2020年のASEANの貿易、ICT・コンピュータの中間財輸出が拡大
2021年は輸送機器と石油・燃料・化学製品の需要回復がカギか

2021年6月23日

新型コロナウイルス感染拡大により、大きな影響を受けた2020年のASEANの貿易。四半期ごとに貿易額の変化を見ると、特に、各国がロックダウンなどの厳しい経済活動制限を実施し、サプライチェーンの遮断の影響も大きかった第2四半期には、各国で貿易額が縮小した。しかし、第3~4四半期には徐々に回復し、ベトナムを筆頭に、シンガポール、マレーシアでは、貿易総額はコロナ禍以前の水準にまで戻っている。貿易額の回復を牽引したのは、輸出では米国・中国向けの拡大、品目別では電気機器・部品の好調などだ。中でも、ICT(情報通信技術)・コンピュータ部品の中間財の輸出拡大、特にこれらを輸出するベトナム、シンガポール、マレーシアの伸びが顕著だった。2021年は、輸送機器や燃料などの需要が貿易動向に関わりそうだ。

本稿では、2020年のASEAN主要6カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナム、以下ASEAN6とする)の貿易データを用いて、グローバル・バリューチェーンや貿易構造の観点も交えてその動向を分析する。グローバル・トレード・アトラスより、ASEAN6の四半期別・HS6桁のデータセット(約549万件)を利用した(注1)。

コロナ禍からの経済回復が顕著に、ベトナムの貿易総額はコロナ前を上回る

まず、ASEAN6の貿易総額の推移を通じて、大まかな貿易動向から見ていきたい。2020年第2四半期(4~6月)に各国で貿易額は大きく縮小したが、いずれの国も同年第4四半期にかけて回復基調に転じた(図1参照)。第4四半期の貿易総額は、ベトナム、マレーシアでは2年間で最高水準になっており、シンガポールやインドネシアも、新型コロナウイルス感染症の発生以前の水準並みに戻っている。新型コロナ感染拡大による影響とそこからの経済回復がうかがえる。

図1:ASEAN6の貿易総額推移(四半期別)
2020年第2四半期を底として、いずれの国でも同年第4四半期までに回復基調となっている。第4四半期の水準だけみると、ベトナム、マレーシアは2年間で最高額となっており、シンガポールやインドネシアもほぼコロナ禍以前並みの水準に貿易額は戻っている。

出所:グローバル・トレード・アトラスよりジェトロ作成

こうした貿易総額の変化を、各国別、輸出と輸入に分けて見ると(図2参照)、輸出・輸入ともに金額が大きいのはシンガポールとベトナムの2カ国だ。シンガポールはASEAN地域の貿易ハブとして機能しており、再輸出も多いため金額上は大きく見えるが、同国の貿易は国内市場動向というよりは、地域貿易のバロメーターとしてみる方が適切だろう。シンガポールの輸出・輸入は、やはり2020年第2四半期に大きく落ち込んだが、同年第4四半期に輸出が前年に並ぶ水準まで回復した。次に金額の大きいベトナムも、2020年第1~2四半期に輸出・輸入とも落ち込んだが、第4四半期には前年を上回る水準まで回復している(注2)。

他のASEAN6諸国について、マレーシアも、2020年第3~4四半期の輸出は前年の水準を上回っている。他方、タイは、ほかのASEANに比べて輸出の回復が鈍調である。また、フィリピンについても前年を上回る状態には至っていない。

図2:ASEAN6の輸出・輸入の推移(四半期別)
金額が大きいのはシンガポールとベトナムの2カ国である。シンガポールの輸出・輸入は、やはり2020年第2四半期に大きく落ち込んだが、同年第4四半期に輸出が前年を上回る水準まで回復した。次に金額の大きいベトナムも、2020年第1~2四半期に輸出・輸入とも落ち込んだが、第4四半期には前年を上回る水準まで回復している。

出所:図1に同じ

ASEAN域内は縮小の一方、米国・中国向けの輸出が拡大

ASEAN6の輸出について集計すると、2020年の輸出総額は前年比2.5%減の1兆3,559億1,500万ドル(表1参照)。仕向地である国・地域別にみると、全体の21.1%を占めるASEAN域内での縮小が目立つ(2,855億2,200万ドル、11.9%減)。寄与度でも、ASEAN向けが全体を2.8ポイント下押ししている。特にマレーシア向け(マイナス0.8ポイント)、インドネシア向け(マイナス0.6ポイント)がさえなかった。

他方、好調であったのは米国向けだ。前年比15.1%増の2,063億4,500万ドル、寄与度では2.0ポイントとなった。米国と並んで、中国向けも6.7%増の2,096億3,000万ドルと拡大し、寄与度では0.9ポイントだった。米中市場が占める構成比はともに15%程度となっており、日本(構成比7.3%)の2倍程度になっている。

表1:ASEAN6の輸出(相手国・地域別)(単位:100万ドル、%、ポイント)(△はマイナス値)
国・地域名 2019年
金額
2020年
金額 構成比 伸び率 寄与度
ASEAN10 324,201 285,522 21.1 △ 11.9 △ 2.8
階層レベル2の項目シンガポール 62,694 61,521 4.5 △ 1.9 △ 0.1
階層レベル2の項目マレーシア 66,318 55,264 4.1 △ 16.7 △ 0.8
階層レベル2の項目インドネシア 48,377 39,425 2.9 △ 18.5 △ 0.6
階層レベル2の項目タイ 43,457 37,813 2.8 △ 13.0 △ 0.4
階層レベル2の項目ベトナム 39,992 37,105 2.7 △ 7.2 △ 0.2
階層レベル2の項目フィリピン 30,673 26,282 1.9 △ 14.3 △ 0.3
中国 196,532 209,630 15.5 6.7 0.9
米国 179,202 206,345 15.2 15.1 2.0
EU28 147,076 140,974 10.4 △ 4.1 △ 0.4
階層レベル2の項目英国 18,568 16,459 1.2 △ 11.4 △ 0.2
階層レベル2の項目オランダ 32,367 32,261 2.4 △ 0.3 △ 0.0
階層レベル2の項目ドイツ 28,493 27,289 2.0 △ 4.2 △ 0.1
日本 105,696 99,484 7.3 △ 5.9 △ 0.4
香港 93,350 96,887 7.1 3.8 0.3
韓国 59,750 58,309 4.3 △ 2.4 △ 0.1
台湾 40,282 40,625 3.0 0.8 0.0
インド 47,336 38,279 2.8 △ 19.1 △ 0.7
オーストラリア 34,709 30,605 2.3 △ 11.8 △ 0.3
スイス 11,361 13,746 1.0 21.0 0.2
合計(その他含む) 1,390,916 1,355,915 100.0 △ 2.5 △ 2.5

注:原データは各国統計(ベトナムは月次の船荷証券データ)。
出所:図1に同じ

ASEAN6の輸入総額については、前年比8.4%減の1兆2,825億800万ドルであった(表2)。輸入相手別にみると、いずれの国・地域からの輸入も縮小が目立った。中でも、構成比で22.7%を占めるASEAN域内からの輸入は7.7%減の2,905億2,200万ドル(寄与度:マイナス1.7ポイント)。域内の内訳について、ベトナムからの輸入だけは9.1%増と増えたが、シンガポール(18.3%減)、タイ(14.7%減)をはじめ、大幅なマイナスとなった。一方、ASEANと同程度の構成比(22.5%)である中国は1.5%減の2,886億9,700万ドルとわずかな縮小にとどまった。ほかに特徴的だったのは台湾で、6.2%増の845億9,200万ドルとコロナ禍でも拡大した。主に、電気機器・部品の輸入が拡大したとみられる。

表2:ASEAN6の輸入(相手国・地域別) (単位:100万ドル、%、ポイント)(△はマイナス値)
国・地域名 2019年
金額
2020年
金額 構成比 伸び率 寄与度
ASEAN10 314,876 290,522 22.7 △ 7.7 △ 1.7
階層レベル2の項目マレーシア 75,454 70,371 5.5 △ 6.7 △ 0.4
階層レベル2の項目ベトナム 56,386 61,504 4.8 9.1 0.4
階層レベル2の項目シンガポール 57,584 47,064 3.7 △ 18.3 △ 0.8
階層レベル2の項目タイ 50,393 43,001 3.4 △ 14.7 △ 0.5
階層レベル2の項目インドネシア 45,194 39,581 3.1 △ 12.4 △ 0.4
階層レベル2の項目フィリピン 14,956 14,405 1.1 △ 3.7 △ 0.0
中国 293,112 288,697 22.5 △ 1.5 △ 0.3
EU28 126,468 109,248 8.5 △ 13.6 △ 1.2
階層レベル2の項目ドイツ 33,085 28,205 2.2 △ 14.8 △ 0.3
階層レベル2の項目フランス 23,568 17,946 1.4 △ 23.9 △ 0.4
日本 116,848 102,474 8.0 △ 12.3 △ 1.0
米国 114,014 100,268 7.8 △ 12.1 △ 1.0
韓国 99,669 99,238 7.7 △ 0.4 △ 0.0
台湾 79,633 84,592 6.6 6.2 0.4
インド 29,572 25,669 2.0 △ 13.2 △ 0.3
オーストラリア 27,646 22,389 1.7 △ 19.0 △ 0.4
アラブ首長国連邦 26,690 17,411 1.4 △ 34.8 △ 0.7
サウジアラビア 24,703 17,341 1.4 △ 29.8 △ 0.5
香港 18,332 15,955 1.2 △ 13.0 △ 0.2
合計(その他含む) 1,399,592 1,282,508 100.0 △ 8.4 △ 8.4

注:原データは各国統計(ベトナムは月次の船荷証券データ)。
出所:図1に同じ

電気機器・部品の貿易が活発に

国連標準国際貿易分類(SITC、第4版)に基づいて、2020年のASEAN6の輸出を品目別に分類すると、約2割を占める電気機器・部品が前年比7.2%増の2,719億6,900万ドルと好調だった(寄与度:1.3ポイント)(表3参照)。続いて、スマートフォン・携帯電話などが含まれる通信・音響機器が9.4%増の1,179億4,300万ドル(0.7ポイント)で2位、3位はOA機器・PCが2.3%増の644億5,700万ドル(0.1ポイント)だった。一方、足を引っ張ったのは石油製品・原料で、30.2%減の607億6,900万ドルだった(マイナス1.9ポイント)。自動車も17.9%減の384億7,600万ドルと振るわなかった(マイナス0.6ポイント)。

表3:ASEAN6の輸出(品目別、標準国際貿易分類)(単位:100万ドル、%、ポイント)(△はマイナス値)
品目 2019年
金額
2020年
金額 構成比 伸び率 寄与度
電気機器・部品 253,675 271,969 20.1 7.2 1.3
通信・音声機器 107,814 117,943 8.7 9.4 0.7
OA機器・PC 63,006 64,457 4.8 2.3 0.1
石油製品・原料 87,094 60,769 4.5 △ 30.2 △ 1.9
衣料品・付属品 52,065 52,529 3.9 0.9 0.0
雑製品 49,835 48,634 3.6 △ 2.4 △ 0.1
自動車 46,875 38,476 2.8 △ 17.9 △ 0.6
非貨幣性金 26,776 37,170 2.7 38.8 0.7
植物性油脂 27,429 31,823 2.3 16.0 0.3
専門・科学的機器 32,361 30,848 2.3 △ 4.7 △ 0.1
汎用産業機械・部品 30,231 28,337 2.1 △ 6.3 △ 0.1
特殊産業機械 25,146 27,929 2.1 11.1 0.2
1次形態プラスチック 30,244 26,649 2.0 △ 11.9 △ 0.3
鉄・鉄鋼 22,556 26,093 1.9 15.7 0.3
発電機械・設備 30,504 25,960 1.9 △ 14.9 △ 0.3
有機化合物 29,313 25,951 1.9 △ 11.5 △ 0.2
靴・履物 25,057 23,484 1.7 △ 6.3 △ 0.1
魚介類 21,010 21,219 1.6 1.0 0.0
野菜・果物 19,465 19,427 1.4 △ 0.2 △ 0.0
繊維・織物 19,280 18,717 1.4 △ 2.9 △ 0.0
合計(その他含む) 1,390,916 1,355,915 100.0 △ 2.5 △ 2.5

注:原データは各国統計(ベトナムは月次の船荷証券データ)。
出所:図1に同じ

輸入については、ほとんどの品目が前年比減となる中で、やはり約2割を占める電気機器・部品が12.2%増の2,701億3,100万ドルと伸びた(寄与度:2.1ポイント)(表4参照)。2番目に大きい品目である石油製品・原料は32.4%減の1,114億8,600万ドルと大幅に落ち込んだ(マイナス3.8ポイント)。また、自動車も32.1%減の305億2,400万ドルと落ち込み、同様に全体の下押し要因となった(マイナス1.0ポイント)。

表4:ASEAN6の輸入(品目別、標準国際貿易分類) (単位:100万ドル、%、ポイント)(△はマイナス値)
品目 2019年
金額
2020年
金額 構成比 伸び率 寄与度
電気機器・部品 240,853 270,131 21.1 12.2 2.1
石油製品・原料 164,860 111,486 8.7 △ 32.4 △ 3.8
通信・音声機器 77,827 82,141 6.4 5.5 0.3
汎用産業機械・部品 52,214 46,533 3.6 △ 10.9 △ 0.4
雑製品 42,390 42,405 3.3 0.0 0.0
OA機器・PC 40,922 40,333 3.1 △ 1.4 △ 0.0
鉄・鉄鋼 51,040 40,252 3.1 △ 21.1 △ 0.8
発電機械・設備 44,665 35,440 2.8 △ 20.7 △ 0.7
繊維・織物 37,159 34,462 2.7 △ 7.3 △ 0.2
特殊産業機械 38,304 32,983 2.6 △ 13.9 △ 0.4
自動車 44,937 30,524 2.4 △ 32.1 △ 1.0
1次形態プラスチック 34,285 29,700 2.3 △ 13.4 △ 0.3
その他金属製品 30,980 28,721 2.2 △ 7.3 △ 0.2
専門・科学的機器 29,628 28,403 2.2 △ 4.1 △ 0.1
非鉄金属 30,260 28,051 2.2 △ 7.3 △ 0.2
非貨幣性金 25,314 27,602 2.2 9.0 0.2
有機化合物 26,690 24,538 1.9 △ 8.1 △ 0.2
その他化学材料・製品 21,975 22,220 1.7 1.1 0.0
その他輸送機器 26,190 17,422 1.4 △ 33.5 △ 0.6
薬剤・医薬品 15,185 15,837 1.2 4.3 0.0
合計(その他含む) 1,399,592 1,282,508 100.0 △ 8.4 △ 8.4

注:原データは各国統計(ベトナムは月次の船荷証券データ)。
出所:図1に同じ

前述した2019年から2020年にかけての変化について、図3のような散布図で輸出・輸入の品目ごとに寄与度をみると、品目別の違いがよく分かる。2020年は電気機器・部品の輸出入が貿易全体を押し上げた。また、非貨幣性金、通信・音声機器の輸出も拡大した。一方、石油製品・原料については、輸入もさることながら、輸出が大幅に減少したため、エネルギーや資源を輸出する国にとっては大きなマイナスとなった。また、自動車も輸出入とも減少し、貿易全体を押し下げる結果となった。

図3:2020年の輸出・輸入 前年比からの寄与度(%)
2019年から2020年にかけての変化について、横軸に輸入、縦軸に輸出を置き、寄与度をプロット。電気機器・部品が最も右上、輸出・輸入ともにプラスの象限には非貨幣性金、通信・音声機器が入る。一方、マイナス、マイナスの象限には、自動車、特に、石油製品・原料が左下に位置する。

出所:図1に同じ

ICT・コンピュータの中間財が輸出を牽引

グローバル・バリューチェーンや貿易構造の観点から貿易動向はどう変化したのか。6カ国の輸出を用途・工程別の分類であるBroad Economic Categories(BEC)第5版に基づいて計算する(表5、表6参照)。これは、物品が産業グループと用途〔原料・中間投入(中間財)、総固定資本形成(GFCF)、最終消費(最終財)〕によって分類されている。同一産業内でも域内で生産工程間分業が進展するASEANにおいては、単純に産業別に見るよりも、生産工程にも着目した分析手法をとることで、域内分業体制を踏まえた動向がより見えやすくなる。 ASEANの輸出で突出して大きいのは、ICT・コンピュータの中間財で、2,705億3,800万ドルとなっている。特に、シンガポール(1,126億2,600万ドル)、マレーシア(703億ドル)、ベトナム(507億2,800万ドル)で大きい。前年比からの寄与度でみても、これら3カ国のICT・コンピュータの中間財が輸出を牽引引していることがわかる。

表5:ASEAN主要6カ国の輸出額(2020年、BEC分類)(単位:100万ドル)
産業 項目 インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ベトナム 合計
農林水産・飲食料品 中間財 28,594 17,758 1,923 2,663 9,890 9,013 69,841
GFCF 100 767 52 576 883 519 2,897
最終財 11,803 6,070 4,315 10,855 28,941 23,051 85,035
鉱業・燃料・化学製品 中間財 21,384 22,508 2,838 31,495 18,783 7,648 104,656
GFCF 449 3,352 401 5,275 3,332 904 13,713
最終財 18,782 20,283 423 27,862 4,994 912 73,256
建材・木材・ガラス・石材・基礎金属・家電・家具 中間財 13,720 22,852 6,405 21,453 26,244 25,353 116,026
GFCF 1,722 5,791 2,933 7,279 7,088 7,172 31,984
最終財 4,321 7,652 853 4,011 11,355 13,257 41,449
繊維製品・衣料・靴 中間財 10,176 2,355 1,566 19,342 18,796 8,424 60,660
GFCF 25 382 10 384 139 198 1,136
最終財 14,360 10,409 918 3,914 8,074 51,186 88,861
輸送機器 中間財 17,562 11,664 4,193 25,726 22,454 17,798 99,396
GFCF 720 1,590 576 1,914 8,747 2,139 15,686
最終財 4,828 420 517 2,059 10,595 3,853 22,273
ICT・コンピュータ 中間財 2,676 70,300 18,366 112,626 15,841 50,728 270,538
GFCF 2,799 12,446 5,543 25,266 17,029 20,181 83,264
最終財 1,607 4,504 602 9,015 4,362 40,949 61,039
ヘルスケア・医薬品・教育・文化・スポーツ用品 中間財 4,171 6,405 1,328 18,149 5,356 1,944 37,352
GFCF 363 2,460 195 10,154 600 986 14,759
最終財 3,008 3,425 388 13,275 4,265 3,319 27,680
政府・軍用品 87 212 83 632 1,440 1,672 4,125
合計(その他含む) 163,307 234,082 63,879 374,233 229,209 291,206 1,355,915

注:原データは各国統計(ベトナムは月次の船荷証券データ)。
出所:図1に同じ

表6:ASEAN主要6カ国の輸出への寄与度(BEC分類)(ポイント)(△はマイナス値)
産業 項目 インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ベトナム 合計
農林水産・飲食料品 中間財 0.23 0.11 △ 0.02 △ 0.03 △ 0.10 △ 0.20 △ 0.00
GFCF △ 0.00 △ 0.01 △ 0.00 0.00 0.01 0.03 0.03
最終財 0.06 △ 0.03 △ 0.01 △ 0.04 △ 0.05 △ 0.03 △ 0.10
鉱業・燃料・化学製品 中間財 △ 0.20 △ 0.35 0.01 △ 0.25 △ 0.17 △ 0.04 △ 1.00
GFCF △ 0.00 △ 0.09 △ 0.01 △ 0.01 △ 0.06 0.01 △ 0.17
最終財 △ 0.52 △ 0.41 △ 0.02 △ 1.32 △ 0.14 △ 0.04 △ 2.45
建材・木材・ガラス・石材・基礎金属・家電・家具 中間財 △ 0.01 △ 0.26 △ 0.02 △ 0.09 △ 0.07 0.16 △ 0.29
GFCF 0.01 △ 0.02 △ 0.01 △ 0.02 △ 0.02 0.14 0.09
最終財 0.03 0.03 △ 0.00 △ 0.00 △ 0.00 0.17 0.22
繊維製品・衣料・靴 中間財 0.07 △ 0.04 △ 0.02 0.25 0.20 △ 0.08 0.36
GFCF 0.00 0.00 0.00 △ 0.01 △ 0.00 △ 0.00 △ 0.01
最終財 △ 0.07 0.24 △ 0.01 △ 0.07 △ 0.05 △ 0.15 △ 0.13
輸送機器 中間財 0.19 △ 0.09 △ 0.06 △ 0.44 △ 0.29 0.03 △ 0.67
GFCF △ 0.01 0.05 △ 0.00 △ 0.10 △ 0.13 △ 0.02 △ 0.20
最終財 △ 0.10 △ 0.01 △ 0.03 △ 0.02 △ 0.16 △ 0.03 △ 0.34
ICT・コンピュータ 中間財 0.03 0.45 △ 0.03 0.88 0.02 0.77 2.13
GFCF 0.05 △ 0.07 △ 0.06 0.20 0.05 0.51 0.67
最終財 △ 0.01 △ 0.04 △ 0.01 △ 0.03 △ 0.04 △ 0.08 △ 0.21
ヘルスケア・医薬品・教育・文化・スポーツ用品 中間財 △ 0.02 0.11 △ 0.02 0.04 △ 0.04 0.01 0.07
GFCF 0.00 0.00 △ 0.00 0.01 △ 0.01 △ 0.10 △ 0.09
最終財 0.01 0.00 △ 0.00 △ 0.02 △ 0.07 0.03 △ 0.06
政府・軍用品 △ 0.00 △ 0.00 △ 0.00 △ 0.01 △ 0.05 △ 0.06 △ 0.13
合計(その他含む) △ 0.27 △ 0.45 △ 0.46 △ 1.16 △ 1.17 0.99 △ 2.52

注:原データは各国統計(ベトナムは月次の船荷証券データ)。
出所:図1に同じ

他方、鉱業・燃料・化学製品は、特に最終財の落ち込みが激しい。表6から同項目の寄与度をみると、シンガポール(マイナス1.32ポイント)、インドネシア(マイナス0.52ポイント)、マレーシア(マイナス0.41ポイント)など、輸出全体のマイナス材料になった。ベトナムは、輸出構造上、鉱業・燃料・化学製品や輸送機器が元々強くないため、これらのマイナス要因の影響が少ない一方でICT・コンピュータが強く、一人勝ちの様相を呈している。反対に、タイのようにICT・コンピュータよりも、輸送機器、化学、家電といった品目が強い国にとっては、2020年は厳しい年となった。

同様に、輸入もBEC分類に基づき計算すると、ICT・コンピュータをはじめ、圧倒的に中間財のボリュームが大きいことがみてとれる(表7、表8参照)。最終消費で見た場合は、鉱業・燃料・化学製品や農林水産・飲食料品が比較的大きく、ASEANも市場としては育っていると分かるものの、ASEANの輸入の7割近くはまだ中間財が占めている。2020年に群を抜いて輸入が増えたのはICT・コンピュータの中間財で、全体を2.46ポイント押し上げている。ベトナム(1.50ポイント)、シンガポール(0.79ポイント)で顕著である。

表7:ASEAN主要6カ国の輸入額(2020年、BEC分類) (単位:100万ドル)
産業 項目 インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ベトナム 合計
農林水産・飲食料品 中間財 14,827 10,987 6,342 3,921 9,410 17,702 63,189
GFCF 1,892 895 462 775 1,221 1,024 6,269
最終財 5,873 8,551 6,159 10,088 9,229 11,185 51,084
鉱業・燃料・化学製品 中間財 21,707 22,176 5,484 31,347 33,845 28,513 143,072
GFCF 4,969 2,828 1,203 4,889 5,947 5,625 25,461
最終財 10,920 17,147 5,864 34,598 10,007 6,287 84,823
建材・木材・ガラス・石材・基礎金属・家電・家具 中間財 19,355 26,772 9,324 25,361 33,330 55,814 169,956
GFCF 6,430 6,266 2,634 6,340 9,882 14,488 46,040
最終財 2,945 3,128 1,971 3,905 3,967 5,031 20,947
繊維製品・衣料・靴 中間財 8,876 4,660 1,084 21,033 10,703 28,390 74,747
GFCF 523 650 62 660 473 1,704 4,072
最終財 1,472 2,744 930 6,408 2,697 1,920 16,171
輸送機器 中間財 14,346 13,036 5,824 28,846 23,566 26,466 112,084
GFCF 2,441 3,923 2,380 3,062 3,211 2,725 17,742
最終財 1,073 1,702 3,051 2,984 2,018 1,733 12,560
ICT・コンピュータ 中間財 9,484 44,424 12,087 92,462 21,882 89,304 269,644
GFCF 4,308 5,908 2,415 18,987 6,383 5,991 43,991
最終財 1,457 2,939 1,459 7,382 8,368 4,734 26,339
ヘルスケア・医薬品・教育・文化・スポーツ用品 中間財 4,023 5,490 3,308 9,068 6,337 10,484 38,711
GFCF 1,884 2,018 497 5,686 1,802 2,526 14,415
最終財 1,431 2,311 1,260 7,975 2,318 1,547 16,842
政府・軍用品 1,118 160 485 442 2,170 4,270 8,645
合計(その他含む) 141,622 189,856 85,687 329,103 208,772 327,466 1,282,508

注:原データは各国統計(ベトナムは月次の船荷証券データ)。
出所:図1に同じ

表8:ASEAN主要6カ国の輸入への寄与度(BEC分類) (ポイント)(△はマイナス値)
産業 項目 インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ベトナム 合計
農林水産・飲食料品 中間財 △ 0.02 0.07 △ 0.02 0.05 0.00 △ 0.02 0.06
GFCF △ 0.00 △ 0.01 △ 0.01 0.00 △ 0.01 △ 0.02 △ 0.05
最終財 △ 0.03 0.01 △ 0.05 △ 0.03 △ 0.01 △ 0.34 △ 0.45
鉱業・燃料・化学製品 中間財 △ 0.42 △ 0.34 △ 0.23 △ 0.86 △ 0.39 △ 0.15 △ 2.40
GFCF △ 0.13 △ 0.04 △ 0.03 0.02 △ 0.06 △ 0.04 △ 0.29
最終財 △ 0.36 △ 0.35 △ 0.22 △ 1.16 △ 0.27 △ 0.25 △ 2.60
建材・木材・ガラス・石材・基礎金属・家電・家具 中間財 △ 0.22 △ 0.08 △ 0.16 △ 0.10 △ 0.21 0.42 △ 0.34
GFCF △ 0.08 △ 0.06 △ 0.06 △ 0.05 △ 0.07 0.10 △ 0.22
最終財 △ 0.01 0.01 △ 0.03 △ 0.03 △ 0.02 △ 0.00 △ 0.07
繊維製品・衣料・靴 中間財 △ 0.14 △ 0.03 △ 0.03 0.32 △ 0.32 △ 0.13 △ 0.34
GFCF △ 0.02 0.00 △ 0.00 0.00 0.00 △ 0.06 △ 0.07
最終財 △ 0.03 △ 0.03 △ 0.02 △ 0.03 △ 0.06 △ 0.02 △ 0.19
輸送機器 中間財 △ 0.46 △ 0.27 △ 0.18 △ 0.67 △ 0.44 △ 0.07 △ 2.09
GFCF △ 0.08 0.07 △ 0.16 △ 0.25 △ 0.12 △ 0.06 △ 0.61
最終財 △ 0.05 △ 0.08 △ 0.12 △ 0.10 △ 0.05 △ 0.10 △ 0.50
ICT・コンピュータ 中間財 △ 0.01 0.12 △ 0.02 0.79 0.08 1.50 2.46
GFCF △ 0.05 △ 0.03 △ 0.01 0.15 △ 0.07 0.01 △ 0.00
最終財 0.02 △ 0.04 △ 0.05 △ 0.05 0.01 △ 0.15 △ 0.27
ヘルスケア・医薬品・教育・文化・スポーツ用品 中間財 0.05 0.02 △ 0.03 0.03 △ 0.02 0.06 0.10
GFCF 0.02 △ 0.00 △ 0.03 0.02 △ 0.01 △ 0.09 △ 0.10
最終財 △ 0.03 △ 0.03 △ 0.02 △ 0.09 △ 0.06 △ 0.01 △ 0.24
政府・軍用品 0.02 △ 0.00 0.01 △ 0.01 △ 0.05 0.06 0.02
合計(その他含む) △ 2.06 △ 1.09 △ 1.55 △ 2.14 △ 2.17 0.64 △ 8.37

注:原データは各国統計(ベトナムは月次の船荷証券データ)。
出所:図1に同じ

反対に、ASEANの輸入を押し下げているのは、鉱業・燃料・化学製品の中間財(マイナス2.40ポイント)および最終財(マイナス2.60ポイント)、輸送機器の中間財(マイナス2.09ポイント)の3カテゴリーである。

総じて、輸出・輸入とも、鉱業・燃料・化学製品と輸送機器で減少がみられ、ICT・コンピュータの中間財の貿易が活発になっている。2020年は新型コロナの影響により人の移動が制限され、ガソリンなどの燃料や輸送機器の需要が縮小した。エネルギー価格の下落も相まって、これらの輸入額が大幅に落ち込んだ。ただ、2020年10月以降、ASEANの自動車販売は回復基調となっており、2021年1~3月の販売も好調だったため(2021年5月26日付ビジネス短信参照)、輸送機器の貿易は回復の可能性がある。また、米国や欧州では移動需要の増加に伴い、ガソリンなど燃料需要の回復もみられている。今後、徐々にアジアにおいても移動制限が緩和されれば、燃料需要が回復するだろう。

他方、コロナ禍の影響を受けた半導体不足の問題で明らかになったように、昨今では、デジタル化の加速により、ICT製品をはじめ、ありとあらゆるものに半導体・チップが利用されるようになっている。従い、ICT・コンピュータの中間財は需要増大が予想される。同カテゴリーの輸出が大きいシンガポール、マレーシア、ベトナムの3カ国の輸出には追い風になるとみられる。


注1:
原データは各国の統計局や税関からの通関統計などだが、ベトナムのデータは船荷証券に基づいている。同データは、海上運送状(Sea Waybill)や航空貨物運送状(Air Waybill)を含まず、再輸入を含むといった特殊なものだが、月次でベトナムの詳細な品目別貿易データが利用できるのは大きな利点であるため、本稿では加工などを加えず利用した。
注2:
本データでは、ベトナムの輸入のうち約12~13%は再輸入分のため、輸入額が多く計上される。通関統計でみた場合は、ベトナムは貿易黒字国である。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。