スマートシティ・自動運転実証環境を提供する米キュリオシティ・ラボ
2024年7月22日
米国ジョージア州アトランタ郊外のグウィネット郡ピーチツリー・コーナーズ市に、次世代インテリジェント・モビリティとスマートシティ関連の技術の実証実験環境を提供するキュリオシティ・ラボがある。ここは、自治体が所有するスマートシティのためのインフラと5G(第5世代移動通信システム)ネットワークを備えた米国で最初のラボの1つで、2019年に同市内に設立された。本稿では、ピーチツリー・コーナーズ市の取り組みと同ラボの実態を紹介する。
テクノロジーパークが源流の市が設立したリビングラボ
キュリオシティ・ラボを所有・運営するピーチツリー・コーナーズ市は、アトランタ中心部から北東約34キロメートルに位置する、2012年に設けられた比較的新しい自治体で、ハイテク産業の促進・誘致に力を入れている(図参照)。
人口約600万人のアトランタ大都市圏内に位置するピーチツリー・コーナーズ市は、5つの主要幹線道路に近く、世界で最も利用者の多い空港のハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港から北東へわずか30分という好立地にある。
同市の歴史は、1960年代、技術職の求人不足により、ジョージア工科大学の卒業生をはじめとする人材がアトランタ都市圏外に流出してしまうことに対処するため、ハイテク企業を誘致し、職住近接のテクノロジーパークを作るという構想から始まり、1968年にテクノロジー・パーク・アトランタが創設された。1959年にノースカロライナ州ローリー近郊にリサーチ・トライアングル・パークが設立されたのを契機に、ライフサイエンス関連企業を中心に集積が進むリサーチ・トライアングル・リージョン(2024年3月28日付地域・分析レポート参照)に着想を得たと言われる。1968年の設立当初は、ゼネラル・エレクトリック(GE)などが立地しており、 1970年代後半以降に、住宅開発も進んだ。その後、同地域の人口増加に伴い、住民投票が行われた結果、2012年にピーチツリー・コーナーズ市が誕生した。
同市は、設立から5年ほど経ったころ、経済開発とほかのコミュニティとの差別化の道を模索し始めた。そして、テクノロジー・パーク・アトランタ内の公共インフラを行政ならではの方法で活用し、閉ざされた実験ラボではなく、実世界でのテストと実証環境を提供するリビングラボを作ることを決定し、2019年9月、同市内にキュリオシティ・ラボを開設した。設立に際しては、2018年に米国商務省経済開発局の経済調整支援プログラムから180万ドルの助成金を受給したほか、ピーチツリー・コーナーズ市およびジョージア自動車製造業協会(GAMA)、米国の通信会社大手スプリント、ジョージア工科大学などの業界パートナーが約500万ドルを投資した。
インキュベーション施設とテスト環境インフラを提供
キュリオシティ・ラボには、2万5,000平方フィート(約2,300平方メートル)のインキュベーション施設であるイノベーションセンターのほか、米国の通信会社大手Tモバイルが提供する5Gに対応した全長3マイル(約4.8キロメートル)の自律走行車(AV)用テスト道路、5Gアンテナやセンサーなどを取り付けたスマート電柱やスマート信号機といったスマートシティのための最先端のインフラが整備されている(表1参照)。同施設内にオフィスを構えて常駐するか、テスト利用のみかなど利用者のステータスにより条件など異なるものの、テスト道路、スマート電柱、5Gネットワークなどのインフラ利用は無料で、イノベーションセンターの利用も最大30日間無料だ。
提供インフラ | 分野 | 概要 |
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5Gワイヤレス環境 | スマートシティ | Tモバイルが提供する5Gは、テスト用道路でテストやデモを行う全ての企業が利用できる。 5Gへの統合を検討している企業は、Tモバイルの「サブジェクト・マター・エキスパート」のサポートを受けることができる。 |
ネットワークオペレーションコントロールセンター | スマートシティ | イノベーションセンター内に設置されたコントロールセンターでは、テスト用道路からのライブフィードの閲覧や、IoT(モノのインターネット)デバイスから収集されたデータの確認が可能。米国の都市で初めて導入されたこの種のIoTコントロールセンターには、インテリジェントな交通カメラと交通信号機、スマート街灯、データセンサー、プッシュビデオ、貴重なデータが含まれており、都市の管理者はここでデータを監視、分析、管理して迅速な意思決定を行うことができる。ラボで作成・生成された専有データは、一般市民や競合他社に公開される心配なく、同コントロールセンター内に保管され保護される。 |
専用狭域通信(DSRC) | スマートシティ | ブルートゥース(Bluetooth)と専用狭域通信(DSRC)を組み合わせたデータ収集が可能な4台のロードサイドユニットが、ネットワークオペレーションコントロールセンターで利用可能。 |
スマート信号機 | スマートシティ | キュリオシティ・ラボ内の三差路にスマート信号機を設置。 |
スマート電柱 | スマートシティ | スマート電柱は、通信基地局や公衆Wi-Fi機器、センサーなどを取り付けた電柱で、キュリオシティ・ラボでは実証実験などに利用可能。 |
監視カメラ | スマートシティ | ピーチツリー・コーナーズ市のテクノロジーパークウェイ沿いの主要交差点にボッシュの物体検知カメラを設置し、ネットワークオペレーションコントロールセンターでの監視を可能にしている。カメラはコムシグニアのC-V2Xソリューションと連携し「物体」の横断歩道への侵入を識別。エッジコンピューティング(端末デバイスでデータ処理・分析するシステム)を使用して、カメラはこの情報を処理しC-V2Xユニットに信号を送信する。このユニットは、交差点の150ヤード(約137メートル)手前で、接近してくる車両にこの警告メッセージを発することが可能。ドライバーの注意を引き、減速するのに十分な時間を与え、歩行者の横断体験全体の安全性向上に貢献している。道路沿いのビデオカメラは、ネットワークオペレーションコントロールセンターからの監視と、IoTソフトウェアによる追加データを提供する。 |
光ファイバーケーブル | スマートシティ | キュリオシティ・ラボの自律走行車用テスト道路とイノベーションセンターで光ファイバー接続を提供。テストやデモを行う全てのIoTデバイスをサポート。 |
セルラーV2X通信システム(C-V2X) | 自動運転 | 信号機とスマートフォンやタブレット、車両に搭載した機器などとの間で、Tモバイルの5Gネットワークによる双方向通信を可能にする技術。同技術は、カメラ、レーダー、光検出レーダー(LiDAR)など、他の先進運転支援システム(ADAS)センサーを補完するもので、5.9GHz(ギガヘルツ)のITS周波数帯で動作し、車両が他の車両や路側インフラと通信するための低遅延通信を提供するように設計されている。将来的には、セルラーネットワークや、セルラーネットワーク契約を介さずに、歩行者や他の交通弱者と通信することを目指している。ピーチツリー・コーナーズ市では、コムシグニアと協力して、クアルコムテクノロジーズのC-V2Xソリューションを搭載した路側ユニット(RSU)を導入し、C-V2Xソリューションを搭載したユーティリティ車両との直接通信を実証している。 |
自律走行テスト車両 (レベル3) |
自動運転 | フォードの中型クロスオーバー「エッジ」をベースとしたテスト車両。国内では他に類を見ない履歴データを備えたオープンソース・プラットフォーム上にレベル3の自律走行機能を搭載。車両には大型のルーフトップ・ラックが装備されており、テスト用に独自のLiDARやその他のセンサーの取り付けが可能。テスト車両のデータセットから直接、過去データにアクセス可能。車両に搭載されたセンサーやデバイス、そして市のインフラ全体から得られるデータは、キュリオシティ・ラボのネットワークオペレーションコントロールセンターを通じて分析され、利用者に提供される。市が所有するスマートインフラと相互作用することにより、車両とともに暮らし、働き、運転する数千人の地域住民を含む実世界のシナリオでの技術開発が可能となる。 |
LiDAR | 自動運転 | キュリオシティ・ラボでは、LiDARセンサーが一部の交差点に設置され、交差点、横断歩道、縁石までを完全にカバーしている。収集されたデータはLiDAR用ソフトウエアによってリアルタイムで処理され、物体の検出や分類に利用され、自動車やトラック、バス、二輪車、歩行者の追跡情報(速度や軌跡、正確な位置、数など)が匿名情報として提供される。 |
テスト用道路の 高精細地図データ |
自動運転 | テスト用道路上でテストやデモンストレーションを行う企業が利用可能。 |
自律走行車(AV)用 テスト道路 |
自動運転 | 米国の通信会社大手Tモバイルが提供する5Gに対応した全長3マイル(約4.8キロ)の自律走行車(AV)用テスト道路は、30以上の一般道路と交差する周回コースで、緩やかな高低差や勾配13%の区間、カーブ、成長した高い樹々がありユニークなテスト環境を提供している。ピーチツリー・パークウェイとスポルティング・ドライブの間のテクノロジーパークウェイを結ぶ。テスト用道路では、完全自動運転車(レベル5)を含むあらゆる先進車両の走行テスト、700フィート(約213メートル)以下でのドローン飛行テストや充電技術のテストが可能。1ギガバイト(GB)の専用ファイバーがあり、テストやデモを行うすべてのIoTデバイスをサポートしている。車道、歩道、公道はすべて市に所有権があるため、利用者はそのすべてを活用することができる。テスト終了後に原状回復するのであれば、テストのために道路や敷地などに変更を加えることも可能。 |
サイバー攻撃に対する 防御システム |
セキュリティー | アトランタに拠点を置くサイバーセキュリティー対策企業サイバー2.0が組織のネットワーク内で広がるサイバー攻撃に対する防御するシステムをキュリオシティ・ラボに提供。 |
出所:キュリオシティ・ラボのウェブサイトからジェトロ作成
イノベーションセンターには、オフィス、会議室、ネットワークオペレーションコントロールセンター、プロトタイプデザインラボなどが備えられており、2024年4月時点で14社が入居している。例えば、急速充電、拡張可能な電気自動車(EV)用バッテリーソリューションを開発するポルトガルのi-チャージングといった米国外スタートアップも入居しているほか、フランスのスタートアップの北米進出を支援するフランス政府機関のフレンチテックアトランタも在アトランタ・フランス米商工会議所とともに入居している。なお、i-チャージングは、実際のスマートシティ環境で充電ソリューションのテスト、展開、分析を実施し、同ラボ内にデモ機を設置している。
シンプルな手続きで実証実験を迅速に実施
市の経済開発と他コミュニティとの差別化のために生まれたキュリオシティ・ラボは、テスト環境インフラを活用した実証実験が可能という点が強みで、国内外からスマートシティ関連の技術開発に取り組むスタートアップや団体を引きつけている。例えば、同ラボのテスト用道路は、30以上もの一般道路と交差し、住民も利用する公共空間の中にある。
キュリオシティ・ラボとピーチツリー・コーナーズ市は、法的に分離しているものの、市は同ラボ運営組織の議決権の過半数を指名・獲得しており、実証実験を行うための手続きが簡潔で迅速に行われている。同市が全てのインフラを所有しているため、実証実験の実施時には、外部組織に許可などを求める必要がなく、迅速に実証実験を行うことができる。また、キュリオシティ・ラボは、知的財産権に関心はなく、同ラボで開発された知的財産権の権利者になっていない。よって、開発者は単独で知的財産権を所有することができる。さらに、同ラボは、2020年10月に米国商務省国立標準技術研究所(NIST)が定めるサイバーセキュリティーに関するガイドライン「NIST SP800-171」(注1)に準拠している。キュリオシティ・ラボを利用する企業・団体が扱う専有データは、同ガイドラインに基づいた最高レベルのセキュリティーによって保護される。
市と同ラボは、その取り組みが評価され、交通分野や経済開発分野でスマートシティ関連の賞を受賞している(表2参照)。
受賞名 | 受賞年 | 主催者 | 賞の概要 | 部門/受賞内容 |
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第6回IDC北米スマートシティアワード(SCNAA) | 2023年 | インターナショナルデータコーポレーション(IDC) | 北米の州や自治体がスマートシティプロジェクトを実施する中で達成した進歩を評価するとともに、スマートシティ開発を加速させるためのベストプラクティスを共有する場を提供することが目的。 | 「経済開発、観光、芸術、図書館、文化、オープンスペース」部門 |
第7回スマート50アワード | 2023年 | スマートシティコネクト、スマートシティコネクト財団 | 毎年世界のスマートシティプロジェクトの中から最も革新的で影響力のある50の活動を表彰。 | 米国のスマートシティの青写真を定義する「City Street of the Future(未来の街並み)」 |
2022年IEEE国際スマートシティーコンテスト審査員賞 | 2022年 | IEEE(米国電子電機学会)スマートシティーズ | IEEEスマートシティーズは、IEEEの広範な技術ソサエティおよび組織を結集し、最先端のスマートシティ技術を推進することを通じて社会貢献するとともに、産学官のステークホルダー間の中立的な情報仲介者として、この分野におけるグローバルスタンダードを確立することを目的としている。スマートシティコンテストでは、スマートシティ技術やイノベーションを活用した市町村の優れたプロジェクトを表彰する。 | 「Developed Economy」部門審査員賞:「City Street of the Future(未来の街並み)」 |
第3回IDC北米スマートシティアワード(SCNAA) | 2020年 | インターナショナルデータコーポレーション(IDC) | 北米の州や自治体がスマートシティプロジェクトを実施する中で達成した進歩を評価するとともに、スマートシティ開発を加速させるためのベストプラクティスを共有する場を提供することが目的。 | 「交通 - コネクテッド&自律走行車、公共交通、ライドヘイリング/ライドシェアリング」部門 |
2019メトロアトランタ再開発サミット | 2019年 | パートナーシップ・グウィネット | 地域の優れた再開発プロジェクトを表彰。サミットには、毎年300人以上のデベロッパー、商業不動産ブローカー、選挙で選ばれた役員、ビジネスリーダー、地域開発の専門家などが集まる。 | 2019近隣地域再開発賞 |
2018米国都市計画協会ジョージア秋季支部賞 | 2018年 | 米国都市計画協会ジョージア支部 | 地域社会や地域委員会を対象に、ジョージア州をより住みやすい場所にするための活動を毎年表彰。 | 優れたイニシアチブ賞 |
出所:キュリオシティ・ラボおよび各賞ウェブサイトからジェトロ作成
キュリオシティ・ラボのパートナーは、企業、大学、学術機関、非営利団体など多岐にわたる。2024年4月までで、イノベーションセンターの入居企業も含め、56社・団体が実証実験を行っている(表3参照)。T-モバイル、ボッシュ、シーメンス、アウディといった大手企業は、パートナーとして同ラボにインフラを提供するほか、協賛企業としてイベントなどにも参加している。また、例えば、インテリジェントカメラを用いた交通管理技術や交通弱者(VRU)保護のためのC-V2X(セルラーV2X通信)技術の開発などの実証実験に取り組み、自社技術の開発・改良に役立てているパートナーもいる。
表3:キュリオシティ・ラボの主なパートナーおよび同ラボで活動する主なスタートアップ
企業・組織名 | 国名 | 企業概要 | キュリオシティ・ラボでの取り組み |
---|---|---|---|
Tモバイル | 米国 | 米国の大手通信会社(2020年4月にスプリントと合併)。超高速5Gネットワークを基盤に5Gイノベーションを促進し、5Gエコシステム(自然の生態系をビジネス当てはめた調達・販売の協働関係)の構築に取り組んでいる。 | キュリオシティ・ラボの設立に貢献。同ラボに5Gネットワークを提供している。5Gエコシステム構築の一環としてTモバイルアクセラレータープログラムを運営するほか、キュリオシティ・ラボのイベント「キュリオス・コネクション」やピーチツリー・コーナーズ市が開催するEV(電気自動車)イベントや自転車レースイベントなどを支援している。 |
ジョージアパワー | 米国 | ジョージア州アトランタに本社を置く電力会社。スマートシティ関連技術の開発にも取り組む。 | キュリオシティ・ラボの設立段階から提携。同ラボの1.5マイル(約2.4km)に沿って40台のスマートLED街灯や敷地全体に20台のカメラを設置。カメラには交通管理ソフトウェアも搭載され、道路上の事故をリアルタイムで検知することができる。 |
UPS | 米国 | ジョージア州アトランタに本社を置く世界有数の荷物配送会社 | スマートシティ関連イベントを開催。 |
クリアウエイブファイバー (Clearwave Fiber) |
米国 | 米国中西部および南東部に光ファイバーネットワークを提供するインターネットサービスプロバイダー。 | ピーチツリー・コーナーズ市内の企業数千社に光ファイバーネットワークを提供予定(2022年11月時点)。ピーチツリー・コーナーズ市が開催する自転車レースイベントを支援。 |
シーメンス | ドイツ | 大手電機メーカーのシーメンスAGの米国子会社。ピーチツリー・コーナーズ市にeモビリティの研究開発本部とシーメンススマートインフラストラクチャの北米本部を置く。 | キュリオシティ・ラボ周辺やピーチツリー・コーナーズ市内に、Tモバイルの5Gネットワークを活用した同社の米国製充電ステーション6基を設置。 |
ボッシュ (ビルディングテクノロジー事業部) |
ドイツ | ボッシュのビルディングテクノロジー部門。 | ピーチツリー・コーナーズ市との戦略的協力パートナーシップの一環として、キュリオシティ・ラボを含む市内各所で「ビデオ・アズ・ア・センサー」技術の実証を実施。インテリジェント交通システム(ITS)用の固定カメラと移動カメラを道路や交差点、駐車場に設置し、通行車両や歩行者などに関するデータを収集。イノベーションセンター内にあるネットワークオペレーションコントロールセンターにデータを集約し、市の交通管理や安全管理に活用している。同社のカメラは、交通弱者を保護するためのC-V2X技術の実証実験にも活用されている。 |
アウディ | ドイツ | ドイツの自動車メーカー。2020年以降、様々な官民パートナーと協力し、交通弱者を保護するためのC-V2X技術の改善、導入に取り組んでいる。 | 2023年にピーチツリー・コーナーズ市と提携。交通弱者向けのC-V2Xソリューションを開発するスポークのC-V2Xユニットを搭載したアウディの車両を用いて、コネクテッドビークルの観点からC-V2X技術の開発、実証に取り組んでいる。ピーチツリー・コーナーズ市開催の自転車レースイベントでは、スポークとともにC-V2Xユニットを搭載した同社車両を用いて交通弱者向けのC-V2Xソリューションの実演を行った。 |
企業・組織名 | 国名 | 企業概要 | キュリオシティ・ラボでの取り組み |
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ジョージア工科大学 | 米国 |
ジョージア州アトランタに本部を置く州立大学。 米国工学系大学の名門校。 |
キュリオシティ・ラボの設立に貢献。ジョージア工科大学の多くの研究がキュリオシティ・ラボで実施されているほか、連邦政府の助成金申請のパートナーとしても協力関係を築いている。 2021年には、全米科学財団(NSF)の「スマート&コネクテッドコミュニティーズ (S&CC)」助成金250万ドルを獲得し、ピーチツリー・コーナーズ市を没入型リビングラボとして、アトランタ地域の総合的なコミュニティアプローチによる交通改善プロジェクトを実施中。 また、2019年8月にキュリオシティ・ラボ、ジョージア工科大学、デルタ航空の3者で自律走行車とインフラの研究推進のために戦略的パートナーシップを締結。2021年2月には、キュリオシティ・ラボおよびTモバイルと共同で、5Gイノベーション推進のための「5Gコネクテッドフューチャーインキュベータープログラム」を創設。 |
ジョージア・テクノロジー協会 (TAG) |
米国 | ジョージア州のテクノロジーコミュニティにおける交流、ビジネス開発、プロモーション、教育を推進。 | TAGのポッドキャストにキュリオシティ・ラボのエグゼクティブディレクターが出演したほか、キュリオシティ・ラボでネットワーキングイベントを開催。 |
メトロアトランタ商工会議所 | 米国 |
アトランタ都市圏の商工会議所。 165年の歴史を持ち、全米第6位の市場を構成する29の郡にまたがる企業、大学、非営利団体を代表。 |
キュリオシティ・ラボをはじめとする、アトランタ都市圏のイノベーションセンターと連携して「ATL Unlocked」を運営。地域のクリエイター、イノベーター、起業家などを対象に、メトロアトランタ地域全体の包括的で起業家的なつながりを促進するために、交流会やツアーを開催。 |
ジョージア州自動車製造業協会 (GAMA) |
米国 | ジョージア州の自動車および陸上輸送に関する非営利の業界団体。 | キュリオシティ・ラボと戦略的パートナーシップを締結。 |
米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE) | 米国 | 多くの建築基準法やグリーン認証プラットフォームの基礎となる機械設備や建築性能の設計基準を設定する非営利団体。世界中に5万6,000人以上の建築システム設計および工業プロセスエンジニアの会員を持つ。 | 2020年3月にスマートシティ技術のイノベーション支援を目的にキュリオシティ・ラボと戦略的パートナーシップを締結するとともに、2021年11月に本部をピーチツリー・コーナーズ市に移転。HVAC&R機器とテクノロジーの展示や技術セミナーを開催。 |
ザ・レイ (The Ray) |
米国 | ジョージア州アトランタに本社を置く世界的タイルカーペットメーカーのインターフェイスのファミリー財団。「2020年までに環境への負荷をゼロにする」というビジョンを掲げ、道路や未使用の州間道路を利用してEV用に大量の電力を発電する取り組みなどを実施。 | キュリオシティ・ラボのテスト用道路の一部に、米国内で初めて路面発電型ソーラーパネルを設置。ピーチツリー・コーナーズ市の市役所に設置された太陽光発電EV充電ステーション用のエネルギーを生産している。レベル2のEV充電器に年間1,300キロワット時(kWh)以上の電力を供給する。 |
ポール・デュークSTEM高等学校 | 米国 | ジョージア州グウィネット郡ノークロスの公立高等学校。同郡初のSTEM(科学・技術・工学・数学の教育分野)分野に力を入れる高等学校。 | キュリオシティ・ラボは、同校のコミュニティパートナーとして学生に体験学習の機会を提供している。 |
在アトランタ・フランス米商工会議所 | フランス | 米国に18ある在米フランス商工会議所の1つ。フランス全土および米国南東部における仏米のビジネス機会を促進、支援、強化を目的とする。 | 2021年8月にオフィスをフランス領事館からキュリオシティ・ラボに移転。 |
フレンチテックアトランタ | フランス | フランス政府が支援する新興企業、投資家、意思決定者、コミュニティ形成者のエコシステム。 | 技術開発と北米進出を目指す企業を指導するため、ピーチツリー・コーナーズ市と提携。在アトランタ・フランス米商工会議所とともにキュリオシティ・ラボ内にオフィスを構える。 |
イスラエルリビングラボ | イスラエル | テック分野における官民連携促進のためのプラットフォーム。 | — |
企業・組織名 | 国名 | 企業概要 | キュリオシティ・ラボでの取り組み |
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i-チャージング (i-charging) |
ポルトガル |
2019年設立のポルトガルのスタートアップ。 急速充電、拡張可能な電気自動車(EV)バッテリーソリューションを提供。充電ステーションブランド「ブルーベリー」は50kW(キロワット)から600kWまで、最大出力1,000V(ボルト)の直流充填(じゅうてん)機を備え、超高速充電ソリューションを提供。 |
2020年にキュリオシティ・ラボに参加。実際のスマートシティ環境で充電ソリューションのテスト、展開、分析を実施。現在、ラボ内にデモ機を設置。 |
トータス (Tortoise) |
米国 | 米カリフォルニア州を拠点とするスタートアップ。電動スクーターをはじめとする小型車両をリアルタイムで必要とされる場所に再配置する遠隔操作技術を開発。 | ピーチツリー・コーナーズ市では、遠隔操作可能な電動スクーター100台を用いて実証実験を実施。 |
バルカリ (Valqari) |
米国 | 米イリノイ州シカゴを拠点とするスタートアップ。「ラスト・インチ」の物流問題解決を目指すドローン配送ソリューションを開発。ドローンによる配達で荷物を受け取るためのスマート宅配ボックスで特許を取得。 | 2019年のキュリオシティ・ラボの開所イベントで5G環境下でのドローンによるスマート宅配ボックスへの配達を披露。 |
パイプドリームラボ (Pipedream Labs, Inc.) |
米国 | 米テキサス州のロジスティクス・スタートアップ。世界初の地下自律ロボット配送システムを開発。地下に埋められたパイプの中を配送ロボットが走行して配達をおこなう。 | 2023年より、ピーチツリー・コーナーズ市およびキュリオシティ・ラボと提携し、同ラボの敷地およびピーチツリー・コーナーズ市内でシステムの敷設をおこない、実証実験を行っている。 |
ビープ (Beep) |
米国 | 自動運転シャトルによる移動・輸送サービスを提供するフロリダ州オーランドのスタートアップ。 |
ピーチツリー・コーナーズ市内で4台の自律走行シャトルを運行。テクノロジーパークウェイに沿って7つの停留所がある。 フランスのナブヤの車両と世界初の3Dプリント自律走行車オリイを製造するローカルモーターズの車両を採用している。安全で正確なナビゲーションと実世界のデータ収集のために、C-V2Xテクノロジーが車両に組み込まれ、Tモバイルの5Gネットワークで接続されている。交差点でのマルチモーダル相互運用性や、自律走行シャトルの信号優先順位付けのテストなどを実施。車両には5Gゲートウェイが搭載され、テレマティクス・データに電力を供給し、5G接続インフラとの通信を可能にしている。 |
オースター (Ouster) |
米国 | カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置くLiDAR関連技術の開発企業。 | キュリオシティ・ラボでは、同社のLiDARセンサーが一部の交差点に設置され、交差点、横断歩道、縁石までを完全にカバーする。収集されたデータはリアルタイムで処理され、物体の検出や分類に利用され、自動車やトラック、バス、二輪車、歩行者の追跡情報(速度や軌跡、正確な位置、数など)が匿名情報として提供される。 |
サイバー2.0 (Cyber 2.0) |
米国 | ジョージア州アトランタに拠点を置くサイバーセキュリティー関連スタートアップ。組織のネットワーク内で広がるサイバー攻撃に対する防御するシステムを開発。 | 同社のシステムをキュリオシティ・ラボに提供。 |
サイナミックス (Cynamics) |
イスラエル | 2019年設立のイスラエルのスタートアップ。拡張性とコスト効率に優れたネットワーク可視化/サイバーセキュリティーソリューションを開発。 | 2020年2月にキュリオシティ・ラボに入居。 |
ロードセンス (Roadsense) |
イスラエル | イスラエルのスタートアップ。強力なバックエンドを強みとし、公共空間の監視と分析をするためのプラットフォームを提供。道路や街路からリアルタイムのデータを収集し、クラウドに直接アップロードして人工知能(AI)と機械学習によってデータを分析するデバイスを開発。 | キュリオシティ・ラボに同社のデバイスを導入予定(2023年6月時点)。 |
IPギャラリー (IPgallery) |
イスラエル | イスラエルのスタートアップ。AIベースの統合スマートシティ/IoT管理システムを開発。都市のスマートインフラ全体にかかる全てのIoTデバイスから収集されたデータをAIベースのプログラムにより、インテリジェントコネクティビティとデータポイントを活用して可視化。 | 2020年にキュリオシティ・ラボと戦略的パートナーシップを締結。同ラボにAIベースの統合スマートシティ管理システムを全米で初めて導入。ラボ内のネットワークオペレーションコントロールセンターの中核を担う。 |
出所:キュリオシティ・ラボおよび各社ウェブサイトなどからジェトロ作成
ドイツのボッシュは、2020年9月にピーチツリー・コーナーズ市との戦略的協力関係を締結した。キュリオシティ・ラボを含む市内各所で、「ビデオ・アズ・ア・センサー」技術の実証を実施している。1日に1万4,000台以上の車両が通行する公道と交差する同ラボのテスト用道路に、同社のインテリジェント交通システム(ITS)用の固定カメラと移動カメラを設置。カメラが車両をカウントし、自動車、バス、トラックに分類することで道路の利用状況や交通パターンのデータが取得される。このデータは、同ラボのネットワークオペレーションコントロールセンター内のダッシュボードに表示され、市の管理者が道路の安全性と効率性を高めるために特定のエリアを改良する必要があるかどうかの判断に役立てられる。
また、キュリオシティ・ラボのテスト用道路と交差する2つの交差点には、ITS検出と歩行者を数えるために同社のカメラが設置されている。このカメラには、ディープニューラルネットワークベースのビデオ解析ソフトウェアが搭載されており、混雑したシーンや交通量の多い場所でも、VRU(交通弱者)と車両を正確に検知して区別する。カメラから取得された情報が車両に送信され、VRUの存在を事前に通知することで、VRUと車両の両方の安全確保につながる。さらに、商業施設やイベント会場などがある市の中心部には、ボッシュのカメラが100台設置され、人の流れや駐車場の利用状況が把握されており、市民の安全確保や来場者の管理、駐車場の効率的な管理に役立てられている。
スタートアップも、キュリオシティ・ラボの実験環境を活用した実証実験を行っている。小売・物流業界向けの自動配送プラットフォームを提供するトータスは2020年5月、電動スクーターを用いた実証実験を同ラボで実施した。同社は、電動スクーターのシェアリングサービスを開発するゴーエックスの遠隔操作が可能なスクーター100台を同ラボに導入し、6カ月間にわたり一般の利用者がテスト用道路内で試乗した。利用者は、スマートフォンのアプリでスクーターを呼び、利用後はオペレーターが遠隔操作して指定の駐車スポットにスクーターを戻す。遠隔操作が可能なスクーターの一般利用は世界で初めての試みだ。
世界初の地下自律ロボット配送システムの開発に取り組むパイプドリームラボは、2023年からピーチツリー・コーナーズ市およびキュリオシティ・ラボと提携し、同ラボの敷地および市内の地下に配送システムを敷設し、地下に埋められたパイプの中を配送ロボットが走行して配達を行う実証実験を実施している。配送システムは、市内のショッピングセンターとイノベーションセンターの間、約1マイル(約1.6キロメートル)にわたり試験的に導入されている。パイプは地下3~6フィート(約0.9~1.8メートル)の深さに埋められており、パイプの幅は18インチ(約46センチ)、その中を通る配送ロボットは時速45マイル(約72キロメートル)で40ポンド(約18キログラム)までの荷物を運ぶことができる。全工程にかかる時間は、 配送ロボットを送り返す時間を加えても5分もかからない。同ラボで働く人は、車で外出せずに、ショッピングセンターから昼食や日用品などを取り寄せることが可能だ。パイプの敷設工事には8カ月を要したが、ピーチツリー・コーナーズ市の規模が小さく、また、市の協力を得られた点が実証実験にとって理想的な条件だったという。
スカイミュルは、ドローンなどを使用した建設現場での鉄筋結束ソリューションの開発に取り組んでいる。キュリオシティ・ラボのオープンな屋内テスト空間がドローンの開発に最適と考え、2022年に同ラボに拠点を移した。同社の自動鉄筋結束ソリューション「スカイタイ」は、鉄筋が配置されている領域をスキャンして鉄筋の結束に適切な範囲を特定するとともに、実際の結束も行う。同社によると、手作業による結束よりも約2.5倍速く、32%安価に、84%少ない労働力で作業可能だ。スカイタイの初代プロトタイプはドローンを用いたものだったが、その後、ロボットタイプが開発された。このロボットは2023年に実際の建設現場に配備され、鉄筋とポストテンション(注2)ケーブルの配置をマーキングする能力をテストし、次のステップとして、実際の建設現場での鉄筋結束機能のテストを目指している。
テスト環境インフラを活用した実証実験が可能という点が強みのキュリオシティ・ラボは、米国内外から大手企業やスタートアップ、関連団体を引きつけている。市内地下にパイプを張り巡らせるなど、実証実験のために同ラボとピーチツリー・コーナーズ市が柔軟かつ迅速に対応している。実世界での実証実験を希望する企業や実証実験を行うスタートアップとの協業を目指す企業などにとって、同ラボの取り組みは注目に値するだろう。
- 注1:
- 「連邦政府外のシステムと組織における管理された非格付け情報の保護(Protecting Controlled Unclassified Information in Nonfederal Systems and Organizations)」ガイドライン。米国連邦政府機関が非政府機関と契約や合意を締結するにあたり、CUI(Controlled Unclassified Information:管理された非格付け情報)の管理に関して相手先に求めるセキュリティー要件を定めている。日本の防衛省も2022年3月に整備した「防衛産業サイバーセキュリティー基準」において、「NIST SP800-171」と同水準の管理策を採用した。
- 注2:
- 鋼材をコンクリートで固める方式の1つ
- 執筆者紹介
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ジェトロ・アトランタ事務所
横山 華子(よこやま はなこ) - 民間企業勤務を経て2024年2月から現職。