日本ビデオシステム、日EU・EPAを活用しつつ、攻めの営業で欧州販路拡大

2022年6月9日

日本ビデオシステム(本社:愛知県愛西市)は、放送機器などの開発・製造・販売を行っている。従業員は約30人の中小企業だが、世界各国に製品を販売しており、2018年ごろから本格的に欧州への販路開拓に取り組み始め、現在では海外の売上高で欧州が最も多い地域となっている。欧州事業ならびに日EU経済連携協定(EPA)の利用状況について、同社の海外営業担当の熊谷涼子氏に聞いた(取材日:2022年3月28日)。

同社の主力製品は生中継などを支える放送用カメラの周辺機器で、顧客はテレビ局、映像制作会社、メーカーなど、全世界に需要がある。輸出は2011年ごろから本格的に開始し、当初は、東南アジア、韓国などが多かったが、国内外の展示会に出展するにつれて、世界中に取引先を増やしている。同社は放送業界に特化しており、テレビ放送がある限り存続できる分野であり、海外には国営放送もあることから、新型コロナ下でも大きな影響は受けず、今後も事業は拡大すると見込んでいる。

2018年から本格的に欧州へ販売

欧州では、オランダ、ドイツ、英国が主な輸出先で、光伝送装置、小型の業務用モニター、各社カメラ用リモコンなどの製品を輸出している。欧州への販路拡大のきっかけは、元々、社内で使用していた製品を販売したいという話になったため。有機EUパネルが品薄になるにつれ、日本製の有機ELパネルに対する付加価値が高まっており、ニーズがあると考えられた欧州の企業にコンタクトを取った。その結果、契約に至り、欧州への出荷につながった。これを機に、2018年ごろから、欧州への輸出を本格的に行っていこうという方針になった。

ただ、同社では、これまでアジアや米国への輸出経験はあったものの、物理的にも遠い欧州とはビジネス上の直接の接点はなかった。そのため、海外の展示会に参加し、同社のブランド名を周知するなど、草の根の営業活動を通じて、エンドユーザーとの直接の関係を少しずつ築いた。また、輸出の実務に関しては、ジェトロの貿易投資相談サービスを活用したほか、欧州への輸出開始に向けて、国内の同業メーカーからもアドバイスを受けた。輸出に当たっての不明点や原産地証明手続き、決済方法など、取引上のプロセスを確認しながら、地道に進めてきたという。


欧州向けに輸出しているカメラビューファインダー(日本ビデオシステム提供)

これまで、熊谷氏が中心となり海外営業を担ってきたが、最近では社内体制も整ってきており、2022年4月から海外事業部に営業担当が2人加わった。今後、さらに輸出を増やしていきたいと意気込む。また、製品開発においても、日本国内用だけでなく、輸出を意識して、同じ製品でも海外仕様の製品を開発して、販売する戦略をとっている。同社の海外モデルの売り上げのほとんどは海外メーカーのOEM製品だ。また、ここ数年の米中貿易摩擦などを受けて、取引先を中国から切り替えて、日本から輸入したいという声が増えているという。米国のほか、ドイツとオランダの企業からも、中国メーカーから切り替えたいという連絡を受け、日本製品への品質の信頼もまだ残っていることもあり、ここ3年ほど継続的に取引している。

取引先のメリットとして日EU・EPAの利用をアピール

同社では、新規の製品を開発するには構想、設計、試作、製品化、商談できるまでに約1年かかるが、契約につながれば実は大きい。例えば、製品単価はカメラに装着する液晶で1,500ドルくらいだが、注文のロットが大きいと価格も下げられる。海外への販売に当たっては、為替を考慮しなければならないので、価格設定がポイントとなる。特に最近の円安には大きな影響を受けており、同社を含め、輸出を行っている企業にとって、取引条件に特に配慮が必要な状況だ。また、輸入者側は付加価値税(VAT)や為替レートを考慮するため、見積もりの際には、相手にとって魅力的な価格設定を行わなければならない。そこでポイントになるのがEPAや自由貿易協定(FTA)で、取引先に対して日本から輸入の際、日EU・EPAなどを利用することによって関税削減のメリットがある場合は、必ず伝えるようにしている。熊谷氏は「商談において、EPAは取引上、エッセンシャルなもの」と語る。


展示会出展の様子(日本ビデオシステム提供)

元々、同社の放送機器や電子機器(85類)はMFN(最恵国待遇)で関税ゼロの場合も多いが、一部では関税率がMFN税率で1.3%~14%の製品もある。出荷する側の責任として、相手国側の関税率を事前に確認しているほか、情報漏れがないように相手国の税関に問い合わせを行うこともある。特にエンドユーザーの場合は、FTAに関する知識がない場合もあるので、輸出側で可能な限り対応するよう取り組んでいる。日EU、日英EPAに関しては自己申告制度のため、原産地に関する申告文をインボイスに記載しているが、「ビューファインダー」だと関税ゼロでも、「モニター」だと関税がかかる場合があるので、インボイスへの正しい記載方法に注意を払っている。また、原産地証明の根拠資料として必要な計算書などは、すべて社内でそろえている。名古屋商工会議所が近くにあり、よく相談して原産地証明の作成を支援してもらっている。

また、一部を英国にも輸出しているため、英国のEU離脱に伴い、日英EPAが発効した際には、社内で変更点を確認し、英国の取引先とも事前にすり合わせを行い、輸出申告書類への変更点などを反映させ、特に大きな問題もなく、比較的スムーズに対応できたという。

中小企業の輸出ノウハウ共有の場が必要

熊谷氏は「海外は守りの営業だと売れない。攻めの営業を、特に欧州に関して行っている」と話す。特に日本では輸入も行っているため、買い手の気持ちも分かる。例えば、かつてオランダの企業との商談の際のプレゼン資料にはVAT、関税率、日EU・EPAの情報を入れて、メリットを説明し、かつ価格だけでなく製品の良さをアピールしたことで、中国企業からの切り替えに成功した。

また、海外での商談は即決が重要であり、持ち帰って検討せずに、その場で価格決定を行えるよう社内の権限を得ている。そのため、為替や各国の法規制、VATの取り扱いなどの情報収集は欠かせないが、中小企業が海外営業や輸出を行う場合、情報リーチが狭いことが課題だという。名古屋税関などの情報をいつもチェックしているほか、放送機器メーカーやバッテリーメーカーの団体にも所属し、横のつながりを通じて、主に情報収集をしている。ただ、一企業では限界もあるため、輸出を行っている中小企業の意見交換のプラットフォームなどがあれば活用したいと考えている。「大手EC(電子商取引)サイトの出展料は高く、参画するには敷居が高いが、中小企業同士が輸出のノウハウを共有できる場があるとよい」と熊谷氏は述べた。

さらに、最近の供給制約などの影響について、国内メーカーはどこも半導体不足で苦戦している状況だと指摘。同社の伝送装置の部品として1台で数十から5,000種類以上の部品を揃える必要があり、1つでも使用する部品が調達できないと作れない。熊谷氏は「同社では、長期的に販売製品を製造できるよう在庫もあり、部品供給のルートも確保しているが、他の多くのメーカーは製造ができない状況となっている」と懸念を示した。

今後の海外事業の展望としては、新型コロナ感染拡大もようやく収まってきたため、2022年は米国、欧州などを中心に、海外出張や展示会出展を再開する。11月にはオランダの放送機器やシネマ機器の展示会「IBC」に参加する予定だ。また、費用対効果のある展示会での出展は、今後も継続していく。展示会は新製品やシステムの提案をする場として重要であり、特にIBCは欧州各国から多くの参加者が集まる。最近は、アジア、アラブ首長国連邦(UAE)からの引き合いも増えており、同社は、今後も「攻めの営業」で積極的に海外の販路拡大に向けて取り組んでいく計画だ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
土屋 朋美(つちや ともみ)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ・ブリュッセル事務所、ビジネス展開・人材支援部などを経て2020年7月から現職。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。