郊外工業団地周辺に居住(インド)
アーメダバード地域の生活実態(1)
2022年8月30日
グジャラート(GJ)州は、インド有数の「ものづくり州」であり工業生産の要だ。かつてモディ首相はGJ州首相を勤め、州内の産業インフラ品質を高めることにより外国直接投資を呼び込み、同州の経済発展を強力に推し進めてきた。電力供給が安定しており、道路品質も良く、「物流品質No.1」の称号も得ている。近年では、国際金融特区として整備が進む「GIFTシティー」(2022年7月11日付および7月20日付地域・分析レポート参照)や、スタートアップ・エコシステム構築の動きも注目を集めている(2022年7月20日付地域・分析レポート参照)。これらを背景に、新型コロナウイルス禍で経済活動が停滞した2020/2021年度(2020年4月~2021年3月)でも、同州の「外国直接投資受け入れ額は219億ドル(インド第1位)、対前年度比で262%の伸び」といわれ、総合的なGJ州の投資環境のポテンシャルの高さはインド屈指といえる。
一般的に、日系企業が海外進出する際のFS調査(注)においては、産業インフラの諸条件の良しあしや、調達ネットワークにおける位置づけ、国内外市場へのアクセスなど諸側面からの評価が重要ポイントとなろう。一方、忘れてはいけない重要ポイントとして「駐在員の生活環境」のアセスメントがある。企業にとって、現地に送り込む駐在員は貴重な人材資源であり、彼らの健康管理や安全対策は最優先すべき最重要課題といえる。特にGJ州の場合、「菜食主義」かつ「禁酒」の伝統を守る文化、という独特の事情もある。当地駐在員の住環境や食生活を中心に、現場視点から見た駐在員の生活実態についてレポートする。
1.駐在員の大半はアーメダバード市内から1時間半~2時間の距離に居住
過去2年間は新型コロナ感染症の影響による変動があったが、現状で把握できるGJ州日系企業数は57社(2022年5月時点、アーメダバード日本人会調べ)となっている。上述したとおり、GJ州は大きなポテンシャルを有するインド西部の製造拠点として、既に確固たる地位を築いている。しかし、同州を日系企業の進出拠点として見た場合、首都ニューデリー、ムンバイやチェンナイといった、インド南北の他拠点と比較すると、まだまだ小規模な集積地にとどまっており、今後のさらなる日系企業の進出が期待されている。
GJ州内の主要都市のうち、日系企業が最も多く進出しているのが、アーメダバード市周辺地域(市外)である。スズキ・モーター・グジャラート(SMG)や、ホンダ・モーターサイクル・アンド・スクーター・インディア(HMSI)が工場を構える「マンダル―ベチャラジ特別投資地域(SIR)」周辺(1.09MB)が最大の集積地であり、ジェトロと州政府が後押しする「マンダル日本専用工業団地」(注2)や、現地資本の民間工業団地などに展開している。ここはアーメダバード市内から、西北西に陸路で1時間半から2時間程度の距離にあるエリアだ。そのため、駐在員の多くはアーメダバード市内ではなく、この地域周辺に居住していることが多い。
2.「マンダル―ベチャラジ地域」の居住環境
同地域には、「ミカド(MIKADO)」「ル・トーキョー(LeTokyo)」「オーサカ(Osaka)」「ミズキ・リョカン(Mizuki Ryokan)」「フジ・リョカン(Fuji Rryokan)」などの日本語由来の名称を持つ小規模な地場ホテルが多数集積しており、駐在員や長期出張者が滞在している。これらホテルの中には、デリー近郊において日本人客相手のホテルビジネスでノウハウを得て、当地で横展開したところもあり、日本料理や韓国料理を出すレストランを併設しているため、3食日本食の提供が可能だ。部屋には長期滞在を前提に、電子レンジや冷蔵庫が備わっており、広さは30平方メートル程度が標準的だ。インドのホテルにはシャワーのみという部屋が多いが、風呂好きの日本人のためにバスタブが設置され、日本のテレビ(TV)番組の視聴が可能。中には、運動不足解消のための小規模なトレーニングジムも設置されているところもある。
また、この地域のアパート物件を1棟、あるいはフロアを借り上げて社員寮として改装している会社もある。各社で仕様は異なるが一例を挙げると、1部屋に複数間があり、日本のTV番組が視聴できる共用のアメニティ・ホール、停電時の自家発電機を装備、インターネットの専用回線が敷設されるなど、サービス・アパートに近い仕様になっている。さらに、料理人が常駐し、3食日本食の提供が可能である。また、近隣の日本食レストランと契約して、料理人を派遣してもらう社員寮のケースもある。この地域での社員寮の建設に関する諸事情については、2018年4月に開設されたクマガイインディアの社員寮についてのレポートを参考いただきたい。同社では「初めての海外駐在者でも安心、安全、安定した生活環境を享受できる社員寮」というコンセプトを掲げ、過酷な環境下で働く社員を守るため、設計段階から運営に至るまで様々な工夫を凝らしている(2019年12月26日付地域・分析レポート参照)。
3.アーメダバード市内の居住環境
一方、市内から西方に40分程度の距離には、日系企業のもう1つの集積地である「サナンド2工業団地」が立地している。同工業団地に通う駐在員は、アーメダバード市内からの通勤が可能なので、市内のアパートやホテルに長期滞在している場合が多い。市内に居住する場合は、日本人対応ができる不動産仲介業者を通すのが、手続き、交渉面で便利ではあるが、仲介料も発生する。また、駐在員が最低限の生活を送るのに適した物件は限られているため、ワン49(One49)、78ゴクルダム(78@Gokuldham)、ゾディアック・アスター(Zodiac Aster)といった、駐在員の間ではよく知られている物件に人気が集中しがちである。広さは物件により異なるが、間取りは2~3BHK(ベッド・ホール・キッチン)が主流で、共用のプールや小規模なトレーニングジムも備えられている。 もちろん不動産仲介業者を使わず、各社のインド人総務担当などを介して物件を探すことも可能である。この場合、物件ごとにオーナーが異なるため、直接交渉による契約となる。
アーメダバード市内アパートの室内の一例(ジェトロ撮影)
他方、市内ホテルでの長期滞在の場合には、市西部の新市街にハイアット、マリオット、ヒルトン、クラウンプラザ、ノボテル、ウィンダムなどといったチェーンホテルが複数ある。しかし、これらの中で、長期滞在者向けに「最低限の料理が可能なキッチン」がある部屋が確認できたのはノボテルとウィンダムのみ、これに加え「バスタブ」も備えた部屋があるのはノボテルだけだ。当地では特に市内生活の場合、気軽に利用可能な日本食レストランが非常に限られるため、ある程度の自炊生活を交えないと、長丁場の駐在を乗り切ることが困難だといえる。
4.家族帯同者は市内から2時間かけて通勤
「マンダル―ベチャラジ地域」は、周辺が広大な村落地域であるため、周辺には日本人が利用できる商業施設は、ほぼない。ようやく2020年に日本のコンビニ風の小規模スーパーが開業し、また2022年6月ごろには、HMSI社の近辺に別の小規模スーパーがオープンしたので、ちょっとした食料や日用雑貨の購入は便利になった。しかし、本格的な食材の買い出しや理髪、映画など娯楽のために、休日には市内のショッピングモール(ネクサス・アーメダバード・ワン・モール:Nexus Ahmedabad One Mall )などに息抜きに出かける駐在員も多い。順番で市内への「買い出し当番」がある会社もある、と聞く。たまに、「マンダル―ベチャラジ地域」周辺に「せめてマクドナルドがあったらなぁ...」という駐在員のつぶやきも聞こえてくる。
このような状況のため、「マンダル―ベチャラジ地域」に勤務する駐在員の場合でも、帯同する家族や学齢期の児童(市内には日本人学校はなく、インターナショナルスクールのみ)がいる場合、やむなく市内のアパートに居住する駐在員もいる。自身の長い通勤時間と引き換えに、家族のために周辺環境の良さ・便利さを選択するケースだ。
- 注1:
- FS=Feasibility Study:プロジェクトの実現可能性を調査すること。
- 注2:
- リンク先のジェトロサイトから、マンダル団地周辺地域の空撮画像が視聴可能。
アーメダバード地域の生活実態
- 執筆者紹介
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ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ) - 1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・アーメダバード事務所
飯田 覚(いいだ さとる) - 2015年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ三重を経て、2021年10月から現職。