域外とのFTA締結を推進するメルコスール

2024年2月15日

メルコスールは2023年12月7日、シンガポールと自由貿易協定(FTA)に署名した。メルコスールにとって2023年は、これに加え、ボリビアの加盟、EUとのFTA交渉進展など、域外国・地域との関係強化に少しずつ動き出した年だった。また、ベトナムやアラブ首長国連邦(UAE)など、アジア・中東諸国とのFTA交渉にも関心を見せており、2024年はさらなる動きに注目が集まる。本稿では、ここ数年のメルコスールの動向を分析し、日系企業を取り巻くメルコスールのビジネス環境の現状について報告する。

シンガポールとFTA締結、ボリビアの加盟、EUとのFTA交渉の進展

2023年12月7日に、ブラジルのリオデジャネイロ州で第63回メルコスール首脳会議が開催され、加盟国の首脳とボリビアのルイス・アルベルト・アルセ・カタコラ大統領が参加した。メルコスール加盟国首脳とボリビア大統領との共同声明では、「包括的かつ実際的なアプローチで、ブロックの内外の課題を考慮し、ブロックをよりダイナミックなものにする必要性で合意した」としている。共同声明を確認すると、28項目で構成されており、対外共通関税率(注1)やメルコスール原産地規則の見直しなど、以前からの協議が継続しているものも多い。共同声明の中で、特筆すべき内容は以下のとおりだった。

シンガポールとのFTA署名

ブラジル外務省および開発商工サービス省は12月7日、第63回メルコスール首脳会議で、メルコスール・シンガポール自由貿易協定(FTA)が署名されたと発表した。メルコスールにとって、初のアジアの国とのFTA締結となった。シンガポール側はメルコスールから輸入する全ての品目に関して、FTA発効とともに関税を即時撤廃し、メルコスール側はシンガポールからの輸入品の95.8%(品目ベース)に対して、発効から最長15年かけて関税を撤廃する。完成車や自動車部品、電子機器、医療機器など、メルコスール側にとってセンシティビティの高い品目433品目(4.2%)は、輸入関税撤廃の例外品目となっている(2023年12月13日付ビジネス短信参照)。ブラジルのジェラウド・アルキミン副大統領兼開発商工サービス相が「シンガポールはアジア、特にASEANへの玄関口として戦略的な位置にある」とコメントし、メルコスールが今後のアジア地域へのアクセス拡大に向け、くさびを打った点を強調している。

ボリビアの加盟

ボリビアのメルコスールへの加盟が正式に発表された。ボリビアのメルコスール加盟の議論は、2006年のブラジルの第1次ルーラ政権の時代に始まり、2007年1月にボリビアからメルコスールへの加盟申請が受理された。2015年には加盟議定書の署名が完了していたが、加盟国各国議会の批准が遅れていた。しかし2023年11月28日に、加盟国内で唯一批准していなかったブラジルの上院議会で批准を終え、正式にボリビアの加盟が承認された。ブラジル社会党(PSB)に所属するシコ・ロドリゲス上院議員は、ボリビアのメルコスール加盟について「ブラジル企業にとってボリビアとの市場の開放または拡大は重要事項で、より安価なエネルギーが利用できる可能性もある」と、ブラジル企業が受ける恩恵を強調した。

中南米以外の国々との対外交渉

2023年下半期は、ブラジルがメルコスール議長国となり、ルーラ大統領がEUとのFTA署名に向けて奔走したが、EU側の環境分野のサイドレターの要件緩和について折り合いがつかず、結局、署名には至らなかった。共同声明では、EUとの交渉は重要な進展があったとするものの、その詳細については触れられておらず、「農産物の貿易制限措置になり得るEU側の立法措置の策定」について懸念を表明しており、EUとのFTA署名に向けての障壁となっている。また、EUとの交渉にとどまらず、現在カナダ、韓国、インドネシアとも交渉中で、欧州自由貿易連合(EFTA)とのFTA交渉が2019年8月に合意しており(表1参照)、共同声明内ではEFTAとのFTA締結に向けた作業を加速させると記されている。FTA交渉が始まっていない国のうち、共同声明内で言及があったのはUAEとベトナムだった。前者については「貿易、投資、協力における持続的な拡大に資する探索的対話を速やか調整することへ期待、また互恵的な貿易協定交渉の開始をする意思がある」、後者については「ベトナムとの関係については交流が継続している」と明記されていた。

表1:メルコスールの貿易協定一覧(-は値なし)
種類 名称 相手国・地域 段階 発効年月/署名年月 備考
経済補完協定(ACE) メルコスール・チリ経済補完協定(ACE35号) チリ 発効済み 1996年10月 -
メルコスール・ボリビア経済補完協定(ACE36号) ボリビア 発効済み 1997年2月 -
メキシコ・メルコスール経済補完協定(ACE54号) メキシコ 発効済み 2006年1月 -
メキシコ・メルコスール自動車協定(ACE55号) メキシコ 発効済み 2003年1月 -
メルコスール・ペルー経済補完協定(ACE58号) ペルー 発効済み 2005年12月 -
アンデス共同体(CAN)・メルコスール経済補完協定(ACE59号) アンデス共同体(CAN) 発効済み 2005年4月 -
メルコスール・キューバ経済補完協定(ACE62号) キューバ 発行済み 2007~2008年 -
メルコスール・コロンビア経済補完協定(ACE72号) コロンビア 発効済み 2017年12月 -
特恵関税協定 インド・メルコスール特恵関税 インド 発効済み 2009年6月 -
メルコスール・南部アフリカ関税同盟(SACU)特恵関税協定 SACU加盟国 発効済み 2016年4月 -
自由貿易協定(FTA) メルコスール・イスラエルFTA イスラエル 発効済み 2009年12月 -
メルコスール・エジプトFTA エジプト 発効済み 2017年9月 -
メルコスール・パレスチナFTA パレスチナ 署名済み 2011年12月 -
メルコスール・シンガポールFTA シンガポール 署名済み 2023年12月
  • 2018年10月交渉開始
交渉中 メルコスール・カナダFTA カナダ 交渉中 -
  • 2018年3月~2019年8月に7回の交渉を実施
  • 2023年5月に交渉の推進で合意
EU・メルコスールFTA EU 交渉中 -
  • 2019年6月に大筋合意
メルコスール・レバノンFTA レバノン 交渉中 - -
EFTA・メルコスールFTA EFTA 交渉中 -
  • 2019年8月に政治合意
韓国・メルコスールFTA 韓国 交渉中 -
  • 2005年5月に共同研究開始
  • 2018年9月~2021年9月に7回の交渉
トルコ・メルコスールFTA トルコ 交渉中 -
  • 2008年6月に交渉開始
メルコスール・インドネシア包括的経済連携協定(CEPA) インドネシア 交渉中 -
  • 2021年12月に交渉開始に合意。

ボリビアの加盟による日本への影響は

ボリビア加盟後のメルコスールの経済規模は、名目GDPで約2兆7,000億ドルとなり、人口は約2億7,200万人程度になる。メルコスールは関税同盟であり、共通関税の決定や通商交渉など、域内の決め事は各国の全会一致で進められる。また、加盟国の言語は類似性が強いスペイン語とポルトガル語で、宗教もカトリックが多数派を占めるなど文化的にも共通点が多いことから、メルコスールを1つのブロックとして捉えることができる。その経済規模はフランスと同程度、人口はインドネシア並みと、注目に値する巨大市場になる(図1、図2参照)。

図1:世界の名目GDPランキング(2022年)
1位は米国で25兆4630億ドル、2位は中国で17兆8860億ドル、3位は日本で4兆2380億ドル、4位はドイツで4兆860億ドル、5位はインドで3兆3900億ドル、6位は英国で3兆820億ドル、7位はフランスで2兆7800億ドル、8位はメルコスールで2兆6640億ドル、9位はロシアで2兆2440億ドル、10位はカナダで2兆1380億ドル、11位はイタリアで2兆120億ドル、12位はオーストラリアで1兆7030億ドル、13位は韓国で1兆6740億ドル、14位はメキシコで1兆4660億ドル、15位はスペインで1兆4190億ドル。

出所:IMF World Economic Outlook Database

図2:2022年の世界の人口ランキング
1位はインドで14億1720万人、2位は中国で14億1180万人、3位は米国で3億3350万人、4位はインドネシアで2億7490万人、5位はメルコスールで2億7230万人、6位はパキスタンで2億2700万人、7位はナイジェリアで2億1670万人、8位はバングラデシュで1億6850万人、9位はロシアで1億4340万人、10位はメキシコで1億3010万人、11位は日本で1億2520万人、12位はフィリピンで1億1160万人、13位はエチオピアで1億410万人、14位はエジプトで1億360万人、15位はベトナムで9950万人。

出所:IMF World Economic Outlook Database

ボリビアの基礎的な経済指標は表2のとおりだ。ボリビアの国家統計院(INE)によると、2022年の名目GDP(暫定値)に占める経済活動別の割合は、公共サービスが17.2%、農業、林業、狩猟、漁業が12.5%、鉱業が10.9%、製造業が10.3%となっており、1次産業と2次産業がボリビアの経済を支えている。またINEによると、2023年1~11月で最も輸出額が多かった品目は金、次いで天然ガス、大豆由来製品、亜鉛と続き、国の資源や農産品の輸出が外貨獲得の手段となっている。

表2:ボリビアの基礎的経済指標(△はマイナス値)
項目 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
名目GDP(10億ドル) 40.581 41.193 36.897 40.703 44.315
1人当たりの名目GDP(ドル) 3,588 3,591 3,173 3,449 3,705
人口(1万人) 1,131 1,147 1,163 1,180 1,196
インフレ率(期末値、%) 1.5 1.5 0.7 0.9 3.1
失業率(%) 4.91 5.01 8.34 6.94 4.74
経常収支(10億ドル) △1.725 △1.366 △0.016 0.871 △0.183
対日輸出額(100万ドル) 670 721 529 917 967
対日輸入額(100万ドル) 308 283 186 186 231

注:人口、1人当たりの名目GDPについては、2018年以降は推計値。
出所:名目GDP、人口、インフレ率、失業率、経常収支は国際通貨基金(IMF)のWorld Economic Outlook Database、対日貿易額はグローバルトレードアトラス(GTA)

では、現在のボリビアと日本の経済的な関係はどうだろうか。日本の外務省が公表している2021年海外進出日系企業拠点数調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、企業拠点総数は49社で、メルコスール内ではブラジル、アルゼンチン、パラグアイに次ぐ拠点数となっており、ウルグアイよりも多い。ただし、企業形態の内訳をみると、「日本人が海外にわたって興した企業(日本人の出資比率10%以上)」が41社を占めており、いわゆる日系企業の進出拠点としては、その数は10社に満たない。

対日貿易をみると、2022年の対日輸出額は9億6,694万550ドル、対日輸入額は2億3,121万554ドル、貿易収支は7億3,572万9,996ドルとボリビア側が大幅な貿易黒字となっている。対日輸出の品目では、亜鉛鉱(HS:260800)が全体の8割強を占めている(表3参照)。ボリビアにとっての日本は亜鉛鉱の最大の輸出相手国(輸出額の44.5%)であるとともに、日本にとってのボリビアは亜鉛鉱の最大調達先(輸入額の30.9%)という関係になっている。一方で、ボリビアの対日輸入品目はHSコードが87から始まる自動車関連品が多い(表4参照)。日本とボリビアは現在、EPA、またはFTAを結んでいないため、日本はボリビアに輸出する際に一般(MFN)税率が適用される。例えば、ボリビアの主要な対日輸入品である乗用車(シリンダー容積1,500㎤~3,000㎤、HS:870323)へのMFN税率は10%だ。通常、メルコスール加盟国は域内で共通の対外共通関税率を使用しているが、自動車産業ついてはその対象になっていない。例えば、自動車産業が発達しているブラジルやアルゼンチンにおいて、乗用車(HS:870323)の関税率は35%だが、ブラジルやアルゼンチンほど発達していないパラグアイでは0~15%となっている。ボリビアの自動車産業の現状に鑑みると、加盟後も現在の税率からの変化は少ないと考えられ、ボリビアの対日輸入に与える影響は少ないと予想される。

表3:ボリビアの対日輸出上位10品目(HSコード6桁ベース)(単位:ドル、%)
順位 HS
コード
品目名 輸出金額 構成比
1 260800 亜鉛鉱(精鉱を含む) 809,856,931 83.8
2 261610 銀鉱(精鉱を含む) 129,778,425 13.4
3 800110 すず(合金を除く) 19,531,589 2.0
4 120740 ごま 3,693,720 0.4
5 260700 鉛鉱(精鉱を含む) 1,121,137 0.1
6 090111 カフェインを除いていないコーヒー 816,727 0.1
7 230400 大豆油かす(粉砕してあるかないかまたはペレット状であるかないかを問わない) 576,000 0.1
8 170113 甘しゃ糖 430,151 0.0
9 440890 化粧ばり用単板、合板用単板(針葉樹・熱帯産木材のものを除く) 248,643 0.0
10 440839 化粧ばり用単板、合板用単板(ダークレッドメランチ、ライトレッドメランチおよびメランチバカウを除く熱帯産木材のもの) 231,996 0.0

注:品目名は税関が公表している輸入統計品目表(実行関税率表)を参照。文字数が多い品目は一部省略して記載。
出所:グローバルトレードアトラス(GTA)

表4:ボリビアの対日輸入上位10品目(HSコード6桁ベース)(単位:ドル、%)
順位 HS
コード
品目名 輸入額 構成比 MFN
税率
1 870323 シリンダー容積1,500㎤~3,000㎤の乗用車 39,381,642 17.0 10
2 870324 シリンダー容積3,000㎤を超える乗用車 28,326,975 12.3 10
3 842952 ブルドーザー(上部構造が360度回転するもの) 11,353,885 4.9 0
4 870431 総重量5トン以下の貨物自動車 10,898,578 4.7 10
5 870290 10人以上の輸送用の自動車(ピストン式火花点火内燃機関および電動機を搭載していないもの) 9,054,357 3.9 10
6 870422 総重量5トン~20トンの貨物自動車 8,737,523 3.8 10
7 401220 中古のゴム製空気タイヤ 7,874,110 3.4 30
8 840734 シリンダー容積が1000㎤を超える内燃機関 4,471,779 1.9 10~30
9 840733 シリンダー容積250㎤~1000㎤の内燃機関 4,328,539 1.9 5
10 870880 懸架装置およびその部分品 3,843,494 1.7 10

注:品目名は税関が公表している輸入統計品目表(実行関税率表)を参照。文字数が多い品目は一部省略して記載。
出所:グローバルトレードアトラス(GTA)、ワールドタリフ

日本とメルコスールの貿易投資関係の現状は

メルコスールが世界の主要国との対外交渉に積極性を見せる中、日本との関係性の現状はどうだろうか。日本の外務省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、メルコスールとの経済関係緊密化のための対話が数回行われているものの、EPAの交渉はいまだ開始していない。ただし、「民間(日本経団連,日伯経済委員会,ブラジル全国工業連盟,伯日経済委員会,日本商工会議所および日亜経済委員会など)から日・メルコスールEPAに関する政府間の検討開始を求める報告書が提出されている」と公開している。

2021年海外進出日系企業拠点数調査によれば、メルコスール(ボリビアを含む)の進出日系企業の総数は1,021社で、先進国のカナダ(953社)や英国(960社)より多く、マレーシア(1,210社)やフィリピン(1,377社)よりも少ない規模だ。業種は、製造業(300社)と卸売業・小売業(253社)で半数以上を占めている。歴史的に中南米には日本人の移民が多いことから、「日本人が海外にわたって興した企業(日本人の出資比率10%以上)」に分類される企業が42.9%を占めていることも特徴だ。加盟国別の進出日系企業数はブラジルが最も多く649社で、メルコスール進出日系企業の半数以上がブラジルでビジネスを展開していることが分かる。次いでパラグアイ(233社)、アルゼンチン(70社)、ボリビア(49社)、ウルグアイ(20社)と続く。

最も日系企業が多いブラジルへの対内直接投資を国別に比較すると、2022年に日本は7億5,600万ドルで、国別では12番目の額だ。日本によるブラジルへの対内直接投資額は、コモディティー価格上昇の追い風を受けた第2次ルーラ政権、第1次ルセフ政権時に増加した(図3参照)。しかし、直近の第2次ルセフ政権からテメル政権、ボルソナーロ政権時の投資額は2000年代前半と同程度の規模に低迷しており、2022年はブラジルの対内投資額全体の2%にも満たない。一方で統計上、最もブラジルに投資をしているのは米国で2022年は109億9,200万ドルで同年の対内直接投資額の4分の1を占めている。また、近年中南米でプレゼンスを強めている中国からの投資は、タックスヘイブン(租税回避地)を経由するものがあり、ブラジル中央銀行統計では実態をつかむことはできないが、各社の投資発表からその規模の大きさがうかがえる。例えば、日本企業の強みである自動車産業においては、中国系自動車メーカーによる電動車(EV)関連の大型投資発表が目立っており、2022年1月には長城汽車が中南米の輸出拠点として10年間で100億レアル(約3,000億円、1レアル=約30円)の大型投資を発表。また2023年7月には、中国系電気自動車大手の比亜迪(BYD)が約45億元(約900億円、1元=約20円)を投資し、大型生産拠点をブラジルに設置する計画を発表しており、今後、現地進出日系企業のプレゼンスに影響を与える可能性もありそうだ。

図3:主要国によるブラジルの対内直接投資額(国際収支ベース、フロー)の推移
2001年は米国44億6500万ドル、オランダ18億9200万ドル、スペイン27億6700万ドル、スイス1億8200万ドル、チリ6200万ドル、日本8億2700万ドル。2002年は米国26億1400万ドル、オランダ33億7200万ドル、スペイン5億8700万ドル、スイス3億4700万ドル、チリ4700万ドル、日本5億400万ドル。第1次ルーラ政権の2003年は米国23億8300万ドル、オランダ14億4400万ドル、スペイン7億1000万ドル、スイス3億3600万ドル、チリ6700万ドル、日本13億6800万ドル。2004年は米国39億7700万ドル、オランダ77億500万ドル、スペイン10億5400万ドル、スイス3億6400万ドル、チリ2300万ドル、日本2億4300万ドル。2005年は米国46億4400万ドル、オランダは32億800万ドル、スペイン12億2000万ドル、スイス3億4200万ドル、チリ1億300万ドル、日本7億7900万ドル。2006年は米国45億2200万ドル、オランダ35億600万ドル、スペイン15億6400万ドル、スイス16億5900万ドル、チリ2700万ドル、日本6億6000万ドル。第2次ルーラ政権の2007年は米国60億7300万ドル、オランダ81億2900万ドル、スペイン22億200万ドル、スイス9億500万ドル、チリ7億1700万ドル、日本5億100万ドル。2008年は米国70億4700万ドル、オランダ46億3900万ドル、スペイン38億5100万ドル、スイス8億300万ドル、チリ2億6400万ドル、日本40億9900万ドル。2009年は米国49億200万ドル、オランダ65億1500万ドル、スペイン34億2400万ドル、スイス3億8000万ドル、チリ10億2700万ドル、日本16億7300万ドル。2010年は米国61億4400万ドル、オランダ67億200万ドル、スペイン15億2400万ドル、スイス64億4500万ドル、チリ9億4100万ドル、日本25億200万ドル。第1次ルセーフ政権の2011年は米国89億900万ドル、オランダ175億8200万ドル、スペイン85億9300万ドル、スイス11億9400万ドル、チリ8億3000万ドル、日本75億3600万ドル。2012年は米国123億1000万ドル、オランダ122億1300万ドル、スペイン25億2300万ドル、スイス43億3300万ドル、チリ20億1300万ドル、日本14億7100万ドル。2013年は米国90億2400万ドル、オランダ105億1100万ドル、スペイン22億4600万ドル、スイス23億3300万ドル、チリ29億6300万ドル、日本25億1600万ドル。2014年は米国85億8000万ドル、オランダ87億9100万ドル、スペイン59億6200万ドル、スイス19億7300万ドル、チリ12億7300万ドル、日本37億8000万ドル。第2次ルセーフ政権の2015年は米国68億6600万ドル、オランダ115億7300万ドル、スペイン65億7000万ドル、スイス11億2600万ドル、チリ10億2400万ドル、日本28億7800万ドル。テメル政権の2016年は米国65億4500万ドル、オランダ105億4000万ドル、スペイン35億5400万ドル、スイス9億6500万ドル、チリ8億4600万ドル、日本14億1200万ドル。2017年は米国110億6900万ドル、オランダ108億9400万ドル、スペイン23億0900万ドル、スイス12億8800万ドル、チリ16億2000万ドル、日本5億3700万ドル。2018年は米国72億8700万ドル、オランダ92億3200万ドル、スペイン33億9700万ドル、スイス11億8600万ドル、チリ10億3800万ドル、日本11億2400万ドル。ボルソナーロ政権の2019年は米国102億8700万ドル、オランダ62億1300万ドル、スペイン28億7500万ドル、スイス7億9300万ドル、チリ38億2900万ドル、日本19億5800万ドル。2020年は米国75億3200万ドル、オランダ54億100万ドル、スペイン20億1200万ドル、スイス7億2100万ドル、チリ7億6200万ドル、日本20億1100万ドル。2021年は米国130億1900万ドル、オランダ40億6900万ドル、スペイン12億7600万ドル、スイス8億800万ドル、チリ12億3500万ドル、日本5億5400万ドル。2022年は米国109億9200万ドル、オランダ86億2200万ドル、スペイン26億7900万ドル、スイス14億8200万ドル、チリ16億2000万ドル、日本7億5600万ドル。2023年の1~9月は米国76億8400万ドル、オランダ39億4600万ドル、スペイン21億4600万ドル、スイス15億100万ドル、チリ12億5700万ドル、日本2億7500万ドル。

注:2023年は1~9月までの金額を表示。
出所:ブラジル中央銀行統計を基にジェトロ作成

次に、メルコスール統計局が発表している足元(2023年1~11月)の相手国別の貿易額をみると、日本への輸出額は67億2,700万ドル(構成比1.9%)で韓国やインドと同程度、輸入額は60億8,000万ドルで(構成比2.3%)で韓国やフランスと同程度の額だ(表5、表6参照)。メルコスールとの貿易は、輸出入ともに中国と米国のみで全体の4割以上を占めており、重要な貿易相手国になっていることが分かる。続く3番目以下の国々との貿易額は全体の数%程度にとどまるが、その多くとの間でFTAや経済補完協定(ACE)を発効済み、または締結へ向けた交渉中という状況であり、貿易を有利に進めるための取り組みが進行している、と言える。また、交渉が始まっていない中国やベトナムについても、ルーラ大統領が2023年7月の第62回メルコスール首脳会議における演説内で新たな交渉を模索していると発言している。表5、表6のとおり、日本以外の主要な国々はメルコスールとのFTA交渉を進めており、仮にそのような国々とのFTAが発効すれば、相対的に日本との直接貿易のシェアが低下する可能性もありそうだ。また、メルコスールの進出日系企業にとっても、FTAを締結した国々の関税が削減された製品と競争を強いられることが予測される。

表5:2023年1~11月におけるメルコスール4カ国の国別輸出額(FOB)(単位:100万ドル、%)(-は値なし)
順位 相手国 輸入額 構成比 各国との貿易協定の現状
1 中国 101,627 29.3
2 米国 39,331 11.4
3 チリ 13,129 3.8 ACE35号発効済
4 オランダ 13,089 3.8 FTA交渉中
5 メキシコ 8,980 2.6 ACE54号、ACE55号発効済
6 スペイン 8,567 2.5 FTA交渉中
7 シンガポール 7,207 2.1 FTA署名済
8 インド 6,751 1.9 特恵関税協定発効済
9 日本 6,727 1.9
10 韓国 6,278 1.8 FTA交渉中
11 ドイツ 6,007 1.7 FTA交渉中
12 カナダ 5,990 1.7 FTA交渉中
13 ペルー 5,577 1.6 ACE58号発効済
14 ベトナム 5,439 1.6
15 マレーシア 4,861 1.4
16 その他 106,766 30.8
合計 346,327 100.0

出所:メルコスール外国貿易統計システム(SECEM)

表6:2023年1~11月におけるメルコスール4カ国の国別輸入額(FOB)(単位:100万ドル、%)(-は値なし)
順位 相手国 輸入額 構成比 各国との貿易協定の現状
1 中国 68,055 25.4
2 米国 44,651 16.7
3 ドイツ 15,233 5.7 FTA交渉中
4 ロシア 8,695 3.3
5 インド 8,206 3.1 特恵関税協定発効済
6 イタリア 7,280 2.7 FTA交渉中
7 メキシコ 6,862 2.6 ACE54号、ACE55号発効済
8 フランス 6,390 2.4 FTA交渉中
9 日本 6,080 2.3
10 韓国 5,236 2.0 FTA交渉中
11 スペイン 5,204 1.9 FTA交渉中
12 チリ 4,803 1.8 ACE35号発効済
13 ベトナム 4,264 1.6
14 サウジアラビア 3,761 1.4
15 カナダ 3,632 1.4 FTA交渉中
16 その他 69,144 25.8
合計 267,497 100.0

出所:メルコスール外国貿易統計システム(SECEM)

ジェトロが2023年12月に公開した「2023年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)(注2)」によると、在ブラジル日系企業による日本との貿易において、日本へ輸出する際に、(将来、発効した場合)日本・メルコスールEPAの利用を検討中と回答した企業は3社(日本へ輸出していると回答した企業中42.9%)、日本へ輸入する際に日本・メルコスールEPAの利用を検討中と回答した企業は8社(日本から輸入すると回答した企業中21.6%)だった。業種をみると、輸出入にかかわらず大手商社や製造業が「利用を検討中」と回答しており、日常的に国際取引を行っている企業が同EPA締結に関心を寄せている。また、2023年の営業利益見込みを問う設問で「黒字」と回答した企業は全体の74.5%(前年比4.9ポイント増)に達し、世界の主要国と比較しても高い数値を記録した。その要因として、ブラジル通貨のレアル高により原材料の輸入調達コストが低下したことを指摘するコメントが複数みられた。在ブラジル日系企業の原材料・部品調達先として、所在国以外で調達割合が最も多いのは日本で、その調達比率の平均値は30.1%(5.9ポイント増)と、約3分の1を日本から調達していることになる。日本から調達している企業の上位業種は、輸送用機器部品(24.1%)、一般機械(17.2%)、化学・医薬(13.8%)となっている。ただし、これらの業種に関連し得る製品(HSコード2桁ベース)の対外共通関税率の最大値を調べると、第31類の「肥料」を除いた全ての項目で最大2桁の関税がかかっているのが現状だ(表7参照)。調達割合の高い日本への対外共通関税率を削減できれば、進出日系企業の価格競争力はさらに強化されるだろう。

表7:HSコード2桁ベースの対外共通関税率の最大値
HSコード(部) HSコード 品目名 関税率
(%、最大値)
第6部化学工業(類似の工業を含む)の生産品 28 無機化学品および貴金属、希土類金属、放射性元素または同位元素の無機または有機の化合物 10.8
29 有機化学品 12.6
30 医療用品 16.2
31 肥料 5.4
32 なめしエキス、染色エキス、タンニンおよびその誘導体、染料、顔料その他の着色料、ペイント、ワニス、パテその他のマスチックならびにインキ 12.6
33 精油、レジノイド、調製香料および化粧品類 16.2
34 せつけん、有機界面活性剤、洗剤、調製潤滑剤、人造ろう、調製ろう、磨き剤、ろうそくその他これに類する物品、モデリングペースト、歯科用ワックスおよびプラスターをもととした歯科用の調製品 16.2
35 たんぱく系物質、変性でん粉、膠着剤および酵素 14.4
36 火薬類、火工品、マッチ、発火性合金および調製燃料 12.6
37 写真用または映画用の材料 12.6
38 各種の化学工業生産品 12.6
第7部プラスチックおよびゴムならびにこれらの製品 39 プラスチックおよびその製品 18
40 ゴムおよびその製品 16
第16部機械類および電気機器ならびにこれらの部分品ならびに録音機、音声再生機ならびにテレビジョンの映像および音声の記録用または再生用の機器ならびにこれらの部分品および付属品 84 原子炉、ボイラーおよび機械類ならびにこれらの部分品 18
85 電気機器およびその部分品ならびに録音機、音声再生機ならびにテレビジョンの映像および音声の記録用または再生用の機器ならびにこれらの部分品および付属品 20
第17部車両、航空機、船舶および輸送機器関連品 86 鉄道用または軌道用の機関車および車両ならびにこれらの部分品、鉄道または軌道の線路用装備品およびその部分品ならびに機械式交通信号用機器(電気機械式のものを含む) 11.2
87 鉄道用および軌道用以外の車両ならびにその部分品および付属品 35
88 航空機および宇宙飛行体ならびにこれらの部分品 12.6
89 船舶および浮き構造物 18

注:品目名は税関が公表している輸入統計品目表(実行関税率表)を参照。文字数が多い品目は一部省略して記載。
出所:Sistema TECWEB

2024年以降は日伯間の要人往来が活発に

日本とメルコスールの関係においては、2024年早々に動きがあった。1月10日付ブラジル政府のプレスリリースは、ルーラ大統領が岸田文雄首相と電話会談を行い、岸田首相が訪伯の意向を表明したことや、両首脳がメルコスールと日本の貿易協定の可能性について話し合ったことを伝えている。2024年11月にはブラジルのリオデジャネイロにおいてG20が開催予定で、大臣レベルの閣僚が訪伯する。そして、2025年は日伯修好通商航海条約が130周年を迎える節目の年であり、北部パラ州の首都ベレンにおいて、国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)も開催される予定だ。2024年以降、両国間の要人往来が活発になる機会を活用して日本とメルコスールとの貿易投資関係のさらなる緊密化が注目される。


注1:
メルコスールは関税同盟のため、非加盟国の産品に対して加盟国共通の関税率である対外共通関税率を適用する。ただし、上限はあるものの加盟国ごとにNCMコード8桁ベースで例外品目を定めることが認められている。対外共通関税はスペイン語で「Arancel Externa Común(AEC)」、ポルトガル語では「Tarifa Externa Comun(TEC)」と呼ばれる。
注2:
中南米7カ国(メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、コロンビア、ペルー、ベネズエラ)に進出している日本企業の経営実態やビジネス環境の課題、各国のFTA活用状況などに関するアンケート調査を実施し、結果を取りまとめている。調査実施期間は2023年8月23日~9月27日。現地法人や支店の形態で拠点を構えている企業721社にアンケートを送付し、うち455社から回答を得た。1999年度から毎年実施しており、今回で24回目。調査結果の詳細はジェトロ・ウェブサイトに掲載されている。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課中南米班
小西 健友(こにし けんゆう)
2022年、ジェトロ入構。米州課中南米班でメキシコ、ブラジルなどの政治・経済の調査を担当。