自動車販売市場が大きく拡大(インド)
地場系に一部外資のシェアを奪う勢い

2023年6月26日

2022年度(2022年4月~2023年3月)、インドでは自動車の国内販売が好調だった。乗用車の当期販売台数は、前年度比26.7%増の389万114台。自動車全体(二輪車、三輪車、商用車を含む)も、20.4%増の2,120万4,162台だった。いずれも大きく伸びたかたちだ。日系メーカーのシェアが伸び悩んだ一方、地場が伸長、韓国系はほぼ横ばいだった。

インドはこの分野で有望市場だ。政府の優遇策や環境規制に対応して、拡大する市場を取り込んでいくことが求められる。

乗用車国内販売が過去最高

インド自動車工業会(SIAM)によると、乗用車〔多目的自動車(UV)、バンを含む〕の国内販売台数は2022年度、389万114台。前年度比で26.7%増加し、過去最高を記録した(表1参照)。その背景には、新型コロナ禍の沈静化に加え、終盤に半導体不足が緩和し供給が増えたことがある。さらに、2023年2月には、連邦予算案で個人所得税率の軽減が発表されていた(2023年2月14日付ビジネス短信参照)。このように、供給・消費の両面で好材料があったわけだ。

今後に向けては、心配の余地もある。例えば、依然として物価上昇にともなって金利が上昇する、保険料が上昇する、といったことなどが懸念材料として残る。しかし、SIAMのビノド・アガルワル会長は「個人消費の追い風になる予算案の発表や、前向きな物流・貿易政策、最近発表されたガス価格ガイドライン(注1)などが、業界の成長を支えるだろう」とコメントした。

表1:部門別自動車の生産・販売・輸出台数(2022年度)(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
部門 生産 国内販売 輸出
台数 前年度比 台数 前年度比 台数 前年度比
乗用車 4,578,639 25.4 3,890,114 26.7 662,891 14.7
階層レベル2の項目一般乗用車 2,184,844 18.4 1,747,376 19.1 413,787 10.3
階層レベル2の項目多目的自動車(UV) 2,253,272 33.2 2,003,718 34.5 247,493 23.1
階層レベル2の項目バン 140,523 22.6 139,020 22.7 1,611 △ 13.1
二輪車 19,459,009 9.2 15,862,087 16.9 3,652,122 △ 17.8
階層レベル2の項目スクーター 5,601,501 25.7 5,190,018 26.2 416,935 19.0
階層レベル2の項目オートバイ 13,421,208 4.1 10,230,502 13.9 3,230,981 △ 20.9
階層レベル2の項目モペッド 436,300 △ 7.8 441,567 △ 6.7 4,206 △ 58.9
三輪車 855,696 12.8 488,768 87.0 365,549 △ 26.9
階層レベル2の項目電動三輪 28,185 165.3 26,654 151.9
商用車 1,035,626 28.6 962,468 34.3 78,645 △ 14.8
合計 25,931,867 12.6 21,204,162 20.4 4,761,487 △ 15.2

注1: BMW、メルセデス、ボルボ・オートのデータは含まれない。
注2:ダイムラーおよびJBMオート&スカニアのデータは含まれない。
出所:インド自動車工業会(SIAM)

シェアトップは、引き続きマルチ・スズキ

ここで、乗用車の主要メーカー別販売台数を確認してみる。

トップは、引き続きマルチ・スズキ。160万6,870台で、前年度比20.7%増だった。シェアは41.3%で、2.1ポイント低下した(表2、図1参照)。続くのが、韓国の現代、地場のタタ・モーターズ、マヒンドラ&マヒンドラ。いずれも前年度より販売台数を伸ばした。

日系5社(マルチ・スズキ、トヨタ・キルロスカ、ホンダ、日産、いすゞ)は、合計で190万6,122台を販売。シェアは49%と、前年度から2.5ポイント減少した。日系以外のシェアは、韓国系の現代が1.1ポイント減、起亜0.8ポイント増。また、地場のタタ・モーターズが1.8ポイント増、マヒンドラ&マヒンドラ1.8ポイント増などとなった。

UV販売が好調

経済成長に伴い中間所得層が増加している中、多目的自動車(UV)購入者が増加してきている。2022年度は、UVの国内販売台数が200万3,718台、前年度比34.5%増。2021年度に引き続き、伸びを見せた。中でも低価格帯のコンパクトモデルの優勢が続く。タタ・モーターズの「ネクソン」、マヒンドラ&マヒンドラの「ボレロ」、マルチ・スズキの「グランドビターラ」などの売り上げが上位を占めた。特に、マヒンドラ&マヒンドラの「スコーピオ」など、スポーツ用多目的車(SUV)が前年度比2.1倍と大きく販売を伸ばした。UVのセグメントでは、地場のタタ・モーターズとマヒンドラ&マヒンドラがそれぞれ2.6ポイント、2.8ポイントと販売シェアを伸ばし、現代を抜いたかたちだ(図3参照)。

一般乗用車では、マルチ・スズキのコンパクトモデル「スイフト」、同ミニモデル「アルト」、現代の「i20」、タタ・モーターズの「ティアゴ」などが上位を占めた。コンパクトモデルが引き続き売れ筋傾向にあることもうかがえる(図2参照)。

表2:主要メーカー別乗用車国内販売台数(2022年度)(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
メーカー 2021年度
(21年4月~22年3月)
2022年度
(22年4月~23年3月)
増減率
マルチ・スズキ 1,331,558 1,606,870 20.7
現代 481,500 567,546 17.9
タタ・モーターズ 373,138 544,391 45.9
マヒンドラ&マヒンドラ 225,895 359,253 59.0
起亜自動車 186,787 269,229 44.1
トヨタ・キルロスカ 123,717 173,245 40.0
ホンダ 85,609 91,418 6.8
ルノー 87,475 78,926 △ 9.8
シュコダ・オート 34,004 52,269 53.7
MGモーター 40,369 48,866 21.0
フォルクスワーゲン 31,883 41,326 29.6
日産 37,678 33,611 △ 10.8
フォード 15,818
いすゞモーターズインディア 851 978 14.9
合計(その他を含む) 3,069,523 3,890,114 26.7

出所:インド自動車工業会(SIAM)

図1:乗用車メーカー別市場シェア(2022年度)
2022年度乗用車国内販売台数は計3,890,114台。メーカー別のシェアは、マルチ・スズキがトップの41.3%、次いで現代が14.6%、タタ・モーターズが14.0%、マヒンドラ・マヒンドラが9.2%、起亜自動車が6.9%、そして日系のトヨタ・キルロスカが4.5%、ホンダが2.4%を占めた。

出所:インド自動車工業会(SIAM)

図2:セグメント別乗用車販売台数シェア(一般乗用車)(2022年度)
2022年度の一般乗用車国内販売台数は、1,747,376 台。そのうち、マルチ・スズキが63.5%、現代が15.2%、タタ・モーターズが10.4%、ホンダが4.9%、トヨタ・キルロスカが2.3%、その他が3.6%だった。

出所:インド自動車工業会(SIAM)

図3:セグメント別乗用車販売台数シェア(UV)(2022年度)
2022年度の多目的自動車(UV)国内販売台数は、2,00万3,718台。そのうち、マルチ・スズキが18.3%、タタ・モーターズとマヒンドラ・マヒンドラがそれぞれ1.8%、現代が15.1%、起亜自動車が13.4%、トヨタ・キルロスカが6.6%、その他が11%だった。

出所:インド自動車工業会(SIAM)

二輪車は各社とも旺盛な伸び

2022年度の二輪車販売台数は1,586万2,087台、前年度比16.9%増だった(表1、3参照)。セグメント別には、オートバイが前年度比13.9%増の1,023万502台。1,000万の大台を突破した。また、スクーターは519万18台。26.2%増とさらに大きく販売を伸ばした。

主要メーカーの多くが2桁増を記録した。首位のヒーローは515万5,793台を売り上げ、シェア32.5%。販売台数は前年度比11%増だった。ホンダが402万5,527台で続き、同16%増だった。

表3:主要メーカー別二輪自動車国内販売台数(2022年度)
メーカー 2021年度
(21年4月~22年3月)
2022年度
(22年4月~23年3月)
増減率 シェア
(2022年度)
ヒーロー 4,643,526 5,155,793 11.0 32.5
ホンダ 3,468,851 4,025,527 16.0 25.4
TVSモーター 2,047,564 2,597,936 26.9 16.4
バジャジオート 1,641,084 1,801,010 9.7 11.4
ロイヤルエンフィールド 521,243 734,840 41.0 4.6
スズキ 609,828 730,756 19.8 4.6
ヤマハ 475,588 568,534 19.5 3.6
その他 162,324 247,691 52.6 1.6
合計 13,570,008 15,862,087 16.9 100.0

出所:インド自動車工業会(SIAM)

成長市場を取り込むためには

自動車産業は、インド政府が掲げる重点分野の1つだ。2020年に打ち出された製造業振興政策「生産連動型優遇(PLI)スキーム」では、現在、自動車・自動車部品を含む14分野が補助金支給の対象になっている。このスキームでは、インドで製造された対象セグメント製品の売上高の増加分に対して、補助金が支払われる。自動車関連では、申請して年間売上高などの基準をクリアできた場合、(1)完成車(OEM)メーカーは基準年(2019年度)からの売上増加額の13~16%、(2)部品メーカーは同8~11%の補助金が受領可能になっている(注2)。

また、大気汚染が進むインドでは、電気自動車(EV)の普及推進も課題だ。インド政府は、2030年までに乗用車新車販売の30%以上をEVにする目標を掲げている(2022年3月25日付地域・分析レポート参照)。政府が進めるEV 生産早期普及策FAME IIスキームに基づき、2022年12月時点で4,453ヵ所のEV充電所が認可された。

日系企業で他者に先駆けてEV事業に取り組むのがホンダだ。同社は実証実験を経て、2022年10月から三輪車(オートリキシャ)向けバッテリー交換サービス事業を開始した。設置が完了した充電所は2023年5月時点で、南部カルナータカ州・ベンガルール市内に26カ所。順調に拡大してきたと言える、2023年度中に70カ所以上を目指す計画だ。あわせて、他の大都市への展開も検討しているという(2023年5月25日、ジェトロによるヒアリング)。

環境関連で、EV促進以外の動きもある。自動車排出ガス規制「バーラト・ステージ」の順次導入などは、その一例だ。既に見てきたとおりインドの自動車市場は目下好調で、将来性もある。これを取り込んでいくためには、消費者の動きを見計らいつつ、規制や優遇措置にも対応していくことが大切だろう。


注1:
インド政府は2023年4月6日、「ガス価格ガイドライン2014」の改定を通知した。当該ガイドラインは、天然ガス価格についての政策的な対処指針を示すもの。新ガイドラインにより、パイプ式天然ガス(PNG)や圧縮天然ガス(CNG)のコストが下がると期待されている。
注2:
完成車メーカー向け優遇スキームは、バッテリーEV、水素燃料電池車やその他先進的な技術を持つ自動車に適用される。要件などは重工業省のプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。PLI概要については2021年12月1日付記事も参照されたい。
執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
松田 かなえ(まつだ かなえ)
2020年、ジェトロ入構。企画部を経て、2022年9月から現職。