100カ国以上に輸出するダイシン、チリとインドネシア向け輸出にEPA利用

2022年4月1日

株式会社ダイシン(本社:岐阜県、ダイシン)は、1971年の創業以降、発電機、エンジンポンプ、草刈機など、多様な動力原付き作業機の製造販売を行っている。最近では、世界初となる大型インバーター(20キロ)を独自に設計し、製造に成功。独自の技術により、省エネを実現。海外ビジネスも積極的に行う同社は、1995年に韓国に現地法人を設立、その後、中国の大連、上海などにも拠点を設け、現在は、自社の”HG” HARDGEARブランド製品を中心に、世界100カ国以上に輸出している。取締役営業部部長の坂井田政景氏に聞いた(取材日2022年3月10日)。

質問:
貴社の事業内容、海外ビジネスは。
答え:
自社製品かつ自社のブランドである”HG” HARDGEAR製品を中心に、世界100カ国以上に輸出している(注1)。主力輸出製品は、エンジンポンプ、発電機、芝刈機などで、中南米向けには、チリ、グアテマラ、パナマ、ウルグアイ、ボリビアに、エンジンポンプを輸出している。このエンジンポンプは、他社のエンジンに自社のポンプをアセンブルしたもの。輸出先での用途は建機、農機、産業用機械などだが、中南米向けでは農機に組み込まれて使用されることが多いと承知している。以前は、広大な自社の敷地内ですべての製品製造を行っていたが、現在は中国の工場で製造する製品も多く、輸出も中国工場から直接輸出する製品も多い。
質問:
FTAの利用状況、利用のきっかけは。
答え:
日本からの輸出では、チリおよびインドネシア向け輸出でEPA(経済連携協定)を利用している。チリ向け輸出には日・チリEPAを利用。10年以上前から、当該EPAを利用してチリに輸出している(注2)。利用のきっかけは輸入者からの要望があったため。なお、チリ向け輸出では、チリのお客様から求められる製品の製造を中国の工場に移管しているものも多く、中国からの輸出では中国・チリ自由貿易協定(FTA)を活用している(注3)。インドネシア向け輸出も同様に、中国からの輸出では中国・ASEAN自由貿易協定(FTA)を活用している。
質問:
FTA/EPAのメリット、期待や課題は。
答え:
メリットは関税削減。FTA利用を検討するにあたっては、ジェトロのウェブサイトから閲覧したWorld Tariffで関税率を調べるなどしている。なお、チリ向け輸出に際し、2020年3月から電子化された原産地証明書の提出が認められるようになった件については、PDFファイルでの提出が認められることで、より早く(原産地証明書の)提出ができるので助かっている(注4)。なお、弊社はアセンブル製品の輸出が多く、また製品価格の6~7割を占めるエンジンが他社かつ外国産の製品のため、付加価値基準を用いた原産地規則を満たすことが難しい、といった一面があり、関税分類変更基準を用いることが多い。
質問:
貴社におけるFTA利用の体制は?
答え:
FTA専任の人を置いているわけではない。担当者が、他の業務と兼任しながらFTA関連業務も行っている。社内にスペイン語人材もおり、中南米のインポーターとスペイン語でやり取りも可能である。
質問:
新型コロナ感染拡大やウクライナ情勢による影響は?
答え:
世界100カ国以上に輸出しているため、新型コロナ感染拡大の影響でサプライチェーンが寸断されたことによる影響があった。顧客からの引き合いが増えても、アセンブルするための製品が届かず供給できないといった問題があった。ウクライナ情勢に関しては、物流の停滞、物流の寸断を懸念しており、日々情勢をウォッチしている。

注1:
ダイシンの売上高および販売台数は、自社ブランドのものが全体の55%、OEMによるものが45%ほどを占めている。
注2:
日・チリ経済連携協定(EPA)は、貿易および投資の自由化および円滑化、知的財産、競争、ビジネス環境整備を含む協力について2国間で締約した協定。2007年9月3日に発効。詳細は日本・チリ経済連携協定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注3:
チリと中国の間では2019年3月、既存のFTAに、物品貿易、サービス貿易、電子商取引、原産地規制、通関手続きおよび貿易円滑化、経済および技術的協力、貿易規制の7つの章を追加した深化協定が発効している。物品貿易の章では、輸出入ともに関税撤廃品目が追加され、原産地規則の章では、内容が大幅に改善されるなど両国間の貿易円滑化に資する内容となっている(2019年3月20日付ビジネス短信参照)。
注4:
チリ税関庁決議1179号により、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、2020年3月20日から原産地証明書のPDFファイルでの提出も認められるようになった。なお、輸入通関後30日以内の原本の提出が求められている。
詳細は(ご参考)各国の原産地証明書の受入れ柔軟化措置について(日本商工会議所)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(638.77KB)日本・チリ経済連携協定参照。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課 課長代理(中南米)
辻本 希世(つじもと きよ)
2006年、ジェトロ入構。ジェトロ北九州、ジェトロ・サンパウロ事務所などを経て、2019年7月から現職。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。