乗用車生産・新規登録台数とも増加(ドイツ)
2022年乗用車市場(前編)

2023年9月29日

2022年は、ドイツ国内の乗用車生産・新規登録台数がともにプラスに転じた。一方、ドイツ3大自動車メーカー〔フォルクスワーゲン(VW)グループ、メルセデス・ベンツグループ、BMWグループ〕の2022年の全世界での生産・販売台数は、ロシアによるウクライナ軍事侵攻や新型コロナウイルス感染拡大による工場の停止、部品不足などが引き続き影響を及ぼしたため、新型コロナ禍前の水準には届かなかった。

2022年の国内乗用車生産台数は6年ぶりに前年比でプラスに

ドイツ自動車産業連合会(VDA)によると、2022年のドイツ国内乗用車生産台数は348万357台(前年比12.4%増)となり、6年ぶりにプラスに転じた。そのうち、低排出ガス車〔バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)〕が88万4,576台(42.9%増)を占めた。しかし、2022年の国内乗用車生産台数は新型コロナ感染拡大前の2019年比では25.4%減で、新型コロナ感染拡大前の水準を回復していない。また、2022年のドイツ自動車メーカー(VDA会員企業のみ)によるドイツ国外での乗用車生産台数は960万7,381台(前年比1.7%増)と増加した。

ドイツ自動車大手3社の2022年の世界生産台数、BMWのみ前年比マイナス

ここからは、ドイツ自動車メーカー大手3社の全世界での生産台数とその増減理由について、各社の発表を基にみていく。

VWグループ

VWグループ(中国の合弁会社を含む)の2022年の世界の生産台数(乗用車以外の小型商用車も含む)は871万6,606台(前年比5.2%増)となった。2022年のドイツ国内生産台数は164万7,611台(11.1%増)だった。同グループがドイツで生産した車両台数のグループ全体でのシェアは18.9%となり、前年比で1.0ポイント上がった。VWグループは、同グループの世界の生産台数は増加したが、新型コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻により生じた半導体不足とサプライチェーンの混乱が生産に影響を及ぼしたとした。なお、ウクライナ情勢を背景に、同社は2022年3月にロシアにおける生産を完全に停止した。

BMWグループ

BMWグループの2022年の世界の乗用車生産台数は238万2,305台(前年比3.2%減)となった〔中国の華晨汽車集団(Brilliance)による生産を含む〕。ブランド別にみると、BMWが208万9,801台(3.5%減)で最も多い。MINIは28万6,265台(0.8%減)にとどまった。他方、高級ブランドのロールス・ロイスが伸びを見せ、6,239台(5.5%増)に増加した。BMWグループによると、2022年に半導体などの部品の供給不足で生産台数が抑制された影響で大きくたまった超過需要は、2023年第1四半期(1~3月)に特に欧州において解消されつつある。なお、ドイツ経済紙の「ハンデルスブラット」紙(2022年3月1日)によると、BMWは同紙に対して、ロシアでの生産とロシアへの輸出を停止することを明らかにした。

メルセデス・ベンツグループ

メルセデス・ベンツグループ傘下のメルセデス・ベンツの2022年の世界の乗用車生産台数は208万5,965台(前年比6.8%増)だった。同社によると、乗用車部門は2022年末の需要が好調だった。特にBEVの「EQ」のほか、「GLC」「SL」の3モデルの需要が高かった。なお、メルセデス・ベンツグループは2022年3月、ロシアにおける生産とロシアへの輸出を停止することを決定した。

2022年の国内乗用車新規登録台数は3年ぶりに前年比プラスに

連邦自動車局(KBA)は2023年1月4日、2022年のドイツ国内の乗用車新規登録台数を265万1,357台(前年比1.1%増)と発表した(2023年1月13日付ビジネス短信参照)。国内新規登録台数は新型コロナが感染拡大した2020年以降、初めて前年比でプラスに転じた。なお、2021年の乗用車新規登録台数は262万2,132台で、1990年の東西ドイツ再統一以降最少だった。

主要メーカー・ブランド別にみると、ドイツ3大自動車メーカー・ブランドが上位を占めた(表1参照)。VWは48万967台(前年比1.8%減)と減少したものの、シェアは18.1%で最大だった。続くメルセデス・ベンツは24万3,999台(8.3%増)で、シェアは9.2%だった。VW傘下のアウディは21万3,410台(17.3%増)。BMWは減少し、20万9,722台(5.7%減)にとどまった。

日系メーカー・ブランドでは、トヨタが伸びをみせ、7万8,366台(前年比9.0%増)となった。他方、同社が展開する高級車ブランドのレクサスが減少し、2,746台(11.9%減)だった。マツダは3万5,008台(8.1%減)、三菱自動車は3万4,430台(6.8%減)だった。日産は2万6,069台(0.7%減)にとどまった。スズキは1万5,583台(43.1%減)と、減少幅がかなり大きかった。ホンダも減少し、7,709台(2.5%減)となった。その他、スバルは3,725台(20.3%減)と大きく落ち込んだ。

表1:ドイツの乗用車新規登録台数(2022年、主要メーカー・ブランド別)(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 メーカー・ブランド 台数 シェア 前年比
上位10
メーカー

ブランド
VW 480,967 18.1 △1.8
メルセデス・ベンツ 243,999 9.2 8.3
アウディ 213,410 8.0 17.3
BMW 209,722 7.9 △5.7
オペル 144,588 5.5 △10.7
シュコダ 143,928 5.4 △3.9
フォード 131,256 5.0 3.9
セアト 111,646 4.2 2.7
現代 105,074 4.0 △1.5
ルノー 79,861 3.0 △24.6
日系
メーカー

ブランド
トヨタ 78,366 3.0 9.0
マツダ 35,008 1.3 △8.1
三菱自動車 34,430 1.3 △6.8
日産 26,069 1.0 △0.7
スズキ 15,583 0.6 △43.1
ホンダ 7,709 0.3 △2.5
スバル 3,725 0.1 △20.3
レクサス 2,746 0.1 △11.9
合計(その他を含む) 2,651,357 100.0 1.1

出所:連邦自動車局(KBA)の発表に基づきジェトロ作成

燃料別にみると、低排出ガス車が好調だった(表2参照)。BEVは47万559台(前年比32.2%増)、PHEVは36万2,093台(11.3%増)になった。BEVとPHEVが全体に占める割合が31.4%となり、前年比で5.4ポイント上がった。ハイブリッド車(PHEVを含まない)は46万5,228台(8.4%増)で、シェアは17.5%だった。

ガソリン車は86万3,445台(前年比11.2%減)となったが、シェアでは32.6%と最大だった。ディーゼル車も減少し、47万2,274台(9.9%減)だった。シェアは17.8%となった。

表2:ドイツの乗用車新規登録台数(2022年、燃料別)(単位:台、%)(△はマイナス値)
燃料 台数 シェア 前年比
ガソリン 863,445 32.6 △11.2
ディーゼル 472,274 17.8 △9.9
電気自動車(BEV) 470,559 17.7 32.2
ハイブリッド(HEV、注) 465,228 17.5 8.4
プラグインハイブリッド(PHEV) 362,093 13.7 11.3
液化石油ガス(LPG) 15,006 0.6 48.3
圧縮天然ガス(CNG) 1,846 0.1 △52.9
合計(その他を含む) 2,651,357 100.0 1.1

注:ハイブリッド(HEV)にはプラグインハイブリッド(PHEV)を含まない。
出所:連邦自動車局(KBA)の発表に基づきジェトロ作成

ドイツ自動車大手3社の2022年の世界販売台数、新型コロナ禍前の水準には届かず

2022年の全世界でのドイツ3大自動車メーカーの販売台数では、メルセデス・ベンツグループが前年比で増加した。他方、VWグループとBMWグループは減少した。新型コロナ禍以前の2019年比では、国・地域によって回復傾向があるものの、3社とも2019年の水準に届いていない。

VWグループ

VWグループの2022年の全世界の販売台数(乗用車以外の小型商用車も含む)は、795万7,288台(前年比7.6%減)だった(表3参照)。新型コロナ禍前の2019年(1,073万3,077台)と比較すると25.9%減と、いまだ大きく下回っている。国・地域別にみると、アジア大洋州が350万2,556台(前年比2.7%減)だった。そのうちの中国も減少し、318万2,428台(3.6%減)となった。インドは9万7,610台(86.0%増)と急増した。日本は6万1,112台(6.8%減)だった。欧州地域では、自国ドイツが99万8,000台(4.0%増)と増加した。

表3:VWグループの2022年の乗用車販売台数(国・地域別) (単位:台、%)(△はマイナス値)
国・地域名 販売台数 前年比 2019年比
欧州・その他地域 3,297,402 △10.9 △ 30.0
階層レベル2の項目西欧 2,615,864 △5.3 △ 27.9
階層レベル3の項目ドイツ 998,000 4.0 △ 24.7
階層レベル3の項目フランス 211,430 △11.3 △ 31.3
階層レベル3の項目英国 377,449 △10.7 △ 30.6
階層レベル3の項目イタリア 223,864 △9.9 △ 28.0
階層レベル3の項目スペイン 192,311 △12.6 △ 37.0
階層レベル2の項目中・東欧 418,513 △33.0 △ 45.4
階層レベル2の項目その他地域 263,025 △15.8 △ 17.2
北米 759,791 △13.3 △ 19.9
階層レベル2の項目米国 564,705 △12.8 △ 13.7
南米 397,539 △9.0 △ 27.9
アジア大洋州 3,502,556 △2.7 △ 22.5
階層レベル2の項目中国 3,182,428 △3.6 △ 24.7
階層レベル2の項目インド 97,610 86.0 89.4
階層レベル2の項目日本 61,112 △6.8 △ 22.9
合計 7,957,288 △7.6 △ 25.9

注:中国の合弁会社分を含む。VWブランド商用車を含む。
出所:VWグループ「2022年年次報告書(2023年2月5日)」「2020年年次報告書(2021年3月16日)」に基づきジェトロ作成

ブランド別にみると、高級車のポルシェ、ベントレー、ランボルギーニはいずれも増加した(表4参照)。対照的に大きく落ち込んだのが、シュコダとセアトだ。前者は73万1,262台(前年比16.7%減)、後者は38万5,592台(18.1%減)だった。

表4:VWグループの2022年の乗用車販売台数(ブランド別)(単位:台、%)(△はマイナス値)
ブランド名 販売台数 前年比 2019年比
VW乗用車 4,563,340 △ 6.8 △ 27.3
アウディ 1,614,231 △ 3.9 △ 12.5
シュコダ 731,262 △ 16.7 △ 41.2
セアト 385,592 △ 18.1 △ 32.8
VWブランド商用車 328,572 △ 8.6 △ 33.2
ポルシェ 309,884 2.6 10.4
ベントレー 15,174 3.5 37.9
ランボルギーニ 9,233 9.9 12.5
合計 7,957,288 △ 7.6 △ 25.9

注:中国の合弁会社分を含む。
出所:VWグループ「2022年年次報告書(2023年2月5日)」「2020年年次報告書(2021年3月16日)」に基づきジェトロ作成

BMWグループ

BMWの2022年の全世界の乗用車販売台数は、239万9,632台(前年比4.8%減)だった(表5参照)。2019年(253万7,504台)と比較すると5.4%減になる。国・地域別にみると、欧州、米州、アジアのいずれの地域でも前年を下回った。アジアは103万987台(前年比3.5%減)だった。うち、中国が同国の新型コロナウイルス感染拡大予防措置の影響を受け、79万3,520台(6.4%減)と減少した。欧州は87万8,515台(7.4%減)だった。ドイツでの販売台数も減少し、25万4,292台(4.7%減)となった。米州も減少し、44万1,471台(2.3%減)だった。米国は36万3,541台(1.2%減)だった。

表5:BMWグループの2022年の乗用車販売台数(国・地域別)(単位:台、%)(△はマイナス値)
国・地域名 販売台数 前年比 2019年比
欧州 878,515 △7.4 △ 18.8
階層レベル2の項目ドイツ 254,292 △4.7 △ 23.1
階層レベル2の項目英国 157,329 △4.3 △ 32.7
米州 441,471 △2.3 △ 6.6
階層レベル2の項目米国 363,541 △1.2 △ 3.2
アジア(注) 1,030,987 △3.5 10.8
階層レベル2の項目中国 793,520 △6.4 9.5
その他 48,659 △7.7 △ 6.8
合計 2,399,632 △4.8 △ 5.4

注:「アジア」「中国」には華晨汽車集団(Brilliance)との合弁会社分を含む。
出所:BWM「2022年度グループ報告書(2023年3月15日)」「2020年度グループ報告書(2021年3月17日)」からジェトロ作成

ブランド別にみると、高級車のロールス・ロイス(前年比7.8%増)は増加した一方、BMWとMINIは減少した(表6参照)。

表6:BMWグループの2022年の乗用車販売台数(ブランド別)(単位:台、%)(△はマイナス値)
ブランド名 販売台数 前年比 2019年比
BMW(注) 2,100,689 △5.1 △ 3.9
MINI 292,922 △3.1 △ 15.7
ロールス・ロイス 6,021 7.8 18.1
合計 2,399,632 △4.8 △ 5.4

注:「BMW」には華晨汽車集団(Brilliance)との合弁会社分を含む。
出所:BMW「2022年年度グループ報告書(2023年3月15日)」からジェトロ作成

メルセデス・ベンツグループ

ドイツ自動車大手3社の中で、メルセデス・ベンツグループのみが、全世界の乗用車販売台数が前年比プラスとなり、204万719台(前年比5.0%増)だった(表7参照)。ただし、新型コロナ禍前の2019年(238万5,432台)に比べると14.5%減。国・地域別では、アジア大洋州が98万8,210台(前年比6.1%増)で好調だった。そのうち、中国が75万3,851台(2.6%増)となった。欧州も増加し、61万8,904台(2.7%増)だった。一方、ドイツでの販売が振るわず、21万5,590台(1.3%減)にとどまった。北米が34万4,193台(18.4%増)と大きく増加した。北米の主力市場である米国でも伸びを見せ、30万751台(19.6%増)となった。

表7:メルセデス・ベンツ(注1)の2022年の乗用車販売台数(国・地域別)(単位:台、%)(△はマイナス値)
国・地域名 2022年 前年比 2019年比
欧州(注2) 618,904 2.7 △ 37.6
階層レベル2の項目ドイツ 215,590 △1.3 △ 35.7
アジア大洋州 988,210 6.1 5.2
階層レベル2の項目中国 753,851 2.6 8.6
北米(注3) 344,193 18.4 △ 6.7
階層レベル2の項目米国 300,751 19.6 △ 4.0
その他 89,412 △25.0 5.6
合計 2,040,719 5.0 △ 14.5

注1:メルセデス・ベンツおよびスマートの合計。
注2:欧州はEU加盟国、英国、スイスおよびノルウェー。
注3:北米は米国、カナダおよびメキシコ。
出所:メルセデス・ベンツグループ「2022年報告書(2023年3月13日)」「2020年報告書(2021年2月18日)」からジェトロ作成

2022年乗用車市場

  1. 乗用車生産・新規登録台数とも増加(ドイツ)
  2. 低排出ガス車の販売がさらに加速(ドイツ)
執筆者紹介
ジェトロ・ミュンヘン事務所
クラウディア・フェンデル
2020年よりジェトロ・ミュンヘン事務所で調査および地域間交流を担当。