各国で進むサプライチェーン強化、連携の重要性強調(日豪印ASEAN)
第2回サプライチェーン強靭化フォーラム(1)
2021年11月11日
新型コロナウイルス禍によって、世界中でサプライチェーン(SC)の途絶リスクが顕在化した。そのような中、2020年9月には日本とオーストラリア、インドの経済担当相が、インド太平洋地域のSC強靱(きょうじん)化の必要性と各国の連携について認識を共有した。こうした動きを受け、ジェトロは、2021年3月、この3カ国にASEANを加えた産官学が参加する「サプライチェーン強靱化(SCR)フォーラム」をオンライン開催。取り組みをさらに深化させるため、9月17日に第2回を開催した。
第2回フォーラムのキーワードは、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。その活用を通じたSCの可視化に焦点を当て、講演とパネルディスカッションで構成された。政府、企業、アカデミアによる各セッションの要旨を4回シリーズで紹介する。
SC取り巻くリスクは多様化
ジェトロの佐々木伸彦理事長は開会あいさつで、第1回フォーラムの内容を総括した上で、SC多元化は一朝一夕に達成できるものではなく、ジェトロも企業への支援を通し、中長期的なスパンで向き合っていくテーマとの認識を示した。また、グローバルに活躍する企業の責任範囲は、取引先における人権問題や労働環境、輸送・配送で消費するエネルギーのクリーンさなどにも広がっており、デジタルも活用したSCの「可視化」の重要性を強調した。
続く基調講演では、経済産業省の広瀬直(なおし)経済産業審議官が登壇。リスクファクターが多様化する中で、今後のSCには、(1)需要変動に対応し、迅速に供給を調整する追随性、(2)変化においてバッファーを兼ね備える冗長性、(3)SC途絶の際も迅速に復旧する再起性、の3要素が必要とした。その上で、デジタル技術の活用はSC強靭化に貢献すると指摘。各国産学官の連携に期待を示した。
SC可視化に向け、外部との連携強化を
次に、BCGマネジングディレクター兼パートナーの岩渕匡敦(まさのぶ)氏が講演。変動の激しい世界でデータをどのように活用し戦略的SCマネジメントを構築していくか、企業の現状や課題を交えて解説した。その要旨は次のとおり。
- (要旨)
- サプライチェーンの現状について4つの大きな変化・傾向を言及したい。4つとは、(1)世界経済の大規模な変動、(2)消費者・顧客の多様化、産業のハイテク化、(3)サプライチェーンにおけるリスクの増大、(4)新しい社会的価値観の台頭である。グローバルレベルのCEOはこれらを考慮しながら経営を進めていく必要がある。
- これらの適切なマネジメントを行うには(1)サプライチェーンの見える化、から始まり、(2)サプライチェーンの分析、(3)サプライチェーンの最適化(機械学習等を活用)とレベルを引き上げていくことが重要になる。サプライチェーンの最適化にはこの領域に、全ての企業が到達しているとはいえない状況にある。
- システムの導入だけではサプライチェーンの強靭化には繋がらない。システムの導入以上に戦略が重要。うまくいっていない企業の取組はまさにこのようなケース。また、日本にフォーカスすると、データサイエンティストが少ないことも要因。
- サプライチェーンを強靭化していくためには、サプライチェーン可視化と共に企業・各国政府・地域大の観点で、データ連携など、それぞれが有機的に連動していく必要がある。
各国で進むSC強化の取り組み
その後、パネルディスカッションで、各国・地域のSC関連政策が紹介された。
(1)「日本政府によるSC可視化の支援」
- 講演者
- 矢作友良(やはぎ・ともよし)氏:経済産業省通商政策局審議官
- 要旨
- 経済産業省は、アジアDX(ADX)事業を推進。この事業を通じて、ASEAN・インド企業と日本企業がデジタル技術で連携し、社会課題などの解決を目指すプロジェクトに補助金を提供し、支援してきた。2年間で合計69件の案件を採択した。
- その中で、ブロックチェーン技術などを活用したSC可視化を進めるトレードワルツや、衛星技術を活用してコンテナ船の位置情報を把握する実証などの事例が出ている。
- 今後、各国企業や政府の連携プロジェクトを進めることで、アジア諸国の共創・共栄の一層の進展に期待。今後もデジタル技術を活用したSC可視化・企業支援を通じ、地域大の発展に貢献してきたい。
(2)「豪州政府の取り組みとCSIROのサプライチェーンデータ可視化の取り組み」
- 講演者
- ヘレン・スティリアヌ氏:オーストラリア外務貿易省第一次官補
- アンドリュー・ヒギンス氏:オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)プロジェクトリーダー
- ロス・スレーター氏:インフラ・運輸・地方開発・通信省(DITRDC)アシスタントダイレクター
- 要旨
- 新型コロナウイルスにより、オーストラリアも深刻な影響を受けた。一方で、物流状況は回復傾向にある。背景には、開放的な市場とルールにのっとった貿易の積極的活用がある。物流は2025年までに35%増加するとも言われており、特に海運が増加する見込み。
- 豪州政府の「国家貨物SC戦略」の下、全国規模のコモディティSC情報を示すCSIROのTraNSITを活用した「サプライチェーン・ベンチマーキング・ダッシュボード」が作成された。TraNSITは、加工業者から小売市場、港に至るまでのSCを一気通貫で可視化したもの。インフラ投資などの意思決定にも活用されている。
- 今後は2022年にかけ、可視化するコモディティー数の増加、新しい調査手法の導入、他国とのベンチマーキングを導入していく。
(3)「インド政府のサプライチェーン強靭化支援策(PLI補助金など)」
- 講演者
- マヤンク・ジョシ氏:在日インド大使館首席公使
- 要旨
- インドでは、新型コロナ禍下、「自立したインド」政策を立ち上げた。これは、経済、インフラ、技術主導のシステムなどを柱に、ローカルおよびグローバルのSC強靭化を目指すものだ。この方向性の下、インドで貿易・投資促進のため、さまざまな政策を実施している。
- SCに関連しては、製造業振興の「メーク・イン・インディア」のほか、デジタル化推進や技能向上、スタートアップ支援などを掲げた。また、昨今注力しているのが、生産連動型インセンティブスキーム(PLI)だ。現在、医療機器など9つのセクターで実施している。
- 物流については、標準化・インフォーマル化・デジタル化・競争力強化などを柱に、強化を推進している。また、都市インフラ・エネルギー分野を中心に2025年までの5年間で1兆9,500億ドルのインフラ投資を行う予定だ。
(4)「ASEAN連結性マスタープラン2025について」
- 講演者
- リム・チェ・チーンASEAN事務局ASEANコネクティビティー部門審議官
- 要旨
- ASEANは、ASEAN連結性マスタープラン2025(MPAC2025)の下、コネクティビティーの向上を通じて、社会経済の回復、持続的成長、包摂性向上、競争性向上、コミュニティの改善に取り組んでいる。MPACの下でシームレスな物流の実現を目的としたイニシアチブも実施している。
- ASEANは現在、貿易経路のデータベースやSC効率性・強靱性にかかるフレームワークを策定。2022年をめどに一部公開される予定だ。
- SC強靱化には、複数セクターが横断的に協力し、対話していくパートナーシップが非常に重要だ。
このパネルディスカッションのモデレーターを務めた経済産業研究所(RIETI)副所長の渡辺哲也氏は、総括として各国でSCにかかる政府レベルの取り組みが進んでいることに触れた。その中で、地域間のSC強靭化のためには、パートナーシップ強化をより推進していくことが重要と締めくくった。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
古屋 礼子(ふるや れいこ) - 2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。