スウェーデンで高まる日本産食品需要と「オマカセ」レストランの評価

2024年8月28日

スウェーデンでは今、シェフに任せて料理を提供してもらうスタイルのいわゆる「オマカセ」の日本食レストランの存在感が高まっている。2024年5月27日に発表されたレストラン格付け誌の2024年ミシュランガイドに、オマカセレストランである「ダシ(Dashi)」が初めて掲載され1つ星を獲得した。加えて、星獲得には至らなかったものの、同じくオマカセレストランである「ワショク・トモ」も「おすすめレストラン」という位置づけで初掲載となり、2016年から毎年掲載されている1つ星レストラン「スシ・ショー(Sushi Sho)」と合わせて3店舗の日本食のオマカセレストランがミシュランガイドに掲載されている。

農林水産省によると、2023年10月現在、スウェーデンには530店の日本食レストランがあるとしている。そのジャンルは様々で、既に定着している寿司(すし)店やラーメン店に加え、お好み焼き屋も出店するなど、その幅は広がりをみせている。

2023年における日本からスウェーデンへの食品輸出額をみると、今回ミシュランに掲載された日本食レストランでも使用されている精米に関しては、前年の約2.8倍に増加した。また、ソース混合調味料が前年比82.9%増、清涼飲料水が34.0%増、ウイスキーが約2.2倍と多くの品目において前年から大幅な増加をみせている(表1参照)。

スウェーデンの日本食関係者によると、ラムネやウイスキーの人気向上による取引数量の増加や、近年のラーメンブームなどが輸出額の増加に大きく影響しているという。

表1:日本からの品目別食品輸出額(単位:1,000円、%)(△はマイナス値)
順位 品目 2022年 2023年 増減率
1 ソース混合調味料 81,555 149,176 82.9
2 清酒 107,683 74,790 △ 30.5
3 清涼飲料水 53,134 71,177 34.0
4 ウイスキー 22,296 49,652 122.7
5 醤油 49,360 49,174 △ 0.4
6 味噌 30,959 42,640 37.7
7 食酢 26,069 28,931 11.0
8 スープ、ブロス 19,548 27,452 40.4
9 ビール 18,923 23,670 25.1
10 精米 8,220 23,051 180.4

出所:財務省貿易統計

ジェトロでは2024年3月6~15日、日本産水産品の販路拡大のため、ストックホルムで食品サンプルショールーム(注)を開催した(2024年4月26日付ビジネス短信参照)。ストックホルムにおけるサンプルショールームは、スウェーデンにおける唯一の日本産食品展示会であり、同国およびノルウェーの厳選された優良・有望バイヤーを中心に食品関係者が招待された。1社ごとの時間予約制で行ったため、競合他社に関心商品が漏れないことからも好評を得た。

今回のサンプルショールームでは、冷凍水産品の人気が高く、バイヤーとの商談につながった事例が複数みられた。特に北海道産ホタテの刺し身については、参加者から「甘くておいしく、非常にねっとりとした歯応えがあり、ノルウェー産の冷蔵品と同等のクオリティがある」との声が聞かれた。スウェーデンの日本食レストランの傾向として、近海で捕れるサーモンをはじめ多くの新鮮な魚介類の刺し身や寿司の提供にこだわりがある店が多いため、冷凍品の魚介類の需要はそこまで大きくないと思われていたが、このサンプルショールームでは、日本産の冷凍水産品にも多くの興味・関心が寄せられた。そのほか、ゆず関連製品やデザート類など、スウェーデンやノルウェーでは目にすることが少ない日本産食品への関心の高さもうかがえた。

また、スウェーデンでは近年、植物性食品市場が注目を集めている。グローバル調査会社ナレッジ・ソーシング・インテリジェンス(KSI)によると、動物福祉と持続可能性に対する懸念から、スウェーデンにおける植物性食品市場は2022年の約3,000万ドルから2029年までに約8,000万ドルの市場規模に達し、年平均15.1%で成長すると見込まれている。

ジェトロは2023年2月に、ジェトロ群馬主催で「群馬ミニビーガン食品ショールーム・商談会」を開催し、こんにゃく関連製品や梅干しソース、サラダバーグなどのビーガン関連食品を展示した。日本食品を取り扱う企業の中でも、特に植物性食品に関心を抱く事業者や海外の日本食レストラン関係者が来場し、今後のビーガン関連食品の取り扱いについて検討する姿がみられた。スウェーデンにおける植物性食品市場の拡大にともない、日本のビーガン関連食品にも、今後、商機があると見込まれる。

一方、スウェーデンにおけるレストラン業界を取り巻く情勢は、決して芳しい状況ではない。2023年の状況をみると、スウェーデン政府は、2023年4月に2023年度春季予算案を発表した時点で、同国の経済は不況に突入しており、食品やサービスの高騰を背景に、過去30年間で最も深刻なインフレに見舞われているとした。

2023年の実質GDP成長率は前年比マイナス0.2%、失業率は前年から0.2ポイント悪化し7.7%だった(表2参照)。

企業情報会社クレディセイフ(Creditsafe)によると、2023年の倒産企業社数は8,243社で、1999年の統計開始以降最多となり、スウェーデンの全企業数の1.08%に上った(図参照)。特に、ホテル・レストラン業界は727社が倒産し、これは前年比23%増となった。

図:スウェーデンにおける企業倒産社数の推移
2014年6,077社。2015年5,689社。2016年5,404社。2017年5,600社。2018年6,249社。2019年6,377社。2020年6,586社。2021年5,807社。2022年6,289社。2023年8,243社。

出所:クレディセイフ ウェブサイトからジェトロ作成

スウェーデン政府が2024年4月15日に発表した春季予算案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2024年においても経済状況の劇的な改善は進まないと予測している(表2参照)。エネルギー価格の低下に伴い消費者物価指数(CPI)は大きく低下すると見込んでいるものの、実質GDP成長率は前年比0.7%とほぼ横ばい、失業率は8.3%で前年より0.6ポイント悪化するとしている。レストラン業界においても、ショッピングセンターなどに多く展開していた大手レストランチェーンKlang Marketが、2024年5月に破産に追い込まれるなど、暗い話題が続いている。

表2:スウェーデン経済指標 (単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
GDP成長率(実質) 2.6 △ 0.2 0.7
雇用者数増減率(15~74歳) 2.7 1.4 △ 0.4
失業率(15~74歳) 7.5 7.7 8.3
消費者物価上昇率(CPI) 8.4 8.5 3.1

注:2024年は推計値。
出所:スウェーデン財務省

ジェトロが現地バイヤーにこの状況についてヒアリングしたところ、「レストラン業界は不況の影響を最も受けている。輸送費や原材料費の高騰、また新型コロナ禍以降テレワークが定着したことによるランチの外食需要の低迷など、要素を挙げればきりがない」と述べた。また、現地レストランのオーナーシェフは「コロナ禍以降のモチベーション低下に加えてこの不況となり、多くの腕の良いシェフがリタイアもしくは転職した」と話しており、人材不足も懸念される。

このような状況の中、日本食のオマカセレストランは引き続き存在感を放っている。前述の「ワショク・トモ」は、現地大手新聞社から取材を受け、2024年3月に記事が掲載されると、2カ月先まで予約が埋まるほどの人気を博した。「ダシ」についても、「厳しい時代に明るい話題を提供する店」として現地で特集記事が組まれるなど、脚光を浴び続けている。

「ワショク・トモ」の林智子オーナーシェフは、現状のオマカセレストランをめぐる動きについて、「われわれ日本人のシェフだけでなく、スウェーデンには、日本食やその技法、食材に魅了され、私たち日本人よりも真摯(しんし)に勉強、研究する現地人のシェフが多く現れている。彼らが活躍するオマカセのレストランが増えたこと、それらがミシュランで星を取って注目されることによって、スウェーデン人のお客様自身の舌が肥えてきて、本物を見抜く力が格段に上がってきているように思う。オマカセレストランの価格は少々高くなってしまうが、それでもお客様は厳選された食材、目の前で行われるこだわりの調理法、今まで食べたことがない料理やそれらを含めた『体験』を求めて、オマカセレストランに足を運んできてくれているのだろう」と語った。逆風をものともせず成長を続けるオマカセレストランが、今後、スウェーデンにおける日本食業界を牽引していくことを期待したい。


注:
ジェトロでは、日本産農水産物・食品の取扱事業者の新規参入と販路拡大を目指し、世界の複数地域に食品サンプルショールームの設置、現地バイヤーを招いた商品紹介や試飲・試食の提供、オンライン商談を実施している。詳細はジェトロのサンプルショールーム事業のウェブサイト参照
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
佐藤 宏樹(さとう ひろき)
2014年、農畜産業振興機構入構。2023年7月からジェトロに出向し、農林水産食品部商流構築課勤務を経て、2024年5月から現職。