経済への影響と感染症対策(UAE)
2020年ドバイ国際博覧会の取り組みと今後の展望(前編)
2022年9月28日
中東・アフリカ地域初の大型登録博である2020年ドバイ国際博覧会(以下、ドバイ万博)が2022年3月31日、半年間の会期を終えて閉幕した(2022年4月5日付ビジネス短信参照)。新型コロナウイルス感染拡大の影響による1年の延期、オミクロン株の発生をはじめとするさまざまな困難の中、アラブ首長国連邦(UAE)政府は新型コロナウイルス対策の実施などによって、万博会期中に多くの観光客を呼び込んだ。本稿の前編では、ドバイ万博が観光業を中心にコロナ禍のドバイ経済に与えた影響や、観光客の受け入れのため行われたさまざまなコロナ感染防止策について紹介する
新型コロナ禍においても2,410万人が来場
2021年10月1日~2022年3月31日の半年間の会期中、ドバイ万博は世界178カ国から総来場者数2,410万2,967人を集めた。万博史上最多である192カ国からの公式参加を受け、各国が独自のパビリオンを建てて参加する「一国一館」制が初めて導入された。そのほかにも、万博史上初めての試みながら約2億5,000万人の来訪者を集めた「バーチャル・エキスポ・プラットフォーム」など、ドバイ万博は複数の「史上初」や「世界最大」を誇った万博だった。以下に、公社が発表したドバイ万博の実績をまとめた(表1参照)。
項目 | 実績 | 備考 |
---|---|---|
来場者数 | 2,410万2,967人 |
公社がパンデミック以前に設定した目標来場者数は2500万人。 178カ国からの来場者を記録した。歴代最多は上海万博(2010年)の約7,300万人。 |
オンライン来訪者数 | 2億4,800万人 | 万博史上初の試みである無料のバーチャル・エキスポ・プラットフォームでは、360度バーチャルツアーを提供。 |
参加国・機関 | 192カ国、14多国籍機関 | 万博史上最多の参加国数で、アフリカ連合を含む全アフリカ諸国が参加したのは初。また、万博史上初の「一国一館」制を導入。 |
訪問した政府要人 | 約1万6,000人 | 国家元首、大統領、首相、大臣などが、各国ナショナルデーや各イベントのため来訪した。 |
会場全体面積 | 438ヘクタール(ha) | 歴代4位。523haの上海万博が史上最大。 |
ボランティア | 135カ国から3万人が参加 | UAE史上最大規模のボランティアプログラム。参加者の55%がUAE国籍。 |
イベント数 | 3万5,276件 | 音楽、ダンス、ビジネス、スポーツ、ワークショップ、毎日の公社主催パレードなど。 |
出所:公社プレスリリースや各種報道を基にジェトロ作成
万博開催が観光業の復活を後押し、ドバイの経済成長に寄与
UAE中央銀行の四半期ごとの経済レビューによると、UAEの2021年の実質GDP成長率は前年比3.8%、2022年第1四半期は前年同期比8.2%と推定される。同中銀は成長の要因の1つとして、新型コロナ関連の規制緩和に加えて、国内需要や国外からの来訪者の回復を挙げている。
ドバイを主軸とするUAEの観光業回復を特に後押ししたのが、万博の開催だ。新型コロナ感染拡大以降、世界各国の観光業は厳しい状況に置かれたが、UAE政府は、万博開催に照準を合わせて、後述するさまざまな感染防止策を打ち出すことで、多くの観光客を呼び込むことに成功した。
ドバイ経済観光局の発表によると、2021年の海外からドバイへの宿泊を伴う来訪者数は前年比32.1%増の728万人(2022年2月15日付ビジネス短信参照)で、オミクロン株の流行の影響により一時、来訪者数が減ったものの、2022年も含めた万博会期中(2021年10月~2022年3月)のドバイ来訪者数は740万人となった(図参照)。2019年のドバイ来訪者数は1,670万人であり、万博期間中のドバイ来訪者数は、新型コロナ感染拡大前の水準に近づいたと言える。
新型コロナ感染拡大以降、停滞していた雇用についても、観光業を中心に回復が見られた。2020年はエミレーツ航空やエミレーツNBD銀行など国内大手企業の多くが従業員解雇や減給を行った、と報じられたが、2021年10月からエミレーツ航空が半年間で新たに6,000人のスタッフを雇用すると発表するなど、万博開催に伴う旅行者増加を見込み、航空業界やホテル業界で新規雇用が加速した。その他、建設、イベント、飲食、物流と幅広い分野の企業が、公社や各参加国から受注した。
世界銀行は、2021年12月時点で、ドバイ経済は感染拡大以前のレベルに回復したと発表しており、これにはドバイ万博の開催が寄与したと考えられる。
ドバイ全域で新型コロナ感染防止策を徹底
UAE政府は、新型コロナ発生当初から大幅な外出・入国制限を行う一方、感染状況に応じて制限緩和を図るなど、柔軟かつ徹底した管理体制のもと、国を挙げて感染防止策に取り組んできた。居住者のワクチン接種も早期から開始し(2021年12月1日付ビジネス短信参照)、万博開幕前の2021年9月には少なくとも人口の81.11%が2回のワクチン接種を完了していた(注1)。これらの対策の結果、一時(2021年1月末)は4,000人弱まで増加した1日当たりの新規感染者数は、2021年8月末からは1,000人以下に抑えられ、開幕日前日の9月30日には265人まで減少した。
2021年11月に発表された米国ブルームバーグの「Covid レジリエンス(耐性)ランキング」では、UAEは世界1位と評価され、UAE政府がドバイ万博開幕に照準を合わせて行ってきた数々の対策は、世界的にみても高い水準であると言える。
感染防止策は、ドバイ万博会場内でも徹底して行われた。ドバイ政府および公社は、開幕前の2021年7月にガイドラインを関係者に通達し(注2)、各パビリオンの展示や待機列、会場内のイベントなどの運営面や、会場内外の来場者の交通手段、従業員の宿泊施設など、あらゆる場面において順守項目と指針を定めた(表2参照)。18歳以上のすべての来場者に対して、ワクチン接種証明書または入場前72時間以内のPCR検査陰性証明書の提示を求め、関係者パスやチケット保持者には回数の制限なしに無料のPCR検査を提供した。会場内には、手指のアルコール消毒液をはじめ、マスク着用の有無を確認し来場者に注意を促すAI(人工知能)ロボットや会場マップを無人で配布するロボットなどが設置されたほか、各イベントの参加人数も屋内外問わず、ガイドラインに沿って制限された。
一方、オミクロン株が感染拡大した際には、各国パビリオンやレストランでクラスターが発生するなど感染者数が急増し、各国パビリオンは対応に追われた。日本館も、2021年12月11日のナショナルデー(注3)に渡航する予定だった政府関係者やイベント出演者の渡航を中止することとなり、イベントの規模が大幅に縮小して実施された。これを受け、ガイドラインはさらに厳しくなり、パビリオンスタッフは3回のワクチン接種と48時間ごとのPCR受検、各参加国のイベントパフォーマーに対しては24時間以内のPCR受検が義務付けられた。
対象者 | 内容 |
---|---|
来場者および従業員 |
|
従業員、ボランティア、公社業務請負業者 | ワクチン接種を完了している必要がある。 |
会場運営者 |
|
出所:公社のガイドラインを基にジェトロ作成
- 注1:
- 2022年6月20日現在では、人口の104.56%が2回の接種を完了している。なお、接種対象に非居住者(観光客や外国人労働者など)が含まれ、接種率が100%を超える。
- 注2:
- 一部を一般公開。具体的な各制限項目については、感染拡大状況を見て柔軟に変更され、会期中計6回のサーキュラー(通達)が出された。
- 注3:
- 各参加国の万博参加を祝う日として、当該国の魅力や文化を紹介するイベントが行われた。
2020年ドバイ国際博覧会の取り組みと今後の展望
- 経済への影響と感染症対策(UAE)
- ビジネス機会創出とレガシープラン(UAE)
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ドバイ事務所
堀池 桃代(ほりいけ ももよ) - 2019年、ジェトロ入構。市場開拓展示・事業部を経て2022年4月から現職。2021年10月から2022年3月は、ドバイ万博日本館事務局にて勤務。