経済復興策を策定(ヨルダン)
経済低迷脱却を期し、投資促進や雇用創出・競争力強化

2021年10月20日

ヨルダンでは、経済の低迷、投資の減少、失業率の悪化が続いている。この状況下、ヨルダン政府は「政府経済優先プログラム(2021~2023年)」(Government’s Economic Priorities Program 2021-2023)を策定した(注1)。その狙いは、経済を復興し、ビジネス・投資環境の改善、競争力の強化、雇用の創出、優先セクター(観光、IT、農業、輸出産業)の支援を目指すところにある。

本レポートでは、ヨルダンの近年の経済事情と政府の経済復興策の内容について概観する。

GDP成長率が10年間低迷

ヨルダンでは、2000~2009年の10年間、GDP成長率が平均6.5%。好調な経済拡大を見せた。しかし、その後の2010年~2019年は、平均で2.4%の低成長にとどまった(図1参照)。中東情勢の不安定化や財政悪化(注2)などが、この経済低迷に影響したと考えられる。さらに2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大が足かせとなり、成長率はマイナス1.6%だった。コロナ禍は、主要産業の1つと言える観光業やその他の経済活動に大きな影響を与えた。

図1:GDP成長率の推移
2000年に4.2%であったところ、2006年には8.6%で近年最大の伸びを示した。2005年から2007年も8%以上の成長を見せた。2010年以降は2~3%程度で推移した。2020年はマイナス1.6%となった。

出所:政府経済優先プログラム (2021-2023年)

対内投資も減少傾向

ヨルダンへの対内直接投資流入額(FDI、フロー)も、近年は減少傾向にある。2010年にはFDIが約11億ヨルダン・ディナール(約1,738億円、JD、1JD=約158円)余りあった。これが、2020年には約5億JDまで減少した(図2参照)。その背景には、前述した中東情勢の不安定化や経済低迷に加え、原料価格や生産コストの上昇などがあるとみられる。また、ここでもコロナ禍に追い打ちをかけられたかたちだ。2021年の第1四半期は6,800万JD。コロナ禍の影響がまだ少なかった2020年第1四半期の約3分の1に落ち込んだ。

図2:ヨルダンへの投資額の推移
2010年から2017年までは、10億ヨルダン・ディナール以上となっていた。特に2014年は14億8,750万ヨルダン・ディナールで近年最大の投資があった。2018年は6億8,340万、2019年は4億8,730万、2020年は4億9,670万ヨルダンディナールで、ここ数年は減少を見せている。

出所:政府経済優先プログラム(2021-2023年)

失業率も悪化

失業率も上昇傾向にある。2020年は23.2%となった(図3参照)。2015年以降、失業率が悪化傾向にあった。さらに、新型コロナが追い打ちをかけたかたちだ。直近の数値は2021年第1四半期で、25.0%まで上昇した。

図3:ヨルダン失業率の推移
2010年は12.5%で、2011年から2014年までは横ばいとなったが、2015年は13%となり、以降は徐々に上昇した。2020年には23.2%となり、2020年第1四半期には25%となった。

出所:政府経済優先プログラム(2021-2023年)

3つのゴールと3本の柱を掲げる

経済的な危機に対応するために、政府は経済優先プログラムのゴールとして、(1)雇用創出、(2)投資誘致、(3)輸出促進を掲げた。また、それらを達成するための「3本柱」を定めた(表1参照)。数カ月おきに達成状況を確認しながら、計画を進める予定だ。民間投資も巻き込んだ経済再建を目指している。同時に、インフラ、保健、教育などの分野には政府も関与し、達成に貢献するとした。

表1:目標達成のための3本柱と予算
予算
1.ビジネスと投資環境の改善 2億5,500万JD
2.競争力強化と雇用創出 1億JD
3.優先セクターの支援(観光、IT、農業、製造業) 1億2,100万JD

ヨルダンは、中東諸国や欧米と良好な関係を築き、中東地域の中心部に位置する。そのため、中東情勢の安定の要として、外国や国際機関から援助を受けている。パレスチナ難民やシリア難民の受け入れに関するODA案件も多い。こうした援助には、引き続き期待が高い。一方で、政府は経済再生のため、民間投資の誘致にも力を入れる方針を打ち出した。国内外からの投資を対象に、誘致策の策定に取り組む。大型インフラ事業、PPP(官民パートナーシップ)の案件も、計画されている(表2参照)。表2のほかにも、ガス・石油の生産プロジェクトや、エジプト・パレスチナ・イラク・レバノンなどの近隣国・地域との電気供給プロジェクトなども検討中だ。

表2:投資プロジェクト計画一覧
分野 プロジェクト 予定投資額
(単位:100万JD)
教育 公立学校15校 30
バス アンマン-ザルカ高速バス 30
輸送 キング・フセイン橋、物流・交通ターミナル 96
商業 イルビド セントラル・マーケット 30
水道整備 2,000
エネルギー 公立病院向け太陽光発電 30
鉄道 鉄道整備(フェーズ1) 1,600
(全分野) (合計) 3,816

出所:政府経済優先プログラム(2021-2023年)

民間ビジネスを促進するため、特定産業分野で電気料金を値下げするなど、ビジネスコストを削減する。また、ヨルダンでの生産・製造促進のため、部品等の関税率の引き下げも実施する。株式市場の活性化を期し、法改正のロードマップ作成も計画に盛り込まれた。中小企業向けの融資策の作成も計画する。

経済対策の一環として、政府サービスでの電子決済・電子請求書の導入、通信網の整備も進める。ヨルダンでは、国民の約7割が30代以下の若者だ。ITツールに抵抗のない市民が多い。インターネットと携帯の普及率は8割超。42%の人々が電子決済を利用可能だ。そのため、電子化の対応を進め、手続きの効率化を図る狙いだ。さらに、計画の実現のため新たな法律・規則の整備も目指す。

雇用創出、優先分野の支援を目指す

競争力を強化するため、規制の緩和や手続きの効率化も進める。もって、自由で公平な市場をつくるという。また、新たな雇用創出に向け、雇用補助金や人材育成、労働法や関連規制の改定などにより、特に失業率が高い若者層や女性の雇用創出を支援するとした。加えて、観光、IT、農業、国産品輸出の4つの優先分野を制定した。

観光業については、新型コロナ感染拡大以前の水準まで回復させるために、観光誘致キャンペーン、対象国へのeビザの導入、格安航空会社(LCC)路線の維持を支援する。IT分野では、第5世代移動通信システム(5G)の導入、ITを活用したスタートアップ支援、各国からのIT業務委託案件の増加も目指す。農業分野では、耕作されていない農地を活用するのと同時に、2020年比で20%の生産量の増加を目指す(注3)。そのほか、農産物マーケティング会社の設立、農産物加工支援、国産品の商品力向上、輸出促進などで、新たな市場獲得も目指すとしている。


注1:
以下で記述する目標やプロジェクトや課題の詳細については、政府経済優先プログラム(2021-2023年)のウェブサイトを参照。
注2:
中東情勢の不安定化は、「アラブの春」による混乱やイスラム国(IS)などによるテロなどが引き金となった。また、財政悪化は、特に隣国シリアからの約130万人の難民受け入れによる負担が大きい。
注3:
ヨルダンは食料自給率が低く、食の安全保障も課題だ。
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課(2010年~2013年)、ジェトロ北海道(2013~2017年)を経て現職。貿易投資促進事業、調査・情報提供を担当。