中国で少子高齢化が進む
低出生率に危機感、消費意欲の高い高齢者層の増加は商機にも

2022年6月29日

少子高齢化やそれに伴う人口減少は、世界各国の経済社会に深刻な影響を与えると考えられている。中国でも同様で、その対策は急務だ。そのため、中国共産党は2021年5月、中央政治局会議で3人目の出産を容認する方針を打ち出した。その後も、政府が積極的に支援策を展開している。高齢化対策についても、同年3月に発表された第14次5カ年(2021~2025年)規画において、「国家戦略」に格上げした。

本稿では、各種人口データなどをもとに、これまでの「一人っ子政策」からの転換や子育て支援に関する政府の動き、高齢化の進展など人口動態(人口構成)の変化などについて概観する(注1)。

出生率は1949年以来最低水準に

中国政府は1979年以降、「一人っ子政策」を本格実施した。「1組の夫婦に子供は1人」として、2人以上の出産を厳しく規制していた。

しかし2000年代に入ると、少しずつ緩和の動きがみられるようになった。2002年9月には、子供1人を奨励しつつも、「法律、法規に定める条件を満たす場合は第2子の出産を認める。具体的には各省・自治区・直轄市人民代表大会または同常務委員会が規定する」と例外を規定した。すなわち、各地域の状況に応じた措置が認められるようになった。具体的には、少数民族の場合や夫婦ともに一人っ子の場合、第2子の出産を認める「「双独二人っ子、中国語:双独二孩(二胎)」、農村部で第1子が女児の場合、第2子の出産を認める「1.5人っ子、中国語:一孩半」などの措置だ。その後、2013年11月には、夫婦どちらかが一人っ子なら、子供を2人までもうけることができる「単独二人っ子、中国語:単独二孩(二胎)」も明文化された(注2)。

2016年1月には、すべての夫婦が第2子を持つことを認める「二人っ子政策」を全面的に実施し、実質的に「一人っ子政策」は廃止された。

規制緩和はさらに加速する。2021年5月の中央政治局会議は、3人目の出産容認する方針を示した(2021年6月8日付ビジネス短信参照)。これを受け同年7月に、中国共産党中央委員会と国務院が、「出産政策の最適化による人口の均衡ある長期的発展の促進に関する決定」を発表(2021年7月29日付ビジネス短信参照)。産児制限措置の撤廃、出産や育児、教育コストの引き下げなどの措置を規定した。8月20日には、改正「人口・計画生育法」を全人代常務委員会で可決、同日施行し、本格的に「三人っ子政策」に舵(かじ)を切った。

度重なる政策転換の背景には、急速な出生率の低下がある。出生率(人口1,000人当たりの出生数の割合、‰)をみると、「一人っ子政策」下の2000年~2015年は11.90~14.57‰の間で推移していた(図1参照)。しかし、全面的に「二人っ子政策」に転換した2016年以降、出生率はむしろ低下の一途をたどっている。2016年こそ13.57‰とやや持ち直したが、その後は、12.64‰(2017年)、10.86‰(2018年)、10.41‰(2019年)、8.52‰(2020年)、7.52‰(2021年)と右肩下がりだ。

合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に生む平均子供数を推計したもの、以下TFR)も同様に低下している(図2参照)。TFRが2.1程度で、人口は横ばいになるといわれている(これを「人口置換水準」と呼ぶ)。人口学者の間では、TFR1.5を境とし、人口置換水準を少し下回る場合を「緩少子化」(比較的緩やかな少子化)、人口置換水準を大きく下回ると「超少子化」(非常に厳しい少子化)と呼ぶ(注3)。中国では、2000年以降は1.6前後で推移してきた(2020年は1.7)。他方、2021年5月11日に行われた第7回人口センサスに関する記者会見において、中国国家統計局の寧吉喆局長は、2020年のTFRが1.3になったことを明らかにしており、「緩少子化」から「超少子化」へと突入したとみられる。なお、中国国家統計局が公表した2020年の水準は、日本の2020年(1.34)とほぼ同水準だ。

図1:総人口、出生率、死亡率の推移(中国)
出生率は、「一人っ子政策」下の2000年~2015年は11.90~14.57‰の間で推移、全面的に「二人っ子政策」に転換した2016年以降は、13.57‰(2016年)、12.64‰(2017年)、10.86‰(2018年)、10.41‰(2019年)、8.52‰(2020年)、7.52‰(2021年)と右肩下がりに低下した。なお、総人口は5億4,167万人(1949年)から、10億72万人(1981年)、12億1,121万人(1995年)、13億756万人(2005年)と推移、2021年は14億1,260万人。死亡率は20.00‰(1949年)から徐々に低下、大躍進政策の影響で一時25.43‰(1960年)に、その後1965年以降は一桁台で推移し、2021年は7.18‰。

出所:中国国家統計局のデータを基にジェトロ作成

図2:合計特殊出生率の変化(日本と中国)
中国の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に生む平均子供数を推計したもの)では2000年以降1.6前後で推移。 一方、日本の合計特殊出生率は、2000年に入ってからは1.26~1.45の間で推移し、2020年は1.34。

出所:世界銀行のデータを基にジェトロ作成

家庭と仕事の両立、子育てコスト軽減に動く

中国共産党中央委員会と国務院は2021年7月20日、「出産政策の最適化による人口の均衡ある長期的発展の促進に関する決定」を発表し、具体的な子育て支援策を提示した。例えば、(1)「三人っ子政策」の実施(「社会扶養費」の廃止など)、(2)誰もが普遍的な恩恵を享受できる託児サービス体系の発展(注4)、(3)出産・育児・教育コストの軽減(注5)、などだ。

この「決定」で提示された子育て支援策の具体化も進んでいる。2021年末までに多くの地方政府が、中央政府の方針を踏まえて「人口・計画生育条例」を改正・施行している。特に子育て世代に対する休暇制度を大幅に拡充し、従来の生育休暇(中国語:生育假)の日数を増やした。ただし実際に規定された生育休暇日数は、各省市ごとに若干異なる(注6)。主な省市で現状、産前産後休暇日数の合計で約158~178日になっている(表参照)。2021年の条例改正により、北京市、天津市、上海市などでは、各地域独自の生育休暇日数上乗せ分を従来の30日から60日に拡充した。広東省では、従来70日、現在80日だ。また、育児休暇(中国語:育児假)を新たに導入した。子供が満3歳になるまで、両親それぞれが年5~10日取得できる(注7)。そのほか配偶者の男性は、出産付き添い休暇などを引き続き取得可能だ。

表:主な省市における出産や育児にかかる制度の概要(一部抜粋)
省市 施行日 育児休暇(注1) 産前産後休暇日数(注2)
北京市 2021年11月26日 子供が満3歳になるまで、両親それぞれ年5日 生育休暇は60日に延長
→国の法定産休98日+生育休暇60日=合計158日
天津市 2021年11月29日 子供が満3歳になるまで、両親それぞれ年10日 生育休暇は60日に延長
→国の法定産休98日+生育休暇60日=合計158日
遼寧省 2021年11月26日 子供が満3歳になるまで、両親それぞれ年10日 生育休暇は60日に延長
→国の法定産休98日+生育休暇60日=合計158日
上海市 2021年11月25日 子供が満3歳になるまで、両親それぞれ年5日 生育休暇は60日に延長
→国の法定産休98日+生育休暇60日=合計158日
湖北省 2021年11月26日 子供が満3歳になるまで、両親それぞれ年10日 生育休暇は60日に延長
→国の法定産休98日+生育休暇60日=合計158日
広東省 2021年12月1日 子供が満3歳になるまで、両親それぞれ年10日 生育休暇は80日に延長
→国の法定産休98日+生育休暇80日=合計178日
四川省 2021年9月29日 子供が満3歳になるまで、両親それぞれ年10日 生育休暇は60日に延長
→国の法定産休98日+生育休暇60日=合計158日

注1:新設された育児休暇、中国語では「育児假」という。
注2:難産、高齢出産などの場合や2人目、3人目の出産の場合などには休暇日数がさらに追加で付加される。
出所:各省市の「人口・計画生育条例」を基にジェトロ作成

2022年3月28日には、中国国務院が3歳以下の乳幼児にかかる養育費用を個人所得税の控除対象にすると発表(2022年4月6日付ビジネス短信参照)。子育て世代の個人所得税軽減に乗り出した。国務院の通知によると、養育にかかる支出として、3歳以下の乳幼児1人につき毎月1,000元(約1万9,000円、1元=約19円)を課税所得から控除する。控除の方法は、夫婦どちらかの所得から控除額全額を控除するか、双方の所得から半分ずつ控除するかを選択できる。この措置は2022年1月1日に遡及(そきゅう)して適用される。

このように、中国政府による子育て支援策が進展してきた。こうした動きを踏まえ、企業側も就業規則の改定などの対応が必要になるので注意が必要だ。

2021年は中国「高齢社会」元年

進展しているのは少子化だけではない。中国政府は2021年3月、第14次5カ年規画で、高齢化社会への対応を「国家戦略」に格上げした。少子化対策に並行して、高齢者への対応も強化する。

2021年10月に国家衛生健康委員会が発表した「2020年度国家高齢事業発展公報」によると、2020年11月1日時点で、中国における65歳以上の高齢者数は1億9,064万人[総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は13.5%]、農村部での高齢化率は、都市部よりもさらに高いとしている(2021年10月21日付ビジネス短信参照)。

一般に、高齢化率が7%以上の社会を「高齢化社会」、14%以上の社会を「高齢社会」、21%以上の社会を「超高齢社会」と呼ぶ。内閣府の「令和2年版高齢社会白書」によると、2019年10月1日時点で日本の高齢化率は28.4%で、日本はすでに「超高齢社会」に入っている。

一方で中国の高齢化率は、1990年代以降2000年までは6%台で推移していた。しかし2001年に7.1%。「高齢化社会」の基準とされる7%を超えた(図3参照)。2001年以降はさらに上昇幅が拡大。直近では、2020年13.5%、2021年には14.2%だった。すなわち、中国にとって、2021年は「高齢社会」元年であったといえる。

図3:年少人口・生産年齢人口・老年人口の割合(中国)
高齢化率は4.9%(1982年)、5.5%(1987年)、7.1%(2001年)、8.9%(2010年)、14.2%(2021年)。年少人口比率は33.6%(1982年)、28.7%(1987年)、22.5%(2001年)、16.6%(2010年)、17.5%(2021年)。生産年齢人口比率は61.5%(1982年)、65.9%(1987年)、70.4%(2001年)、74.5%(2010年)、68.3%(2021年)。

出所:中国国家統計局のデータを基にジェトロ作成

一方、年少人口比率(0~14歳)をみると、「一人っ子政策」実施当初(1982年)は33.6%だった。しかしこれが、次第に低下。2000年代は20%を割り込んだ。直近の比率をみると、2020年に17.9%、2021年17.5%になっている。生産年齢人口比率(15~64歳)も同様だ。1990年代は66~68%、2000年以降は7割を超えて推移していたが、その後は2010年74.5%をピークに緩やかに低下。直近では、2020年68.6%、2021年68.3%と、1990年代後半の水準まで低下している。

高齢化進展が関連産業の商機に

高齢化の進展は、一方で新たなビジネスチャンスの創出にもつながっている。中国工業情報化部による対外発表データによると、2030年における中国のシルバー産業市場の規模は20兆元(約380兆円、1元=約19円)を超える見通しだ(「上海証券報」2021年5月12日)。こうした関連産業の拡大により、高齢者向け製品やサービスの需要拡大が見込まれる。

中国政府も、シルバー産業の発展を後押ししている。中国国務院は2022年2月21日、「『第14次5カ年規画』期間中のシルバー産業の発展や高齢者サービス体系に関する規画」を発表した(2022年3月4日付ビジネス短信参照)。規画では、2025年までの目標として「介護用ベッド総数(900万床以上)」「特別養護老人に対する月間訪問率(100%)」「介護施設における介護用ベッドの割合(55%)」など9指標を示した。シルバー産業に関しては、高齢者の生活を支える製品開発、とりわけハイテク技術を導入した商品開発支援を明らかにした。となると、ITやデジタル化による産業発展も期待できそうだ。

さらに、今後は消費力の高い高齢者の増加も見込まれる。中国マクロ経済研究院によると、中高所得層の高齢者人口は2022年に1億3,000万人に達すると見込まれる。その中で、教育水準が高く(新製品などを)受け入れる能力の高い「60後(1960年代生まれ)」が徐々に増えていくことになる(「央視網」2022年2月22日)。

中国老齢科学研究センターは2022年3月、「中国老齢産業発展および指標体系研究」を発表(注8)。高齢者人口の増加に伴い、高齢者による消費の潜在力は今後継続的に上昇すると予測した(「新華社客戸端」2022年3月1日)。その発表会で、中国社会科学院数量経済・技術経済研究所の李軍研究員は、高齢者の消費動向(消費支出、需要、消費の潜在力)について見解を示した。「(2010年価格で計算すると)2030年には高齢者による消費は12兆~15兆5,000億元に、2050年には40兆元~69兆元に達する見込み」と推計されるという(「中国新聞網」2022年3月1日)。

このように、中国では少子高齢化が急速に進む一方、消費意欲の高い層が今後、高齢者に仲間入りすることなどにより、関連製品・サービスの需要拡大も見込まれる。日本企業がこの層をどう取り込み、中国市場の開拓を進めていくことができるのか。この点を含め、中国で進む少子高齢化の行方をチャンスと課題の両面で注視していく必要があるだろう。


注1:
中国政府ウェブサイト、各省政府ウェブサイト、中国国家統計局ウェブサイトなどを基にとりまとめた。その他、主な参考資料は以下の通り。厳善平「中国における少子高齢化とその社会経済への影響─人口センサスに基づく実証分析─」/日本総研『JRIレビュー 2013 Vol.3、No.4』(pp.21~41)、関志雄「緩和される一人っ子政策」/独立行政法人経済産業研究所「中国経済新論:実事求是」(2014年2月5日掲載)、内閣府「高齢社会白書(令和2年版)」、労働政策研究・研修機構「『一人っ子政策』撤廃の影響(中国:2016年5月)」。
注2:
この措置は、2013年11月の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で決定された。その際に審議・採択された「改革の全面的な深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」に基づく。
注3:
内閣府「少子化社会対策白書(平成29年版)」、佐藤龍三郎「日本の超少子化の原因論と政策論を再考する―政策による少子化是正は可能か―」/『中央大学経済研究所年報』第48号(2016)pp.15-40などを参照した。
注4:
元の表現では、「普恵型」託児サービス体系。より具体的には、多様な託児サービスの提供などを意味する。
注5:
具体的には、産前産後休暇(産休)や育児休暇(育休)など制度の厳格実施、3歳以下の乳幼児を扶養する場合の個人所得税軽減や、未成年者がいる家庭に対する家賃補助・住宅購入時優遇策を検討すること、など。
注6:
法律で定められた産休日数は98日で、これに上乗せしたかたちで設定している。
注7:
適用期間については、大多数は「子供が満3歳まで」だが、例えば、安徽省の場合は、「子供が満6歳まで、両親それぞれ年10日」となっており、各省市ごとに、適用期間や日数が異なる。
注8:
「中国老齢産業発展および指標体系研究」は、中国老齢科学研究センターが編纂し、中国社会科学院が出版した。

変更履歴
脚注に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(2024年11月7日)
注3
(誤)内閣府「少子化社会対策白書(平成29年版)」、斎藤龍三郎「日本の超少子化の原因論と政策論を再考する―政策による少子化是正は可能か―」/『中央大学経済研究所年報』第48号(2016)pp.15-40などを参照した。
(正)内閣府「少子化社会対策白書(平成29年版)」、佐藤龍三郎「日本の超少子化の原因論と政策論を再考する―政策による少子化是正は可能か―」/『中央大学経済研究所年報』第48号(2016)pp.15-40などを参照した。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 アドバイザー
嶋 亜弥子(しま あやこ)
2017年4月より現職。