人口増加にみるアフリカ市場の可能性と課題

2022年12月15日

国連は11月15日、世界人口予測2022年版を発表した。発表によると、同日付で世界人口は80億人を突破した。国連の中位予測によると、世界人口は2080年には100億人を超え、ピークに到達すると予測している(2022年11月16日付2022年11月18日付ビジネス短信参照)。

今後の世界の人口増加を支えるのはアフリカで、54カ国の総人口は2022年の14億820万人から、2030年には16億9,009万人、2050年に24億6,312万人、2100年には39億1,348万人に増加すると見込まれている。世界人口に占めるアフリカの割合は、2022年の17.7%から2030年中に20%を超え、2050年に25.4%、2100年には37.8%にまで達することとなる。この長期的なトレンドを見据え、企業はどのように対応していくべきか。本稿では、人口増加に見るアフリカ市場の可能性と課題について考察する。

今後の核となる地域大国はどこか

アフリカでは、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)など大陸レベルの経済統合の動きはあるものの、面積も広大で、そこに多様な民族・文化が混在し、大陸を一つの国としてみることは難しい。ビジネスを検討する上では、都市、国、地域経済共同体といったレベルで市場を押さえていくことが重要だ。では、長期的なトレンドでどういった国に注目していくべきか。

国連の予測によると、2100年時点のアフリカの人口上位10カ国は、(1)ナイジェリア(5.4億人)、(2)コンゴ民主共和国(4.3億人)、(3)エチオピア(3.2億人)、(4)タンザニア(2.4億人)、(5)エジプト(2億人)、(6)ニジェール(1.7億人)、(7)スーダン(1.4億人)、(8)アンゴラ(1.3億人)、(9)ウガンダ(1.3億人)、(10)ケニア(1.1億人)となっている(図1参照)。今後80年間にわたり、これらの国々が東西南北・中央の各地域の核として台頭し、アフリカ域内、そして、国際社会においても頭角を現していくことが見込まれている。ビジネスとしても、これらの国々を視野に入れていかないわけにはいかないだろう。

図1:アフリカ主要国の人口増加
人口最大はナイジェリアで、2020年に2億人、2030年代に3億人、2070年代には5億人を突破する見込み。続くコンゴ民主共和国も現在1億人近い人口が2040年代に2億人、2060年代に3億人、2080年には5億人を超える見込み。2100年には続いて、エチオピア、タンザニア、エジプト、ニジェール、スーダン、アンゴラ、ウガンダ、ケニアが上位10カ国にランクインする予測。

出所:国連人口予測2022年版からジェトロ作成

注目は、ナイジェリア、エジプト、コンゴ民主共和国

上位10カ国のうち、ナイジェリアはアフリカ随一の大国として、人口でも、経済規模でも数十年にわたりアフリカをリードしていくことが期待される。1人当たりGDPは2,000ドル程度だが、この20年間で年平均5%以上のペースで伸びている(表1参照)。ビジネス上の課題は数多くあるものの、低所得者から中間層、そして高所得者まで幅広い層を対象に多国籍企業が活発に市場開拓に取り組んでいる。また、1人当たりGDPが4,000ドル近くあるエジプトも、既に競争は激化しつつあり、多国籍企業や地場企業がしのぎを削っている。目下のところ、両国ともに深刻な外貨不足に悩んでいるものの、長期的な潜在性は群を抜いている。

また、コンゴ民主共和国は1億人近い人口に加え、銅やコバルト、ダイヤモンドなど鉱物資源にも恵まれており、今後、長期にわたりプレゼンスが増していくことは明らかである。しかしながら、企業関係者の間では、まさに「Elephant in the room(誰もが認識している重要だが見えないふりをしているモノ・コト)」ともいうべき状況で、誰もが大国と認識しつつも、多国籍企業や日本企業の本格的な参入はいまだ始まっていない。1人当たりGDPは10カ国で最も少ないが、今後も成長が見込まれ、もっと日本企業も注目してもよい国だろう。

表1:主要国の1人当たりGDPと年平均成長率(△はマイナス値)
国・地域名 1人当たり
GDP(ドル)
2021年
1人当たりGDPの年平均成長率
2002~2011年 2012~2021年 2002~2021年
世界 12,263 6.6% 1.4% 4.0%
エジプト 3,876 8.9% 1.8% 6.1%
アンゴラ 2,138 17.9% △8.1% 4.6%
ナイジェリア 2,085 12.9% △2.6% 5.3%
ケニア 2,007 10.8% 4.7% 8.5%
タンザニア 1,136 6.6% 2.7% 5.2%
エチオピア 944 12.2% 7.3% 11.3%
ウガンダ 858 13.0% 0.8% 6.5%
スーダン 764 14.3% △7.9% 2.0%
ニジェール 595 8.4% 1.2% 4.9%
コンゴ民主共和国 584 8.3% 3.2% 6.2%

出所:世界銀行からジェトロ作成

アフリカはハイリスク・ハイリターンの市場

しかしながら、現状を見れば、これら10カ国は必ずしも政治的・経済的、そして治安情勢から言っても安定した国ばかりではない。テロや内戦、制裁といった厳しい状況にある国も多く、日本企業の拠点数が100社を超えるケニアを除き、日本企業や多国籍企業の進出はとても少ない。

ナイジェリアは、イスラム過激派勢力ボコハラムの活動の活発化により、日本企業も北部には出張すらできない状況で、ニジェールも、ほぼ同様のセキュリティー状況だ。コンゴ民主共和国も、東部でのテロが活発化している。ケニアも、2019年1月には首都ナイロビでイスラム過激派勢力アル・シャバーブによるテロがあった。エチオピアは、2022年11月に停戦合意に至ったものの、いまだ北部における内戦の火種はくすぶっている。スーダンは、2021年10月にクーデターにより民政移管プロセスが停止し、経済制裁下にありビジネスは容易ではない。

悪いのは治安状況に限らず、ビジネス環境も厳しい。世界銀行の2020年のビジネス環境ランキングでは、世界190カ国中、ケニア(56位)を除きすべて100位以下に位置している(表2参照)。これらの国々でのビジネスはまさに「ハイリスク・ハイリターン」で、売り上げは伸びても、日々の悩みの種は尽きない。しかも、急速な人口増加は、都市の拡大や、電力や水、学校、病院などのインフラ不足など、既にある問題を一層深刻にし、ビジネス環境はさらに悪くなる可能性もある。人口増加のペースを上回る経済成長を達成できなければ、雇用も創出できず失業率も悪化、貧困層の比率が増えてしまうことすらありえる。

表2:主要国の基礎データ(-は値なし)
国名 主な産業 公用語 ビジネス環境総合順位 失業率
(%)
若年層
失業率(%)
電化率
(%)
都市人口率
(%)
識字率
(%)
ネット普及率
(%)
工業化指数
(注)
アンゴラ 石油、ダイヤモンド、農業 ポルトガル語など 177 9.6 17.3 46.9 67 77 36 0.4865
コンゴ民主共和国 農林水産業、鉱業(銅、コバルト) フランス語など 183 1.5 1.7 19.1 46 85 14 0.5646
エジプト 製造業、小売り・卸、農林水産 アラビア語 114 7.9 17.3 100 43 88 72 0.7877
エチオピア 農業、花卉(かき)、皮革 アムハラ語など 159 3.9 6.4 51.1 22 73 24 0.5242
ケニア 農業(コーヒー、茶、園芸作物) スワヒリ語、英語 56 5.0 12.9 71.4 28 88 30 0.6029
ニジェール 農牧業、鉱業(ウラン) フランス語など 132 7.8 16.6 19.3 17 43 10 0.4606
ナイジェリア 農業、原油、天然ガス、通信 英語など 131 8.4 13.8 55.4 53 75 36 0.6046
スーダン 鉱業、農林水産業 アラビア語 171 N/A N/A 55.4 36 73 28 0.4522
タンザニア 農林水産業、鉱業・製造・建設 スワヒリ語、英語 141 2.8 3.9 39.9 36 86 22 0.5389
ウガンダ 農林水産業、製造・建設 スワヒリ語、英語など 116 3.6 5.8 42.1 26 89 20 0.5418
データ出所 世銀 ILO ILO 世銀 世銀 世銀 世銀 AfDB

注:製造業の業績、資本、労働力、ビジネス環境などの指標を基に各国の工業化の進展を指標化したもの。
出所:世界銀行、ILO(国際労働機関)、AfDB(アフリカ開発銀行)

カローラもレクサスも売れる

では、このような難しい国々に日本企業はどのように向き合っていくべきだろうか。

第1に、広大な国土を最初からすべてカバーしようとせず、主要な都市を初期のターゲットとしていくべきだ。国連の都市人口予測によると、アフリカの主要都市の人口は2035年には世界でも有数の都市となる。エジプトのカイロは2,900万人(世界5位)、コンゴ民主共和国のキンシャサは2,700万人(7位)、ナイジェリアのラゴスは2,400万人(11位)、そしてアンゴラのルアンダは1,400万人(27位)となることが予測されている(図2参照)。これらの都市は、1都市で、アフリカの小国複数を上回る人口、そして経済規模を有することとなる。ビジネスの規模としても十分な規模だ。ナイジェリアの北部や、コンゴ民主共和国の東部など、危険な地域に渡航する必要もない。

第2に、比較的、外国企業の進出の多いナイジェリア、エジプト、ケニアをまず優先して開拓を進めていくべきだ。そして、タイミングを見定めつつ、ナイジェリアからニジェールへ、エジプトからスーダンへ、ケニアからタンザニア、ウガンダへと広げていく。アンゴラ、エチオピア、コンゴ民主共和国はこれらのゲートウェイとなる国々との連結性は必ずしも高くないが、例えばアンゴラとコンゴ民主共和国南部のルブンバシは距離も近く、モノの流れも多い。また、2022年3月にはコンゴ民主共和国が東アフリカ共同体(EAC)に加盟した。現状では、東部でのテロなどあり、東からのアプローチは不可能であるが、将来的にはそれも可能性がある。その後は、自社の体力を見定めつつ、カバー範囲を広げていけばよい。ただし、今は競争の少ないコンゴ民主共和国においても、「部屋にいる象」を認識した外国企業が参入し、競争が激化していく可能性は否めない。できるだけ早めにアプローチを始めたいところだ。

第3に、各国のどの所得階層に対して、どのようにモノを売っていくのか、よく戦略を練ることだ。先日、日本の(自動車ではない)業界団体から「例えば、自動車でいうところのカローラを売ってももうからない。日本企業はレクサスを売ることにしか関心がない」という話を聞く機会があった。筆者は、アフリカ市場は適切な戦略をもってすれば、レクサスもカローラも売れる市場だと考えている。

アフリカ諸国では、経済成長によって、ポルシェに乗り、シャンパンを飲む高所得者層の数は増加している。こうした高所得者層は欧米で留学や就労経験があり、日本食への憧れを持つ層は十分に日本企業の商売のターゲットになりうる。また、低所得者層に対しては、モバイルマネーを活用した割賦販売など、新たなビジネス手法がアフリカで急速に進化しており、これまでビジネスにならないと言われてきた貧困層がビジネスの対象になりつつある。低所得者層向けのビジネスにたけたスタートアップ企業との連携により、価格が高いと言われる日本企業にとっても市場開拓の可能性が開けてくる。これらと比べ、やや難しいのが中間層だ。中間層は、欧米のブランドへの憧れが強く、日本ブランドのことはあまり知らない。Eコマースを頻繁に活用し、品質よりも価格に厳しい。中間層を相手にしていくには、商品開発のフェーズで、機能を絞ったアフリカ向けのモデルを開発するなどのひと工夫が必要となる。それぞれの所得階層に合った商品、価格、ブランド戦略を検討することによって、アフリカでレクサスもカローラも売ってもうけることができる。

図2:アフリカの主要都市の人口推移
アフリカ最大都市はエジプトのカイロで今の2,000万人余りから2035年には2,850万人を超える見込み。続くキンシャサ、ラゴスも2,000万人都市として人口は急速に拡大していくことが予測されている。

出所:国連都市人口予測2018年版からジェトロ作成

サプライチェーンにビジネスチャンスあり

日本企業の多くは、アジアの成功体験がそのままアフリカで通用すると考えているが、それは必ずしも正解ではない。アフリカは様々な要因から、農業の生産性が低く、食料を自給できず輸入に頼っている。食料自給率向上は各国の悲願だが、実際には人口増加により食料の輸入は一層増えてしまっているのが実情だ。ゆえに、人件費がアジアと比べ高く、安い人件費を活用して安く作り、安く販売するというビジネスモデルはアフリカでは難しい。

しかしながら、人口増加により、食料や消費財などの市場は大きく拡大していく。短期間で目覚ましい成長を遂げたナイジェリアのダンゴテ・グループなど多くの企業は、セメントや砂糖など人口増加により拡大するニーズをとらえ、そのサプライチェーンをアフリカで構築することで成功を収めている。日本の強い食品加工や包装技術、工作機械などの分野で、こうした地場企業のサプライチェーン構築を支援できれば大きなビジネスチャンスとなる。そして、アフリカの経済成長にも貢献することができる。アフリカの人口増加を世界の成長につなげていくためにも、ビジネスを通じた日本企業の貢献が求められている。


変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2022年12月19日)
第5段落
(誤)1人当たりGDPは2,000ドル程度だが、この20年間で年平均10%以上のペースで伸びている(表1参照)。
(正)1人当たりGDPは2,000ドル程度だが、この20年間で年平均5%以上のペースで伸びている(表1参照)。
表1
1人当たりGDPの年平均成長率の数値に誤りがありましたので、訂正いたしました。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課長
佐藤 丈治(さとう じょうじ)
2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ロンドン事務所、展示事業部を経て、2020年4月から現職。