)と台湾のフォックスコン・テクノロジー・グループの鴻海精密工業との合弁企業で、サウジアラビア初のEVブランド「Ceer」が設立された。

中東ではリスクもあるが、ビジネスチャンスも大きい

中東地域ではイスラエルがハマスと軍事衝突しているほか、イエメン、シリア、イラクなど治安情勢が引き続き不安定な国もある。これらが物流や販売・生産に影響を及ぼす場合もあり、地政学的なリスクを考慮する必要もあるが、主要な自動車輸出先であるGCC諸国、生産拠点のトルコの情勢は落ち着いている。なお、イランは米国からの経済制裁を受けており、日本企業のビジネスが難しい。また、サウジラビアでは新たに地域本社制度を開始、UAEでは法人税が突如導入されるなど、中東地域では突然の制度・法律の変更などビジネス環境上の課題への対応が求められる場合もある。

一方で、中東・北アフリカ地域では人口が増加する見通しであり、2021年の5億6,000万人から、2027年に6億人、2041年に7億人に達するという。中東の国別の人口規模では、イラン、トルコ、イラク、サウジアラビア、ヨルダンの順で大きい。1人当たりGDPを見ると、カタール、イスラエル、UAE、サウジアラビア、クウェートの順で高水準である(表4参照)。人口も多く、1人当たりGDPが高いサウジアラビアには、既に日本から多くの自動車が輸出されている。その他のGCC諸国でも、自動車生産が本格化していないため、輸出のチャンスがある。前述のとおり、トルコなどでは、日本企業の現地生産も進むなど製造関連のビジネス機会もうかがえる。

これまで見てきたように、中東での自動車の販売は増加傾向で、産油国では1人当たりGDPも日本より高い国もあり、人口増加・経済成長が続けば今後も市場の拡大に期待が持てる。また、既に日本車が浸透しており、対日感情もよい点も他国メーカーとの競争に有利になる。

表4:中東主要国経済指標(△はマイナス値)
国名(GDP規模順) 名目GDP
(億ドル)
GDP成長率
2024年予測(%)
1人当たり
GDP(ドル)
人口
(万人)
国内新車
販売
日本からの
自動車輸出額
トルコ 11,100 3.1 12,850 8,627 中東1位 対世界34位
サウジアラビア 10,700 2.6 33,040 3,282 中東2位 対世界5位
イスラエル 5,095 2.7 52,220 976 中東3位 対世界27位
アラブ首長国連邦(UAE) 5,042 3.5 51,910 971 中東4位 対世界7位
イラン 4,035 3.3 4,660 8,655 N.A N.A
イラク 2,554 1.4 5,870 4,335 N.A 対世界31位
カタール 2,342 2.0 78,700 298 N.A 対世界24位
クウェ―ト 1,618 △ 1.4 32,640 496 中東5位 対世界16位
オマーン 1,091 1.2 21,620 505 N.A 対世界26位
ヨルダン 510 2.6 4,500 1,134 N.A 対世界47位
バーレーン 447 3.6 28,260 158 N.A 対世界50位

出所:IMF WEO(2024年4月)、OICA、財務省からジェトロ作成

本稿では、中東地域を俯瞰(ふかん)して解説したが、中東主要国の自動車販売や生産動向、さらに各国での自動車関連企業の動きは、次の地域・分析レポートで解説している。

また、モロッコ、エジプト、アルジェリアなど北アフリカのアラブ諸国を含むアフリカにおける自動車動向について次の地域・分析レポートを参照。


注:
財務省貿易統計での定義では、イラン、イラク、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、イスラエル、ヨルダン、シリア、レバノン、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメン、パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸及びガザ)を中東に含めている。なお、同統計ではトルコは西欧に含まれる。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。