プラチナ万年筆、CPTPPとEPA活用で海外市場での競争力強化(カナダ、日本、ベトナム)

2022年4月25日

2019年に創業100年を迎えたプラチナ万年筆(本社:東京都台東区)は、万年筆を中心に、さまざまな筆記具を製造・販売している。代表的な商品である万年筆の「#3776センチュリー」は、約2年間もインクの乾燥を防ぐ高気密のスリップシール機構を組み込んでおり、使用頻度が低い利用者でも、毎回フレッシュなインクの状態で筆記できる。また、同社は創業当初から海外展開に積極的だ。現在は環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)と、経済連携協定(EPA)を活用しつつ、販路開拓を続けている。ジェトロは、同社海外事業課の安保裕氏と嘉指幸子氏に、CPTPPとEPAの活用状況やそのメリットについて話を聞いた(3月17日)。


プラチナ万年筆が輸出している万年筆(同社提供)
質問:
貴社の事業内容と海外展開について。
答え:
プラチナ万年筆は、国内市場では主に多機能ペンやシャープペン、海外市場では万年筆と、それに付随して万年筆インクを販売している。海外市場に関して、中国が最も大きい市場だが、中国だけでなく欧州やアジア、北米、南米など世界30カ国以上に販売網を有している。売上比率は国内市場のほうが高い一方、海外市場も重視しており、国内外どちらにおいても販路の拡大を図っている。

関税の減免など通じた競争力の向上

質問:
FTA(自由貿易協定)の利用状況とメリットは。
答え:
カナダ向けの輸出でCPTPPを活用している。プラチナ万年筆は、この協定が発効した2018年12月30日以前から社内で準備を進め、2019年1月の出荷分から同協定の活用を開始した。また、ベトナム向けの輸出では、日ベトナムEPAを活用し、同国への輸出促進を図っている。CPTPPと日ベトナムEPAを活用する最大のメリットは、関税の減免効果の大きさにある。万年筆を輸出する場合、通常、カナダでは7%、ベトナムでは25%の関税が課されるが、各協定を活用することで、これをゼロにすることができる。わが社は、原産地証明作業にかかる工数や関税の減免効果を考慮し、当該2カ国に焦点を当ててCPTPPとEPAを活用することに決めた。両国の販売代理店からも強い要望が寄せられていたので、これが活用を検討するきっかけになった。
CPTPPを活用したことで、カナダ向けの輸出に関税が課されなくなり、競争の激しい大衆向けの万年筆市場に参入し、同国の大手書店チェーンに製品を取り扱ってもらう上での大きなアドバンテージになった。また、関税コストが削減された分、販売価格を抑制して広告宣伝活動を強化できるようになった。同様に、ベトナムでも高い減免率が競争力の向上につながり、「プラチナ万年筆」ブランドは着実に認知されるようになってきた。
質問:
貴社のFTA利用の体制は。
答え:
CPTPPと日ベトナムEPAを活用するに当たり、わが社は海外事業と生産の担当部署から数人ずつメンバーを募り、副社長をトップとする社内チームを立ち上げた。各自が経済産業省の関連サイトや財務省関税局の原産地規則ポータル、フェデックス・トレード・ネットワークスが提供している関税率情報データベース「ワールド・タリフ」などを参照し、持ち回りで社外勉強会にも参加しながら、知識を深めていった。持ち回り制を採用したのは、メンバー間で知識量の偏りを回避し、全員のモチベーションを高めるためだ。また、万年筆は多数の部品で構成されているため、各部品のHSコードを確認するのに時間を要したが、輸出業務に携わった経験のないメンバーも含めチーム一丸となって取り組みを進めた。
質問:
FTA利用過程で発生した問題は。
答え:
CPTPPと日ベトナムEPAを活用し始めて以降、オペレーション上の問題は発生していない。原産地の証明に必要な自己申告書類の作成については、当初は慣れていないために苦労したこともあったが、最近は円滑に処理できるようになってきた。
質問:
ウクライナ情勢による影響は。
答え:
プラチナ万年筆は、ロシアやウクライナ向けの直接輸出を行っていないため、影響は受けていない。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
片岡 一生(かたおか かずいき)
経営コンサルティング会社、監査法人、在外公館などでの勤務を経て、2022年1月から現職。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。