域内先進のセネガルでは
仏語圏アフリカのスタートアップ事情(2)
2024年8月8日
セネガルは、西アフリカのフランス語圏でいち早くデジタル・エコシステムの構築に注力している。経済構造の転換を課題としており、デジタル分野をそのための起爆剤にしたい。そこで戦略枠組み「デジタル・セネガル2025」を打ち出した。この戦略の中で重要な役割と位置づけられているのが、イノベーション創出だ。具体的には、スタートアップを年間100社支援する定量目標を設定した。
2017年には、イノベーション促進を担う政府機関「女性と若者のための短期起業推進センター(DER/FJ)」を設立。主にスタートアップ向けに低利融資し、資金調達環境を整備している。それだけでなく、インキュベーション施設を無料開放。各種トレーニングプログラムを提供するなど、活動を進めている。同機関の年間予算は、300億CFAフラン(約78億円、1 CFAフラン=約0.26円))と大規模だ。
2020年1月には、通称「スタートアップ法」を制定した。こうした整備は、アフリカではチュニジアに次いで2番目だ。税制優遇、行政手続きの簡素化、知的財産保護などの支援枠組みが整備されたことになる。
当地のこうした動きに注目すべきなのは、何故か。まず、(1)経済成長率が、2014年から2023年にかけて平均5.3%だった。堅調に伸びたと言えるだろう。(2)地理的にも、西アフリカと北米・南米との結節点として機能。また、(3)欧米など先進国からのアクセスにも恵まれている。欧米諸国の多くにビザ免除が適応され、日本国籍者もビザ不要だ。実際、こうした利点が、セネガル人のディアスポラ・コミュニティー(注1)や欧米起業家を引き付けている。
そこで、セネガルで活躍する3社の創業者ら4人に、フランス語圏アフリカの課題やその解決を目指すビジネスモデル、日本企業との連携可能性などについて聞いた。
国内流通の9割を占めるインフォーマル小売業者の商品調達を効率化/マード(Maad)
- 聴取元:共同創業者ジェシカ・ロン氏(取材日:2024年6月19日)
- 質問:
- ビジネスモデルは。
- 答え:
- セネガル国内の小規模小売業者と消費財サプライヤーをつなぐB2B向けプラットフォームを提供している。セネガル出身のシディ・ニャン氏と共同で創業した。
- 80社以上の国内外サプライヤーと提携し、1,000点(最小管理単位)以上の消費財を取りそろえている。サプライヤーから商品を大量に仕入れ、コストを下げることにより、市場水準より5%低い価格で小売業者に提供できる。スケールメリットを生かしたビジネスモデルと言えるだろう。月間流通取引総額(GMV、注2)は300万ドルを超える。年換算すると、4,000万ドル以上を記録したかたちだ。小売業者は弊社のアプリケーションを通じて簡単に商品を注文でき、確実な配送と競争力のある価格を実現している。
- 取扱商品は食料品や家庭用品が中心。中でも、コメと砂糖が主力商品だ。セネガルでは家計支出のおよそ6割を食料品に費やしている。その他、ジュース、エナジードリンク、洗剤、調理器具なども売れ筋だ。コメはタイからの輸入がほとんど。その他、パキスタン、中国、東南アジアなど、様々な国から、消費財を仕入れている。現在、ダカール市内に7,200平方メートルの倉庫を所有。配送は、1日2回だ。
- 質問:
- 解決したい社会課題は。
- 答え:
- セネガルでは、消費財購入の8~9割を非公式の経済活動(インフォーマルセクター)に依存する。「非公式」というのは、スーパーなどでなく、個人経営の小規模小売店舗などを意味する。
- ダカールには、そうした小売店が2万軒も点在。いずれも、同様の商品を販売している。しかし、それぞれが異なる供給網を持ち、配送に多くの仲介業者・工数を経ている。
- そこで、当社は店舗ごとに異なる販売ルートを統合できないかと考えた。そのためのB2Bソリューションを展開し、このサービスに至った。
- 質問:
- サービス普及状況は。
- 答え:
- 現在、ダカールの小売店舗約4割が弊社から仕入れている。セネガルの小売店舗の半数は、首都ダカールに集中している。すなわち、国全体の約2割に供給していることになる。
- セネガルには、新しいビジネスモデルを受け入れる風土がある。この風土が弊社サービスの利用拡大につながった。創業当初は、地域ごとに営業部隊を派遣。小売店を1店舗ずつ、当社サービスやアプリケーションの使い方などを説明して回った。当時は、他サプライヤーと同じ値段で同じような商品を販売するに過ぎなかった。それでも、驚いたことに、オーナーの多くが快く弊社サービスを使ってみたいと言ってくれた。こうした地道な営業活動とセネガルの人々のオープンな国民性が、普及拡大のカギだった。
仏語圏アフリカで初めてオンデマンド配達を実現/パップス(Paps)
- 聴取元:共同創業者兼最高経営責任者(CEO)バンバ・ロー氏(取材日:2024年6月18日)
- 質問:
- ビジネスモデルは。
- 答え:
- IT技術を活用し、B2B向けに物流サービスを提供している。輸入から、通関、倉庫保管、最終消費者への配送まで、エンドツーエンド、一気通貫のかたちで、だ。オンデマンド配送を実現したのは、当社がフランス語圏アフリカで初めてだった。
- 事業を展開しているのは現在、フランス語圏西アフリカ3カ国(セネガル、コートジボワール、ベナン)。各地に張り巡らされたネットワークにより、都市部から地方まで全国規模の配送が可能になっている。 顧客は、メーカー、メディア、銀行、eコマース(EC:電子商取引)企業など様々だ。
- 質問:
- 質の高いサービスを実現するために取り組んでいることは。
- 答え:
- 特にIT技術の活用に注力している。顧客の輸送を追跡可能にし、可視性のあるサービスを提供するためだ。同時に、配送を最適化し、無駄なコストを削減している。その結果、例えば、地方へ配送後の空のトラックに都市向けの荷物を積んで戻らせるなど、物流効率の向上を実現した。
- また、アフリカには正式な住所が存在しないことが往々にしてある。多くの物流会社にとって、悩みの種だ。そこで当社は、標識などを目印として地図上に登録できるよう、独自プラットフォームを開発した。その甲斐あって、配送の精度が日々向上している。2023年にはダカールで460万回配送。最終目的地までの成功率は97.8%だった。
- 今後は人工知能(AI)を活用した自動化システムを導入し、さらなる効率性を追求したい。また、この分野では、日本企業との協業を期待したい。
西アフリカ2カ国でネット通販を実現/ショップミーアウェイ(Shop Me Away)
- 聴取元:(1)共同創業者兼最高経営責任者(CEO)ラシーヌ・サール氏、(2)カスタマー・サービス・マネージャー マキシミリアン・ムスー氏(取材日:2024年6月19日)
- 質問:
- 解決したい課題は。
- 答え:
- 多くのECサイトが現状、セネガルへの配送やCFAフラン(注3)による支払いを受け入れていない。そのため当地では、ネット通販をしたくてもできないのがしばしばだった。
- また当地では、高い輸入コストを強いられている。介在する多数の仲介業者や不透明な物流がその原因だ。セネガルの中小・零細企業は、事務用品や資材などの大半を輸入に頼っているため、こうした弊害は深刻だ。
- こうした課題に対応し、ネット通販をより身近に安く提供したいと考えた。そのためには、商品の注文から、セネガルへの輸送、保管、最終消費者への国内配送、支払いなどに至るまで、一連の購入プロセスを一手に担うプラットフォームを構築するのが望ましい。これにより、介在する無駄なコストを取り除くことが可能になるからだ。
- 質問:
- ビジネスモデルは。
- 答え:
- 基本的な事業の下敷きに、EC大手アマゾン(Amazon)とのパートナーシップがある。その上で、当社の販売チャンネルを通じ、アマゾンのカタログにある商品をセネガルとコートジボワールの消費者向けに販売するというもの。
- その流れは、次の通り。まず、2カ国の消費者が、(1)弊社サイト上で商品の種類や数量、輸送方法(空輸または海輸)を選択し、(2)クレジットカード決済で支払う。当社にCFAフランで支払えば良く、自国通貨で決済できるところがこのサービスの強みになっている。(3)消費者が購入した商品を、米国やフランスなどにある当社倉庫に入庫。(4)それらをまとめて、2国それぞれに出荷する。(5)当社のセネガル本社またはコートジボワール支店に届いた商品を、物流企業などと連携(注4)して注文した消費者へ配送する。
- 最終消費者には平均的に、空輸で1週間以内、海輸3~6週間ほどで届く。
- これとは別に、両国の一般消費者や企業から、特定の注文や要望にも応じている。この場合、当社が世界中のECサイトから商品を代理購入し、運送手配の上、顧客に引き渡す。eBay、JumiaなどのECサイトだけでなく、幅広いブランドの商品を指定可能だ。例えばZara、H&Mといった欧米ファッションブランドや、事務用品サプライヤーなども対象になる。
- 質問:
- 事業実績を具体的に。
- 答え:
- 来年(2025年)で創業10年になる。これまでに、4万5,000件の発注に対応してきた。現時点で擁する顧客は、2万5,000人以上。2023年には270万ドルの純利益を上げた。2021年比で100%の成長率を達成したことになる。
- 質問:
- 日本企業との連携可能性は。
- 答え:
- セネガルとコートジボワールへの販路拡大を目指す消費財メーカーと、協業する余地があるのではないか。
- なお、取扱商品やビジネス展開の状況によって、手法は異なるだろう。例えば、当地に代理店を有する日本企業なら、当社倉庫に直接商品を納品してもらうのが良さそうだ。当社は、独自のチャンネルを通じて、この2カ国で販売をサポートできる。
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- 注1:
- ディアスポラとはギリシャ語で「離散」を意味する。民族としての出身国や故郷を離れて暮らす集団をディアスポラ・コミュニティと呼ぶ。居住国で身に着けた知識や経験を出身国で生かすというケースも多くみられる。
- 注2:
- GMVはGross Merchandise Valueの略。取引された商品・サービス金額の合計を意味する。市場規模の大きさを測る上で有効な指標。手数料収入だけの取引でも使用できる点などで、会計上の売り上げと異なる。
- 注3:
- 「西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)」加盟国8カ国で使用される通貨。加盟国は、ベナン、ブルキナファソ、コートジボワール、ギニアビザウ、セネガル、マリ、ニジェール、トーゴ。
- 注4:
- ショップミーアウェイが連携する物流企業の1つが、パップス(既述)。
仏語圏アフリカのスタートアップ事情
- テック分野で急成長
- 域内先進のセネガルでは
- 執筆者紹介
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ジェトロ・アビジャン事務所
藤本 海香子(ふじもと みかこ) - 2021年、ジェトロ入構。イノベーション・知的財産部知的財産課を経て2023年8月から現職。