有識者に聞く、2023年ナイジェリア総選挙の見通し
2023年1月5日
2023年2月25日に予定されているナイジェリアの総選挙。2期8年間、大統領を務めたムハンマド・ブハリ氏は任期を終え、次期大統領は誰になるのかが注目となっている。有力視されているのが、現与党・全進歩会議(APC)のボラ・ティヌブ氏、現最大野党・人民民主党(PDP)のアティク・アブバカル氏、第3党の労働党(LP)のピーター・オビ氏の3氏だ。ナイジェリア地域研究者で名古屋外国語大学教授の島田周平氏に聞いた(2022年12月8日)。
- 質問:
- 各政党のマニフェストが出そろったが、どうみるか。
- 答え:
- APCは現政権ということもあり、マニフェストは役所に指示して作らせたという印象を持つ。自由化を訴えてはいるが、マニフェスト全体を通した骨格が見えてこない。彼らが政権を取った2015年以降、数々の改善がなされたと訴えているが、その具体的な中身には触れていない。目標値も数字として提出してはいるが、前回選挙時のマニフェストに掲載されたものと同様、到底達成できない目標だとして新聞各社は批判している。アフリカの大国であるという自負心は強いようで、西アフリカ経済共同体(ECOWAS)における主導的立場は維持したいようだ。
- 対する最大野党のPDPは、慌てて作成したと言わざるを得ない内容だ。党の綱領でうたっている地域間バランス、権力のローテーションを守ることを1ページ目に掲げている(注)のは良いとしても、鉄道の整備計画を「2011年までに実現する」との記載がそのまま残っているといったずさんなものだ。その中で明確にしているのは、土地所有の自由化、土地取引の簡素化、外国投資の積極的誘致で、自由主義路線を強調している。
- また、第3党のLPは、国外からの民間投資、世界銀行やIMFなど国際機関からの支援について自国の利益になるかを慎重にスクリーニングするとしている。自由化もそのやり方が問題であり、慎重に行うという。経済の信頼性獲得に当たっては「世界銀行やIMFのドグマを繰り返す」ことはしないと明言しており、この点は各国の主体的な経済再建を支持するという中国の主張に合致する言い方だ。石油については、ナイジャーデルタ地域の環境問題にも触れており、オビ氏の出身地でもある東部地域への配慮も見られる。
- 質問:
- ブハリ政権に対する評価は。
- 答え:
- あくまでこれまでの他政権との比較においてだが、汚職は少なかった。前任のグッドラック・ジョナサン政権の汚職を追及して勝利したこととも関連しているが、特に第1期は汚職に対して強硬な姿勢を見せていた。また、軍政下で最高軍事評議会議長を務めた人物であり、軍内部に対するコントロールが良く働いていた。手ぬるいという批判もあったが、北東部におけるボコ・ハラムの掃討作戦は一定の成果を上げている。逆に、彼の軍政的統治手法が時に国民の強い批判を浴びた。ブハリ政権は軍・情報局・警察などの要職を北部で固めているとの批判が強く、南西部諸州の知事らが要求した州管理の自警団組織(通称「アモテクン」)の設置を正式には認めなかった。南東部州の自警団組織に対しては軍を派遣して徹底的に阻止した。さらに、住民運動、例えば、秘密警察の横暴なやり方に対する反対運動などには徹底的に弾圧を加えた。あたかも軍政下にあるかのごとき印象を国民に与えた。
- 次回は、元軍人ではない候補者だけによる初めての大統領選挙ということになる。彼らの軍に対する統率力は未知数であり、それゆえに一層、次回の選挙が混乱なく実施されることが望まれる。今年8月、選挙活動を控えたティヌブ氏が、かつて激しく対立していた同じヨルバ族で元軍事評議会議長だったオバサンジョ元大統領を表敬訪問したことがある。民政移管して既に四半世紀になろうとしているが、軍からの支持も重要な要素なのかもしれない。
- 質問:
- 先日、チャタムハウス主催の講演会でティヌブ氏が演説した(2022年12月12日付ビジネス短信参照)が、どういう印象だったか。
- 答え:
- 高齢であることよりも、質問の受け答えが円滑でないという印象を受けた。ティヌブ氏の周りには彼をサポートする専門家集団が控えており、政権運営には問題ないという意見もあるが、同氏の健康状態には不安を感じざるを得ない。ティヌブ氏の支持者たちの中でも、演説後の質疑の様子を見て不安を覚えた者は少なくないだろう。
- 質問:
- どのような選挙結果を予想するか。
- 答え:
- 正直、予想は不可能だ。 大きな理由の1つは、APCにとって元来の票田である北西部地域の有力政治家たちがいまだ誰を支持するか分からないためだ。特に注目されるのは、APCの支持者たちがPDPのアブバカル氏支持に回る可能性がある点だ。加えて、北部カノ州の元上院議員のラビウ・クワンクワソ氏の動向にも目が離せない。彼は現在、新ナイジェリア国民党(NNPP)の党首として自ら大統領選に立候補しているが、これまでも他党の動向に応じて自身の立ち振る舞いを柔軟に変えてきた人物で、その動きは予測がつかない。選挙が近づくにつれ、彼がAPC、PDP、LPのいずれかと連携し、そこに彼の支持者の票が動くことも十分あり得る。
- PDPの内部分裂の影響も不確定要素の1つだ。リバース州のニェソム・ウィケ知事を中心とする南部のPDPの有力政治家グループが大統領候補のアブバカル氏と対立している。この対立問題が解消されないと、同地域ばかりか、西部のPDP票も一部LPに流れる可能性がある。
- LPは国外に住むディアスポラの間で支持が高く、外国メディアからも注目されている。しかし、国内でLPを支持するのは、SNSなど情報ツールを使いこなすエリート層や都市部在住の若者が中心で、一般の人たちの間への浸透度はまだ低いと言わざるを得ない。アティク氏とアブバカル氏の失策でオビ氏支持への雪崩現象が起きない限り、彼の勝利は難しいだろう。
- 注:
- ナイジェリアでは、地域や宗教がしばしば政治問題となってきた。これを受け、1999年の民政移管以降、大統領は2期8年ごとに南北から交互に選出される地域輪番制が暗黙のルールとされてきた。
- このルールに基づくと、北部出身のブハリ大統領の後任となる次期大統領は、本来は南部から選出されるはずだが、PDPは今回、同党の政権下で権力のローテーションを実行すると主張しており、北部出身者のアティク氏を大統領候補に擁立している。PDPが政権を担っていた1999年から2015年の間、北部出身者はヤラドゥア元大統領(2007~10年)の3年間だけのため、次期大統領候補は北部から選出するという見解だ。もっとも、この解釈を巡っては、PDP内でも論争となっており、特に南西部の政治家から反感を買っている。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ラゴス事務所
谷波 拓真(たになみ たくま) - 2013年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ金沢、ジェトロ・アジア経済研究所を経て、2019年12月から現職。