新車登録数が1995年以降で最少更新、EV車は3割へ(ベルギー)
2023年8月15日
ベルギー自動車工業会(FEBIAC)の発表によると、2022年、新車登録台数は通年で36万6,303台(前年比4.4%減/プレスリリース(フランス語) )。1995年以降で最少の販売台数を記録し2021年をさらに下回ったかたちだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響が市場に表れた2020年から、3年連続で減少した(図参照)。
2022年のベルギーの自動車市場は、8月以降、前年同月比で増加に転じ、特に10月以降は、20%を超える増加を記録し回復基調を示した。一方で、1~7月の販売台数が振るわなかったことから、年間を通じると前年比4.4%の減少に終わった。
市場傾向としては、例年以上に企業による購入に支えられた。そのシェアは、前年の57.7%から61.9%に拡大。企業需要だけに絞ると、前年比2.5%増と微増した。社用車を中心に市場の「グリーン化」が進み(2023年1月19日付ビジネス短信参照)、新車の3台に1台が電気自動車(注1)になった。
燃料タイプ |
2020年 シェア |
2021年 シェア |
2022年 | |
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シェア | 前年との差 | |||
ガソリン | 51.8% | 52.0% | 48.9% | △ 3.1 |
ディーゼル | 32.9% | 23.7% | 16.4% | △ 7.3 |
プラグインハイブリッド車(PHEV) | 7.3% | 12.5% | 16.2% | 3.7 |
ハイブリッド式電気自動車(HEV) | 3.5% | 5.1% | 7.5% | 1.8 |
バッテリー式電気自動車(BEV) | 3.5% | 5.9% | 10.3% | 4.4 |
その他 | 0.9% | 0.8% | 0.8% | 0.0 |
注:HEVの計上値に齟齬が見られるものの、発表に基づき作成。合計が100%に満たない場合がある。
出所:ベルギー自動車工業会
新車登録台数を燃料タイプ別にみると、ガソリン車が48.9%(前年比3.1ポイント減)として、依然として、最大のシェアを占めたものの、市場全体としてみると、2017年以降、初めて50%を下回った。ディーゼル車は2020年時点で新車市場の32.9%を占めていたものの、16.4%(前年比7.3ポイント減)まで落ち込んだ。対照的に、バッテリー式電気自動車(BEV)が前年の5.9%から10.3%に、プラグインハイブリッド車(PHEV)は12.5%から16.2%に、ハイブリッド式電気自動車(HEV)は5.1%から7.5%に、それぞれ拡大。電気自動車が市場に定着しつつあることを印象付けた(表参照)。
2022年の自動車市場は、購入者の属性による選好の違いがより鮮明になった。例えば、2022年に新規登録されたBEVの87.1%は企業による購入。個人による購入は12.9%にとどまった。PHEVについても同様で、91.4%は企業の購入なのに対し、個人の購入は8.6%に過ぎなかった。逆に、HEVについては個人による購入が多い。54.6%と過半を占めた。内燃機関搭載車(ガソリンとディーゼル)は、個人による新車登録台数全体の79.4%を占めた。一方で、企業の新車登録台数では57.2%だった。
メーカー・ブランド別には、以下の通り。
- BMW:3万8,011台。市場全体の10.4%を占め、前年に続き首位だった(ただし、前年比2.4%減)。
- フォルクスワーゲン(VW):3万2,061台。シェア8.8%で、前年同様2位(同6.7%減)。
- メルセデス・ベンツ:2万9,283台。販売台数を伸ばし(同6.4%増)、シェアも8.0%へ。前年5位から3位に浮上した。
- トヨタ自動車:HEVを中心に販売台数を伸ばした(同34.6%増)。2万1,262台になり、シェア5.8%。前年の10位から6位に躍進した。
自動車から新移動手段へ
社用車が大きなシェアを占めるベルギー市場で、販売台数が減少する傾向が見られるのは、新しい移動手段を促す政策も関連していそうだ。
ベルギー政府は2019年、社用車を従業員に貸与している雇用主を対象に新制度を導入した。当該雇用主が、相当する予算を従業員に付与し、各従業員に自身の移動手段の選択を促す、というのがその趣旨だった。ここで言う新しい「移動手段」としては、より環境に優しい車や、公共交通機関、電動自転車、またはその組み合わせなどが想定されていた。2022年には、同制度が改正され、電動自転車の駐輪場代や同居世帯家族の公共交通機関の定期代など、経費の適用範囲を拡大し、制度の利便性を高めた。また、自動車以外の交通手段を選択に含めることを義務付け、代替モビリティをより推進する内容に変更した。
人事サービスのアセルタがベルギー企業500社を対象として実施したアンケート調査(2023年4月発表)によると、54%が、スマートフォンや自動車、自転車、休暇などを含む給与パッケージを従業員が各自で選択できるようにしている。この比率は2年前の46%から増加しており、労働力不足を背景に、人材確保を狙う企業の戦略とみられる。なお、59%の企業が、依然として社用車を選択オプションとして提供している。ただしこの比率は、2年前の62%から低下した。逆に、公共交通機関の定期券などを提供する企業は、2021年の47%から54%に増加。23%の企業が2年以内に同オプションを導入することを検討しているという。
アセルタが4万社の26万人の従業員を対象として実施した別の調査によると、自転車通勤手当を受け取っている従業員の割合は回答者の22.3%に上り、人数で比べると2017年から45%増となり、大きく伸びた。また、新たな労働協約が締結されたことにより、2023年5月以降は、これまで自転車通勤手当を支給してこなかった産業(銀行や観光セクターなど)の従業員も、同手当を請求できるようになった。アセルタの専門家は、より多くの労働者が自転車通勤を選択すると予測している。
国内でカーシェアリングが普及していることも、自動車販売台数の減少に影響を与えていそうだ。非営利団体アウトデーレン(注2)が2023年2月に発表した報告書によると、2022年末時点で、カーシェアリング利用者数は、前年比40%増の12万1,394人になった。普及率が最も高いのはブリュッセル首都圏地域で、同地域の運転免許を持つドライバーの6.3%が同サービスを利用している。ベルギーでカーシェアリングに利用される車両数は現在5,300台以上に上る。2022年に新規導入された台数は670台を超え、過去5年間で最も大きな増加になった。
カーシェアリングが拡大している背景として、主に利便性の高いサービスが拡大していることが考えられる。具体的には、片道(ワンウェイ)利用が可能で、返却場所が自由な「フリーフロート型」システムだ。このシステムの利用者数は、前年比78%増と大幅に増加した。報告書によると、カーシェアリング車1台で、最大10台分の自家用車を削減できる可能性があるという。平均的な利用者は40代前後の都心在住者で、自転車の利用頻度も高い。
カーシェアリングや自転車の利用が都市部以外の自動車利用者にも拡大するかどうかが、今後の自動車販売台数の伸びに影響を与えていくことになるだろう。
- 注1:
- 本稿では、バッテリー式電気自動車(BEV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド式電気自動車(HEV)を総称して「電気自動車」と呼ぶ。
- 注2:
- アウトデーレンは、持続可能なモビリティの普及促進を目標に活動する。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ブリュッセル事務所
大中 登紀子(おおなか ときこ) - 2015年よりジェトロ・ブリュッセル事務所に勤務。