301条対中追加関税の見直し結果と今後の展望(米国)

2024年6月18日

米国の1974年通商法301条に基づく対中追加関税(301条関税)は、トランプ政権が2018年7月以降に、中国原産品に対して段階的に賦課した追加関税だ。中国の強制的な技術移転など不公正な慣行に対抗するとともに、中国にそれらの改善を促すことを目的としている。2024年6月時点で1万以上の幅広い品目に対して、7.5~25%の追加関税が賦課されている。

米国通商代表部(USTR)は301条関税の賦課開始から4年が経過した2022年9月以降、その効果の検証や追加で講じ得る措置の検討など、法令に基づく見直しに取り組んでいた。USTRの見直しを踏まえ、ジョー・バイデン大統領は2024年5月、米国経済や安全保障上の観点で重視する、いわゆる戦略分野で301条関税の対象品目拡大や関税率の引き上げをUSTRに指示した(2024年5月15日付ビジネス短信参照)。バイデン大統領の指示を受け、USTRは301条関税率の引き上げ対象品目や適用除外対象品目などのリストを官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公表している(2024年5月23日付ビジネス短信参照)。例えば、電気自動車(EV)に対しては、現在の4倍に当たる100%の追加関税を賦課するとしている。

本稿では、2年近くに及んだ301条関税の見直しにより、対象品目、関税率、適用除外制度がどう変わるのか、そのポイントを解説する。なお、USTRは公表した官報に対するパブリックコメントを6月28日まで受け付けており(注1)、最終的な対象品目や関税率は変更される可能性がある。

対象品目は重要鉱物などに拡大

現在、301条関税が課されている米国関税分類番号(HTSコード)8~10桁の1万409品目は、引き続き追加関税の対象となる。これに加え、天然黒鉛・永久磁石、その他の重要鉱物、船舶対陸上(STS)クレーン、注射器・注射針、一部の鉄鋼・アルミニウム製品など、37品目が新たに対象に追加される。一方で、後述の適用除外制度の対象品目を除いて、今回の見直しにより301条関税の対象から除外された品目はなかった(表1参照)。

USTRのキャサリン・タイ代表は5月14日に行った見直し結果に関するプレスブリーフィングで、記者から「現在301条関税の対象となっている品目を引き続き追加関税の対象とするのはなぜか」と問われたのに対し、中国の不公正な貿易慣行の改善を促す効果があるとしつつ、「幾つかの分野では、中国の知的財産の悪用や技術移転の強要が悪化している」と問題を指摘し、「関税負担を軽減する理由も正当化する理由もない」と述べている(2024年5月16日付ビジネス短信参照)。

表1:301条関税の対象品目(-は項目なし)
見直し結果 品目数 主な品目 HTSコード
維持 1万409品目  農林水産品・食品、鉱物・金属、化学品、繊維・衣料品、機器・機械、自動車・航空機など 米国独自分類の98類と99類を除き、HTSコード8桁で全品目の91%(注)
追加 37品目 天然黒鉛・永久磁石、その他の重要鉱物、STSクレーン、注射器・注射針、一部の鉄鋼・アルミニウム製品 2504.10.10、2504.10.50、2504.90.00、2602.00.00、2605.00.00、2606.00.00、2608.00.00、2610.00.00、2611.00.60、2825.90.30、2841.80.00、2844.41.00、2844.42.00、2844.43.00、2844.44.00、2849.90.30、7202.60.00、7202.93.40、7202.93.80、7901.11.00、7901.12.10、7901.12.50、7901.20.00、8001.10.00、8001.20.00、8101.10.00、8103.20.00、8112.21.00、8112.92.30、8505.11.00、8426.19.00、7210.20.00、7215.90.30、7302.40.00、7304.23.30、9018.31.00、9018.32.00
除外 0品目

注:品目によって異なり、30類の医療用品では全品目の7%、66類の傘・つえでは25%、80類のすず製品では20%にとどまる。
出所:米国国際貿易委員会(USITC)、USTR公表資料を基にジェトロ作成

関税率は戦略分野で引き上げ

301条関税が維持された1万409品目のうち戦略分野とされる350品目、新たに追加された37品目の合計387品目の関税率は引き上げられる。具体的には、EVは現在の4倍の100%、太陽電池と半導体は2倍の50%、鉄鋼・アルミニウム、バッテリー、重要鉱物、STSクレーン、医療製品は25%に引き上げられる。関税率の引き上げを行う時期は、2024年8月1日、2025年1月1日、2026年1月1日と3段階に分かれる(表2参照)。このほかの品目では関税率は維持される(リスト1~3は25%、リスト4Aは7.5%、注2)。

表2:301条関税の引き上げ対象品目と追加関税率
品目 現在の301条関税率 引き上げ後の301条関税率 引き上げ時期 品目数
鉄鋼・アルミニウム 0~7.5% 25% 2024年8月1日 321
半導体 25% 50% 2025年1月1日 16
EV 25% 100% 2024年8月1日 8
バッテリー、バッテリー部品、重要鉱物 EV用リチウムイオンバッテリー 7.5% 25% 2024年8月1日 1
EV用以外のリチウムイオンバッテリー 7.5% 25% 2026年1月1日 1
リチウムイオンバッテリー以外のバッテリー部品 7.5% 25% 2024年8月1日 1
天然黒鉛・永久磁石 0% 25% 2026年1月1日 4
その他の重要鉱物 0% 25% 2024年8月1日 26
太陽電池 25% 50% 2024年8月1日 2
STSクレーン 0% 25% 2024年8月1日 1
医療製品 注射器・注射針 0% 50% 2024年8月1日 2
フェイスマスク 7.5% 25% 2024年8月1日 3
医療用手袋 7.5% 25% 2026年1月1日 1

出所:USTR公表資料を基にジェトロ作成

適用除外対象品目は拡大の可能性

現行の約400品目に対する301条関税の適用除外に関しては、233品目について2024年6月14日に終了する一方、残りの164品目は2025年5月31日まで延長されることとなった(2024年5月27日付ビジネス短信参照)。さらに、新たに以下の2種類の適用除外制度を設けることが示された。

(1)
米国内での製造に使用される機械の312品目については、事業者から追加関税の適用除外申請を受け付ける。
(2)
米国内での太陽電池の製造に使用される機械の19品目については、事業者の申請を経ずに、追加関税の適用除外とする(注3)。

いずれも適用除外期間は2025年5月31日までとしている(表3参照)。なお、USTRは官報で示したこれら301条関税の対象品目や関税率、適用除外対象品目について、パブリックコメントを募集しており、最終的に変更される可能性がある。

前述したように、適用除外対象品目は現行の措置が一部失効するタイミングで縮小する。一方で、新規の適用除外がこれまでと同様に、申請企業単位でなく品目単位で認められるとすれば、適用除外対象品目は最大で約500品目に拡大する可能性もある。USTRは適用除外申請の手続きを別途公示する予定だ。なお、これら以外の品目に対して、事業者が適用除外申請を可能とする制度に関する発表は現時点でない。

表3:301条関税の適用除外対象品目
見直し結果 品目数 主な品目 HTSコード 適用除外期限
終了 233品目 機械類、医療機器、プラスチック製品、自動車・二輪車部品など 85類53品目、84類43品目、90類26品目、39類20品目、87類17品目など。 2024年
6月14日
延長 164品目 機械類、医療機器など 84類38品目、85類32品目、90類24品目など。 2025年
5月31日
新規 19品目 太陽電池製造装置 8486.10.0000、8486.20.0000、8486.40.0030 2025年
5月31日
新規申請可能 312品目 機械類 84類286品目、85類26品目。 2025年
5月31日

注:現行適用除外・新規適用除外の対象品目はHTSコード10桁で示される。適用除外申請可能な品目はHTSコード8桁で示される。HTSコードベースでは一部が重複する。

出所:USITC、USTR公表資料を基にジェトロ作成

米国は戦略分野でデリスキングを企図

今回官報で示された関税引き上げ対象の387品目の対中輸入額は185億ドル(2023年)で、同年の対中輸入総額4,272億ドルの4.3%にとどまることから、追加関税率の引き上げが米中貿易全体や米国経済に及ぼす影響は短期的に大きなものにはならないとみられる。実際に、バイデン政権は今回の措置について、対象分野を絞った戦略的なアプローチであることを強調している(2024年5月15日付ビジネス短信参照)。では、バイデン政権は戦略的アプローチのゴールをどこに設定しているのだろうか。USTRの301条関税の見直し作業に関する報告書(2024年5月16日付ビジネス短信参照)では、301条関税が米国企業に中国以外の代替調達先を探す動機を与え、サプライチェーンの変化を促したことを指摘している。同報告書では、2018年の301条関税賦課以降、中国からの輸入額が減少し、対照的にASEANやインド、メキシコ、カナダ、EUからの輸入額が増加したとして、調達先の多元化により強靭(きょうじん)なサプライチェーンの構築につながった可能性があるとその効果を指摘した(注4)。USTRのタイ代表は上述のプレスブリーフィングの中で「バイデン大統領はサプライチェーンを強靭なものにするようにUSTRに指示した」と述べており、301条関税を賦課することで中国の不公正な貿易慣行に対抗し改善を促すという目的のみならず、戦略分野で米中間サプライチェーンのデリスキング(リスク軽減)を促そうとする意図も読み取れる。

また、今回発表された関税率引き上げ対象品目について、米国の輸入総額に占める中国の割合を見ると、天然黒鉛や永久磁石、リチウムイオンバッテリーでは7割を超える一方で、半導体は5.6%、EVは1.5%、太陽電池セルは0.1%など、中国の割合が大きくない分野も追加されている(表4参照)。対中依存度が低い分野を追加した理由について、米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアドバイザーのウィリアム・ラインシュ氏は「中国の過剰生産能力の産物である輸入品に米国が振り回されるのを防ぐための、主に予防的な措置だ」と指摘している。

表4:301条関税引き上げ対象品目の2023年輸入額
品目 対中輸入額
(100万ドル)
輸入総額
(100万ドル)
対中輸入割合(%)
鉄鋼・アルミニウム 1,309 51,892 2.5%
半導体 2,322 41,563 5.6%
EV 385 25,988 1.5%
バッテリー、バッテリー部品、重要鉱物 EV用リチウムイオンバッテリー 2,287 3,515 65.1%
EV用以外のリチウムイオンバッテリー 10,779 15,033 71.7%
リチウムイオンバッテリー以外のバッテリー部品 6 86 7.4%
天然黒鉛・永久磁石 545 700 77.8%
その他の重要鉱物 239 5,236 4.6%
太陽電池 12 19,329 0.1%
STSクレーン 47 113 41.5%
医療製品 注射器・注射針 200 2,020 9.9%
フェイスマスク 7 11 68.1%
医療用手袋 398 1,599 24.9%
合計 18,536 167,084 11.1%

出所:USITCデータベースを基にジェトロ作成

301条関税の撤廃は見通せず

2025年以降の米国の次期政権の301条関税に関する方針はどのようなものになると予想されるだろうか。2024年11月の大統領選では、バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領の一騎打ちが確実視されている。仮にバイデン大統領が続投する場合には、今回の見直しで新たに37品目を追加し、1万品目以上が追加関税の対象として維持されたことを踏まえると、短期的に301条関税の手綱を緩めるとは見通せない。一方、2018年に301条関税を発動したトランプ前大統領が返り咲く場合でも、措置継続が予想される。トランプ氏は自身の公約を掲げたウェブサイトで「トランプ政権下で講じた関税措置は貿易赤字を削減し、賃金を上昇させ、新たな雇用を創出した」と振り返り、追加関税の経済効果を強調している。よって、どちらの候補が勝利しても、301条関税の賦課は続くと見るべきだろう。さらに、トランプ氏は、自身が大統領に就任した場合には、中国からの輸入に一律60%の追加関税、全ての貿易相手国からの輸入に一律10%の追加関税、中国に対する恒久的正常貿易関係(PNTR、注5)の取り消しなどの措置を主張しており、米国でビジネスを行う企業はさらなる高関税の環境下での経営を迫られる可能性もある(2024年4月4日付地域・分析レポート参照)。

迂回輸入取り締まり強化や追加的措置の可能性も

特に戦略分野では、301条関税以外の追加的措置が講じられる可能性もある。301条関税の見直しに関する報告書では、措置の有効性を維持するため、米国政府は301条関税の対象となる全ての中国製品を適切に審査しなければならないとして、税関・国境警備局(CBP)に執行強化の追加予算を割り当てる提言が盛り込まれており、301条関税の回避を目的とした第三国経由の迂回輸入の取り締まり強化の方針もうかがえる。さらに、USTRのタイ代表は、上述のプレスブリーフィングの中で、記者からメキシコに拠点を置く中国企業からのEV輸入や、中国製の中間財を使用したメキシコや第三国を原産国とする製品の輸入に対する措置を講じる可能性について問われたのに対して、「それこそUSTRが懸念していることだ。中国からの輸入ではなく、メキシコからの輸入に対しては別の手段が必要だ」「この問題にどのように対処できるか、USTRはあらゆる手段を検討している」と述べ、追加的措置を講じる可能性を示唆している。米国でビジネスを行う企業は、調達先国が中国以外でも、特に戦略分野では迂回輸入の取り締まり強化や、301条関税以外の追加的措置が講じられる可能性も考慮し、製品の調達先や原産地など、サプライチェーンの透明性確保があらためて求められることになろう。

USTRは2024年9月13日に見直し最終結果を公表した。最終結果は2024年9月17日付ビジネス短信参照


注1:
パブリックコメントはUSTRのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(ドケット番号:USTR-2024-0007)で提出が可能。提出方法の詳細については官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの「C. Request for Public Comments」と「D. Procedures for Written Submissions」の各章を参照。
注2:
301条関税は4回にわたって段階的に賦課が開始された。具体的には、2018年7月のリスト1(25%)、2018年8月のリスト2(25%)、2018年9月のリスト3(2019年5月に10%から25%に引き上げ)、2019年9月のリスト4A(2020年2月に15%から7.5%に引き下げ)。
注3:
適用除外は官報が公示された5月28日から有効になっている。
注4:
301条関税対象品目の米国輸入動向は2024年1月18日付地域・分析レポートも参照。
注5:
米国の関税体系は、PNTRのステータスを与えられた国や、自由貿易協定(FTA)などに基づくMFN税率が適用される国向けの関税率(コラム1)と、コラム1に含まれない特定国向けの関税率(コラム2)に分かれている。米国は中国が2001年にWTOに加盟したことに伴い、同国にPNTRのステータスを与えた。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所〔戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員〕
葛西 泰介(かっさい たいすけ)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部、ジェトロ北九州事務所、調査部米州課を経て、2024年2月から現職。