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魅力的な中国健康市場、イノベーションの源泉との見方も

欧州が直面するビジネス環境の変化と中国・同企業の動向

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2021年3月25日

世界銀行のデータによると、2018年の中国の1人当たりの年間健康関連支出額は501ドルで5年間で約1.5倍となるなど、中国の健康関連市場は成長を続けている。こうした市場ニーズの拡大にビジネスチャンスを見いだし、欧州の高品質な製品を中国市場に投入するという動きがみられる。一方、市場拡大による需要増や医療体制の逼迫防止のため、効率化といった市場拡大から派生するビジネスチャンスに目をつける欧州企業もある。本稿では、近年の医療健康産業における欧州企業の中国進出事例を紹介する。

中国での健康志向の高まりを商機に

フランス食品大手のダノンは2020年7月16日、中国の特殊栄養事業の強化に約1億ユーロを投資する計画を発表した。中国の健康ニーズや伝統、好みに合った栄養製品やサービスをより幅広く提供していく。具体的には、オープンサイエンス研究センターを上海に開設するほか、現地の乳児用粉ミルクメーカーの買収、通常の食品では必要な栄養を取ることができない場合に使用する特別な医療目的のための食品(FSMP)の強化などに資金を投入する。

上海のオープンサイエンス研究センターでは特に、母乳と腸(消化管)の研究に重点を置く方針で、地域における研究のプラットフォームとしての機能を担う。また、現地の知識や科学に基づいた栄養製品やサービスを開発し、中国の国家戦略「健康中国2030」(2019年8月5日付ビジネス短信参照)に貢献していくという。当該施設では、オープンサイエンスセンターとして、公共部門や医療・学術機関、ビジネスパートナーや消費者と協力するほか、栄養、コンシューマーサイエンス、品質、食品安全、デジタルイノベーションなどの分野の100人を超える研究者が連携する。

今回の投資には、サプトデイリーオーストラリア(Saputo Dairy Australia)からのマレーゴールバーンデイリー(青島市)の買収も含まれている。これにより、登録済みの乳児用粉ミルクブランドと青島市の工場を取得。ダノンにとっては中国で初めての乳児用粉ミルク工場となる。

さらに、今回の投資を通して、江蘇省無錫市にある同社の医療用栄養拠点も強化する。具体的には、タンパク質ベースの液体栄養サプリメントソリューションの開発や、健康的に年齢を重ねるための栄養サポートや患者の回復を促進するためのFSMPの提供を拡大していく。

イノベーションの源泉としても魅力的な中国

中国を市場としてみるだけでなく、イノベーションの源泉として進出する事例もあった。ドイツ医薬・化学大手のメルクは2019年10月18日、中国の創業初期(シード期)のスタートアップに投資をするシードファンドを設立。ファンドの規模は1億人民元(約17億円、1人民元=約17円)。「ヘルスケア」と「ライフサイエンス」「パフォーマンスマテリアル」の3分野、または新規事業を投資対象とする。同日には、上海に新興企業や研究機関、他の業界の企業などと共同でイノベーションプロジェクトを実施するイノベーションハブも開設した。2019年11月には中国のスタートアップ集積地である広州市にもイノベーションハブを開設、同地から生まれるイノベーションを取り込んでいく姿勢を鮮明にした。

メルクは自社の戦略ファンド「Mベンチャーズ」を通してシード期のスタートアップに投資をしている。当該ファンドの規模は3億ユーロで、中国に今回立ち上げた投資ファンドは「Mベンチャーズ」の一環に位置付けられる。現地の提携先とともに、中国における、中国のための、そしてさらにそれを超えるイノベーションを推進するとし、シードファンドを通して、戦略的な付加価値を生み出すことを狙う。


メルクの上海のイノベーションハブの担当者たち(メルク提供)

また、メルクは新たな中国発イノベーションだけではなく、中国の巨大IT企業との連携も進め、積極的なデータ活用を進める戦略を取っている。同社は2019年1月23日、中国のインターネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)と戦略的提携に合意したと発表。この提携では、主に中国のデジタルプラットフォームを通して、病気に関する一般の意識を高め、よりアクセスしやすい医療サービスを提供することに重点を置く。取り扱う範囲はメルクのヘルスケア部門が中国で展開している全ての治療分野を対象とする。例えば、アレルギー分野では、症状に関する認識を高め、治療の継続を促すことを目的としたデジタルサービスを開発し、不妊症の分野では、病気と治療の選択肢についての意識を高め、妊娠を望む患者の治療プロセスの短縮をサポートする。また、糖尿病や甲状腺機能障害、がんなどに関するサービスも提供していく方針を示している。両社は将来的にはさらに、「人工知能(AI)医師」を基盤とした新しい医療サービスモデルの導入など、他の分野への協力の拡大も視野に入れているという。

中国のデジタル医療の分野で、特にテンセントはキープレーヤーとなっている。スイスの医薬大手ノバルティスは2020年4月30日、テンセントと共同で開発した「AI看護師」のサービス提供を中国で開始したと発表した。これは、心臓疾患に苦しむ患者が中国のソーシャルメディア「WeChat」のプラットフォーム上で、声、画像診断といったデータを基に自己の健康状況監視・管理をできるようにするもの。必要に応じて病院へもつながるシステムとなっている。中国では、病院外で医師の指導が守られないケースが多く、再入院を繰り返す患者が多いとし、こうした点からも医療の逼迫防止に貢献する。同社は、将来的には「AI看護師」は、1,600万人いるとされる中国の心臓疾患を抱える患者を支援するものとして期待しており、当初は500の病院で導入するとしている。

ノバルティスとテンセントは2019年10月に「AI看護師」の開発に合意、2020年4月にサービス開始というスピード展開となった。多くの中国人が利用する「WeChat」の活用により、早期浸透を狙っている。

医療の効率化と逼迫解消にニーズあり

このように、医療健康サービスの効率化、デジタル化など、需要の拡大を側面から支援するビジネスには大きな商機がある。スイス電機大手のABBは2019年10月31日、上海市第七人民医院と戦略提携に関する合意書を締結した。病棟や研究室、薬局向けのロボットや自動システムの共同研究、医療、ヘルスケア業界における技術革新の推進で協力する。ABBの産業用や協調型ロボット工学での豊富な経験を基盤とする自動化技術を医療とヘルスケア業界、特に医療研究施設や病院の物流業務に適用する。自動化により、医療の効率は向上し、医療の専門家や研究者はより価値の高い業務に集中できるようになると同社と説明する。ABBの分析によると、反復作業では、自動化によって現在の手動プロセスと比べて最大50%速く作業を完了することができる。また、ロボットは1日24時間の作業が可能な利点もある。

上海市第七人民医院はABBとの協力について、人口の高齢化と高度なスキルを持つ医療スタッフの不足という課題解決につながるものと期待。病棟、薬局、研究室向けのロボット自動化ソリューションにより、薬剤師、医師、看護婦をサポートすることで、臨床治療の改善や、患者の管理とケアを強化したいとの期待感を示している。

ABBは長期的な成長戦略の重要な要素の1つとして、サービスロボット工学への投資やイノベーションを継続して進めており、ヘルスケアなどの新分野に自動化の専門知識を活用している。上海市第七人民医院との協力もヘルスケア分野におけるABBのロボティクス事業のグローバル戦略の重要な取り組みの一つに位置付けている。

執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター(執筆当時)
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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