日系企業は水素や無人・省人化分野で攻勢(ドイツ)
ハノーバーメッセ開催(2)
2023年6月14日
産業技術の専門展示会ハノーバーメッセが2023年4月17~21日に開催された。同メッセについて、前半「リアルの出展・来場者数ともに前年比大幅増(ドイツ)」に続き、後半では日系出展企業の声をお届けする。
日系出展企業は各分野で強みをアピール
今回、日系企業は計44社(日本法人と海外現地法人)が様々な分野に分かれて出展し、今回のメッセのテーマである「産業変革」への期待に応え得る、キラリと光る製品や技術をアピールした。以下、筆者が話を伺うことができた出展企業などについて、(1)地球温暖化対策〔カーボンニュートラル、再生可能エネルギー(再エネ)・水素〕や、(2)少子高齢化対策(無人化、省人化、高齢者対応機器)など地球規模の課題解決に資するソリューション提供、(3)日本製装置・部品・技術の海外展開、(4)自治体の取りまとめによる出展、の順でご紹介したい。
(1)地球温暖化対策(カーボンニュートラル、再エネ・水素)関連
今回のハノーバーメッセでは、ホール13のテーマが「水素・燃料電池」で、最も注目を集めた。
高石工業(大阪府)は、ハノーバーメッセには2022年に続く参加で、参加は今回で8回目となった。同社は、水素ステーション向けの耐水素ゴムパッキンを開発し、既に欧州数カ国で採用に至っている。高石秀之代表取締役は、「当社の売り上げの中で水素関連はまだそれほど大きくないが、しっかりと形になってきたのはうれしいこと」と、水素ビジネスが事業として確立しつつある状況に手応えを感じている様子だった。
WELCON(新潟県)は、水素ステーションのディスペンサー〔燃料電池車(FCV)に水素を充填(じゅうてん)する機器〕に用いる、プレクーラー熱交換器〔充填前に水素を冷却するもの〕などを展示した。同社の製品は、部品を固体のまま接合する拡散接合技術が用いられているところが特徴であり、マイクロチャンネル(微細流路)構造により、熱交換効率を高めるとともに小型化を実現したとのこと。
このほか、AGC(東京都)は水素製造用の水電解装置に使用できるフッ素系スルホン酸イオン交換膜「FORBLUE(フォアブルー) Sシリーズ」 、田中貴金属工業(東京都)は燃料電池や水電解装置用の白金触媒など、東洋炭素(大阪府)は燃料電池の性能と耐久性を大きく向上させるカーボン担体(多孔質炭素)「クノーベル(CNovel)」、堀場製作所(京都府)は燃料電池や水電解装置の幅広い計測・評価技術と、日系企業各社は水素・燃料電池ビジネスに向けた部品や素材、関連技術を力強くアピールした。
(2)少子高齢化対策(無人化、省人化、高齢者対応機器)
アルム(石川県)は、工作機械を使用する企業向けに、デジタル・マニュファクチャリング・サービス「ARUM Factory365」を紹介した。同社の平山京幸代表取締役は、「人工知能(AI)を活用したクラウドサービスにより、従来は熟練工が実施していたNCプログラミングを完全自動化し、製造コストを半減できる」と自信を見せた。同サービスの背景には、少子高齢化による人手不足があるようだ。J-Startup にも認定されている同社は、2023年7月からドイツ・ニーダーザクセン州を拠点にサービスを開始するとのことだ。
アルケリス(神奈川県)は、金属加工業のニットーが創業した日系スタートアップで、立ったまま座れる椅子「アルケリス」を開発。2021年から、ジェトロの新輸出大国コンソーシアムによる支援を受けている。2022年10月は、ドイツで開催された「EXOベルリン」(人間拡張ロボット技術の見本市)に、11月には同じくドイツで開催された「COMPAMED」(医療機器技術・部品の見本市)にも参加、ドイツをはじめ欧州への販売拡大を目指す。同社の佐保勝彦取締役は、「これまでは医療従事者向けが中心だったが、これからは工場向けにも注力する。今回、欧州やアジアの国々から関心が示された」と、手応えを感じた様子だ。
eve autonomy(静岡県)は、2022年から日本でサービスを開始した無人搬送車両を海外向けに紹介した。無人搬送車両は、工場や物流センターにおいて、従来は有人のフォークリフトなどで実施されていた作業を担うことが期待される。背景には、高齢化による人材不足がある。同社の星野亮介代表取締役は、「省人化」と「安全」をキーワードに挙げた。
(3)日本製装置・部品・技術の海外展開
マテックス(大阪府)は、ユニット型遊星減速機の欧州向け輸出増を目指し、ハノーバーメッセに初めて出展した。同社の的場光紀氏は、「遊星機構のみをユニット化して販売するのは珍しい」と話し、プラスチック製、焼結金属製、金属切削加工の3つの材料に対応し、ユニットの組合せで多様な減速比を実現可能だとアピールした。同社の製品は、物流のローラーコンベア、電動車椅子、風力発電(増速機)などがターゲットとのことだ。
日東工業(愛知県)は、防災・減災の観点から火花放電を検出し、電気火災を防止できる「放電検出ユニット(Spark Discharge Detection Device)」を搭載した配電盤を展示。同社の伊藤裕幸部長は、「欧州市場での顧客ニーズを調査したい」と、今後の欧州での販売に期待を込めた。
(4)自治体の取りまとめによる出展
今回、長野県産業振興機構が運営するブースで、同県内の中小企業4社が出展した。4月17日には加藤喜久子・在ハンブルク日本国総領事館総領事が、同18日には柳秀直・在ドイツ日本国大使館特命全権大使が同機構のブースなどを視察した。
出展した長野県内企業4社のうち、英幸テクノは、第5世代移動通信システム(5G)や6Gなど高周波帯電波を建物内に透過または遮断できる「NamiGate」、ナカムラマジックは、独自開発したオーロラフィン工法による超微細・超薄型・超軽量な異次元ヒートシンクの技術などを紹介した。
プロノハーツは、製造業向けのVR(仮想現実)を活用したデザインレビュー(DR)システムの実演を行った。3D CADによる設計データを変換してVRコンテンツを作成するもので、設計段階から製造物の寸法や空間が十分であるかなどのチェックが可能になるとのことだ。
ゴコー電工は、ドローンなどの航空機分野向け特殊モーターなどを展示。同社の相場はるか代表取締役は、「当社の強みは、設計段階からお客様と一緒に試行錯誤しながらオンデマンドの製品を開発できるところ」と、将来の海外展開の可能性も含め自信をのぞかせた。
長野県産業振興機構の近藤恭二グローバル展開コーディネーターは、「初のドイツ展示会への出展だったが、ドイツにおける販路開拓に手応えを感じたとともに、今後の販路開拓を検討していく上で大変参考となる展示会だった」とコメント。
ドイツの見本市・展示会では、新型コロナ禍の影響で日本の自治体が取りまとめる形での出展が減少していたが、2023年に入り、徐々に復活しつつある。こうした傾向は、日本各地の中小企業にとっては朗報となりそうだ。
ハノーバーメッセ開催
- リアルの出展・来場者数ともに前年比大幅増(ドイツ)
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ベルリン事務所長
和爾 俊樹(わに としき) - 1993年、通商産業省(現経済産業省)入省。復興庁参事官、貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易審査課長などを経て、2021年8月から現職。