紛失・盗難リスクを解決
D2C企業の戦略から読むインド市場(4)

2023年3月15日

インドのD2C企業がどのように現地トレンドやニーズに商機を見いだし、どのような戦略でアプローチしているのかを追う連載。今回は、アリスタボールト(Arista Vault外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )を紹介する。最高経営責任者(CEO)のプルビ・ロイ氏にインタビューした(実施日:1月27日)。

同社は、ハリヤナ州グルグラムに本拠地を置く。「スマートウォレット」「スマートバッグ」などを開発するユニークな企業だ。

この財布や鞄(かばん)は、スマートフォンと連動して、紛失・盗難時の位置特定などができる。給電可能なバッテリーはもちろん、GPSタグ、スキミング防止などのセキュリティー向上テクノロジーを搭載。スマートフォンのアプリから、遠隔で位置情報が確認できる。それだけでなく、財布や鞄からアラームを鳴らす機能、反対に財布や鞄に取り付けられたタグからスマートフォンの音やアラームを操作して位置を知らせる機能まである。ファッションデザインと先端技術を組み合わせ、セキュリティー向上と不慮の紛失防止のニーズに応えたかたちだ。

こうした製品を、主に電子商取引(EC)にのせて販売している。


プルビ・ロイCEO(本人提供)
質問:
製品の背景やトレンド・ニーズは。
答え:
弊社は、チップを搭載したスマートウォレットやスマートバッグを製造・販売している。
我々の日々の生活では、貴重品の紛失や盗難のリスクを抱えている。特にスマートフォンや財布、鞄などを紛失したときの損失や、それによる潜在的なリスクは極めて大きい。消費者は、ますますスマートフォン中心の生活を送るようになっているからだ。そうした中、スマートフォンを活用して財布などの貴重品の紛失を未然に防ぎ、セキュリティーを高める弊社の製品に注目が集まっている。
これまでに、2万5,000人以上のユーザーが弊社製品を購入した。

同社の代表的な商品「スマートウォレット」(アリスタボールト提供)
質問:
ターゲットとしているセグメントや販売戦略は。
答え:
弊社は「インド初のスマートバッグブランド」として、新しいセグメントを確立した。主な顧客層は、移動が多いビジネスパーソンや旅行者だ。また、テクノロジーに興味のあるガジェット好きの消費者層や、従業員へのギフトとして大量購入する法人もターゲットになっている。
ギフトということでは、法人が従業員に向けて、アマゾンのアレクサのような商品を購入するケースが従来も一定数あった。しかし最近では、弊社商品にも注目が集まるようになった。直近も、大手日系商社が大量購入した。
インド国内では現在、自社ECサイトでの販売と同時に、大手ECプラットフォームのアマゾンとフリップカート上でも販売している。販売比率としては自社ECサイトが約60%、大手ECプラットフォームが約40%。2023年1月からは、アマゾンへの出品を通じて米国での販売もスタートした。
ECだけでなく、旅行者が多いゴア(インドの観光地として人気)で店舗販売を試みている。
質問:
販売上の工夫や差別化の工夫、課題は。
答え:
弊社の製品は、(1)大切なものを守るという特徴と、(2)テクノロジーを駆使した先進的な機能を有している。これもあってか、女性から男性へのギフトとして購入するケースが多い。面白いことに、購入者全体の約65%が女性というデータもある。自社ECサイト上では、注文時にギフトとしてメッセージを添えることができる機能を付加した。これは、ギフトとしての購買を促す仕組みとして構築した結果だ。
紛失対策商品としては、米国・アップル社のエアタグ(Air Tag)が競合になり得る。スマートフォンを使って位置を把握する点では、同じだ。しかし、(1)弊社品がNB-IoTデバイスによる接続なのに対し、エアタグはUWB接続がベース、(2)接続帯域も異なるなど、技術的な違いがある。また、財布や鞄のタグを使ってスマートフォンの位置を音で知らせる機能も搭載しているところも、少し異なっている。
我々が常に抱えている課題は、テクノロジーとデザインの両立だ。プロダクトエンジニアの設計に基づいて、デザイナーが製品をデザインしていく。その際に、いかに最適なバランスを実現するかがカギになる。
質問:
今後の見通しは。海外への事業展開は考えているか。
答え:
今年1月から、米国での販売を開始した。今後は英国、ドイツ、アラブ首長国連邦(UAE)などでの販売を開始する予定だ。
インド国内ではECだけでなく、デリーやムンバイ、ベンガルールなどの大都市で店舗展開を進めていく予定だ。
質問:
海外や日本からの調達や連携ニーズはあるか。
答え:
弊社の製品を支えるバッテリー技術や組み込み用マイクロプロセッサー(MCU)は、価格と品質のバランスが取れたものがあれば、ぜひ日本から調達したい。特にバッテリーは、スリムで高品質なものを可能にする技術に関心がある。

調査協力:グローバル・ジャパン・コンサルティング

執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
酒井 惇史(さかい あつし)
2013年、ジェトロ入構。展示事業部、ものづくり産業部、ジェトロ京都、デジタル貿易・新産業部を経て、2020年12月から現職。