2022年も輸送費の高騰が継続の見込み、現地日系物流企業に聞く(中東)

2022年6月3日

新型コロナウイルスの感染拡大や、スエズ運河でのコンテナ船座礁事故、ロシアによるウクライナ軍事侵攻といった相次ぐ情勢変化の影響で、2021年から2022年にかけて国際物流の混乱と輸送費の高騰が継続し、企業活動にも影響を及ぼしている。ジェトロは2021年に続き(2021年6月28日付地域・分析レポート参照)、世界の物流ハブの1つであるアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの日系物流大手、近鉄エクスプレスドバイ法人(Kintetsu World Express (Middle East) DWC LLC)の岡良太郎社長に、ドバイの物流・サプライチェーンの現状と今後の見通しについてインタビューした(2022年4月21日)。


近鉄エクスプレスドバイ法人の岡氏(右)と日系営業担当の金成氏(左)(同社提供)
質問:
スエズ運河の事故で中東の輸送コストが急騰したが、2021年3月の事故発生から現在(2022年4月)にかけての状況はどうか。
答え:
輸送費は(新型)コロナ禍でコンテナ船不足が続いている最中に上昇した。スエズ運河の事故は当時発生した大きな事案の1つだったが、その後は多少落ち着くかと思われた。しかし、その後も現在に至るまで、海上・航空ともにコストの高止まりが続いている。輸送経路や貨物によっても異なるが、2021年末から現在まで、輸送費が平時(コロナ前)の5倍くらいかかっているとする日系企業もある。
質問:
海上貨物の状況はどうか。
答え:
海上貨物については、新型コロナの影響を受けた港湾の混雑が現在も世界各地で影響を及ぼしている。2021年以降、コンテナ不足については多少の改善を見せたが、新型コロナ拡大による港湾労働者の不足や、政府のロックダウン(都市封鎖)による港湾活動の停止などが海上輸送に大きな遅延をもたらした。
ドバイの進出日系企業の間では、日本を含むアジアから中東(ドバイ、サウジアラビアなど)向けや、スエズ運河を経由して欧州に至る輸送ルートを活用する企業が多い。そのため、2021年は特にシンガポール港の混雑や、中国の都市封鎖(塩田港、寧波船山港など)がこのルートの輸送に大きな影響を及ぼした。それでも、中国の春節(旧正月:2022年2月初旬)後は多少落ち着くかと見込んでいたが、ウクライナ紛争という新たな問題の発生もあり、再び先行きが見通せない状況となっている。
また、海上輸送では、船会社にとって中国(上海港など)から米国西海岸(ロングビーチ港)という航路が稼ぎどころで、主要レーンの1つとなっている。ロングビーチ港は、多数の船が沖待ちをするなどの大混雑となっていたが、2021年に米国の景気がEコマースや自動車産業などの分野で回復傾向となったことから、幾つかの船会社が同レーンを活用したいと見込み、中東向けの便をキャンセルして同レーンに回す措置を取った。この点も中東向けのスペースが不足して、運賃が上昇する要因の1つとなった。
質問:
航空貨物の状況はどうか。
答え:
現時点では、中東のコロナ感染者数は減少傾向となっているが、2021年以降も新型コロナの影響で減少した旅客便の影響が完全には回復し切らなかったため、航空貨物も、輸送スペースの減少による運賃の高止まり傾向が継続している。
ただし、前述のとおり、海上輸送でもコスト高や輸送の遅延が続いたため、自動車部品や精密機器の部品など、短い納期での輸送が求められる品目については、運賃が高くとも航空輸送を選択する企業もあった。
質問:
ロシアのウクライナ軍事侵攻の影響はどうか。
答え:
航空貨物については、3月に日本から欧州向けのフライトが一部欠航となったこともあり、影響を受けている。日本から欧州への直行便の代替案として、特に緊急度の高い医薬品などについて、ドバイ経由で輸送できないかという問い合わせもあり、実際に手配も実施した。また現在でもロシア・ウクライナ上空が飛行できないため、日本から欧州向けに輸送する場合、ロシアより北回りか、南半球を通るルートにせざるを得ない。その場合には飛行距離が増えるため、より多くの燃料を積む必要があり、その分、貨物を搭載可能な総量が減少する。結果として空輸の運賃も上昇している。
他方、海上貨物については現在、中東地域の物流に対して大きな影響を受けてはいない。利用する船がロシア・ウクライナ付近を通行することがなく、当社としてもこの軍事侵攻後は両国向け貨物を取り扱っていないためだ。
質問:
現地のコロナ禍からの回復度合いや、ドバイの景況感はどうか。
答え:
UAEではドバイ万博が開催されたこともあり、2021年の景気は総じて上向きだったと感じる。進出日系企業の業績もおおむね好調だったようだ。新型コロナ感染者も大きく減少し、店舗などの屋内ではマスクを着用しているが、屋外での着用義務は既になくなっている。コロナ以前と同等とまでは言えないが、日常生活に関してはかなり平時に戻っているように感じる。
質問:
運賃の高騰などに対して、現地日系企業の対応状況は。サプライチェーンの変更は行われているのか。
答え:
前述のとおり、輸送費がコロナ前の数倍になっていることから、企業活動にも大きな影響があるとみている。しかし、多くの在ドバイ日系企業にとって、既に確立した中国やアジアなどの製品調達先の変更や、コストが高い中東への生産拠点の変更など、サプライチェーンを抜本的に変えることは容易ではない。川上の素材や部品調達での変更は、一段と厳しいと理解している。現地で話を聞く限りでは、業績も回復傾向にあることから、多くの企業はサプライチェーンの大きな変更は行わず、販売価格への転嫁などでコスト増に対応しているとみている。
質問:
ドバイの港湾の状況や、政府の対応はどうか。
答え:
ドバイの港湾は、混雑や通関の遅れの問題はなく、昨年同様に物流の流れはスムーズだ。航空貨物については、オミクロン型変異株の流行や景気上昇局面で急激に物量が増えたことにより、昨年末に空港内貨物施設の一部で遅れが見られたが、今では元どおりに回復している。政府の税関での対応も特に問題はない。
質問:
ウクライナ情勢を含めて、輸送費の動向など、今後の展望は。
答え:
今後の見通しは立てづらいものの、少なくとも2022年末ごろまでは、海上・航空ともに輸送費の高止まりが続く可能性があると思われる。最近のニーズとして、旅客便の輸送スペースが限られているため、一定量決まった物量を輸送する商品の場合、チャーター便を飛ばして送る方法を検討することもある。
他方で、一昨年(2020年)に国交を樹立したUAEとイスラエルの間で、当社が航空・海上貨物を手配するなど、新たなニーズや可能性がこの中東地域にはある。今後も当社のグローバルネットワークを生かし、地政学の変化を積極的にビジネスチャンスにつなげていきたい。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課課長代理
米倉 大輔(よねくら だいすけ)
2000年、ジェトロ入構。貿易開発部、経済分析部、ジェトロ盛岡、ジェトロ・リヤド事務所(サウジアラビア)等の勤務を経て、2014年7月より現職。現在は中東諸国のビジネス動向の調査・情報発信を担当。