発効から1年、中国ではRCEP協定の利用が拡大
在中日系企業でも活用の動き
2023年4月19日
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定(以下、RCEP協定)の発効から1年以上が経過し、中国では同協定の利用が拡大している。RCEP協定は、市場アクセス改善をはじめ、知的財産や電子商取引(Eコマース)などの幅広い分野のルール整備などを通じて、加盟国地域の貿易・投資促進やサプライチェーン効率化を目指す経済連携協定(EPA、注1)だ。2020年11月15日にASEAN加盟10カ国(注2)と中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの計15カ国が署名し、2022年1月1日に発効(注3)した。
本稿では、RCEP協定加盟国で最大の経済規模を有する中国に焦点を当て、協定発効後の利用状況や貿易動向、在中日系企業の活用状況などについて報告する。
RCEP協定加盟国との貿易額が約3割
中国商務部の発表によると、2022年に中国で輸出企業が申請などを行ったRCEP協定に基づく原産地証明書、原産地申告の件数は67万3,000件で、輸出額2,353億元(約4兆4,707億円、1元=約19円)に及ぶ貨物が同協定に基づく特恵関税の適用を受けた。これによって輸入国側が享受した関税の減免額は15億8,000万元と推定された。輸入では、輸入額653億元の貨物がRCEP協定の適用を受け、関税の減免額は15億5,000万元となった。
実際に、中国とRCEP協定加盟国との貿易も拡大した。2022年の中国と同協定加盟国との貿易額は前年比7.5%増の12兆9,500億元で、中国の貿易額の約30.8%を占めた(図1)。また、同協定加盟国との中間財の貿易額は8.5%増の8兆7,000億元で、同協定加盟国との貿易額の67.2%を占めた(2023年2月7日付ビジネス短信参照)。
2022年の中国からRCEP協定加盟国への輸出額(中国元ベース)の前年比伸び率を主要品目別で見ると、電気機械製品や労働集約型製品がそれぞれ13.2%増、20.7%増、そのうち電子部品(15.0%増)やバッテリー(50.3%増)、自動車(71.6%増)などが大きく増加した。一方、同協定加盟国から原油や天然ガスの輸入が増えた。また、電気機械製品、金属鉱石および鉱物砂、消費財がそれぞれ輸入額全体の46.2%、10.4%、10.2%を占めた。
投資面では、中国国務院の発表によると、中国からRCEP協定加盟国に対する非金融部門の2022年の直接投資額は前年比18.9%増の179億6,000万ドル、RCEP協定加盟国から中国に対する直接投資額は23.1%増の235億3,000万ドルだった。
在中日系企業もRCEP協定活用
RCEP協定は、在中日系企業でも利用が拡大した。ジェトロがRCEP協定発効後に実施した、中国で実際に同協定を利用している、またはこれからの利用を検討している在中日系企業へのヒアリングでは、関税の削減・撤廃や認定輸出者制度(注4)の利便性の高さを評価するという声が聞かれ、従来の貿易に係る費用・手続きコスト削減を図るために同協定を活用していることがうかがえた。
ジェトロが2022年8~9月に行った「2022年度 海外進出日系企業実態調査(中国編)(1.7MB)」では、EPA利用状況についてもアンケートを実施。輸出入している在中日系企業のEPA別の利用率を見ると、RCEP協定活用率が輸出入ともに、中国ASEAN自由貿易協定を上回り、高くなった(注5)。
具体的には、「中国からの輸出でFTA(自由貿易協定)、EPA、GSP(一般特恵関税)を利用している」と回答した日系企業97社のうち59.8%が「RCEP協定を利用している」と回答。中国ASEAN物品貿易協定の19.6 %を上回った。RCEP協定の利用状況を業種別に見ると、製造業では「繊維・衣服」「電気・電子機器部品」「食料品」、非製造業では「商社・卸売業」「販売会社」での利用が多かった。一方、「中国への輸入でFTA、EPA、GSPを利用している」と回答した日系企業95社のうち64.2%が同協定を利用していると回答。中国ASEAN物品貿易協定の22.1%を上回った。業種別に見ると、製造業では「電気・電子機器部品」「輸送機器部品」、非製造業では「商社・卸売業」「販売会社」「運輸業」での利用が多かった。
RCEP協定加盟国が占める割合は増加傾向
中国の貿易総額に占めるRCEP協定加盟国の割合の推移をみると、その割合は増加傾向にある(図2)。中国税関総署の呂大良副主任は、国務院新聞弁公室主催の2023年1月13日の記者会見で、発効から1年が経過したRCEP協定について「中国の貿易総額に占めるRCEP協定加盟国の割合は着実に増加している」「貿易創出効果をもたらし、産業チェーンの協力関係の緊密化を推進した」と評価した。
現在、RCEP協定が発効して1年余りで、前述のとおり、在中日系企業の利用が少しずつ拡大しつつある。同協定では、10年以上の期間を経て段階的に関税が削減・撤廃される品目もあることから、年数が経過するに伴って今後さらに利用率が上昇すると見込まれる。その効果も相まって中国とRCEP協定加盟国の経済関係がより深まる可能性がある。
- 注1:
- RCEP協定の詳細については、ジェトロ「RCEP協定解説書(12.25MB)」を参照。
- 注2:
- シンガポール、ブルネイ、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー。
- 注3:
- 韓国は2022年2月1日、マレーシアは同年3月18日、インドネシアは2023年1月2日に発効。2023年3月時点でフィリピンが未発効。ミャンマーに関するRCEP協定発効については、加盟国によって対応が異なる(2022年7月28日付ビジネス短信参照)。
- 注4:
- 各締約国の権限ある当局によって認定を受けた輸出者自らが作成した原産地申告を輸入者が輸入締約国の税関当局に提出することで、原産品であることを証明する制度。
- 注5:
- 同調査で、輸出入を行っている在中日系企業(395社)のうち、FTA、EPA、GSPを「利用している」と回答した企業は160社で、全体の40.5%を占めた。うち、輸出では97社、輸入では95社がFTA、EPA、GSPを「利用している」と回答し、それぞれを母数として輸出、輸入でRCEP協定を利用している企業の割合を算出した。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課 リサーチ・マネージャー
片小田 廣大(かたおだ こうだい) - 2014年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部進出企業支援課、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課、ジェトロ武漢を経て現職。