半導体市場の縮小に底打ちの兆し。生産の本格回復は2024年前半か(世界)

2023年8月31日

米国半導体工業会(SIA)が毎月発表する世界の半導体売上高(主要国・地域別、3カ月後方移動平均)のデータによると、2023年上半期(1~6月)の世界全体の売上高は2,432億ドルで、前年同期から2割減となった。他方、月別の売上高の推移を見ると、2023年3月に2022年5月以来のプラスの伸び(前月比ベース)に転じて以降、6月まで4カ月連続で同プラスを維持している。四半期別では、第2四半期(4~6月)の売上高が第1四半期(1~3月)比4.7%増を記録した。米州や欧州、中国、日本などの主要市場別に見ても、3~6月にかけて前月比プラスに転じており、1年近く続いた世界的な半導体市場の縮小に、ようやく底打ち感が見られる(図1参照)。

図1:世界の主要国・地域別半導体売上高(月別)と前月比伸び率推移
2022年1月~2023年6月までの推移で、縦棒グラフで表示(主要国・地域別の積み上げ)(単位は10億ドル)。50.74 50.04 50.58 50.93 51.82 50.82 49.00 47.35 47.00 46.86 45.58 43.61 41.34 39.70 39.83 40.04 40.74 41.51 。

出所:米国半導体工業会(SIA)発表資料からジェトロ作成

世界市場をリードするグローバル半導体メーカー各社は、2023年の業績について厳しい見通しを示す一方、同年後半に向けては緩やかな業績回復の兆しも見られる。ファウンドリーの世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の同年第2四半期(4~6月)の決算報告(注1)によると、同期の売上高は前年同期比13.7%減の156億8,000万ドルで、2期連続で前年同期比マイナスを記録した(図2参照)。また、同決算発表時点で、2023年通期の売上高について前年比10%減となるとの見方を示した。他方、同年第3四半期(7~9月)の売上高については167億ドル~175億ドルと予測。第2四半期実績との比較では、1割前後の回復を見込んでいる。

一方、垂直統合型デバイスメーカー(IDM)の米国インテルの2023年第2四半期の売上高は129億ドル。前年同期比15%減となったものの、同年4月時点の見通し(120億ドル)を上回った(注2)。また、前期比ベースでは増加に転じており、2022年第1四半期以来続いていた売上高の減少傾向に歯止めがかかった。純利益は15億ドルを計上し、3四半期ぶりの黒字転換を果たしたと報告した。パトリック・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)は、同四半期の決算報告の発表に際し、パソコンなどの製品で顧客の在庫調整が進み、顧客向け CPU の在庫が健全な水準に管理されつつあるとした上で、「関連事業で2023年後半には持続的な回復が見込まれる」との見通しを述べている。また、同決算発表を受け、主要メディアはパソコンなどの最終製品の需要低迷に伴う在庫調整を続けていた同社が「ようやく難局から脱した」と報じた(注3)。

図2:2020年以降のTSMC、インテルの四半期別売上高推移
2020年Q1~2023年Q2までの推移で、折れ線グラフで表示(単位は10億ドル)。TSMCは、10.3 10.4 12.1 12.7 12.9 13.3 14.9 15.7 17.6 18.2 20.2 19.9 16.7 15.7 。インテルは、19.8 19.7 18.3 20.0 19.7 19.6 19.2 20.5 18.4 15.3 15.3 14.0 11.7 12.9 。

出所: TSMCとインテルの発表(Financial Results)に基づきジェトロ作成

半導体国際業界団体のSEMIは、2023年8月15日付のプレスリリース(注4)で、「世界の半導体産業のダウンサイクルの終わりが近づいているもようで、2024年には回復に向かう」との予測を示した。また、「半導体産業の市場指標は2023年上半期末に底を打ち、市場はそこから回復に転じて2024年の継続的な成長の土台をつくる」とした。他方、半導体製造分野の在庫調整の進捗については、垂直統合型デバイスメーカー(IDM)とファブレスメーカーの高水準の在庫が引き続きファブ稼働率を抑制することなどを背景に、「2023年第3四半期の稼働率は2023年上半期の水準を大きく下回る」「在庫の正常化は2023年末までずれ込む」とされており、引き続き注視が必要だ。

製造装置需要の本格回復は2024年に

半導体製造装置市場の見通しはどうか。前出のSEMIは2023年7月、世界半導体製造装置の2023年央市場予測を発表(注5)。その中で、2023年の半導体製造装置(新品)の世界販売額が874億ドルと、過去最高を記録した前年の1,074億ドルから18.6%減少するとの見通しを示した。これは、2022年12月時点でSEMIが示した2023年の見通し値(912億ドル)を下方修正したかたちだ。セグメント別では、前工程に当たるウエハーファブ装置(ウエハープロセス処理装置、ファブ設備、マスク/レチクル製造装置)市場が同18.8%減の764億ドル、半導体テスト装置市場が15%減の64億ドル、組み立ておよびパッケージング装置市場が同20.5%減の46億ドルと予測されている。

半導体製造機器(HS8486項)の世界第1位の輸出国(注6)である日本の輸出実績も、2023年の製造装置市場の落ち込みを顕著に示している(図3参照)。四半期別の推移で見ると、2023年第2四半期には前年同期比21%減の59億7,800万ドルと、2020年第2四半期以来12四半期ぶりに60億ドルを下回った。主要相手国・地域別でも、中国(0.3%減)、台湾(30.2%減)、韓国(20.1%減)、米国(20.0%減)と、いずれも落ち込んでおり、世界の主要生産拠点で生産や設備投資が回復軌道に乗っていない実態がうかがえる。

図3:日本の半導体製造機器(HS8486項)輸出額(四半期別推移)
2020年第1四半期~2023年第2四半期までの四半期別の推移で、縦棒グラフで表示(主要国・地域別の積み上げ)。単位は100万ドル。(全世界計)。5379 5321 6163 6754 6876 7549 7724 8341 8044 7548 8005 7398 6907 5968 。

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成(2023年8月20日時点データに基づく)

他方、SEMIは、2023年の製造装置市場の縮小があくまで一時的な調整局面であり、2024年については、前工程、後工程の両セグメントの成長により、装置市場全体で1,000億ドルの大台を回復するとの見通しを維持している。SEMIのプレジデント兼CEOのアジット・マノチャ氏は半導体製造装置市場の見通しに関して、「2024年に力強い回復を見ることになる。ハイパフォーマンス・コンピューティングとユビキタス・コネクティビティーが牽引する力強い、かつ長期的な市場の成長が見込まれる」と自信を示す。

2023年も主要メーカーによる大型投資計画が相次ぐ

前述のSEMIによる強気の見通しの背景には、2023年半ばにかけてグローバル半導体メーカーによる大規模生産工場の建設計画の発表が相次いでいることがある(表参照)。米国やEU主要国を中心に、大規模な財政支援を伴う半導体産業の誘致競争が本格化していることも、大規模プロジェクトの始動を後押しする。(2023年8月29日付地域・分析レポート「半導体やEVの産業誘致競争が本格化、投資行動に変化も」参照)。

表:2023年に発表された主な半導体関連投資プロジェクト
企業(本社所在) 投資先 投資規模 計画の概要 発表
年月
TSMC(台湾) ドイツ(ドレスデン) 100億ユーロ超(注1) 自動車用、産業用を中心とする半導体製造工場の新設 2023年6月
インテル(米国) イスラエル(キルヤット・ガト) 250億ドル 最先端プロセスの半導体製造工場の新設 2023年6月
ポーランド(ブロツワフ近郊) 46億ドル 組み立て・検査工場の新設 2023年6月
ドイツ(マクデブルク) 300億ユーロ 最先端半導体工場の新設(既存計画の投資額引き上げ) 2023年6月
マイクロン・テクノロジー
(米国)
日本 5,000億円 次世代型メモリー半導体の開発・生産のための追加投資 2023年5月
中国(西安) 6億ドル 既存の後工程工場での組み立て・検査ライン新設 2023年6月
インド 8.25億ドル DRAM、NANDの組み立て・テスト工場新設 2023年6月
テキサス・インスツルメンツ(米国) マレーシア(クアラルンプール) 21億ドル 組み立て・検査工場の増設 2023年6月
マレーシア(マラッカ) 10.8億ドル 組み立て・検査工場の増設 2023年6月
インフィニオンテクノロジーズ(ドイツ) マレーシア(クリム) 50億ユーロ 200ミリの炭化ケイ素(SiC)
パワーファブの建設
2023年8月
STマイクロエレクトロニクス(スイス) フランス(クロル) 75億ユーロ 米国・グローバルファウンドリーズと合弁で300ミリウエハー工場新設 2023年6月
中国(重慶) 32億ドル 中国・三安光電と合弁で200ミリのSiCウエハー工場新設 2023年6月
ウルフスピード(米国) ドイツ(エンスドルフ) 最大65億ドル(注2) 200ミリのSiCウエハー工場新設 2023年4月

注1:4社による共同出資のうち、70%をTSMCが出資。
注2:米国内向け投資も含めた投資額の合計。うち大部分を本プロジェクトが占める。
出所:各社プレスリリース資料、各国政府発表、ジェトロビジネス短信などを基にジェトロ作成

TSMCは台湾内での継続的な拡張投資に加え、米国(アリゾナ州)、日本(熊本)での工場建設を進めているが、2023年8月には同社として初の欧州工場をドイツに建設する計画を新たに発表した。ドイツのボッシュ、インフィニオンテクノロジーズ、オランダのNXPの3社もそれぞれ10%を出資し、総投資額は100億ユーロ超となる見込みだ。なお、現地経済紙は、ドイツ連邦政府が同投資プロジェクトに対して、50億ユーロ規模の財政支援を行う予定があると報じている(注7)。

ドイツ国内のプロジェクトでは、インテルも2023年6月、ドイツ連邦政府との間でザクセンアンハルト州マクデブルクの半導体工場建設計画に関する基本合意書(LoI)に署名している。LoIには同社が2022年3月に発表した170億ユーロ規模の投資計画を300億ユーロ規模に引き上げる合意や、連邦政府による補助金提供拡大などの支援策が盛り込まれている。(2023年6月29日付ビジネス短信参照)。同社はイスラエルでも同月、最大250億ドル規模の半導体工場の新設に関し、イスラエル政府との合意に至っている。同計画については、イスラエルの投資奨励法に基づき、政府から投資総額の12.8%相当の助成を受けることが見込まれている(2023年6月19日付ビジネス短信参照)。

工場建設段階での技術者不足の問題も顕在化

欧米やアジアなどを中心に、補助金や税制優遇の適用を念頭に置いた大型の投資計画がますます加速する中、各社にとって共通の課題となるのが、エンジニアを中心とする人材の不足だ。工場の稼働段階で必要となるエンジニア、オペレーション人材の不足や賃金高騰に加え、工場建設段階での設備機器の設置に必要となる人材の不足も顕在化しつつある。

例えば、TSMCは前出の2023年第2四半期の決算発表で、2021年に着工し2024年中の稼働開始を予定していた米国アリゾナ州の新工場の稼働が人材不足を理由に2025年にずれ込むとの見通しを報告した。同社の劉德音会長は新工場の工事の進捗に関し、「最先端の装置を導入する重要局面を迎えているが、工場での装置設置に必要な専門知識を持った熟練工の数が不足している。台湾から経験豊富な技術者を短期派遣し、現地の技術者を教育するなどの改善策を講じているが、N4(4nm)プロセス技術を扱う第1工場の生産スケジュールは2025年にずれ込む見込み」との見解を述べている。

米国では、2022年8月の「CHIPSおよび科学(CHIPSプラス)法」の成立から1年間で合計1,660億ドルを超える半導体関連の投資案件が発表されている(注8)。今後、全国レベルで大規模な建設工事の同時進行が見込まれる中、人材不足という課題は避けて通れず、多くの現場で建設や工場稼働の遅れが顕在化する可能性もある。同様の問題は日本やEU、東南アジアでも深刻化しつつあり、各国・地域で財政支援と合わせた技術人材の育成・誘致の取り組みが急務となっている。


注1:
2023年7月20日付TSMC発表、「Financial Results -2023Q2」に基づく
注2:
2023年7月27日付インテル発表、「Intel Reports Second-Quarter 2023 Financial Results」に基づく
注3:
2023年7月28日付ブルームバーグニュース(ウエブ版)報道
注4:
SEMIがTechInsightsと共同して発行している最新のSemiconductor Manufacturing Monitorレポートの発表に際して行ったプレスリリース
注5:
2023年7月11日付SEMIプレスリリース情報に基づく
注6:
ジェトロ推計に基づく2022年の半導体製造機器(HS8486項)輸出額ベース。世界全体の輸出に占める日本の構成比は22.4%。
注7:
2023年8月7日付handelsblatt(ウエブ版)報道
注8:
2023年8月9日付ホワイトハウス発表(バイデン大統領声明)に基づく
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課長
伊藤 博敏(いとう ひろとし)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジアなどを経て現職。主な著書:『FTAの基礎と実践:賢く活用するための手引き』(編著、白水社)、『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。