2023年新車登録台数、前年比30.1%増のV字回復(ベルギー)
税制改革による駆け込み需要も後押し
2024年5月21日
ベルギー自動車工業会(FEBIAC)の発表によると、2023年の新車登録台数は47万6,675台となり、前年比30.1%増になった。1995年以降で最少の販売台数を記録した2022年の実績からV字回復を示し、過去10年の平均に近い水準まで回復した(ベルギー自動車工業会プレスリリース「2023年のベルギー自動車市場の分析」参照(フランス語))(図参照)。
2023年のベルギーの自動車市場は、7月1日以降に購入またはリースされる内燃機関搭載車の税制変更に伴う駆け込み需要を背景に、1~6月に大きく伸び、6月には前年同月比48.7%増を記録した。7~12月も全ての月で前年同月を上回ったが、6月をピークに登録台数は減少し、12月は4.6%増にとどまった(2024年2月2日付ビジネス短信参照)。
市場傾向としては、前年以上に法人需要に支えられ、新車登録台数に占める社用車の割合は67%(前年61.9%)と、過去最大になった。社用車の内訳は、全体の37%がオペレーティングリースまたはレンタカー向けで、30%は自社購入またはファイナンスリース(注1)だった。
新車登録台数を燃料タイプ別にみると、電気自動車(EV、注2)のシェアは前年の34%から、2023年には48.4%に上昇し、新車登録台数の半数弱となった。中でも、バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリット車(PHEV)のシェアが拡大した(表1参照)。
燃料タイプ |
2022年 シェア |
2023年 | |
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シェア | 前年との差 | ||
ガソリン | 48.9% | 42.2% | △ 6.7 |
ディーゼル | 16.4% | 8.8% | △ 7.6 |
プラグインハイブリッド(PHEV) | 16.2% | 21.1% | 4.9 |
ハイブリッド式電気自動車(HEV) | 7.5% | 7.7% | 0.2 |
バッテリー式電気自動車(BEV) | 10.3% | 19.6% | 9.3 |
その他 | 0.8% | 0.7% | △ 0.1 |
注:発表に準じているため、合計が100%とならない場合がある。
出所:ベルギー自動車工業会「2023年のベルギー自動車市場の分析」を基にジェトロ作成
税制改革による駆け込み需要
前述のように、ベルギーの新車市場は、その67%を占める法人需要に支えられている。法人需要が堅調なのは、燃料費や保険代、保守費などの車両費を、経費として控除できる税制優遇によるところが大きい。従来の制度では、社用車に係る経費の税控除の割合は、ゼロエミッション車(注3)は100%、その他の自動車は、燃料の種類と走行1キロメートル当たりの車両の二酸化炭素(CO2)排出量に基づいて計算され、40~50%の最低控除率が保証されていた。社用車市場の脱炭素化をさらに推し進めたい連邦政府は、税制改革に着手することを決定。ディーゼル車とガソリン車、ハイブリッド式電気自動車(HEV)、PHEVを含む非ゼロエミッション車に対する税制優遇措置を、2026年までに段階的に廃止する政策を2023年から実施している(表2参照)。まず、2023年1月1日以降に購入(リース、レンタルも含む)されたPHEVの燃料費(ガソリンまたはディーゼル)に対する税控除率が50%に制限された。
次に、2023年7月1日~2025年12月31日の間に購入される、非ゼロエミッション車に対する税控除率を、2025年分(申請年度2026年)から75%に削減する。以降1年ごとに25%ずつ縮小し、2028年分以降は廃止する。また、従前に保証されていた最低控除率は、2025年をもって廃止し、CO2排出量が不明な車両については、税控除を認めないことになる。2026年1月1日以降に購入される非ゼロエミッション車への税控除は廃止する。
ゼロエミッション車については、2026年末までに購入された車両は、100%の税控除が車両の使用期間中に維持されるが、2027年以降の購入からは控除率を段階的に削減する。2031年に購入された車両の控除率は67.5%とし、ゼロエミッション車への買い替えを後押しする。
このように、非ゼロエミッション車に対するこれまでの税制優遇措置が、2023年7月1日以降に購入された車両に対し適用されなくなったため、6月までに企業による駆け込み需要が発生したとみられる。また、非ゼロエミッション車に対する税制優遇措置が、今後、段階的に縮小していくに伴い、社用車市場におけるゼロエミッション車の割合は拡大していくことが見込まれる。
対象車(新車) | 車両の購入日 | |||
---|---|---|---|---|
2023年1月1日~ 2023年6月30日 |
2023年7月1日~ 2025年12月31日 |
2026年1月1日~ 2026年12月31日 |
2027年1月1日以降 | |
プラグインハイブリッド車(PHEV) | 燃料(ガソリンまたはディーゼル)代の税控除率を50%に制限 | 燃料(ガソリンまたはディーゼル)代の税控除率を50%に制限 | 控除なし | 控除なし |
非ゼロエミッション車 (ガソリン、ディーゼル、 ハイブリット、PHEVなど) |
既存の制度を適用 ※燃料の種類と走行1キロメートル当たりの車両のCO2排出量に基づいて計算 ※最低控除率(40~50%) |
段階的に縮小 2025年分:75% 2026年分:50% 2027年分:25% 2028年分以降:0% |
控除なし | 控除なし |
ゼロエミッション車 (BEVなど) |
100% | 100% | 100% |
購入年度によって段階的に縮小(使用期間中は購入年度の控除率が継続適用) 2027年:95.0% 2028年:90.0% 2029年:82.5 % 2030年:75.0% 2031年:67.5% |
出所:各種報道記事を基にジェトロが作成
個人のEVへの乗り換えが普及へのカギ
連邦政府の政策により、社用車のEVへの乗り換えが進む中、現地報道などによると、個人のEVへの乗り換えは一巡し、足元では減退傾向にある。
BNPパリバ・フォルティス銀行が2024年1月に発表した「持続可能なモビリティ調査」(2022年)によれば、ベルギー人の64%は、EVは内燃機関搭載車に代わる未来の解決策ではないと考えている。ベルギーの世帯の76%は内燃機関搭載車を所有しており、EVや燃料電池車などの持続可能な車両を所有している世帯は16%。2022年の10%からは6ポイント増となり、ベルギーの自動車所有者の6人に1人が既にEVを所有している一方で、2029年までにEVへの乗り換えを考えている世帯は37%にとどまり、前年の47%から減少した。また、42%の世帯はEVへの乗り換え意向はないと回答し、前年の35%から増加した。買い替えが進まない理由として、充電インフラが限られていることや、走行距離への不安、車両価格の高さなどが挙げられた。また、同調査では、利用可能な補助金について知らないと答えた人の割合が、前年の59%から70%に増加していることも分かった。消費者は、保険料の引き下げや魅力的なローン商品などの具体的な提案によって、銀行が持続可能なモビリティへの乗り換えを奨励することを期待しているという。
EVへの乗り換えを行った人の85%は満足していると回答した。うち、満足度が最も高かった項目は「運転のしやすさ」で83%、続いて「航続距離」は62%だった。「充電インフラ数」については38%にとどまり、改善すべき課題となっている。
連邦政府は、2021年9月1日から2024年8月31日までの間にEV向けの固定式充電器(仕様については各種条件あり)を自宅に設置する場合に、その購入や設置にかかる費用に対する減税措置を設けている。対象となる支出上限額や減税率は、年度によって異なる(表3参照)。
対象期間 | 最大対象額(納税者・充電器当たり) | 減税率 |
---|---|---|
2021年9~12月 | 1,500ユーロ | 45% |
2022年1~12月 | 1,750ユーロ | 30% |
2023年1月~2024年8月 |
一方向充電器:1,750ユーロ 双方向充電器(注):8,000ユーロ |
15% |
注:車を充電するだけでなく、電力需要が急増した際などに、車のバッテリーからエネルギーを電力網に送ることも可能な設備。
出所:連邦政府資料を基にジェトロ作成
個人のゼロエミッション車の購入に関して、フランダース政府(注4)は、4万ユーロ以下の車両(中古車の場合は6万ユーロ以下、PHEVは対象外)の購入を対象に、最大5,000ユーロ、中古車には3,000ユーロを補助している(対象年度:2024年)。一方で、ワロン地域政府とブリュッセル首都圏政府は、車両の購入に対する補助制度を設けていない。
企業やレンタカー会社は、前述の連邦政府の税制優遇措置の恩恵を受け続けるために、徐々に内燃機関搭載車からゼロエミッション車への買い替えを行っていくとみられる。ベルギーの中古車市場は、社用車が主な供給源となっており、自家用車市場は数年のギャップをおいて社用車市場に追随する傾向にあるため、中長期的にはEV販売の将来は有望と言えそうだ。
- 注1:
- ファイナンスリースは、中途解約不可で、その代金をリース期間にわたって支払う。一方、オペレーティングリースは、賃貸となる。
- 注2:
- 本稿では、バッテリー式電気自動車(BEV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド式電気自動車(HEV)を総称して「電気自動車(EV)」と呼ぶ。
- 注3:
- BEVや燃料電池車(FCEV)などの化石燃料を使用しない車両。
- 注4:
- ベルギーは連邦制を採用しており、各政府で管轄が異なる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ブリュッセル事務所
大中 登紀子(おおなか ときこ) - 2015年よりジェトロ・ブリュッセル事務所に勤務。