2022年の新車販売台数、調査開始以来最多を記録(チリ)
エコカー購入に優遇措置を導入へ

2023年7月19日

チリの2022年の新車販売台数に占める電動車(注1)のシェアは、2021年の0.8%から1.6%まで増加した。2022年は新型コロナ禍の収束に伴い、国内経済に回復の兆しが見られ、快適な移動手段としての自動車利用が促進された。多種多様な電動車モデルが国内市場に供給され、新車販売台数が過去最高となった。2023年2月から導入されたエコカー購入に対する優遇措置も今後の追い風となることが予想される。本レポートでは、チリ全国自動車産業協会(ANAC)が公表するデータを基に、チリの新車販売市場の動向と今後の課題をまとめた。

調査開始以来最多を記録した2022年

2022年の新車販売台数(バスなど大型車を除く)は、年末の国内経済の減速にもかかわらず、ANACの調査開始以来最多となる前年比2.7%増の42万6,777台だった(図参照)。ANACは販売台数増加の要因として、ポストコロナの中で人々や企業が快適な移動手段として自動車を利用する機会が増加したことを挙げている。

図:年間新車販売台数の推移
2012年33万8,826台、2013年37万8,240台、2014年33万7,594台、2015年28万2,232台、2016年30万5,540台、2017年36万900台、2018年41万7,038台、2019年37万2,882台、2020年25万8,835台、2021年41万5,581台、2022年42万6,777台、2023年38万台。2023年は見通し。

注:2023年は見通し。
出所:チリ全国自動車産業協会(ANAC)

新車販売台数をブランド別にみると、トップ5はシボレー(シェア:8.8%)、トヨタ(7.8%)、奇瑞汽車(5.8%)、現代(5.6%)、スズキ(5.2%)の順で、シボレー、現代、スズキは前年比で減少に転じた(表1参照)。一方で、トヨタはSUV(スポーツ用多目的車)の販売台数を前年比で1.9倍に増加させ、順位を2021年の6位から2位まで上げている。これは、同社の乗用車「YARIS」やSUV「RAV4」などのモデルの販売増加に加えて、ハイブリッド車(HEV)の好調な販売台数に起因している。

表1:2022年主要ブランド別新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 ブランド 2021年 2022年
合計 乗用車 SUV ピック
アップ
商用車 合計
台数 台数 台数 台数 台数 台数 シェア 前年比
1 シボレー 38,657 11,739 17,068 5,487 3,205 37,499 8.8 △ 3.0
2 トヨタ 23,606 6,752 17,148 9,222 64 33,186 7.8 40.6
3 奇瑞汽車 24,698 982 23,971 0 0 24,953 5.8 1.0
4 現代 28,008 10,142 8,789 0 4,871 23,802 5.6 △ 15.0
5 スズキ 28,943 18,989 2,953 0 352 22,294 5.2 △ 23.0
6 MG 20,846 5,938 15,180 0 0 21,118 4.9 1.3
7 プジョー 18,096 5,405 6,689 2,535 6,446 21,075 4.9 16.5
8 起亜 21,414 12,493 7,162 0 856 20,511 4.8 △ 4.2
9 長安汽車 15,846 2,034 11,848 2,382 2,227 18,491 4.3 16.7
10 VW 16,783 9,878 4,278 3,067 0 17,223 4.0 2.6
11 日産 25,020 5,258 6,142 4,546 185 16,131 3.8 △ 35.5
12 マクサス 10,648 0 66 12,576 3,095 15,737 3.7 47.8
13 三菱自動車 12,464 0 2,831 12,539 0 15,370 3.6 23.3
14 フォード 12,744 214 7,105 5,065 886 13,270 3.1 4.1
15 ジャック 12,802 2 6,771 4,041 1,669 12,483 2.9 △ 2.5
その他 105,006 15,360 51,472 26,098 20,704 113,634 26.6 8.2
合計 415,581 105,186 189,473 87,558 44,560 426,777 100.0 2.7

注1:SUV:スポーツ用多目的車。
注2:順位は、2022年新車販売台数(合計)の順位。
出所:ANAC

タイプ別では、国内で人気の高いSUVは前年比8.7%増の18万9,473台で、新車販売全体の44.4%を占めた(表2参照)。SUVのモデル別販売台数トップ5は、奇瑞汽車の「TIGGO 2」(8,991台)、MGの「MG ZS」(7,665台)、シボレーの「TRACKER」(7,284台)、トヨタの「RAV4」(6,223台)、MGの「MG ZX」(5,785台)の順だった。比較的安価な他モデルとの競争の中で、第4位にランクインしたトヨタが存在感を示した。乗用車は前年比13.3%減の10万5,186台だったが、スズキが販売全体の18.1%を占めた。ピックアップは前年比19.3%増の8万7,558台で、中でも三菱自動車の「L-200(1万2,539台)」が前年比で3,510台の販売増を記録し、乗用車、SUV、ピックアップ、商用車全てのモデルの中で販売台数がトップとなった。

表2:タイプ別新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
タイプ 2021年 2022年 前年比
台数 シェア 台数 シェア
乗用車 121,372 29.2 105,186 24.6 △ 13.3
SUV 174,278 41.9 189,473 44.4 8.7
ピックアップ 73,370 17.7 87,558 20.5 19.3
商用車 46,561 11.2 44,560 10.4 △ 4.3
合計 415,581 100.0 426,777 100.0 2.7

注:SUV:スポーツ用多目的車。
出所:ANAC

電動車の販売台数、前年比2.1倍に

ANACの発表によると、2022年の電動車販売台数は前年比2.1倍の6,904台と、過去最高を記録した(表3参照)。ANACは、国内で取り扱われる電動車モデルの増加や、消費者の省エネ志向の高まりを販売増の要因として分析している。

電動車の販売台数を種類別にみると、2022年に最も販売されたのはマイルドハイブリッド車(MHEV)(2,583台)で、前年比3.7倍となった。前年にはなかった吉利汽車のSUV「AZKARRA(631台)」、ラムのピックアップ「RAM 1500(417台)」の販売開始がMHEV全体の販売台数増加に直結したとみられている。ハイブリッド車(HEV)の販売台数は前年比42.1%増の2,552台で、ブランド別ではトヨタがシェアの8割を占め、「CAROLLA CROSS(1,553台)」や「RAV4(301台)」など、SUVモデルが人気を集めた。バッテリー式電気自動車(BEV)は前年比2.3倍の1,295台で、ブランド別ではマクサス、プジョー、DSの順で、これら3ブランドだけでBEV市場シェアの約5割を占めた。プラグインハイブリッド車(PHEV)は前年比58.0%増の474台で、ボルボ、BMW、プジョーなど欧州ブランドがほとんどを占めた。

表3:電動車販売台数(単位:台)
種類 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
ハイブリッド車(HEV) 400 866 850 696 1,796 2,552 2,640 3,219 4,298
バッテリー式電気自動車(BEV) 125 129 217 157 556 1,295 3,756 9,764 20,505
プラグインハイブリッド車(PHEV) 15 68 85 79 300 474 1,161 2,555 4,854
マイルドハイブリッド車(MHEV) 0 0 38 80 696 2,583 5,166 9,299 13,018
合計 540 1,063 1,190 1,012 3,348 6,904 12,723 24,837 42,675

注:2023~2025年は予想値。
出所:ANAC

タイプ別でみると、電動車販売台数全体のうち73.1%がSUV、続いて乗用車(シェア:13.6%)、ピックアップ(7.3%)、商用車(6.0%)の順だった。チリの新車販売の傾向としてSUV人気が挙げられるが、電動車の場合、その傾向がさらに顕著に見られた。新車販売台数に占める電動車のシェアは、2021年に0.8%だったが、2022年は2倍の1.6%に増加している。

エコカー購入に優遇措置導入

セバスティアン・ピニェラ前大統領が主導した「電気エネルギーの貯蔵とエレクトロモビリティーの推進法(法21505号)」が2022年11月に施行された。これにより、エネルギー貯蔵システムの開発促進とエレクトロモビリティーの促進のため、電気事業一般法に修正が加えられた。チリ政府は、国家エレクトロモビリティー戦略として、2035年までに国内で販売される自動車を100%ゼロエミッション車にするという目標を掲げている。2023年2月には、BEVやエネルギー省がゼロエミッション車と認定した自動車に加え、外部充電を備えたPHEVに対し、2年間の通行許可(Permiso de Circulación、注2)の支払い免除と、その後6年間の支払い額減額を行う仕組みが導入された。3、4年目の支払いは正規金額の25%、5、6年目が50%、7、8年目が75%で、対象車を購入した場合、支払い免除期間と合わせて、計8年間の優遇措置が受けられることとなった。今回、HEVやMHEVなどは優遇措置の対象外とされているが、対象範囲拡大を大統領へ要請する決議案が下院で既に可決されている。

電動車普及の課題と今後の新車販売台数の展望

ANACは電動車を普及させる課題として、住宅や公共の充電インフラの開発や、発電・送電・配電の主要プレイヤーとの連携強化、高価な電動車に課されている奢侈(しゃし)税の廃止、購入者へのインセンティブの付与、市場アクセスの弊害となっている電動車製造国を対象とする輸入関税の撤廃(特に原産地規制の見直しにより、関税撤廃対象から現在外れている電動車が恩恵を受けられるようにする)、輸入電動車を国際的な共通コードで一括管理することで、自動車のトレーサビリティーを向上させ、自動車ごとにインセンティブを正しく適用できるような仕組みを構築することなどが必要と指摘している。

電動車を含む新車販売台数の今後の展望について、世界的なインフレ加速によるサプライチェーンやコンテナ価格の上昇、中国の新型コロナウイルス感染拡大による影響、ロシアのウクライナ侵攻による影響などの外部要因に加え、国内経済の失速や、年金制度改革、税制改革、新憲法制定プロセスなどの国内の政治的要因を考慮した上で、2023年は38万台程度にとどまるとの見通しを発表している。


注1:
ハイブリッド車(HEV)、バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、マイルドハイブリッド(MHEV)のことを指す。
注2:
チリの路上や高速道路を走行するために、全ての車両保有者が年に1度、有料で更新する許可証のこと。支払金額は車両の種類や製造年、車両価値によって異なり、居住している自治体に対して支払う。
執筆者紹介
ジェトロ・サンティアゴ事務所
岡戸 美澪(おかど みれい)
2017年、ジェトロ入構。現在に至る。