グリーン経済を基調に産業振興(インド)
GJ州産業の方向性(前編)

2022年8月10日

グジャラート(GJ)州都ガンディナガールで隔年開催される「バイブラント・グジャラート」(以下「VG」)は、インド最大級の国際投資誘致イベントと位置付けられている。2022年1月には第10回となる「VG2022」の開催が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大第3波の影響を受け、会期数日前に延期が決定された。同イベントの準備段階で、ジェトロが入手していた「州政府が作成した広報パンフレットや説明資料」などから、同イベントでGJ州が対外発信を予定していた州産業政策の方向性や、注目の産業分野、プロジェクトなどについて概観してみる。


「VG2022」の事前広報ウェビナー(ジェトロ共催)でGJ州政府が配布した資料

1.指標でみるグジャラート州の実力

GJ州作成資料によると、州内総生産は、2015/2016年度(2015年4月~2016年3月)から2020/2021年度までの期間に年率10%程度で成長しており、2020/2021年度は2,210億ドル規模だ。同州は「インド工業生産高の17.4%」(2018/2019年度)を占め、「州内総生産に占める製造業の割合は36%」(2019/2020年度)である。また、GJ州からの輸出は「インドの総輸出額の21%」(2020/2021年度)を占めるなど、「メーク・イン・インディア(Make in India)」の牽引役を自任するインドの製造拠点である。

また同州は、「ロジスティクス品質」(2021年11月11日付ビジネス短信参照)や「スタートアップ・ランキング」などのカテゴリーでも外部機関からの高評価を度々受けており(2022年7月20日付地域・分析レポート参照)、整備が進む「アーメダバード-ムンバイ高速鉄道」や「デリー-ムンバイ貨物専用鉄道」など鉄道網の重要な結節点でもある。道路、電気・ガス、水、港湾など、産業インフラ品質の高さは既に定評があり、混雑するジャワハルラール・ネルー・ポート・トラスト(JNPT)(注1)の代替として、GJ州のムンドラ、ピパバブ、ハジラといった新興港湾の整備も進んでいる(2022年6月15日付ビジネス短信参照)。同州は「インド全体の40.5%のコンテナ」を取り扱い、約210カ国に向けて輸出している(2019/2020年度)。

一方、「都市の生活しやすさランキング2020」の大都市カテゴリーにおいても、アーメダバード(3位)、スーラット(5位)、バドーダラ(8位)などのGJ州の主要都市が高位にランクインするなど、生活面でも高い評価を受けている。以上から、GJ州の投資環境のポテンシャルの高さはインド屈指だといえる。新型コロナ禍で経済活動が停滞した2020年度においても、同州の「外国直接投資受け入れ額は219億ドル(インド1位)、対前年度比で262%の伸び」とされている。

図:グジャラート州に投資すべき7つの理由
グジャラート州は、先導的な州産業政策、産業インフラの品質の高さ、生活しやすさ等、同州に投資すべき7つの理由がアイコンで図示されている。

出所:「VG2022」の事前広報ウェビナー(ジェトロ共催)でGJ州が配布した資料

2.GJ州政府が注目する「テーマ」と「有望産業分野」

GJ州政府がジェトロと共催し、「VG2022」に先駆けて実施したウェビナー(2021年11月25日付ビジネス短信参照)の資料によると、VGを契機に新規投資を受け入れたい「有望な産業分野」として、特にフォーカスされていたテーマは、(1)グリーンモビリティ、(2)エネルギー自給のためのクリーンエネルギー、(3)自然農業、(4)持続可能なインフラ、(5)気候変動緩和のための様々な取り組み、(6)ブルーエコノミー、(7)TECHADE(注2)イノベーションとテクノロジー、(8)「メーク・イン・グジャラート・フォー・ワールド(Make in Gujarat for world)」(ローカルからグローバルへ)の各分野だ。

近年、カーボン・ニュートラルに向けた取り組みの加速が世界の趨勢(すうせい)となり、モディ首相も、2021年11月の「COP26」(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議) において「2070年までの温室効果ガス排出量ゼロ」を宣言している(2021年11月5日付ビジネス短信参照)。このため、インドの一大製造拠点であるGJ州政府では、様々な場面において同目標への貢献を意識した取り組みや情報発信が多くみられるようになってきている(2022年5月20日付ビジネス短信参照)。前述したグリーンモビリティ、エネルギー自給のためのクリーンエネルギー、気候変動緩和のための様々な取り組み、の各テーマにおいて、インドの先進州たらんとする州政府のメッセージを読み取ることができる。これらの分野に技術力を持つ日系企業にとっては、ビジネスチャンスといえるだろう。

また、別途、ジェトロが州政府から入手した「産業別の説明資料」によると、優先順位が特に高く、新規投資の誘致に積極的な産業分野として、(a)自動車・関連部品産業、(b)再生可能エネルギー、(c)農業・食品加工、(d)製薬・医療機器、(e)ヘルスケア、(f)石油化学・化学、(g)航空・軍事産業、の「7つの産業分野」が位置づけられていたもようだ。 GJ州政府にとって先述した(8)の「メーク・イン・グジャラート・フォー・ワールド」の観点から(a)自動車・関連部品産業は引き続き最重要産業分野の柱である。日系企業にとっても、GJ州は「自動車のハブとして重要な州」として着実に発展していくのは間違いないだろう。同州資料によると、南北の幹線輸送路の結節点に位置し、複数の港湾施設が整備され輸出拠点としても有望であり、州政府が開発した各地の工業団地区画も現時点では余裕があり、マンダル日本専用工業団地も設定されている(マンダル日本企業専用工業団地参照)。さらに、製造業を支える裾野産業クラスターも広く存在しているという。

さらに、最近の動きとして、2022年3月に岸田文雄首相が訪印した際に、スズキがGJ州で新たに電気自動車(EV)やEV用バッテリーの現地生産、車両解体・リサイクル工場の建設を行うことを発表し、州政府との間で約1,500億円規模の投資に係るMoU(覚書)が締結された(2022年3月22日付ビジネス短信参照)。今後は、EV関連製品・充電インフラ整備といった新たな方面への投資が着実に進むであろう。同分野では、州政府は独自の「EV奨励策」を導入して「EVハブを目指す意向」を表明している(2021年6月29日付ビジネス短信参照)。今後も、GJ州は「自動車クラスター」として、より一層の高度化を目指すことが確実視されており、注視が必要だ。


注1:
インド西部マハーラーシュトラ(MH)州ムンバイ近郊のジャワハルラール・ネルー港の運営会社。
注2:
テクノロジー(technology)とディケイド(decade)の合成語で、「テクノロジーの影響力を受けた10年」の意味。今後10年間程度の間に多くのセクターで起こるテクノロジー革新由来の変化を象徴した造語。モディ首相は、データと人口ボーナスがインドの確かな技術力と相まって、インドに大きなチャンスをもたらすとし、この10年間が「インドの技術時代」になる、と述べている。

GJ州産業の方向性

  1. グリーン経済を基調に産業振興(インド)
  2. 新エネ、医療、特区、SUなどを重視(インド)
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。