乗用車(新車)登録・生産ともに減少(ハンガリー)
EVは引き続き増加

2023年1月24日

ハンガリーで2021年、乗用車(新車)の登録台数と生産台数が、いずれも減少した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で落ち込んだ2020年から、さらに低迷した。半導体などの部品が世界的に不足したことが、その主な原因と言える。

一方、電気自動車(EV)販売は引き続き好調だった。その背景には、政府のEV購入支援がある。

また、このレポートでは、国内の大手自動車メーカー3社(アウディ、メルセデス・ベンツ、マジャールスズキ)について、2021年の動きをまとめる。あわせて、直近でBMWが進めたEV関連投資も紹介する。

新車登録台数は引き続き減少、中古車は増加

ハンガリーの民間調査会社データハウスによると、2021年の国内新車販売は縮小した。これは、市場の予想に反する結果だ。新車登録台数で見ると12万1,920台。2020年(12万8,030台、2021年8月26日付地域・分析レポート参照)よりも4.8%少ない。「新型コロナ禍」前の2019年(15万7,909台)と比べると、22.8%もの減少になる。一方で中古車登録台数は、前年比1.4%増の13万2,205台だった(図参照)。

図:自動車登録台数の推移(新車・中古車)
新車は、2011年は45,097台、2012年は53,059台、2013年は56,139台、2014年は67,476台、2015年は77,171台、2016年は96,555台、2017年は116,265台、2018年は136,601台、2019年は157,906台、2020年は128,030台、2021年は121,920台登録されました。中古車は、2011年は31,313台、2012年は53,533台、2013年は70,700台、2014年は96,747台、2015年は122,620台、2016年は142,002台、2017年は155,414台、2018年は158,790台、2019年は156,475台、2020年は130,430台、2021年は132,205台登録されました。

出所:データハウスの各年統計からジェトロ作成

ハンガリー自動車輸入協会(MGE)は、新車販売が落ち込んだ背景には、(1)世界的に半導体が不足していることと、(2)「新型コロナ禍」によるサプライチェーンの混乱により生産が抑制されたこと、加えて(3)通貨安によって自動車部品価格が上昇したこと、があると指摘。あわせて、新車の供給量が不足して価格が上昇(注1)した結果、需要が中古車に向かったと分析している。

メーカー別では、スズキが6年連続で首位

メーカー別(表1参照)にみると、首位はスズキだった。その新車登録台数は1万7,650台(前年比19.4%増、シェア14.5%)で、6年連続で首位を維持している。スズキブランドで最も人気のあったモデルは、「ビターラ」(8,350台)と「SX4 S-CROSS」(6,261台)だ。なお、この両モデルとも、ハンガリー北部のエステルゴム工場(2020年1月27日付ビジネス短信参照)で生産されている。

表1:ハンガリーでの新車登録台数(メーカー・ブランド別、2021年) (単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 メーカー・ブランド 台数 シェア 前年比
1 スズキ 17,650 14.5 19.4
2 トヨタ 12,077 9.9 △ 4.7
3 フォード 10,604 8.7 △ 9.7
4 起亜 9,125 7.5 45.0
5 シュコダ 7,846 6.4 △ 23.0
6 ダチア 7,367 6.0 △ 29.6
7 フォルクスワーゲン(VW) 7,049 5.8 △ 27.0
8 フィアット 6,456 5.3 △ 0.8
9 メルセデス・ベンツ 5,680 4.7 19.7
10 ヒュンダイ 5,291 4.3 21.4
合計 (その他含む) 121,920 100.0 △ 4.8

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

なお、スズキは現在、EU市場での販売をハイブリッド車(注2)だけに絞っている。その人気の理由について、同社販売会社のマジャールスズキは、「ハイブリッドバッテリーに適用される保証や全国的なディーラーサービス網、安定したブランド品質」と説明した。

2位はトヨタで、日系メーカーが続いた。登録台数は1万2,077台(前年比4.7%減、シェア9.9%)。「カローラ」が3,437台と、最も登録台数の多いモデルだった。このほか、「ヤリス」も人気があった。ハイブリッド車とスポーツ用多目的車(SUV)も含めて、2,210台が登録された。

3位はフォードで、9.7%減の1万604台だった。

EVが新車登録台数の半分近くに

ハンガリーでは、EV市場がなおも大きく成長している。これは、政府による購入支援にも支えられた結果と考えられる。欧州自動車工業会(ACEA)によると、2021年のハンガリー国内でのバッテリー式電気自動車(BEV)の登録台数は4,312台(前年比41.6%増)。プラグインハイブリッド車(PHEV)は4,236台(41.4%増)、ハイブリッド車(HEV)とマイルドハイブリッド車(MHEV、注3)は合わせて4万8,145台(51.5%増)だった。これらの合計は5万6,693台で、新車登録台数のうち46.5%を占めた(表2参照)。

表2:EVの新車登録台数の推移(2019~2021年)(単位:台、%)
EVの種類 2019年 2020年 2021年 前年比
外部充電可能なEVの合計 2,939 6,042 8,548 41.5
階層レベル2の項目バッテリー式電気自動車(BEV) 1,833 3,046 4,312 41.6
階層レベル2の項目プラグインハイブリッド車(PHEV、注1) 1,106 2,996 4,236 41.4
ハイブリッド車(HEV、注2) 9,170 31,772 48,145 51.5
EV合計 12,109 37,814 56,693 49.9

注1:レンジエクステンダー自動車(EREV)を含む。EREVとは、エンジンを走行用ではなく発電用に搭載しているPHEV。走行には電気モーターを利用する。通常のPHEVより、航続距離が長くなる。
注2:HEVにはマイルドハイブリッド車(MHEV)も含む。
出所:ACEAの資料を基にジェトロ作成

ここで、BEVのモデル別(表3参照)に新車登録台数を追ってみる。「ベゼシュ」ニュース(2022年1月8日付)によると、起亜の「e-ニーロ(e-Niro)」が603台、前年比61.2%増。前年に引き続いて最多だった。EVの販売が好調なことを受けて、起亜ブランド全体の新車登録台数も、前年比45.0%増(表1参照)を記録した。

2017年に登場した日産の「リーフ」も、前年に引き続き販売は好調。登録台数は436台で、21.8%の増加となった。「ベゼシュ」ニュースは、「同ブランドの成功の第一の秘訣(ひけつ)は車両への信頼性にある」との在ハンガリー日産担当者のコメントを報じた。

表3:モデル別EV新車登録台数(上位10モデル、2021年)(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 モデル 販売台数 前年比
1 起亜e-ニーロ 603 61.2
2 日産リーフ 436 21.8
3 ヒュンダイ・コナ 296 31.0
4 ダチア・スプリング 263 新規参入
5 フォルクスワーゲン e-Up 226 △ 17.5
6 ルノー・ゾエ 207 △ 44.1
7 フォルクスワーゲン ID.3 190 115.9
8 フィアット 500e 190 新規参入
9 シュコダ・エニヤック 184 新規参入
10 テスラ・モデル3 167 193.0

出所:「ベゼシュ」ニュース(vezess.hu)を基にジェトロ作成

中古車登録台数が新車を上回る

前述のとおり、データハウスによると、2021年の中古車登録台数は13万2,205台(前年比1.4%増)。新車登録台数の12万1,920台を上回った。

メーカー・ブランド別(表4参照)にみると、フォルクスワーゲン(VW)が前年比5.8%減の1万4,326台。2020年に続きトップだった。これに、オペルの1万3,399台(2.5%増)、フォードの1万1,824台(0.4%減)が続いた。トヨタは9,119台(9.8%増)と伸びた。その結果、シェアも6.9%に拡大している(前年比0.5ポイント増)。

なお、中古車輸入で人気があったモデルは、フォードのフォーカス(登録台数4,139台)、VWのゴルフ(4,040台)とパサート(3,452台)の3種だった。

表4:メーカー・ブランド別の中古車登録台数(上位10メーカー・ブランド、2021年) (単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 メーカー・ブランド 2021年 シェア 前年比
1 フォルクスワーゲン(VW) 14,326 10.8 △ 5.8
2 オペル 13,399 10.1 2.5
3 フォード 11,824 8.9 △ 0.4
4 トヨタ 9,119 6.9 9.8
5 ヒュンダイ 7,179 5.4 19.4
6 アウディ 7,074 5.4 △ 9.4
7 BMW 6,853 5.2 △ 5.0
8 メルセデス・ベンツ 6,317 4.8 △ 10.2
9 起亜 5,819 4.4 23.0
10 ホンダ 5,462 4.1 12.6
合計 (その他含む) 132,205 100.0 1.4

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

では、ハンガリーで中古車登録台数が新車を上回ったのは、なぜか。その理由について、自動車取引ウェブサイト「ヨー・アウトーク」のハラース・ベルタラン最高経営責任者(CEO)は、「2021年下半期に新車ディーラーが新車供給障害により増大する需要に対応できず、一部の乗用車購入希望者は中古車を購入せざるを得なかった」と説明。その結果、「2021年下半期の国内乗用車市場には、新車よりも中古車(国内所有者が売ったものと輸入されて新規登録されたものを含む)の方が21.5%多く投入された」とした。

加えて、同ウェブサイトによると、世界的な半導体不足による新車納車の遅れも中古車需要を喚起した。一部の中古車カテゴリーでは、前年比20%以上の価格上昇を記録したという。また、広告企業のハスナールト・アウトが発表したデータによると、販売広告に見る中古車の平均価格は、2020年第1四半期時点で255万フォリント(約89万2,500円、1フォリント=約0.35円)にとどまっていた。これが、2021年第4四半期には、468万フォリントまで値上がり。単純に計算して、83.5%も価格が上昇したことになる。

部品不足で、乗用車生産減

ハンガリーの自動車メーカーでも、新型コロナ禍の影響に続いて、世界的な半導体不足の深刻化が影響した。部品の入荷が予測できないため、これまで平常だった受注が困難になり、生産が滞った。ハンガリーの自動車メーカーは、この状況に、シフト減や生産休止などの柔軟な生産体制で臨んだ。サプライチェーンの混乱も影響した。

ただし、このような状況にもかかわらず、ACEAによると2021年の乗用車生産台数は41万3,750台。2020年の43万3,601台を4.6%下回るにとどまった。

メーカー・ブランド別にみると、アウディが17万1,015台で首位、メルセデス・ベンツ、マジャールスズキが続いた。メルセデス・ベンツ、マジャールスズキは、それぞれ前年比13.8%減、4.0%減と生産台数を減らした。その一方で、アウディは10.2%増と大きく伸びた(表5参照)。

表5:メーカー・ブランド・モデル別生産台数(2021年)(単位:台、%)(△はマイナス値)
車種・モデル 2019年 2020年 2021年 伸び率
アウディ・ハンガリア 164,817 155,157 171,015 10.2
階層レベル2の項目Q3 120,230 94,659 102,833 8.6
階層レベル2の項目Q3スポーツバック 15,300 47,232 59,693 26.4
階層レベル2の項目TTクーペ 11,791 6,793 6,534 △ 3.8
階層レベル2の項目TTロードスター 3,208 1,853 1,955 5.5
メルセデス・ベンツ
(CLAクーペ, CLA シューティングブレーキ, Aクラス,EQB)(注1)
190,000 160,000 138,000 △ 13.8
マジャールスズキ
(ビターラ、S-Cross)
168,774 112,475 107,974 △ 4.0
合計(注2) 523,591 427,632 416,989 △ 2.5

注1:メルセデス・ベンツの生産台数は概数。
注2:「合計」は、各社が発表した生産台数の合計。ACEAの発表とは一致しない。
出所:各社発表からジェトロ作成

大手自動車メーカー・ブランド4社の動向

ここからは、アウディ、メルセデス・ベンツ、マジャールスズキの2021年の動きを追う。あわせて、BMWが直近で進めたEV関連投資もみていく。

アウディ(VWグループ)

ハンガリー北西部のジェールにあるアウディ・ハンガリアは、世界最大級のエンジン工場を有する。

2021年はエンジン162万767基(前年比4万832基減)、乗用車17万1,015台(前年比1万5,858台増)を生産した。この2021年の乗用車生産台数は、同社の歴史上、最多となる。同社は、新型コロナ禍や半導体不足という困難にもかかわらず、ハンガリー国内の自動車メーカーの中で唯一、2021年の生産台数を伸ばすことができた企業になった。

同社の2021年の投資額(1億6,260万ユーロ)の大部分は、電動車用駆動装置関連、特に次世代電動車用プラットフォームの「プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)」に向けられた。ジェール工場では、電動車用モーターの生産を2018年に開始した。その後、同工場がアウディの電気モーター生産の中心地になっている。2021年は、9万6,976基(前年比9,633基増)生産した。

アウディ・ハンガリアは、電動車用モーターを製造するだけでなく、開発も担う。さらには、新世代のモーター生産も準備中だ。将来的には、アウディとポルシェが共同開発したPPEをベースとして、VWグループによるBEV生産の拠点になると見込まれている。

アウディは、新型コロナ禍と半導体不足が生み出した状況を、むしろ好機と捉え、事業分野をさらに広げた。製造に加えて、生産設備も開発しているほか、「コンピテンスセンター」(注4)を設置。VWグループ全体に対して、調達やIT、ロジスティック、開発などのサービスを提供している。

メルセデス・ベンツ

メルセデス・ベンツは、ハンガリー中部のケチケメートにハンガリー工場を擁する。2021年は、乗用車13万5,000台超(前年比約2万5,000台減)を生産した。その生産車両全体に占めるEVの割合は増加してきた。2021年4月には、PHEV「A 250e」の大量生産を開始。BEV「EQB-SUV」モデルも予定通り10月、大量生産を開始した。これにより同工場の生産ラインでは、古典的な内燃機関からプラグインハイブリッド、純電気駆動システムに至るまで、あらゆる駆動システムを生産することになった。

一方で、世界的な半導体不足の影響を受け、当ハンガリー工場でも、2021年に特別措置をいくつか講じなければならなくなった。例えば、1月、4月、8月の3回、一時的な生産停止を余儀なくされた。この生産休止期間は、メンテナンス活動と新モデルの量産準備に充てられた。10月18日からは、週4日の勤務体制に移行。その後、供給状況が刻々と変化する中、クリスマス時期にメンテナンス期間として1カ月間、工場が閉鎖された。

マジャールスズキ

マジャールスズキのエステルゴム工場は、首都ブダペストから北西に40キロメートル余りに位置する。2021年は、世界的な半導体不足の影響を受け、生産台数が10万7,974台(前年比約4%減)だった。うち、65%以上がHEVだった。HEVのシリーズ生産を開始したのは、2019年12月のことだ。

世界的な半導体不足の影響は、同工場にも及んだ。2021年中に何度も1シフトになり、9月には2週間にわたって操業が全面停止された。12月も、クリスマス時期の操業停止まで、1シフトでの操業が続いていた。 その結果、2021年の生産目標14万3,000台には届かなかった。

BMW

BMWは、ハンガリー東部に、デブレツェン工場を開設予定だ。その工事が開始されたのは、2022年に入ってのことだった(6月に定礎式)。もともとは2019年末までに着工の予定だった(2018年8月3日付ビジネス短信参照)。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2020年春に経営陣がスケジュールを見直していた。

この工場は、プレス、車体溶接、塗装、組み立てなどの工程を備えた完成車工場になる。また、車両電動化に向けてBMWが転換する上でも、重要な役割を果たすと見込まれている。例えば、ノイエ・クラッセ(BEVモデル)を、二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロで生産する予定だ。

加えて、2022年11月末には、同工場内に、EV用高電圧電池の組立施設を構築する計画も追加発表した。これで総投資額20億ユーロ超、新規に1,500人を雇用する予定になった。

生産開始は、車両と電池、ともに2025年を目指す。


注1:
2022年1月に当地ディーラーから聴取したところ、例えばスズキ・ビターラ(GL+)は、649万フォリント(約227万1,500円、1フォリント=約0.35円)だった。1年間で、価格が約10%上昇したという。
注2:
スズキがハイブリッド車の販売を開始したのは、2020年1月からになる。
注3:
MHEVは、電力によるアシストにより燃費や二酸化炭素(CO2)排出量を効率化した自動車。電力単体での駆動はできない。
注4:
核となる技術を集約して開発する研究センター。アウディのコンピテンスセンターでは研究開発のほか、VWグループ全体に対する各種事務系サービスも提供している。
執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ
2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。